東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、前回の続きなんですが、戦略についてもう少し話をしていただきたいんですけども、前回は、外資系の企業は意外と実行前に戦略をきちんと組み立てて、それをシンプルに実行していくと、一方で日本企業は意外と戦略ありきではなく、やりながら戦略を考えて走りながらやっていくみたいなことが多いとおっしゃったんですけど、それってどんなところで感じますか?
森辺:動き方が違うし、投資の仕方も違うんですよね。よく、例えば、外資、消費財メーカーで言うと、「彼らは外資だからあれだけプロモーションに投資できる」とかって言う人いるじゃないですか。もう、いくらお金持っていたって、これだけ投資したらこれだけのリターンがあるという戦略ロジックがなかったらそんな投資するわけないじゃないですか。だから、お金を持っているから投資をするのではなくて戦略があるから投資できるんですよね。例えば、サムスン、「うちはサムスンと違ってそんな投資できないから」と言うんだけど、サムスンがなんで投資できるかと言ったら戦略があるから投資できる話で、決してお金に余裕があるからダイナミックな投資をしているわけではないわけですよ。ダイナミックな投資ができているというところはそれだけ戦略があって、その戦略の検証がうまくいっているから、これだけ打てばこれだけ入ってくるということが分かるのでそれだけ投資をすると。日本企業の場合、その戦略がないので、結局、打たなきゃいけないところでも打てないわけですよね。要は、どれを打ったらいいのか分からない。
東:打つタイミングを計れないということですね?
森辺:計れないということになるんですよね。それがすごくもう顕著で。よく分かるのが、この人たち戦略をつくることをしていないなというのは、「戦略、どんな戦略ですか?」と聞いたときに、分かりやすい回答が30秒以内にパッと説明がこないというのは1つ特徴だし。あと、市場のこと、競合のことをよく分かっていない。特に、競合のことをよく分かっていないというのは。戦略って、僕、いつも思うんですけど、その国の市場環境と競争環境と自社の経営資源、この3つのバランスから戦略ってつくられるわけですよ。そうすると、市場環境や競争環境のことを知らなければ、絶対に確信的な戦略なんて生まれないわけですよね。日本の企業さん、駐在員さんに聞くと、競合の、例えば、「販売チャネルの構造ってどうなっています?」と、「彼らってどういうKPIで動いています?」とかという質問をしても全く、「たぶんこうじゃないかなと思う、うちもこうだから」みたいな。「もともと、ここの従業員を引っ張ってきてうちにもいるんだけどそういうふうに言っていた」とか、確実じゃないんですよね。それが確実じゃないということはそれをベースに戦略ってつくられていきますから、情報をインプットして戦略をアウトプットするわけじゃないですか。だから、そこでたぶんだいたい判断がついちゃうんですよね、この企業は戦略があるなとかないなとか。ただ、僕、今まで相当の数の日本企業と話していますけど、「ここは素晴らしく戦略が優れているな」というのはあまり記憶にないかもしれないです。
東:数値化されていなかったりします?
森辺:うん、ないですね。
東:数値はあるけどもその中身の数値がないみたいなところは結構あるような感じはしますよね。
森辺:そうですね。経営指標だけじゃなくて、うちの東さんがよく怒っていますけど、経営指標だけじゃなくて、いわゆる、オペレーションの中で生み出される数字、例えば、この国で一番取引の多い小売はどこですか?までは分かっていたとしても、その小売で月間何ケース出ていますか?とか、何箱出ていますか?とか、いくら出ていますか?とか、そういうその具体的な数字に落ちれば落ちるほど分かっていなかったりとか、即答できなかったりとかというのは結構あるかもしれないですよね。
東:そうすると、いきなり外資みたいに投資を戦略に対してするというかたちにもならないとは思うんですけど、その辺はどう折り合いをつけたらいいというか。結構苦しくなってくると何かしらの対策に対してはお金を使うという判断はするじゃないですか。
森辺:ぶっちゃけ、戦略をつくるために数千万投資するのを「えーっ」とかって言っている場合じゃないと思うんですよね。特に、数十億、数百億とかという金額を1カ国で海外でアジアで狙っているような会社さんであればあるほどそうだし、本当に市場環境と競争環境をどれだけ深掘れるか、それをベースに戦略をつくれるかというところに投資しないと、今まで日本でやってきたことをベースにとか、日本ではこうだったからとか、うちのやり方はこうだからとかということでは戦いきれないというのがアジアの市場だと思うので。そうは言っても、そういう体に会社も経営もなっていないというのが現実なところでしょうから1歩1歩やっていくしかないと思うんですよね。ただ、勝つための方法が明確にイメージされていないのに突っ込むってすごい怖いなと思うんですよね。例えば、分からないですけど、真っ暗な海に飛び込むようなものじゃないですか。中が浅くて頭を打つかもしれないし、サメがいて食われるかもしれないと、いかにその真っ暗な海をアジア市場というふうに仮定するんだとしたら、そこをサーチライトで照らして、そこはちゃんと深いなとか、サメがいないなとかって言って飛び込んでいく。もしくは、魚を捕まえに行くのに魚がいなかったら飛び込んだって濡れるだけなのでしょうがないですよね。だから、そのサーチライトを買って照らすということに投資をするというのはやっぱり日本の企業がすごく必要なことで、欧米の先進的なグローバル企業はそれをちゃんとやっていますよというのは1つ大きな違いじゃないかなと思うんですけどね。
東:分かりました。今日は、森辺さん、ここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
<終了>