【特別対談】グローバル・マーケティングの権威 大石 芳裕 名誉教授と語る – 既存ディストリビューターとの新たな時代における新たな関係
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この放送の要点
- 全社戦略・事業戦略・商品戦略の3階層で、海外の方針を一貫させる必要がある。
- 「良い相手」の定義が曖昧なまま大手と組んでも、エース級の体制は付かない。
- 合弁相手が自社商品に力を持つほど、チャネルの資源配分は日系中心でなくなる。
- プロダクトとプライスは見えるがチャネルは見えない。調査で可視化するしかない。
明治大学・大石芳裕名誉教授との対談です。日本企業の海外事業は「つくるのは自分たち、売るのはパートナー」というマインドセットのまま数十年が過ぎ、それでは追いつかなくなっています。全社戦略・事業戦略・商品戦略の3階層で海外の方針が一貫していなければ、販売チャネルは「良いパートナーを探してこい」の域を出ません。チャネル戦略は生き物であり、基準値を持った可視化が意思決定を可能にします。
テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDER INITIATIVEの森辺でございます。今日も引き続き、明治大学名誉教授の大石芳裕先生をゲストとしてお迎えしております。大石先生、どうぞよろしくお願いいたします。大石芳裕先生(以下、大石):はい。再び顔を出します。よろしくお願いします。
森辺:はい。もうこの番組を聞いている方は皆さんご存知だと思いますが、グローバル・マーケティングの権威 大石芳裕先生と前回から少しお話をして盛り上がってしまったんですが、ちょっと途中で時間が来てしまったので、私切ってしまったんですけど、欧米の先進的なグローバル企業に加えて、ローカルの企業も非常に強くなってきていますよと。彼らはマーケティングを重視するし、戦略的だし、その中で日系企業が今までのやり方から大きく変わっていかないといけないと、そんなお話でしたよね。なので、今日はちょっと、日本企業が今までの「売るのはパートナーさん、つくるのは私たち」という、こういうマインドセットで始まった。でもこれも数十年経っているんですよね。ここから今、どう、じゃあ、次の時代に変わっていかなきゃいけないのかみたいなところについて、ちょっと先生にいろいろお伺いしていきたいと思います。
大石:そうですね。まず、本社側の問題として、3つぐらいの階層で最低考えていかなきゃいけないかなと。1つはもう何兆円と売っている企業、1兆円でもいいんですけど、それは全社戦略がまずありますね。次に、やっぱり2番目の階層に事業戦略がありますね。この事業戦略の下に各部門のある商品とかブランドのところがまた第3階層としてあるわけですね。だから、その構想で全社戦略がまずあって、次に事業戦略がきちんとあって、それでその中に、特にマーケティングというのはだいたい事業戦略的に考えていくわけですから、そこで海外がどういうふうなものでやっていくのかということが一貫しておかないと、最後の商品なりブランドの具体的なやり方が明確でないと。チャネルなんかは特に今まで「行ってとにかく何とか探してこい」みたいなね、「パートナーを探してこい」みたいなことでやってきたんだけど、それはちょっともう追いつかなくなってきているんじゃないかなという印象がありますね。
森辺:そうですね。パートナーも「良いところを探してこい」というのでもともと始まってきていて、最初はたぶん現地から声がかかったんだけども、そのうち良いところを探せというので。この「良い」の定義も何をもって良いなのかという、大手だったら良いのか、実績が多ければ良いのか、そこが非常にやわらかい状態で、とにかく大手と組むと。
でも、大手って、やっぱり自分たちのほかのブランドをたくさん抱えていて、そのブランドともっと大きい商売をしているので、これから新たに始まる日系企業、しかも経営資源の投下も少ない、そこにエース級のチームを投下するというのはなかなかやっぱり現実的じゃないので、なかなか両者の進む方向がずれるというか。
ディストリビューターを見ていてよく思うのは、やっぱりディストリビューターって自分たちの経営効率を最優先に考えて、自分たちが売れる場所に売れる商品を押し込んでいくという人たちなので、メーカーみたいに、この国ではこの層にこういうふうにシェアを広げていかないといけないという思想というのは基本あまりないというか、興味がないんですよね、彼らはディストリビューターなので。そこの売るを任せてしまったら、それはディストリビューターの売りたいところにしか売れないよねと。なので、結構相談に来る日系企業さんの課題って、いや、本当は付加価値商品をこういうターゲットに売りたいんだけども、安価なものがこういうふうにしか売られていないとかっていう、そういう課題を抱えている方が結構多いイメージですかね。
大石:それに付け加えて、前回お話したように、ローカル企業が力を持っていると。基本的に日本は合弁で商売していますよね。ところが、ローカルのパートナーがやっぱり自分の商品に力を持ってくると、それをディストリビューターにやっぱり売りたがるわけですよね。どれだけチャネルに資源を投資して何を売っていくかというときに、合弁のそのものの動きが、今までは日系企業の製品を中心に考えられてたのが、そうはいかなくなっているということも同時にこれはあるわけですよね。
森辺:そうですね、そうですね。だから、利害がある一定のステージまでは一致しているんだけども、ある一定にくると不一致になるんですね。そうなってくると、だんだんお互い仲が悪くなってきて、過去5年間いろんな施策を向こうに提案したんだけども、やっぱり全部駄目なんですと。結局、ここはここでそれなりのボリュームの商売やってるから、切るつもりはなくて、大切なんだけども、別のところと新たな取り組みをしていかなきゃいけないという。
大石:そうですね。
森辺:そういうステージの会社さんは、本当にもう、この類の相談ばっかりと言っていいぐらいにやっぱり多くて。あと、担当が、日本企業は人事ローテーションで替わるじゃないですか。
大石:ええ。
森辺:だから、こういう課題が実はもう10年ぐらい前からあったんだけども、そのたびに人事異動で先送りされてきたという問題と。
大石:なるほど、なるほど。そうですね。
森辺:あと、決めるべき人が具体的に分かっていないので、決めきれない。
大石:それはあるかもしれませんね。
森辺:それがすごく。
大石:やっぱり義理人情、大事なところではあるんですけど、ある意味ドライに切って、新しいパートナー探しをするとか、結局、チャネル戦略というのは、僕は生き物だと思っているんですよ。常に変わるんですよね。相手も変わるし、自分たちも変わるし。
森辺:その通りですね。
大石:それをやっぱり経常的にずっと同じものを続けていくと、うまくいっている部分はいいかもしれませんが、それでも問題は起きてくる。やっぱり逆に生き物だと、変化するものだと考えて、次を考えていかないと。
森辺:そうですね、そうですね。
大石:遅れをとるような気がしますね。
森辺:基本的にビジネスって、ターゲットに対して4Pとか4Cを最適化して当てていくという話じゃないですか。
大石:うんうん。
森辺:これがちゃんと最適化され続ければ、商品は売れ続けますよというロジックがあって、プロダクトとプライスってメーカー側からして見えていますよね。常にプロダクトは見えているし、プライスも見えているので、メーカー側で調整ができますと。見えていない、このチャネルの部分。シェアの高い企業は、自分たちのチャネルと競合のチャネルが現場でぶつかり合って、どうシェアが落ちる、どうシェアが上がるという、こういう戦いがやっぱりあって。そうすると、競合のチャネルがどういうふうに進化してきているか、自分たちのチャネルと比較したときにどれぐらいの競争力の差があるかというのはやっぱりすごく調査をされて、これがないのに自分たちのチャネルが強いも悪いもないじゃないですか。基準値がそもそもないのでね。こういうやっぱり調査依頼がすごく、うまくいっている会社からは多いですよね。
大石:森辺さんが前著でも書かれている、やはり「基準値」というものだと思うんですね。これはこの前のセミナーでも話題になりましたけども、やっぱり判断する基準がないと、良いか悪いかが言えないし、次のステップに行くかどうか分からない。だから、そこが、やめるか切るか、新しく行くかというところにも、やっぱり意思決定にも重要なところだと思うんですね。それがやっぱり戦略の2層目、3層目のとこの1つの大きな問題になっているんじゃないかなという気がしますね。
森辺:そうですね。意思決定するべき人が意思決定しないという問題もあるんですけど、でも、意思決定するべき人が意思決定できないという問題もあって、それはなぜならば、意思決定って、明らかになっていればね、決定をするだけなので、これは意思決定をする立場にまで上りつめる人ですから、できるんですよね。意思決定をしたくなるほどの可視化がされていないというのがやっぱり日本企業は多くて。
大石:そうですね。
森辺:こういうことを言うとまた駐在員とかに嫌われてしまうかもしれないんですけど、うちの東京のメンバーとか現地のローカル社員とか、死ぬほど伝統小売とかを回るんですよね。2週間で何百軒って回るんですね。現地の駐在の人たちが回っている数とやっぱりわれわれの回る数に相当な差があるし、結局、現地のローカルスタッフから聞いていることがすべてになってしまっているので、答えが間違っているみたいなケースってすごく多くあって。実際に見るとそうじゃない。「入っている」って聞いているんだけど、ローカルスタッフから、でも、じゃあ、500店全部見に行ったら、「いや、入っているのは2割じゃない」とか、「こんな状態は入っていないよね」と。だから、何に問題があるかと言うと、ストアカバレッジの獲得に問題があったと。「そこは問題がない」ってローカルスタッフからは聞いていたわけですよね。でも、実際に裏を取っていくと、「いや、ストアカバレッジに問題があった」みたいな状況というのは結構あるので、やっぱり調査してないなというか、現場に行ってないなというのが。
大石:そこはね、そこも1つの問題もあるでしょうし、やっぱり意思決定できる権限を与えられていないという、よく「NATO」と言われる、「No Action, Talk Only」と言われるけども。非常に優秀な方が駐在していたとしても、そういう権限が与えられていないとできないし、やっぱり何を基準にここをやるかやらないかとか、そこが決められない。おっしゃるように、現場を見るというのは僕も昔から言っているんだけど、表面だけ見ては絶対に分からないところがあるから、われわれも海外調査へ行ったら、必ずホームヴィジットをやって、例えばC2クラスの人がどういう生活をしているのかとか、「だったら、ここはこうだよね」みたいなところを肌で感じるようにはしてたんですけどね。
森辺:強い会社の現法の駐在員は、めちゃめちゃ現場に入っているんですよね。やっぱりシェアの低い会社、弱い会社はやっぱり現場の入り方が甘いというのはやっぱりあって。じゃあ、何で情報を得ているかと言ったら、自分たちの会社のローカルスタッフから得ている。「ローカルスタッフの答えが100%正しい」で議論が進んでいくので。別にローカルスタッフが嘘をついているというわけじゃないんですよ。
大石:いやいや、怪しいですよね、もう。
森辺:ただ、そこはやっぱりバイアスがすごくかかっているし、真実じゃないというケースもあるのであれなんですけど…。すみません。私の話が長くて、また今日も時間をオーバーしてしまったんですけど、この「人」にまつわる問題でもう1点お話したいことがあるので、ちょっと次回、引き続きよろしくお願いいたします。
大石:はい。
森辺:それでは、今日はこれぐらいにしたいと思います。皆さん、ありがとうございました。大石先生、ありがとうございました。
大石:どうもありがとうございました。



