小林:皆さん、こんにちは。ナビゲーターの小林真彩です。
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
小林:森辺さん、この番組もお陰さまでなんと600回を迎えることができました。
森辺:はい。皆さん、ありがとうございます。
小林:ありがとうございます。そこで今回600を記念してスペシャルゲストの方をお呼びしております。明治大学 経営学部教授 大石芳裕先生でございます。それでは、大石先生、よろしくお願いいたします。
大石教授(以下、大石):はい。よろしくお願いします。
森辺:大石先生、よろしくお願いします。
大石:はい。
森辺:今日から3回ぐらいにわたって先生にいろいろお話を伺っていきたいと思っているんですが、グローバルマーケティングの第一人者の大石先生にこの番組に登場してもらって、100回目のときからずっと継続して出てもらっていて、200回目、300回目、400回目、500回目、600回目と、遂に600回目になって、今、この番組も累計のユニークダウンロード数が130万を超えまして。
大石:すごいですね。
森辺:毎月ユニークビジターが、今、2万5,000人強ぐらい来てくださっていて。こんなマニアックな番組ですけども、世界にはマニアックな人たちがそれだけいるんだなということで、大変うれしい限りなんですが。そんな番組で、今日、先生とお話をしたいのが、今、すごく話題になっているデジタルトランスフォーメーション(DX)について、先生、先日、大阪のグマ研で講演もされているかと思うんですが、少し今日はDXについて、先生と一緒に勉強していけたらなというふうに思っております。
大石:はい。よろしくお願いします。
森辺:よろしくお願いします。
大石:デジタルトランスフォーメーションという言葉は、皆さんもお聞きになっていると思うんですが、これがグローバルマーケティング、あるいは、マーケティングとどういう関係にあるかというところを少しお話をしたいと思います。やはりデジタル化が進みまして、これが企業においても消費者においても大きな影響をもたらしているということは皆さんご承知の通りですね。
森辺:そうですね。
大石:これが、やはり既存のビジネスモデルを大きく変えているというところで、もういくつかの側面があるので、その辺を少し考えながらやっていきたいと思うんですね。
森辺:ぜひお願いします。
大石:まず、一番の問題はIT、ICTですね。情報技術、あるいは、情報通信技術というところなんですが、これの発達がやはり企業に大きな影響を及ぼしていると。それはマーケティング的に言うとEコマースであったり、あるいは、IoTであったり、あるいは、AI、アーティフィシャル・インテリジェンス、人工知能ですね、こういったものが影響を及ぼしているということは皆さんご承知の通りだと思うんです。これがやはり企業の競争優位を変え、新たな価値を生み出していくというところで、今日はそのお話をしたいというふうに考えております。
森辺:なるほど。お願いします。
大石:まず、日本のこのIT投資がやはり欧米、特にアメリカと比べた場合に、必ずしも攻めの、新しいビジネスを生み出す方向にいっていないというのがいくつかのデータから分かっております。例えば、経産省のデジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討というところでも、アメリカは攻めのIT投資、日本は守りのIT投資というふうになっていて、新しいビジネスがここから生み出されてくるという点ではやはり弱いというところがあるので、これは大いに考えていただきたい。例えば、コスト削減とか、単なるITのリプレースだとか、法規制があるからといったかたちでICTの投資をするのではなくて、新たな技術、新たな製品、新たなサービスを生み出すという方向にもっと向かってもらいたいというのが1つなんですね。
森辺:なるほど。これはITだけじゃなくて、いろんなことに言える気がしますね。
大石:はい。おっしゃる通りです。最終的には、このデジタルトランスフォーメーションというのは、これは僕の考えですけど、やはり日本の経営のあり方、組織のあり方が変わらないといけない。だから、デジタルトランスフォーメーションと言うと、こういうICT投資をして情報システム化すればできるんだと思っている人が多いと思うんですが、決してそうじゃなくて、それを運用する経営組織、ここがやっぱり決定的に重要ですね。
森辺:なるほど。これは、今、われわれ、先生の講演資料を見ながらお話をさせてもらっているんですけど、この資料をリスナーの皆さんに見せてあげられたらいいんですけどね。すみません。音声番組なのでなかなかあれですけども。
大石:そうですね。またどこかでやって。
森辺:そうですね。
大石:データとして、みんなそれを見ながら考えてもらいたい。例えば、これは一般のあれですけど、Eコマースにしても、日本はまだだいたい6%ぐらいなんですね。
森辺:そうですね。
大石:小売総額に占める割合が。ところが、これが中国の場合にはもう20数%になっています。もちろん商材によって、アパレルとか電気製品とか、そういったものはもっと高い数値になってくるわけです。食品等はどうしても腐敗したりするので比率はまだ低いんですけれども、これも今、急速に上がっている。韓国、イギリス等々ももう15%を超えていますし、アメリカもほぼそのくらいにきている。だから、日本にいると、日本は小売店舗が稠密なので、チャネルの発達が非常に進んでいますので、Eコマースがこれだけ進んでいるといってもせいぜい6%ぐらいです。
森辺:そうですね。
大石:だけど、これを世界的に見ると、もっとはるかに進むということですね。そこを考えていかなきゃいけない。
森辺:なるほど。
大石:それから、やっぱりAIはすごく大きな影響を及ぼしていきます。それこそ、昨年の独身の日にアリババが使ったAI活用というのは、例えば、ルーバンというのがあるんですけども、これは1秒間に8,000件のデザインをつくってお客さんのスマホにタイムリーにカスタマイズされた広告を打ち出していくという。1日だけで4億件を超える広告をつくり出していく。
森辺:すごいですね。
大石:こういったことが世界中で起こっているということですよね。
森辺:そうですね。中国は本当にこのAIに関しても先に行ってしまったというか。こんな感じじゃなかったんですけどね。
大石:そうそうそう。
森辺:10年、15年ぐらい前はね。
大石:ご承知の通り、スマホ決済というのももう完全に中国のほうが進んでいますし。そういう点で言って、日本が全くそれに遅れているのかというと、いろいろなチャレンジはなされてきていると。例えば、BtoBの分野でも、マーケティングオートメーションとか、DMPとかCDPと言われるようなものもあります。それから、今注目しているのは、九州のスーパーのトライアルという小売業の中で非常にAIを活用したものがやっているというところもありますし、実は、サンヨー食品というラーメン、即席麺をやっているところでも、取締役の高橋さんの説明によると、やはりこのデジタルトランスフォーメーションに向けて大きく、今、舵を切っているということでした。ですから、そういう点で考えると、経営層の見方、視覚、考え方で変化していくであろうと、マーケティングも大きく変化していくであろうと。そういう点でぜひ経営の組織のあり方、意思決定のスピード、評価制度、部門間連携、そういったところを見直していただきたいというふうに考えています。
森辺:なるほど。これ、あれなんですよね、先生、だから、DXというのは、すごく流行り言葉になっていますけど、「じゃあ、何かをデジタル化すればみんなそうなるか?」というと、「そういうものではないですよ」ということを先生はおっしゃっていて。「根幹の部分が変わらないと、いくらデジタルトランスフォーメーションをしようとしてもトランスフォーメーションしきらない」ということをおっしゃっているわけですよね。
大石:おっしゃる通りです。
森辺:日本は、残念ながら少しで遅れて、アメリカと比較してももともとその辺りが出遅れていたのに、中国にもだいぶ追い抜かれてしまっている状態になっているということなんですよね。
大石:この前、「2周遅れ」だと言ったら、ある企業の方に「いやいや、3周遅れています」と言われましたね。
森辺:そうですよね。
大石:ええ。そのくらい遅れています。
森辺:これ、これから大丈夫なんですかね? デジタルトランスフォーメーションをしないといけないわけですよね、われわれは。
大石:だから、みんなで頑張ろうというのが、私のメッセージなんですけど。やれるんです。例えば、IoTとか、いわゆる製造業の分野で言えば、やはりドイツが進んでいますけども、日本も決してそれでは負けていない。だから、全体の通信のほうはGAFAなんかにやはり負けているのは事実だし、AIの技術も負けているのは事実ですが、そういうものづくりのところと組んだデジタルトランスフォーメーションでは、まだ日本の企業も可能性があると思っています。
森辺:そうですね。
大石:だから、マーケティングのあり方にしても、実はまだマーケティング志向、あるいは、マーケティングというのは、要するに消費者視点でものを考えていく、経営そのものを変えていくということなんですけども、それがまだできていないからデジタルトランスフォーメーションも十分にできていないんだと、僕は考えているんですね。
森辺:なるほど。
大石:だから、そういう点でマーケティングのこの消費者視点からのマーケティングが経営の中枢にくるということが、実はデジタルトランスフォーメーションにおいても極めて重要であるというふうに理解しています。
森辺:なるほど、そうか。ものづくりそのものは非常に重要で、それだけのものづくりができる企業は世界にはないと。そうすると、その日本企業がもしデジタルトランスフォーメーションできたら、今の遅れは一気に追いつけ、追い越せる可能性は秘めていると。
大石:あります。
森辺:ただ、日本企業は、そのためには経営の中心にマーケティング以外のものをまだ置いていて、それがものづくりだったりするわけで。それを、ものづくりも重要なんだけど、マーケティングを中心に置くことでこのデジタルトランスフォーメーション化もより一層加速できるのでそうすべきだ、というのが大石先生のメッセージということですね。
大石:そうですね。
森辺:なるほど。よく分かりました。ありがとうございます。ちょっと時間をオーバーしましたけど、いい話を聞けて大変リスナーも喜んでいると思います。先生、次回はミレニアル世代について、またお話を伺いたいと思いますので、今日はこれぐらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。