森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
前回まで、日本企業に共通する失敗の法則みたいなお話をずっと何回かに分けてしてきたんですが、今日は逆に、じゃあ、アジア新興国市場、アジアに限らず新興国市場全般でうまくいっていると言われる先進的なグローバル企業の強さの秘密って何ですか?というところの話を少ししていきたいなというふうに思っています。結論から言うと、彼らの強さの秘密みたいなもの、3つに分類できるなというふうに僕は思っていて。その3つについて、今回1回でおそらく話しきれないと思うので、何回かに分けてお話をしていきたいなというふうに思います。
まず最初の1つ目なんですが、やっぱり先進的なグローバル企業と言われている企業というのは、B2CでもB2Bでも同じなんですが、先駆者メリットを最大化するための早期の展開または経営判断が非常に長けているというふうに思います。これも基本的に「欧米の企業は動きが早くて日本企業は動きが遅い」なんていうのは一般的には言われていることで、皆さんも十分ご承知のことと思いますけども。
ASEANなんかでは、日本企業は「NATO」だというふうに呼ばれていて。これはどういうことかと言うと、「No Action Talk Only」で「NATO」というふうに揶揄されているんですけど。結局、大企業が何人も首を揃えていろんなことを聞きにくるよと。なんだけど、結局、一向にビジネスが進まないということで「No Action Talk Only」というふうに揶揄されていて。数十年前、ひと昔前は、日本企業が来るというだけで熱烈歓迎ムードだったんですが、今はなかなかそうではなくなってきている。僕もすごく懐かしいなと思いますけど、今から20年ぐらい前ですかね、2000年ぐらいのときに中国、2002年とかですかね、中国に行くと、もう僕らみたいなのが行くと言っても、工場に横断幕を張って「熱烈歓迎」ってこう、迎え入れられたのをよく覚えていますけど。今はそんなことはまったくない。むしろ、「日本企業、うーん、そうですか…」という、「何も決まらないよね」という、そういう印象が非常に強い。
なぜこんなことになっちゃったんだろうというところの話なんですが、先進的なグローバル企業と日本企業の絶対的な違い、これは早いと、「彼らは早くて日本企業は判断が遅い」ということなんですけども。彼らの…、同じ企業なのになぜ彼らはそんなに早く判断ができるのか。同じ企業で働く人間なのに、なぜそんなに早く判断ができるのかというところなんですが、それってやっぱり組織として早く判断するということが、仮に早く判断したことで間違いをおかしたとしても、それが良しとされる文化があって。どういうことかと言うと、誰よりも早く判断するということは誰よりも早く失敗をするということなんですね。誰よりも早く失敗をするということは誰よりも早く学ぶことになるので、結果として誰よりも早く成功するでしょうと、こういうふうに思っているわけなんですよね。
ここで言っている先進グローバル企業って、私、この20年間、いわゆるP&Gとか、ネスレ、ユニリーバといった企業の現地法人のそれなりのポジションの方にたくさんインタビューをしてきましたけども、その中で共通して聞こえてくるのが、こういう類のこと。だから、結局、彼らって、1980年代中盤、前半ぐらいにはもうASEANをマーケットというふうに完全にとらえていて、本当に投資をずっとし続けてきているという。そんな中で日本の消費財メーカーは出遅れたわけなんだけども。それでも、その判断ができるというのはもうそういうことで。結局、端から成功するなんて思っていないわけですよね。端から成功しようとも思っていない。その失敗があるから、それが積み重なって、しいては成功につながるという話で。
一方で、日本企業の場合は、本社に戦略がないんだけども、兵隊のように駐在員を飛ばして「気合いと根性で何とかしろ」という話になるので、戦術で戦わせるわけですよね。戦略はないんだけども、戦術で戦わせる。ただ、前にもお話した通り、戦略の悪さとか無さっていうのは戦術ではカバーできないので、「こっちの方向に進め」というのが戦略だとすると、どう進むかというのが戦術であって、そもそもの示した進む方向が間違っていたら、どんなに頑張って進んでも、それは間違った方向にしか進まないので、一生ゴールには到達しないのと一緒でね、戦略というのはすごく重要になってくるんだけども。
この先進グローバル企業がなぜ戦略に長けているかということもまさにこういうことで、早く動くことで早く失敗して、早く失敗することで早く学んで、そして誰よりも成功する。これって国を見ていても思うんですけど、アメリカの強さってまさにそうですよね。日本では考えられないようなことが起きるんだけども、その起こっていることがまさに国としての学びになっていって、そして、強く成長していくというのでですね。基本的に日本の場合は、危ないことはだめだし、失敗はノーだし、という文化がやっぱりずっと強く根付いてしまっているというのがあるので、それは企業としてもそうなっているんだけども、致し方ないと言えば致し方ないんだけども、世界で戦おうと思うとやはりそこを改善しないと勝ちはないですよというお話でした。
では、時間がきましたので今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。