森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。イノベーションと新興国市場みたいなお話をしていきたいなというふうに思うんですが、タイトルをつけるのであれば「イノベーションで切り拓く新興国市場」みたいな、そういうお話をちょっとしていきたいなと思っていて。対象は製造業なので、B2C、B2B、ちょっと事例をどちらも持ち寄りたいなというふうには思いますが…。
先進グローバル企業の、アジアでなくてもいいんですけど、新興国市場での活躍を見ていると、振り返ってこうして見てみると、そこにはいろんなイノベーションが潜んでいて、イノベーションって、私もイノベーションの権威である一橋大学の名誉教授の米倉誠一郎先生の助手を法政大学の大学院で5年以上やっていますから、基本的なことは理解をしているつもりです。このイノベーションがまさか新興国市場の事業において見つけられるというか、存在しているなんていうことは、そんなに当初、意識もしていなくて、どちらかと言うとイノベーションってより先進的な企業、アメリカをはじめシリコンバレーのハイテク産業なんかで生み出されているもの、そんな理解をしていました。かつての日本は技術革新という意味でのイノベーションがありましたけども、もうすでにね、何十年も前からイノベーションというのは技術を革新させることではなくて、別の次元に戻って、移ってしまっていますから、基本的にはあまり新興国市場で起こるものではないのかなと。もちろんリバースイノベーションという言葉もあるので、そういう意味ではまれにリバースイノベーションのような事例が見受けられるというぐらいの理解だったんですよね。ただ、先進グローバル企業の活躍を紐解いていくと、ここには彼らのイノベーションがあったねということを見つけるケースっていうのが結構あって。イノベーションって、計画的に何か起こせるようなものではなくて、事後ですね、終わってから蓋を開いてみたらこれはイノベーションだったよねということがほとんどなのかなと。計画的にイノベーションを起こそうとしている企業でイノベーションを起こせている企業なんて1社の事例もないので、大企業がイノベーションなんちゃらとかっていろいろやっていますけど、イノベーションなんて計画的にそんなみんなで寄ってたかって起こそうとしたって起きませんから、それは結果としてイノベーションだったんじゃないかなという事例が非常に多いと思います。
ちょっとこのイノベーションの意味を再認識するという意味でね、イノベーションの定義を再認識するという意味でちょっともう1回振り返りたいんだけども。米倉先生の入れ知恵なんですけどね。イノベーションって1911年にオーストリアの経営学者のヨーゼフ・アロイス・シュンペーター…。シュンペーターって皆さん聞いたことあると思うんですよね、マーケティングの本を読んでいたらシュンペーターっていっぱい出てきますから。シュンペーターがそもそも提唱していて。最近の言葉に感じますけど、1911年にもうすでにこのイノベーションという言葉はあったんですよね。シュンペーターが提唱しているわけなんですよね。日本では遅れること数十年、1956年に刊行された経済白書で、このイノベーションを技術革新と訳したんですよね。当時はね、新しい技術を生み出すことが日本経済の発展にすごく重要な時代だったし、技術革新というものがイノベーションにピッタリだったんですよね。多くのイノベーションというのはそういうものだったので。例えば分かりやすく言うと、家で大きなステレオで聴いていた音楽をウォークマンのような持ち歩くというものに変えた、これはイノベーションですよね。それから、白黒テレビがカラーになった、これもイノベーションだし、ブラウン管の大きな厚いテレビが薄くて小さいというか、薄くて大きな画面の大画面のテレビになったというのも、これはイノベーションだし、当時はたくさんイノベーションがあったんですよね。日本は欧米が発明したものを、より小さく、より良く、そしてより安くつくることで、それがイノベーションだったわけですよね。それで欧米の企業を抜いていったと、「Japan as No.1」と言われた時代が到来したわけですけども、その頃のイノベーションってまさにこの技術革新だったわけですよね。
ただ、シュンペーターは、イノベーションを経済活動の中で生産手段とか、資源、それから労働力などを、今までとはね、それまでとは異なる方法で新結合することであるというふうに定義していて、イノベーション=新結合なんですよね。分かりやすく言うと、今まであったものを新しいやり方でとかね、新しい別のものと組み合わせることで新たな価値を生んでいくという、これこそがイノベーションで。イノベーションの5分類なんていうふうに言われますけど、例えばNew Product、新しい生産物の創出、それから、New Process、新しい生産方法の導入であったり、あと、New Market、新しい市場の開拓、それから、New Source of Supply、新しい資源の獲得、New Organization、新しい組織の実現という、この新結合こそがイノベーションだというふうに言っているわけですよね。まさにそうで、Amazonなんていうのも、別に本屋は今まであったわけじゃないですか。本とネットショッピングを組み合わせたことで本をネットで買うという新しい価値を生み出したわけですよね。だから、本屋自体は別に新しいものじゃなくて、ただオンラインショッピングというもの、やり方、これが新しかったわけですよね。この2つを結合したという。もちろん今ではね、本だけじゃなくて、いろんなものをと。別に買い物はどこでもできる、小売店はいっぱいあったわけだし。Uberだってそうですよね。まさにイノベーションで、今までは配車というのは配車会社が、タクシー会社が車を購入して、運転手を雇用して、配車サービスを提供していたと。ただ、それがテクノロジーを組み合わせることで、1人の運転手も雇用せずに、1代の車も購入せずに、車をすでに持っている個人が空いた時間で配車サービスを提供できるというのが、これが世界のUberですからね。日本だとUberEatsが主流だからあれですけど、UberEatsのビジネスもそのものですよね。自転車やバイクは別にUberが供給しているものではなくて、自分たちで持っていますと。そして、空いている時間を使って配達をしているという、その個人の集合体なわけで。だから、新結合こそがイオンベーションで。
この意味がやっぱりなかなかね、技術革新の古き良きイノベーションを日本の企業は背負ってしまっているがために、新興国市場でも蓋を開いてみるとなかなかイノベーションではなかったというケースが多くて。例えばネスレの事例、ユニリーバの事例、また今度ね、詳しく話しますけど、サムソンの事例、シャオミーの事例、ボーダフォンの事例、タタ・モーターズとか、いっぱいあるんですよね。B2Bでもシーメンズとか、キャタピラーの事例、ABBの事例、GEの事例、それから、BASFの事例もそうだし、英国のホルシムの事例もそうだし、いろんなイノベーション事例が結果としてあって。日本はなかなか、この今、イノベーションのジレンマというところに30年ぐらいいますけども、これはクレイトン・クリステンセン先生が1997年に提唱しましたけど、まさに日本のことを言っているわけですけども、イノベーションのジレンマというのは、ある技術にもとづいた製品やサービスで成功すればするほどその技術にこだわるのでイノベーションに立ち遅れ衰退してしまう、要は技術革新することがイノベーションだと思っているので、技術を革新させよう、革新させようということにずっとやっぱり引っ張られてしまって、新結合という発想がなかなか難しい。
結局、ディスラプティブ・イノベーション、破壊的イノベーションという言葉があるんですけど、これもクリステンセン先生がおっしゃっているんですけどね、すでに確立された技術やビジネスモデルによって形成されている既存市場や業界構造を劇的に変えてしまうイノベーションをディスラプティブ・イノベーション、日本語で言うと破壊的イノベーションと。これも一橋大学の名誉教授の米倉誠一郎先生が破壊的イノベーションの本を出されていますから、それを読んで勉強してもらえたらと思いますけど、まさにAmazonとかUberなんかも破壊的イノベーション、ディスラプティブ・イノベーションですよね。別に新興国市場問わず、先進国市場を見ても、日本企業で破壊的イノベーションを起こしているような、もしくは日本人で破壊的イノベーションを世界で起こしたような経営者って、かつての時代はたくさんいたわけですよね。本田宗一郎、松下幸之助、ソニーの森田さん、いっぱいいたわけですよね。でも、この時代に入って、この30年見てみると、数えるほどしかないのかな、あるのかなという、そういう状態になってしまっていて。それは、話を戻すと普通の製造業においてもやっぱり新興国市場で蓋を開いたときに先進グローバル企業のやり方には多くのイノベーションが潜んでいて、日本企業はなかなかこのイノベーションが起こせていないということが見て取れるなというふうに感じています。
次回ね、今日はちょっと長くなってしまったので、ちょっと先進グローバル企業のイノベーション事例みたいなところを引き続きちょっとお話をしていきたいなというふうに思います。それでは今日はこれぐらいにして、皆さん、また次回お会いいたしましょう。