【特別対談】グローバル・マーケティングの権威 大石 芳裕 名誉教授と語る – 鈍化する事業の本当の敵は内にいる
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この放送の要点
- 「入っている」「回っている」という報告には定義のズレが潜む。
- 海外駐在は最終的に「分かったつもり」になる段階が最も危険。
- 駐在20年の長老の意見が絶対化すると、現場は異論を言えなくなる。
- 経験則ではなく調査でファクトを可視化し、若手の発言にも耳を傾ける。
明治大学・大石芳裕名誉教授との対談です。海外の現地法人では駐在20年の「長老」の意見が絶対化し、現場が異論を言えなくなることがあります。現地に長くいるほど「分かったつもり」になる危険があり、アジア新興国の市場環境もローカル企業の成長スピードも激しく変化しています。経験年数ではなくファクトに基づいて議論できる組織文化が必要です。
テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDER INITIATIVEの森辺でございます。今日も引き続き、明治大学名誉教授の大石芳裕先生にお越しいただいております。大石先生、どうぞよろしくお願いいたします。
大石芳裕先生(以下、大石):よろしくお願いします。
森辺:先生、前回盛り上がってしまって、「人」の話をさせていただいたんですかね、現場を見ることがやっぱり重要だよねと。自分たちの現地法人のナショナルスタッフが言っている情報を100%として議論が進んでいるんだけども、実はそうじゃないという事例も結構多いですよと。例えば入っているんですと、入っているって言っているんだけども、500店調べてみたら2割しか入っていないとかね。あと、このSKUでこの位置に置いて初めて入っているという定義なのに、SKU欠品しているし、こんな見えないところに入っていたって、これは入っているじゃないよとか。あと、訪問しているって言うんだけども、伝統小売を訪問していますと。けど、競合は1日30店訪問していて、自分たちは15店じゃ、これは数で負けているから、日々15店の差があるから、これは同じ訪問していても全然レベルが違うし。あと、伝統小売もオーナーに訪問3回のうち何回会えているかとか、これもやっぱりすごく重要なので、オーナーいない店に訪問してどうするんだみたいな、そういう細かな違いがやっぱり見えていないので。
大石:そうですね。
森辺:現場を見るってやっぱりすごい重要だなっていう。
大石:それにね、ディストリビューターやリテーラーからしても、頻繁に来てくれる人はかわいいというかね、やっぱり愛着が湧くわけですよね。
森辺:そうですね。
大石:でも、ほとんど来ずに人任せにやっていれば、「なんだ、これは」というかたちになるから。それはもう松下幸之助さんがチャネルをつくるときの肝にしてきたように、やっぱり人づくりだみたいなところはある。これはもう、全世界、僕は共通だと思うんですよ。
森辺:そうですね。いや、本当その通り。うちも、だから、このAI時代になってから、うちのメンバーには「現場に客の100倍行くやつが勝ち残るから、現場、現場、現場」と言って、社内に誰もいないですよね、いつもね。東京からもバンバン現場に行くし、うちの現地の各国のローカルスタッフもやっぱり常に現場に入っているので、現場はますます重要だなと。
そんな現場を見ていると、日系企業の課題の1つに、これは実際にお客さんから相談されるような案件の中でもあるんですけど、実は敵は身内にいるというか、ちょっとそう言うとなんかまた嫌われてしまったら嫌なんですけども。(笑)さっきの事例ですけど、別にナショナルスタッフは敵じゃないですよ。敵じゃないんだけども、ナショナルスタッフの解釈がやっぱり正しくないというか、そもそもの定義違いという、そこに要因があったという事例じゃないですか。
大石:はいはい。
森辺:でも、これがね、意思決定するようなトップの人が敵だとすると、またこれは問題で。例えば駐在20年ですと、その国に20年いるって言ったら、会社の中では長老ですよね。誰も何もその人にはたぶん言えないですよね。インドネシアに20年います、タイに20年いますと、フィリピンに20年、どこでもいいんですけど、そうするとその人の意見が絶対になると。でも、実は20年いたその人の意見は絶対じゃないみたいなケースというのは結構あって。だって、あなた現場に行ってたのは最初の3年か4年でしょうと。
大石:うんうん。(笑)
森辺:残り10何年はゴルフとカラオケしかしてないじゃないですかみたいなね、そういうケースって結構あるんですよ。なんだけども、この20年のドンが「いや、こうやればいいんだから」と言ってしまうから、もう現場は「いや、そうじゃないのに…」、でも、もう何も言い返せなくて困ってるという例もあるんですよね。
大石:そうですね。私もグローバル・マーケティングを研究しだして、現地に行きだして、だいたい3つのパターンがあるということが分かったんですよ。学生なんかもそうですけど、最初海外に行くと、日本との違いが目に付くんですね、こんなに違うかということで。だんだんそれに慣れてくると、今度は、いや、基本的には人間っていうのは共通な部分が多いじゃないかと、こういうふうに目が向くわけです、共通のところに。次の例えば10年とかね、今おっしゃったように20年とかいると、もう俺は現地のことはよく分かっていると、言葉もできるし、現地の文化も分かっていると。だから、知ったような気になってしまう、ここが一番危ないんです。
森辺:危ないですね。
大石:ええ。
森辺:いや、だから、確かに現地のディストリビューターの、オーナーとのコミュニケーションは取っているし、いろんな政府の人たちとも会っているし、こういう上の世界のコミュニケーションは取っているけども、事業に実態に表れるのはもっともっと下の現場の世界だったりもするので、なんかポイントも違うし、思い込みもあるし。
大石:だからね、やっぱり10年20年いたっていうのは、僕も経験上いろんなたくさんの現地子会社を見て、やっぱり社長が10年やっているところはわりと業績がいいというふうな印象を持ったんですよね。だけど、その人たちはやっぱりね、よく勉強しているというのか、当然トップ同士の付き合いもあるけども、やっぱり現場にも足を運ぶし、それは工場現場もあれば、小売の現場もあれば、あるいは家庭訪問みたいなことも含めた、やっぱり勉強を続けていって優秀になるんですね。
森辺:そうですね、そうですね、そうですね。
大石:それが分かったような気になってしまって、「俺は何でも分かっているんだ」と思うと、そこでやっぱり間違いが起きてくるという。
森辺:そうですね。意外にそういう社内に敵がいるっていうケースというのが多くて。これは今、ドンの話、ボスの話、ボスが20年いて、そこのいわゆる影響力が強いので、もうそっちの流れに流されるというケースがあるんですけど。これは例えば5年6年の現場のスタッフでもいいと思うんですけど、でもやっぱり5年いて、「あれもやった、これもやった、それもやった。でも、駄目なんです」という議論が結構あるんですよね。いや、例えばストアカバレッジが上がらないと、伝統小売のね、「じゃあ、こういうことをやればいいじゃないか、ああいうことをやればいいじゃないか、そういうことをやればいいじゃないか」といくつかの選択肢が出てくるんだけども、「それは今までの自分のキャリアの5年6年でやったんだ」と、でも、駄目だった。でも、これってもっともっと細分化して見てみると、誰が、どういうふうに、いつやったかで、全然得られる結果って変わるじゃないですか。
大石:うんうん。
森辺:例えば、5年10年前は駄目だったかもしれないけど、今はそれは正しいケースもあるし。あと、さっき言ったように、行っていますと、回っていますと、伝統小売。でも、その回り方が15軒じゃ駄目なんだと、30軒まで回るとブレークスルーするんだとか。あと、オーナーにまで会えないと、回っていたって意味がないんだとか。だから、こういう、何て言うんですか、でも、5年向こうにいる人に、「いや、それもやりました。でも、駄目なんです」と言われてしまったら、周りはもうそれ以上言えない状態。こういう組織というか、会議体に結構われわれは出ることがあって。これは中に敵がいるなというか、がんが中にあるという、そういうケースが多いんですけど。
大石:だから、前回言ったように、生き物なんですね、チャネルだけじゃないんだけど、マーケティングというのはやっぱり生き物なので、環境も変わるし、自分たちの持っている経営資源も変わるし、ライバル企業も変わってくると。そうすると、5年前に経験したことが今そのまま役に立つかと、経験は大事なんだけど、やっぱり現代はどうなんだということを常に新しく考えて、新しい戦略を立てなきゃいけないわけですよね。
森辺:そうですね。
大石:だから、そこをやっぱり5年前、10年前の成功物語をひけらかして判断をするというのは、これはもう日本の本体自体もそれで失われた30年を経験してきたわけだけど、やっぱり海外においては、特に今、東南アジアなんかは変化が激しいので。
森辺:激しいですね。いや、本当にそうだと思います。
大石:しっかり学ぶ必要があると思いますね。
森辺:そうですね。うちの社内の絶対ルールがあって、それは経験の長い人が強いんじゃなくて、調査をして調べてファクトを持っている人が一番正しいんだと。ファクトベースでしか議論はしてはいけないというルールになっているんですよね。
大石:いいですね。
森辺:僕なんかは、この会社で俺が一番フィリピンのことはよく分かっているとか、インドネシアのことはよく分かっている、ベトナムのことはよく分かっていると思い込んでいるわけですよね。なんですけども、やっぱり若手が現場に行って、僕はもう現場に行く回数が明らかに落ちているので。
大石:それはそう。
森辺:そうすると、若手が現場に行って、「でも、森辺さん、先週現場でこうだったんです」って写真出されて、回ってきたデータを定量的に出されて、そうすると、自分の感覚と違うのを突きつけられるとね、「自分が一番がんだった」ということに気づくシーンが結構あって。もう最近は黙っていますね。現場のファクトベースでしか議論しないという。
大石:そういう、でも、文化がね、多くの日本企業にやっぱり入って、若手でもちゃんと発言ができる、経験の長い、力のある人もそこにきちんと耳を傾けるようなことがやっぱりしていかないと、これだけ激しく変化するあれに対応できないんじゃないかなという気がしますね。
森辺:そう。だから、特に先生がこの間言っていた、前回言っていたように、ローカル企業の成長が著しいと、彼らがマーケティングを武器として取り入れて、より戦略的にシェア拡大に努めている中で、「とにかく営業行けばいいんだよ。回ればいいんだよ。もうこれ、うちは回っていないのは、数が足りていないということは分かっているじゃん」みたいな勢いで上司から檄(げき)が飛んで。でも、実際は本当に問題がそこにはなくて、本来は問題をちゃんと可視化する調査をちゃんとやらなきゃいけなかったのに、そこでまた無駄な時間が費やされて、結局、違ったって分かったときにはその上司は別の部門の上司になっているので、「いや、あなたは3年時間を無駄にしてどこか行ってしまった」みたいな、そういうケースはやっぱり結構あって。そういう悩みをやっぱり現場から、「いや、どうしたらいいですか、森辺さん」って相談を受けるんですけど、いや、私もその上司に嫌われるわけにはいかないので、なかなか。(笑)
大石:(笑)いや、難しいですね。
森辺:「取りあえず飲みましょう」みたいなね、話になってしまうんですけども。
大石:どんな組織だって完璧な組織はないので、いろんな課題は抱えているでしょうけども、やっぱりそこに対して柔軟に対応できる、特にさっき言った、経験の長い、権限を持った人がどういう組織文化をつくるのか、これは非常に重要だという気がしますね。それはひいては本当に全社戦略から、3層あるけど、事業部戦略から、そして現場の製品やマーケティングの考え方について、やっぱり一貫しておかなきゃいけないという気がしますね。
森辺:そうですね。いや、だから、理念とかって重要なんでしょうね。これって社風みたいなものに関わる話で。
大石:絶対大事ですよ。
森辺:理念があって、ミッションがあって、そのミッションとかゴールに対する戦略があって、戦術があってという、こういう順番で。だから、うちの『SPYDER Global Marketing Conference 2026』で登壇いただいた出光の佐藤さん、あの出光という会社はこの理念のところからがしっかりしているので、そういう問題がないんですよね。なので、そういう意味でカンファレンスではお話をいただいたんですけど。でも、重要ですよね。
分かりました。先生、じゃあ、今日は時間が来ましたので、次回が最終回ということで、今日はこれぐらいにしたいと思います。
大石:分かりました。お疲れ様でした。
森辺:皆さん、ありがとうございました。



