東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、前回の続きとして、そうは言っても、結構、今、海外に目を向けるべき長期的な視線を持ってというところはあると思うんですけど。逆を言えば、国内がここ1~2年、もしくは3~4年に関しては、中国からの訪日観光顧客が多くなっていたり、アジアからも多くなっているというかたちでインバウンドが伸びているという、下火になっている業界もあれば、まだ伸びていますという業界もあると思うんですけど。そうすると、わざわざ海外に行かなくても、インバウンドでいいんじゃない?という考え方を持っている企業さんも当然あるじゃないですか?それをわれわれは否定するつもりはないけれども、本来それってどうあるべきなんですかねというのは?
森辺:そうですね。これ、だから、いくらやりたいかだと思うんですよね。例えば、中堅・中小企業で、言ったら、数十億グローバルでやりたいというような企業さんはね、別にわざわざ海外に出て投資をしてROIが少し先になるのにあれをするんだったらね、足元のインバウンドを狙ったほうがいいんじゃないかと。その通りだと、そっちのほうが速いのでね。だから、それはそれで全然構わないと思うんですよ。足元のインバウンド、これも、それでそれなりの額にはなるのでね。ただ、これって永続的に続くものじゃないので、いつか終わりが来るわけですよね。1つ考え方として、これだけ外国の人が日本に来てインバウンド需要があるというのは、非常にチャンスであるということは間違いないので、インバウンドをやるべきだというのは、僕も大賛成だと思うんですよ。ただ、このインバウンドで終わるのか、このインバウンドの効果をバネに海外まで手を付けられるのかって、これ1つ大きな分岐点だと思っているので。うまくインバウンドを利用して海外をやるということを、僕はやったほうがいいんじゃないかなと。さっき、中堅・中小企業、数十億円だから、インバウンドだけでいいんだと、たぶんそういうマインドの会社ってどこかでおかしくなっちゃうから、逆に、インバウンドで得た収益をグローバルの市場に投資するぐらいのね、だって、これ棚ボタでしょう、インバウンドなんて。
東:そうですね。
森辺:だから、それぐらいの気持ちでやったほうが、僕はいいんじゃないかなと思うんですけどね。
東:そのインバウンドから海外に、グローバルにつなげるというのも1つのターゲティングの要素に入ってくるということなんでしょうか?
森辺:そうですね。ただ、前もこの番組で言ったけど、インバウンドで買っている層が特殊であるということと、いわゆる上位中間層以上の層であるということと。あと、インバウンドでは買うけども、実際に国内に戻ったときに本当にそれをじゃあ買うかと言うと、インバウンドで来ているから買うというだけの話で。ハワイアンクッキー、日本で買わないでしょう?という話は前にしたと思うんだけど、ハワイに行くからあれを買うわけじゃない?高いよね。別に普通のクッキーだよね。なんだけど、日本人みんな買って帰ると。あれ、ローソンで売っていても買わないと思うので、そういう要素もありますよということはしっかり理解しないといけない、というのは1つですかね。
東:分かりました。そうすると、「ターゲティング」というのは本来どういうことを指しているのか、というのをまず教えていただきたいんですけど。
森辺:「ターゲティング」って、自分たちが狙っている層がどこなんですか?ということを具体化していくということじゃないですか。インバウンドで来るお客さんは、あくまでインバウンドのターゲティングであって、これ、このままアジア新興国市場に行ったときに、それだけのターゲットを探すなんて難しいんですよね。アジア新興国市場に行けば、FMCGのメーカーというのは中間層がターゲットとなるべきなので、全く日本でのインバウンドのターゲットとは違う。だから、アジア新興国でアジア新興国のターゲティングをしないといけない。
東:そうすると、アジア新興国向けのターゲティングとはどういったことになるのか?
森辺:僕は、FMCGはもう、中間層だと思うんですよね。数なんですよ。数が勝負だとすると、最もボリュームのある層を狙わないとビジネスとして成り立たない。数十円、数百円のものを売っている、この間も言いましたけど、いかにたくさんの人に、いかに速い頻度で、いかに繰り返し、永遠に買い続けてもらわないといけない。そうなってくると、中間層を狙わずしてアジア新興国には行けないので、そうすると、インバウンドとは全然違うターゲットになってきますよね。なので、FMCGは中間層だよというふうに言っていて。このターゲティングが中間層と口で言いながら、本当にじゃあ、あなたの会社の商品って中間層のための商品で、賄える価格になっていて、チャネルなんかまさにそうでしょう、中間層をターゲットにするんだったら、なんでTTに置いていないの?と。中間層をターゲットにしているんだったら、なんでプロモーション投資全然できていないの?という話になるので。そこがやっぱり、本当の意味でターゲティングできていないと。これが、例えば、資生堂やコーセーの化粧品だと言うんだったら、これは中間層だけをターゲットにしてちゃ駄目なので、全然FMCGとは、全く化粧品は変わってくるというのは1つあると思うんですけど。FMCGは中間層という、そこがやっぱり大きいんじゃないかなと思いますね。
東:そこは、東アジアと東南アジアで、また変わってくるんですかね?
森辺:そうですね。東アジアだと、若干高めに売れるじゃないですか。例えば、先日、明治の松田社長とお会いしたときに伺ったんだけども、「おいしい牛乳」ってあるでしょう、明治の。僕も毎朝飲んでいるだけど。あれが中国では、「おいしい牛乳」が、日本だと200円ちょっとぐらいなのが、400円近い値段で売れているというわけですよ。そういった現象が、当然起きているし。あと、韓国なんかは日本のお菓子が、日本の1.5倍~2倍ぐらいで売られたりするわけじゃない?だから、そういう意味では、東南アジアより東アジアのほうが価格は高く設定はできますよね。それが戦略的に高く設定できている会社って、例えば、明治の中国なんかは戦略的に高く設定できているんだと思うですけど、韓国なんかの菓子メーカーを見ていると、戦略的に高くできている会社ってどこまであるだろうとかって。要は、輸出の物理的な話で高くなっちゃっているみたいなね。明治なんかは、現地で生産して現地で販売しているから、戦略的にそういう値段に牛乳がなっているんだけど。日本から輸出しているものって、戦略的にその値段になっているかと言うと、輸出関税でそうなっているというケースが多いから。もしかすると、値段を安くすれば、より数は売れるのかもしれないですよね。
東:なるほど。そうすると、中間層を狙いなさいというのは1つのターゲティングであるということは分かったんですけど、商品特性上、最初からそうはできませんという会社も当然出てくると思うんですよね。
森辺:出てくるよね。
東:そうした場合のターゲティングって、大企業であれば、いきなり中間層を狙うべきだというのは理想像として分かりますと。じゃあ、これから出ようと、まだ出始めているようなところに関して言うと、そこをやりたいけど、なかなか最初からできませんよというような企業さんも多いと思うんですが、その辺はどうですか?
森辺:それってね、最初からなかなかできませんよという企業、確かに多いじゃないですか。それが、最初からなかなかできない要因が、僕は、どこなんですか?ということを解明することと。あと、じゃあ、いつだったらそれができるようになるんですか?ということが分からないまま、ただ、最初からそれをなかなかできないので、まずは上位中間層か富裕層から始めていって、いつかは中間層を頑張るんでと言いながら、ずっと上位中間層以上で止まってしまう。言ったら、日系スーパー止まりのFMCGのメーカーってたくさんいるじゃない?
東:はい。
森辺:そのうち担当者が変わっていって、ひたすら日系の小売店から脱却できないみたいなね。だから、なぜ初めからできないのかということと、何がボトルネックになっていて、それは今すぐ解決できる問題なのか、できない問題なのかということと、あと、じゃあ、どのタイミングなら中間層に行けるのかということまで含めて、まず最初はと言うんだったらいいと思うんですよね。ただ、漠然と、最初はというのは、やらないほうがいいんじゃないかなという。なぜならば、いつまで経っても中間層に行けないから。そんな気はしますかね。
東:分かりました。今日はここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。