東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、401回目も、引き続き大石先生をゲストに迎えてやっていきたいと思うんですけども、今回はどういったお話を。
森辺:今回も、前回に引き続き、先生が今年の2月末に出している、ミネルヴァ書房から出している『実践的グローバル・マーケティング』についてお話をいただきたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いします。
大石:どうぞよろしくお願いします。
森辺:先生、前回、この『実践的グローバル・マーケティング』について18社のいろんな事例からどうやって海外で成功していったのかという、ケーススタディーを分析することによって1つの法則を導き出していこうという、そんなお話を聞いたんですけど。この本を読んでいて私がすごく気になったのは、グローバル市場への参入のために欠かせないグローバル・マーケティングって、先生がよくおっしゃっていることだと思うんですけど、製品を誰に何をどのように売っていくのかを戦略的に考えるためのノウハウを、様々な企業の成功事例をもとに解説されている本だと思うんですよね。先生はよく、グローバル・マーケティングとかマーケティングって誰に何をどのように売っていくかということをすごく言われると思うんですけど、中でもチャネルに関して、ターゲットや地域の特性を踏まえたチャネル戦略がすごい重要だというふうに先生はおっしゃっているんですけど、このトピックについて今日はいろいろ教えていただけないかなというふうに思います。
大石:はい。今、森辺さんに解説していただいたように2つの点がありまして、1つは誰に何をどのように販売するかに関わる活動を、私はマーケティングの定義としているわけですね。ですから、ターゲットをまず決めると、それが決まると何をつくるか、どんなサービスを提供するかが決まり、それをどのようなルートで、チャネルを使ったり、あるいは、プロモーションをしたり、そういうかたちで売っていくということになります。これは非常にシンプルなので、いろんな●(4:23)の定義だとか、日本マーケティング協会の定義あるんですけども、誰もが覚えられる簡単なもので、実は経営全体がこの「誰に何をどのように」で動いているということだと思います。もう1つは、これはもう常に森辺さんと話していることですけども、グローバル・マーケティングで一番最初にくるのはチャネルだと、これが重要だということを言っているわけです。ただ、この本の第1章でも取り上げていますが、もっと大事なことというか、この本で一番最初に訴えたかったことは、「経営者がしっかりしろ」と、「経営者がマーケティング思考になりなさい」ということなんです。そうでなければ下は動けないし、会社全体がそういう方向にいかないと。この場合の経営者というのは当然会社の社長であるということもありますが、場合によっては事業部門長ということもあるわけですね。だから、とにかく権限がある人がこの「マーケティングは重要である」と、「チャネルは重要である」と、そういうことを意識して行動していかなければ日本企業の競争力というのは非常に危ういというのがメッセージですね。
森辺:そうですよね。先生、そこってなんでそうなっちゃったんですかね。マーケティング思考じゃないという。
大石:非常にシンプルです。基本的に、会社というのはマトリクス組織をとっていますけども、基本的にその前提は事業部制ですね。それに地域軸とか機能軸が横にきてマトリクス組織になります。でも、事業部制というのは基本的に製品でできる製品事業部制ですよね。そうするとそこは工場がやっぱりあって、メーカーの場合は、これが強いわけですね。
森辺:そうですね。
大石:ということは、日本企業は80年代まで、この製品事業部制で工場を中心とした、あるいは、R&D、研究開発を中心としたものづくりで成功してきたわけです。そうすると、いまだに多くの日本企業のトップは、いいものをつくれば世界で勝てるんだと思っておられる。
森辺:思っていますね。
大石:「マーケティング、それはお前、つくったものをどう売るかだろう」と。「それはお前、頑張れ」と。場合によっては、営業とマーケティングの区別もつかず、必死で売ってこいみたいな、それがマーケティングだと思っておられる、とんでもない勘違いをしている、ここが欧米企業と決定的に違うと思いますね。
森辺:「売れないのは気合が足りないからだ」と平気で言う大企業もいらっしゃいますからね。
大石:います。はい。
森辺:ただ、先生、僕これ、大手の企業に行くと、確かに「経営がマーケティングを理解していない」「マーケティングマインドになっていない」と。そんな中、ナイスミドルがマーケティングに重きをおいて、「チャネル戦略だ」「グローバル・マーケティングだ」とやっているんですけど、組織の上層部がマーケティングマインドじゃないからなかなか組織を舵を取っていくというのが難しかったりするじゃないですか。一方で、経営者がマーケティングマインドになっていない、経営者がマーケティングマインドになるべきだというのをすごく僕よく分かるんですけど、その経営者の立場になってみると、やっとの思いで取締役入りして、閣僚入りして、社長にまでなったと、総理大臣にまでなったと。今まで気合と根性でやってきたんだ、国内販売でやってきたんだと。いきなりグローバル・マーケティングとかチャネルとかトラディショナルトレードとか言われても困るぞ、俺はと。あと、5年だと、任期はと。今までのやり方で逃げ切るじゃないですけど、突き通すというふうなマインドになってもたぶんおかしくないので、これは急激に変えるというのは難しくて、徐々にしか変わっていかないのかな、そう考えると日本企業が本当に海外の事情で、ネスレ、ユニリーバ、P&Gに勝っていくというのはだいぶ先の話なのかな、なんてついつい悲観的になっちゃうんですけど、この辺ってどうなんですかね?
大石:残念ながらその予測は正しいと思うんですよ。そうそう、大きな、特に組織が変わるわけではなくて、さっきのような中小企業の場合は、それこそオーナーが意思決定できるので、エンジニアなんていうのは本当に工具メーカーなんだけど、マーケティングとかプロモーションの重要性を強調するんですよ。高崎社長というのがそういう行動をしている。彼は東大の工学部出身ですけども、マーケティングの重要性がよく分かっている。そういう中小企業のおっさんもいるわけ。そしたら、会社全体がそういう方向になっているわけですね。だから僕らは、ある意味今のトップがだめならば、さっき、森辺さんの解説されたのは、僕は聞きながら、東芝そのものじゃないかと。固有名詞を出すのは悪いけど、僕も東芝で10何年、東芝の人を教えていたから、1人1人の人は本当に真面目でいい人ばっかりなんですよ。うちの研究会に、グローバル・マーケティング研究会に、おそらく30人~40人、会員としているんですよ。なのに、やっぱり間違ってしまった。結局、事業部制で縦割りで、そこの中で動いてきて全体を統括しない、そういう経営の誤りがああいうかたちになってしまった。ここでも本当に危機的な状況で日本全体の他山の石としてわれわれは見ておかなければ本当に危険ですよ。だから、今の若い人たちというか、僕がやっているグローバル・マーケティング研究会は110回を超えて毎月やっているじゃないですか。こちらも400回ですけど、継続ですよね。その中で来てくれるトップマネージメントクラスの人たちの、やっぱり危機意識あるんですよ。だから僕は、確かに森辺さんの予測は当たると思うけど、変えられるところから変えていく。とにかく成功事例をつくる。そうすると、これまでのやり方ではだめか、あっちがいいかというかたちに、やっぱり少しずつなってくるのではないかと思っていますね。
森辺:そうですよね。家電とかエレクトロニクスの、当時、日本製で世界を席巻したのが今、中国製、韓国製、台湾製の状態が続いているというのを消費財メーカーが見れば、自分たち、これは対岸の火事じゃないんだなと、ああなっちゃう、家電はもう負けたじゃないですか、完全に負けが確定しちゃっているじゃないですか。だから、そうすれば今の消費財はまだ間に合うので、ケツに火はついているけどもまだ間に合う領域だから、マーケティングマインドになればまだまだやれると信じましょうというのが先生の意見ですね。
大石:はい、そうです。おっしゃる通りです。
森辺:なるほど、分かりました。私も必死で信じて頑張って支援していきたいと思います。じゃあ、すいません。今日はこの辺にして、また次回引き続きよろしくお願いいたします。
大石:はい。よろしくお願いします。
<終了>