【特別対談】アジア新興国におけるチャネル研究の第一人者 井原 基 教授と語るアジア新興国チャネル戦略論 – 花王とライオンの販売チャネル
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この放送の要点
- ライオンとサハパットの長期関係は、双方がファミリー企業だったことが大前提。
- Eコマースの伸長や相手の選択肢拡大で、関係の経済合理性は変化していく。
- 花王はインドネシアでブランドを絞り、中間層を攻略するチャネルを設計した。
- 既存を残しつつ新規を開拓する。1社に絞ると切替の負担が大きい。
埼玉大学・井原基教授との対談の最終回です。ライオンとタイ・サハパットのようにトップ同士の信頼から始まった関係は、双方がファミリー企業だったという前提の上に成り立っており、代替わりや市場の変化で永続するとは限りません。花王のインドネシア事例のように、既存パートナーとの関係を残しながら新しいディストリビューターを開拓する進め方が、アジア新興国における販売チャネル再構築の現実解になります。
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井原 基 (著)
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDER INITIATIVEの森辺です。今日も引き続き、埼玉大学副学長の井原基先生に来ていただいています。
井原先生、どうぞよろしくお願いします。
井原基先生(以下、井原):お願いします。
森辺:先生、今日は最後のエピソードですかね。先生、お忙しいので、もうこれ以上引っ張るわけにはいきませんので。
井原:いえいえ。(笑)
森辺:今日、最後のエピソードということで、また時間が空いたらきっと来てくれるかもしれないのでぜひ。今日最後で、何のお話をしようかなと思ってちょっと考えていたんですけど、先生のこの『アジア新興国チャネル戦略論』の本の中で、具体的な企業の事例を出していろいろ書かれているじゃないですか。
井原:そうですね。
森辺:後半たぶんすごい企業の事例が多くて、たぶんこの番組を聞いているリスナーさんもこの事例の話、すごく大好物だと思うので、何か面白い事例の話を今日はいくつか聞かせていただけないでしょうか。
井原:そうですね、少し本の裏話も含めてできればと思うんですけど。どこから行こうかなと思うのが、ちょっと本の感想をいくつかいただいている中でちょっと誤解とかもあるかなと思ったところがあって、例えばライオンのことを書いているところがあるんですよね。
森辺:何章ですか?
井原:5章ですね。
森辺:5章、はい。
井原:「パートナーシップによるチャネルと組織間学習」なんですけど、ここって信頼をつくるっていう話がベースになって、経営者のトップ同士が意気投合してという話から始まっているということを書いているので、これって要するにいい話なんですねということで読まれがちなんですけど、この意図はそれだけじゃなくて、この関係が続いているのは一定の条件があるんだよっていう話と、それから結構あちらのパートナーさんは結構したたかに考えているんですよということを実は書いているんです。ただ、話が長いし、細かいので、なかなか、なかなかね。(笑)
森辺:いや、それね、すごく思いますね。日本のね、ディストリビューターの社長は華僑じゃないですか。
井原:そうですね。
森辺:そのトップ、これはファミリー企業なので、基本的にファミリーの意向というのはすごく尊重されるじゃないですか。
井原:そうですね。
森辺:そうすると、日本側でもそれに相当する、メーカーの社長を出せとは言わないけども、担当執行役員なのか、取締役なのか、企業規模に応じて出て行って、そこで1つの人間関係を築いてもらうということは重要じゃないですか。
井原:重要ですね。
森辺:日本の大企業の場合、人事異動があるので、この間までこの部門の執行役員だったけど、今は全然関係ない部門だからちょっと、別に関係ないみたいな。現場もどんどん変わっていくし、ディストリビューター側からしたら誰が何なのかよく分からないみたいな。
井原:そうですね。
森辺:そのトップ同士のつながりも、いい意味もそういうふうに気づかないといけないのはあるんだけども、30年前に当時築いたその関係が、今、30年経って見たときに、ちょっとこのディストリビューターだけとのこの市場じゃもうなくなっていると、ほかの地域はほかのディストリビューターと組まないといけないし、ほかのパートナーのほうがもしかしたらいい世界にこの30年で変わっている。でも、当時の担当者が今、例えば常務だ、専務だ、副社長だみたいな話になっていて、なかなか当時の関係を変えられにくいみたいなね、そういうこともあったりとかするんですけど。
井原:そうなんですよね。ちょっとライオンとサハパットの話でいくと、まず、ライオンって小林家のオーナー企業的な時代がずっと長かったんですよね。なので、トップ同士の関係がきっかけになってずっと続いていくというのが、やっぱり両方ともファミリー企業だったというところが大前提なんですよね。だから、それが普通のいわゆるサラリーマン経営者の企業とは結構違うということなんです。
森辺:そうですよね。
井原:あとね、もう1個大事なのが、タイ側の経営者の方がブンヤシットさん側も結構高齢なんですよね。ただ、高齢だけどすごく元気な方で、僕がお会いしたときも、「私は88歳まで経営をするんだ」とおっしゃっているんですけど、さすがにもうそんなに、そろそろそのお歳に達するんですよ。なので、つまり、ブンヤシットさん、そして先代の社長がすごくライオンいいねと思ったわけですよ。ライオン側もサハパットはいいねと思って、その関係がずっと始まっていて今に至るんだけど、これが、でも、ずっと続くか分からないよという、代替わりもそんな遠くないかもしれないし、ということがあります。
森辺:それはライオンさんだけじゃなくて、たぶんいろんなオーナー企業でもともと始まって、それは僕、中東でもそういうケース。
井原:あるんですね。
森辺:ちょっとあれですけど、とある企業とね、あって、確かに時代背景もありますよね。
井原:時代背景がありますね。
森辺:当時の時代背景でファミリービジネス同士でかっちりやっていくというのが、今見たときに、経済合理性を考えたときにはそうじゃないっていう選択肢も出てきたりとか、当時、戦略的にファミリーとファミリーでやってないじゃないですか。
井原:そうですね。
森辺:出会いで始まったみたいな。
井原:出会いで始まったし、お互いにとってその当時はウィンウィンだったかもしれないんですよ。
森辺:ウィンウィンだった。
井原:つまり、ライオンからしたら、現地で売るときに、ライオンってわりとその国の強い相手を選んできますよね。
森辺:そうですね。どこの国でもね。
井原:そうです。消費財を手広くやっているし、流通に強い、チャネルに強いっていうのがサハパットだったので、そこと組んだのは間違いなかったということなんですね。サハパット側からしたら、ライオンというのはなかなか面白い、歯みがきとかトイレタリー全体をやっていて面白かったということがあったんですけど、今は状況変わっていますよね。
森辺:そうですね。
井原:はい。Eコマースは伸びているし、サハパットからすると、日本企業が好きだったわけですけど、別に実は日本企業じゃなくても、組む相手は中国企業とか韓国企業でもいいかもしれないとかって若い経営者は思いだすかもしれないし。
森辺:そうですね。
井原:逆に、ライオンからしたら、もっとEコマースに強いところとやりたいとか、お互い思うかもしれなくて、関係って永続的なものじゃないので、僕が書いたのは今の時点でのなぜ続いているかというお話、お互いにとって相手から学べるところがあるし、メリットがあったということがベースなんだよという。
森辺:めちゃめちゃ重要ですよね。それ、気づいてしまったときに、それをしっかりパートナーがね、これはお互いにとって経済合理性ないよねという話をちゃんと。
井原:そう、夢から覚めてしまって、あれっていう。
森辺:できるかどうかっていうことがね、すごい僕は重要だなって思うんですよね。確かに、ライオンと花王のグローバル戦略って、全然、僕、違って、どこへ行ってもライオンは、僕のちょっと印象ですけど、現地の大手企業ともう、とうの昔に合弁で製販一体でやっていて、結構、経営の主導権は現地企業が中心になってやってきているのかなという気がするんですよね。
井原:そうですね。
森辺:これ、ライオンだけじゃなくてもあれですけど、当時は外資規制があって、そもそも現地の同業種と合弁しないと。
井原:どこかと組まないといけなかったんですね。
森辺:入れなかったみたいな時代があったじゃないですか。
井原:そうですね。
森辺:そこからやって、散々製造ノウハウとかいろんなものをチューチューチューチュー吸われて、けど、日本のメーカーは相変わらず現地のマーケットのスタディをさぼり続け、日本国内で必要とされる高付加価値品しかつくらないので、それを現地に売っても売れないじゃないですか。今まで吸い尽くしたノウハウで汎用品の生産はクオリティ高くできるようになった現地にとって、もはやこの日本企業の49%のシェアは要らない、自分たちだけでやりたいという思いも逆にあるじゃないですか。だから、このやっぱり任せるということが全部の崩壊につながるというか、人の思いや考えなんていうのは時代背景によって変わってくるじゃないですか。変わらないものなんて何1つなかったりすると思うんですよね。だから、この先生の視点、めちゃめちゃ重要だなと思うんですよね。
井原:そうですね。実態はいろいろ複雑で、任せて良かったことまで書いてあるというか。
森辺:ある。そう。
井原:任せてしまったほうが良かった、マシだったってこともある局面ではあるんですよね。
森辺:要は、そもそもできないから。
井原:できないから。何もできないから。
森辺:任せておいて良かったと。
井原:そう。パートナーがいい人だった。
森辺:そうですね。いや、僕が言っているのは、任せては駄目というのは。
井原:そうですね。
森辺:今の時代にやるんだったら、これだけケーススタディがあるんだから、自分たちが主導権を握らないということは、自分たちが学んでいない、サボっているだけの話でしょというのを僕は言っていて。
井原:そうですね。
森辺:でも、20~30年前は、そんなケーススタディもノウハウもないから、そもそも主導権なんか取れないじゃないですか、外資規制もあるし。だから、その時代は任せて良かった時代。任せて良かった時代から、今は任せては駄目な時代に変わっているんじゃないかなという気がしていて。
井原:そうですね。それはもうね、やっぱり刻々と状況は変わっているので、任せて良かった相手が今も任せていいとは限らないわけですね。
森辺:そうですよね。
井原:代替わりとかもしているし。ある流通のある局面では強かった相手が、別の局面ではそうじゃないということもあり得るので。
森辺:面白い。今、先生、私の会社にご相談に来る話って8割方そういう話で、もう何十年も前から現地のパートナーがいます、ディストリビューターがいますと。結構な売上があるんですよ。この売上があるんだけども、われわれの中計ではもっとやるんです、2倍3倍やるんですと。けど、今のディストリビューターと散々いろいろ議論してきたけど、もうやれないし、動かないと。どうしたらいいでしょうかという、そういうご相談がほとんどで。いわゆる販売チャネルの再構築をするんですけど、それなりに売上があるので、それをいきなり切ってということではなくて、結局、今こういう動きしかしていない人にどれだけ言ったってね、それ以上の動きは相当なインセンティブをぶら下げないと変わらないので、逆に言うと、その人たちの機嫌を完全に損ねないように新しいチャネルをつくっていくということをやっていく。
井原:やっていく必要がありますよね。
森辺:そういう仕事がものすごい多いですよね。
井原:そうですよね。やっぱり、だから、もともとディストリビューターを1個に絞ってしまっていると、そういう切り替えるときの、おそらくは納得してもらうところの大変さがあると思うので。
森辺:そうですね。
井原:やっぱり少なくとも複数いたほうがいいのかなとは思っていますね。
森辺:そうですよね。あと、先生、ほかに事例が、何か面白そうな。
井原:そうですね。
森辺:これ、皆さん、あまり全部言うとね。
井原:全部言ったらあれなんですよね。
森辺:本があれになってしまうので。
井原:じゃあ、またチャンスがあるかもと思いますので、ちょっと前のほうで花王の話を少しすると、花王っていうのは、やっぱり結構インフラがもうできていて強い会社なので、ある消費財がちょっと売れなかったからどうこうなる、駄目になる会社ではないんだと私は思っているんですね。
森辺:そうですね。
井原:つまり、原料を調達するところから、サプライチェーンめちゃくちゃ強いので。
森辺:そうですね。
井原:はい。強い会社なんですけど、ただし、アジアでの、あるいは新興国でのチャネルのつくり方っていうのはある癖みたいなのがあって、あまりディストリビューターを使わず、自分でやりたいというのが強いんですね。
森辺:日本は直販ですもんね。
井原:直販なんです。いわゆる直販。それはいいのかなっていうのはずっと思っていて。
森辺:そうですね。でも、その過ちに結構気づいて、ちゃんとディストリビューション・ネットワークをつくったりとかってしていますよね、国によってはね。
井原:していますね。僕、花王のケースでぜひ読んでいただきたいのがインドネシアのところなんですよね。インドネシアでは、子会社が戦略的にやっているんですよ。それで、ブランドを絞り込んで中間層を攻略するためのチャネルをどうつくるべきかというのを考えて、試行錯誤してやっていて。最初は直でやると。ただ、あるところからディストリビューターをつかっていくと。ただ、そのときにやっぱり合弁で始まっているので、合弁パートナーとの関係の難しさはあるんですよ。
森辺:はいはい。
井原:あるんですけど、そこを切らないというか、そこを切るとか切らないとかっていうと、切ってもう関係なくなるよ、あるいはそこに全部依存するって、どっちかにしがちなんですけど、関係を残しながら新しいディストリビューターを開拓していくという方向に行けているんですよ。
森辺:それはいいですね。
井原:これはたぶん実務的に大変だったと思うんです。だから、非常に優れた方がいらっしゃったと思うんですけど。
森辺:そうですね。
井原:これができて、じわじわとマーケットが広がっていっている。見た目、数字上はそんなにパッとしなく見えるかもなんですけど、でも、インドネシアで10%のシェアがあると、インドネシアはものすごい人口が多いから。
森辺:そうですね。
井原:すごいんですよ、10%あると。
森辺:3億ですからね。
井原:うん。そこ、結構検討していると思うんですが。
森辺:そうですよね。
井原:こういうのをもっと広げていかないと、たぶん日本企業、日本のブランドは世界に広がっていかないんだなと思うんですね。だから、今はそれが局地的な頑張りとか成功にとどまっていて、それをどう全社的な、あるいは日本企業全体の取り組みにしていけるかというところが。
森辺:そうですね。
井原:はい。
森辺:いや、その通りだと思います。リスナーの皆さん、ぜひ先生のこの『アジア新興国チャネル戦略論』を読んでいただいて、Amazonで検索していただいたら、黄緑色の本になりますので、井原基先生、名前も覚えやすいですからね、ぜひ読んでいただいて、チャネルが重要だということで、まだまだたぶん改善余地はあると思いますので。
先生、またセミナーなんかで、カンファレンスの大きなやつもそうですし、小さなセミナーももしお時間が、お忙しい毎日だとは思うんですが、機会がありましたらぜひよろしくお願いいたします。
井原:はい、分かりました。よろしくお願いします。
森辺:では、すみません、今日はこれで最後になりますが、本当に4回続けてご収録にご協力いただきまして、ありがとうございます。
井原:いえいえ。とりとめのない話で。どうもご清聴ありがとうございました。
森辺:いえいえ。大変リスナーの皆さんのお役に立ったんじゃないかなと思います。では、リスナーの皆さんまた、これで今日は終わりにしますので、次回お会いいたしましょう。



