HOME » ポッドキャスト » 【特別対談】アジア新興国におけるチャネル研究の第一人者 井原 基 教授と語るアジア新興国チャネル戦略論 – チャネルは表の中の裏の競争力

ポッドキャスト:森辺一樹のグローバル・マーケティング

【特別対談】アジア新興国におけるチャネル研究の第一人者 井原 基 教授と語るアジア新興国チャネル戦略論 – チャネルは表の中の裏の競争力

番組への質問はこちら » お問い合わせフォーム
新刊はこちら » https://www.amazon.co.jp/dp/4495650238
定期セミナーはこちら » https://spydergrp.com/seminars/
noteはこちら » https://note.com/spyder_moribe

この放送の要点

  • チャネルはマーケティングを下支えする「表の中の裏」で、最も見えにくい。
  • カバレッジを広げる攻めと、値崩れを防ぐ守りのガバナンスは両面が要る。
  • 日本の法務基準のままの契約が、良い相手を選んでも伸び切らない構造をつくる。
  • ベトナムのユニリーバはあえて支払サイトを設け、貸倒れを織り込んでシェアを獲った。

埼玉大学・井原基教授との対談です。日本企業の競争力は「ものづくりが裏、マーケティングが表」と語られがちですが、販売チャネルはマーケティングを下支えする「表の中の裏」であり、最も見えにくい領域です。新興国市場に日本の感覚のまま守りのガバナンスを持ち込むと、契約条件そのものが攻めを阻害します。競合の戦い方を基準に、どこまでリスクを取るかを設計する必要があります。

テキスト版

ゲストのご著書はこちら▽
Amazon:アジア新興国チャネル戦略論: 企業・国の2軸による比較事例アプローチ
井原 基 (著)


森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDER INITIATIVEの森辺です。今日も引き続き、埼玉大学の井原基先生に来ていただいています。
今日で3回目ですかね、先生ね。

井原基先生(以下、井原):はい。よろしくお願いします。

森辺:よろしくお願いします。今日はちょっとなんか、前回も前々回もちょっといろいろ盛り上がり過ぎて、あまり本の紹介をしていなくて。

井原:そうですね。(笑)

森辺:この本の紹介をぜひ皆さんにしたいなと思って、『アジア新興国チャネル戦略論』白桃書房から出ている本でございますが、この本の内容にちょっと入りたいんですが、私、今、3回目を読んでいるというふうに申し上げましたが、この本の中で先生がチャネルに光が当たっていない的な、裏と表の話をちょっとされていたと思うんですけど、そのことについて改めてお話いただけないでしょうか。

井原:そうですね。この本の最初のところで強調しているのが、特に日本企業の国際競争力といったときに光が当たるのがやっぱりモノづくりのところ、品質の良さとか、技術とかいったところなんですよね。それで、マーケティングは表の競争力だと、モノづくりは裏の競争力で、裏で支えているところが大事なんだっていう考え方が結構あるかなと思っています。そうすると、じゃあ、マーケティングは表だから表層的な部分だって言ってしまうと非常に問題があって、表は表で大事なことだと思うんですよ。まずそれが1点と。それで、チャネルは、じゃあ、何だって言うと、チャネルはマーケティングと経営全体をつなぐところであって、4Pの1つの要素でもあります。ただし、マーケティングの中ではなかなか表に出ないところなので、僕はこの本の中で「表の中の裏」って、そういう言い方をしているんですよね。

森辺:はいはい。そうですね。「表の中の裏」っていう。

井原:表の、だから、マーケティングっていう外から見える世界を下支えしている表の中の裏なので、だから、一番見えにくいんですよ、つまり。

森辺:はいはい。そうですよね。

井原:そうなんですよ。モノづくり重視の人たちからすると。

森辺:いやー、そうですよね。

井原:モノをつくるところが大事なんだと。マーケティングはそもそも表層的だっていう人はいるんだけど、でもやっぱりマーケティングはマーケティングでやっぱり大事だよねっていう意見も強いじゃないですか。

森辺:そうですね。

井原:でも、マーケティングの中の裏側だから、一番見えないところなんですよね。

森辺:そうですよね。

井原:でも、そこに光を当てましょうよっていうのが最初の宣言なんですよ。

森辺:確かに、確かに。25年前に私、最初の会社を興したときに、その会社は調査会社だったんですよね。もう売却してしまってあれなんですけど、そのとき考えると、チャネルに課題があるっていうことに気づいていた日本企業は、たぶんほぼいなくて、ほとんどがやっぱり日本のいいものをどれだけアジア新興国で売るかっていう。ただ、その当時の懸案事項というと、どちらかと言うと債権回収どうしようとか、そういう部分だったので、本当にチャネルって裏で、ここ10年ぐらいじゃないかと思うんですよね。企業が本気になって、「あれ? 僕たちのチャネル、激弱じゃない?」と、「強いディストリビューターと組んだはずなのに、もう20年、ASEANでのシェアが数%以下ですよ」みたいなことに気づき始めて、「それは実は人が足りないんでもないし、マーケティングでもないし、根本的にチャネルが弱いんじゃない?」ということに最近、僕、気づいてきているんじゃないかなって、そんな気はするんですよね。なので、先生がおっしゃった通り、「表の裏」というね、ここがすごい重要だなっていうのは本当に同感でございます。

井原:そうですね。次、どこ行きましょうか。

森辺:あとね、第2章でしたかね。第2章のところで、私の過去の本をちょっと参考に出してくださって、私がチャネルが重要だって言っていて、それはそれで重要なんだけども、もう1つ重要なことがあって、それはガバナンスだというふうに先生がおっしゃっている章が、たしか第2章だったと思うんですけど。

井原:そうですね。

森辺:これ非常に僕、興味深くて、読んでいてその通りだなと思って、ちょっとそのことについて、たぶんリスナーさんも気づいていないと思うので。

井原:そうなんですよね。ありがとうございます。そうそう。大事なのが、たくさん売っていこうという、カバレッジを上げていこうという発想、これは私、森辺さんの本を読ませていただいたときに、まさにその発想で書かれているなと思ったんですけど、カバレッジを広げるには、どのディストリビューターと組むかが大事だし、組み方の設計が大事だよってお話だと思うんですよ。一方、チャネルの担当者が、特に日本みたいに成熟したマーケットで陥りがちなのが、いかにやっぱり値崩れが起きないかとか、相手の違反行為がないかとか、ブランドが棄損しないかとか、どちらかというと守りのほう、守りをどう固めるか、そのためのガバナンスをどうするかっていうことに主眼がいっているケースがあります。確かに日本のような成熟したマーケットだと、どんどん、どんどん、売っていこうというのは新製品とか新しいのは限られて、新ブランドとか、どちらかと言うと、普段通り売っているものをしっかり売っていくというふうになるのかなと思うんですけど。ただ、もちろん新興国に出て行くとなると、どんどん変化しているところなので、もう売っていかなきゃ明日から駄目だよっていうところと、ただ、やっぱりただ売るだけじゃなくて、かっちりしようねっていうところのせめぎ合いがあると思うんですよ。ただ、両面大事だよっていう意識を持つことが大事で。でも、時として、日本から派遣されたような方の場合は、日本の感覚でものを見るので、新興国に行ってもやっぱりどこかで安売りされたらけしからんから、そこがないようにまずしようだったり、ディストリビューターの数を増やすとかよりは、ちゃんと約束を守ってくれるやつだけに絞りたいとか、守ってくれるのは日系の商社だ、日系の商社としか組まないんだみたいになってしまうと、「あれ? 全然売れないぞ」ってなってしまうわけですよね。

森辺:そうですね。そうですね。そこも、ガバナンスのやり方だと思っていて。

井原:そうですね。

森辺:日本のガバナンスをそのまま持ち込むのではなくて、郷に入れば郷に従うガバナンス、僕は弁護士じゃないんですけど、いわゆるディストリビューション契約のレビューというのを過去にもう何百件とやってきているんですよね。それを見ていると、契約書の守りの部分、今先生がおっしゃられたようなガバナンスの部分は、これは法務で、日本の本社の法務で決まっているのでたぶんそうなんですよね。ただ、それを新興国で当てはめると、例えば契約が単年度契約ですと、ディストリビューター単年度契約ということは、正味たぶん10カ月か9カ月なんですね、本気で動けるのは。契約は自動更新となっているんだけども、そこで切れる可能性もあるわけじゃないですか。日本の感覚だと、まあまあ、そうは言っても長く続けますよの前提の単年度なんだけども、契約書に書いてあることがすべてだとすると、単年で切られるかもしれないと。そうすると、ディストリビューターは経営資源なんか投下できなかったりとか、あと支払い条件も競合のほかの企業はサイトを設けているのに、前払いですとか、月末翌30日とか、ほかは60日とか出しているんですよね。銀行保証をつけるとかつけないとか、そういうことも全然攻めきれていなくて。要はガバナンス、守りが中心になってしまっているので、攻めの要素を阻害してしまっていて、結局この契約書でディストリビューター、せっかくいいディストリビューターを選んでも、伸び切らない構造みたいなのを結構いっぱい見てきて。

井原:なるほどね。

森辺:そこを直していくっていうのが、本社の法務に理解させるっていうのはすごい大変なんですよね。

井原:そうですよね。だから、サイトの設計も、実務でたくさん見ていらっしゃると思うんですけど、基本的に攻めるときはサイトを設けたり、少し敢えて長くするとかいうことがあるし、逆に、いや、やっぱりそうは言っても、やっぱり切られてしまったり、いなくなったら困るからということで、サイトは0、現金取引という世界もあると思うし、どちらが絶対正解ということはないと思うんですけど、その局面で変わってくるのかなと思うんですね。

森辺:そうですね。

井原:この本の中で、1つベトナムで、ベトナムって開放されたのがだいたい89年とか90年で、一斉に入っていくんですよね、外資が。ユニリーバとP&Gと花王が、あるいはほかの消費財メーカーがよーいドンって一斉にスタートするっていう、稀に見る平等なマーケットなんですけど。じゃあ、なぜユニリーバがそこでグンと伸びてくるかと言ったら、チャネルの面で言うと、敢えて1週間なんですけど、サイトを設けるんですよね。これがユニリーバがとにかく最初シェアをガバッと獲ろうよっていう戦略を取っていて、それにマッチしたっていうのがあったんだと思うんですよね。

森辺:そうですね。

井原:もちろんそれで取りこぼしもいっぱいあったと思うんですけど、それをある程度の率で起こるのはやむを得ないと、割り切ったことをしているんだと思うんですよね。

森辺:いや、計算がね、サイトを例えば1カ月延ばしたときに、回りやすくなるじゃないですか。そうすると、マイクロ・ディストリビューション・ネットワークとかをつくるときに、100、200のディストリビューターを抱えられると、そのうちの2割が不良債権化しても、たぶん伸び率がこうだと、たぶんここまではいけるよねみたいな。3年目ぐらいにどんどん、どんどん、これを締め付けていったら、ちゃんと払うところだけが残って、事業としてはこの5年の中期で見たときに成り立つとかっていう、すごいシミュレーションがめちゃめちゃ明確になっていて、こういう戦略的な考え方をしてやると、もう現場で担当者が「これ回収できなかったら怒られる」みたいな、「いくらですか」「いや、100万円です」みたいな、「100万なんかどうでもいいじゃん」みたいな発想で戦略を組んでいる相手とね、「100万円の回収を逃したらどうしよう…」みたいな担当者とね、これはちょっと差が出るよなっていうのはすごく思うのと。あと、事例として、そのもう超両極端、いや、自分たちもやらなきゃいけないんだっていうので、ものすごい大盤振る舞いしてしまって、ドツボに落ちて大変だったっていう企業もありますのでね。そこは本当に先生がおっしゃっているように、戦略的にっていうのは事例、うまくいっている競合がどうやっているのかということをベースに、自分たちはどこまでやるんだということをたぶんやっていかないといけないし、往々にして欧米の戦い方、日本企業にはやっぱりなかなか無理で、ドーンとへこんでバーンと売上を上げていくじゃないですか。だから、なかなか苦しい戦いではあるんですけど、それにしてもちょっと、まだまだやれる箇所はあるのかなという気はするんですよね。

井原:そうですね。日本企業に頑張ってもらいたいですよね。

森辺:そう。だから、われわれも全部を欧米の先進グローバル企業に合わせる必要はないと思うんですよね。合わせたところで合わないし、逆に彼らのフィールドで彼らの戦い方をしても、たぶん難しいんですよ。なぜならば、彼らは世界戦略の土台の上にこの各国戦略が乗っていて、全世界で同じことをやるので。ROIが全然合ってくるじゃないですか、世界でやっているので。それを単国で真似したって、絶対に勝てないので。その中から日本企業なりの勝ち筋を見出すんだけども、でも、こことここは譲らなかったらとか、こことここはリスク取らなかったらもうお話にならないよみたいなシーンは結構僕いっぱい見てきていて、そこはちょっと頑張ってほしいですよね。

井原:そうなんですよね。だから、この本でも、最初のほうでマーケットシェアの一覧表みたいなのを書いているところがありますよね。

森辺:はいはい。

井原:中国、インド、それから東南アジアのいくつかの国を出して、どの国でどのブランドが強いかって言ったら、インド、東南アジアでは欧米のブランドになるし、中国では中国の企業のブランドになってしまっていて、日本企業は後ろのほうにちょこちょこっと顔を出すっていうふうになってしまっているという現状があって。でも、少し前はもう少し好調なブランド、企業もあったんですよね。これがだんだんじわじわと食われてしまっているというのがあって。僕も日本人なので、日本企業に頑張ってほしいなと思いますよね。

森辺:そうですよね。決して、欧米の製品、悪いとは言わないけども、そんなにめちゃめちゃいい製品かっていうと、そうではなくて、モノで負けているのではなくて、戦略で負けているっていう。

井原:そうですね。

森辺:そこは非常に悔しいところだし。あと、ガバナンスの部分で言うと、僕はこれ、非常に適切な用語かどうかは分からないですけど、相手になめられるか、なめられないかっていうところでガバナンスの効き具合って大きく変わってくるなと思っていて。われわれの国民性って、パートナーになってしまったら、もうパートナーですって全部をパートナーにお任せして、裏切らないことが性善説の大前提というので抑止力を効かせない。例えばわれわれのほうが調査めちゃめちゃやって、市場をディストリビューターよりも知っているよとか、あと、われわれが戦略を中心になって考えるんだよとか、こういう知見って僕は抑止力になると思うんですよね。でも、多くのディストリビューターは、日系メーカーさん、あなたたちはよく分かっていないんだから、われわれに任せておきなさいって思われてしまっていること自体が、さっき言った、なめられているという。欧米のメーカーをなめているディストリビューターって1社もいないので、彼らのノウハウ、彼らのやり方をわれわれは学んできたと、だからわれわれはこんなに成長できたんだみたいなことをおっしゃられるじゃないですか。そういうのも1つ重要なのかなと思うんですよね。

井原:すごく重要だし、そうですね。実はそれって、僕は日本企業の中にもヒントがあると思っていて、自動車メーカーとサプライヤーの関係ってなめられない関係なんですよね。

森辺:はいはい。そうですね。

井原:トヨタは決して、デンソーとか強い部品、世界的なサプライヤーがいるんだけど、決してなめられないという世界をつくっていて。それって系列だし仲間意識もあるんだけど、でも、本当にいいものしか買わないよっていう、そういう厳しさもあって、信頼関係はあるけど、厳しさもあるという関係を日本企業はある産業とか、あるサプライチェーンの上流のところでは結構つくれたりしているんですよ。ただ、下流はなぜかそう、わりとそうなっていなくて。

森辺:そうですよね。

井原:下流のチャネルですよね。同じ発想でいけばいいんだと思います。

森辺:そうですよね。でも、やっぱりこれって、僕は現場を見ていて思うのは、どれだけ自分主体で物事を進め、マーケティングを進めるかっていうところがやっぱりすごくあって。任せた時点でもう終わりだと思っていて、その任せた時点でなめられる。なめられるという表現がいいのか分からないですけど、まあ、向こうに主導権がいってしまうじゃないですか。コンサルも一緒なんですよね。コンサルを使い慣れている会社と使い慣れていない会社って、「コンサル様、私たち分からないのでよろしくお願いします」というスタンス、こうなると…。いや、僕はなめないですよ、お客さんを。なめないけども、分からないんだろうなということで、やっぱりコンサルの都合にお客さんを引っ張っていく可能性というのは残るじゃないですか。

井原:そうですね。

森辺:けど、コンサルを使い慣れていると、やっぱり主導権は全部彼らが握っていて、彼らが強いところ、弱いところを分かっていて、その弱いところにわれわれを突っ込んでくるんですよね。

井原:なるほど。まさにコンサルを戦略的に使うっていう。

森辺:使うっていうか、使い慣れているなっていうのはすごくよく分かるんですよね。なので、そんな話で、すみません、今回も時間がオーバーしてしまいましたけども。また次回、先生のこの本の話を引き続きやっていきたいと思いますので、先生またよろしくお願いします。

井原:よろしくお願いします。

森辺:それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。

自己診断サービスのご紹介