小林:皆さん、こんにちは。ナビゲーターの小林真彩です。
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。
小林:森辺さん、本日は、スペシャルゲストとして、法政大学イノベーションマネージメント研究科教授、一橋大学イノベーション研究センター名誉教授 米倉誠一郎先生にお越しいただいております。米倉先生をお呼びしたということは、本日の内容は、イノベーションについてでよろしいでしょうか?
森辺:はい。そうです。イノベーションについて、先生にいろいろお話を伺いたくて、お忙しい中、今回、収録に来ていただきました。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
米倉誠一郎先生(以下、米倉):よろしくお願いします。
森辺:先生、ずっと僕、先生にお聞きしたいと思っていたことがあって。日本ってこの20年とか30年、失われた20年、失われた30年ということを言われるわけですけども、世界の競争力が非常に大きく低下をしていて。当時、1990年ぐらいですかね、1位だった競争力が、今、30位にまで2019年低下していると。そんな中で、低下の要因を考えたときに2つ大きく外部要因がたぶんあって、1つが中国の台頭、もう1つがアメリカの変わらぬ強さというのがあって。中国の台頭はもう、たぶんあまり僕がここで言う必要もなくて、例えば、日本の大物白物家電の最大手ってハイアールになっちゃったし。例えば、IBMみたいな会社、昔、PCつくっていましたけど、そういうブランドとか、三洋のアクア(AQUA)のブランドを引き継いだのも中国台湾のフォックスコンだったり。それから、ドローンもそうですし、アリババやテンセントに代表されるようなテクノロジー・IT系の企業も非常に台頭していて、非常に大きい中国企業が生まれてきていて。一方で、アメリカの強さって言うと、30年前に強かったアメリカの企業ってもういなくて、どちらかと言うと、新しい産業がこの20年とか生み出されていて。25年前にGoogleがなかったし、Facebookもなかったし、いろんな会社が出てきていて。Airbnbもそうだし、Uberもそうだし、いろんなイノベーションが起きていると。そうすると、中国もアメリカも、この20年間30年間ですごくイノベーションを生み出してきて新しく脱皮してきたんじゃないかなと。一方で、日本はひたすらものづくりを追い続けてきて、今ある技術を少しでもよく、少しでも高くみたいなことに執着しすぎちゃってね、われわれの言うイノベーションって一体何なんだろう?そもそもイノベーションって何?日本ってこれからどうすればいいの?みたいなことを先生に聞いてみたくて、前置きが長くなりましたけども、そんなお話をちょっと今日はお願いできないでしょうか?
米倉:そうですね。イノベーションというのを、日本で一番問題だったのは、初めに技術革新って訳しちゃったことなんですよね。中国は創新ですから、新しいものをつくる。イノベーションを初めに言い出したシュンペーターと言う人も非常に単純にひと言で言っているのは、「イノベーションとは新しい何かをつくり出すこと、あるいは、既にあるものを新しいやり方でつくり出すこと」、この2つなんですよね。だから、英語で言えば、ニュープロダクツをつくるか、ニューサービスというか、ニュープロセスをつくるか、このどっちかなんだと。面白いのは、じゃあ、それが目的か?と言うと、そうじゃなくて、社会に新しい経済的な価値を生み出す、要するに、それでチャリンとお金がレジスターが鳴らなければ、それはインベンションだったり、単なる改善だったりすると。みんながそれに対して喜んでお金を払う、あるいは、価値を認めて、それで社会が前進していくというのがイノベーションの基本的な考えですよね。それをいろいろ、いろんなことを言う人はいるんですけど、僕はそうだと思っていて。日本がなぜだめかと言うと、今言われたように、僕は、中国の台頭とアメリカの変わってきたって、これ同じなんですよね、言ってることは。彼らは、両方ともそうなんですけど、新しいものをつくったり、新しいやり方をするときにデジタル、アメリカも基本的にはデジタルなんですよ。だから、今、日本企業がデジタルトランスフォーメーションをしなきゃいけないな。例えば、セブンイレブン、今度、アリババがデジタルラッピングって、彼らは「ラッピング」って言うんですけど、そこら辺の街のパパ&ママストア、それをアリババが行って、ペイペイを使ってデジタルトランスフォーメーション、彼らの言葉で「ラッピングしてやる」と。そうすると、普通の店なのに、在庫も管理はできるし、欠品分かるし、顧客データも分かるし。あれ? 40年間、ものすごい苦労してほとんど利益も上がらなかったようなそこら辺のパパ&ママストアが、突然セブンイレブンになっちゃうわけですよ。これは何なのか?と言うと、何も変わっていないんですけど、デジタルを通じて全く違うトランスフォーメーション、業態に変わったということ。その中で、一番怖いのがプラットフォーマーと呼ばれる人たちが出てきて、これは何なのか?と言うと、僕は3つの大きな要因があると思って。1つはビッグデータを扱っていると、いつでもどんなものが、もう1秒ごとのデータが扱われていると。2つ目は、それをAIを中心としたITで瞬時に解析して。3つ目が、そこにお金の流れがあると。例えば、アリババが有名ですけど、彼らはペイペイを通じてもう、あるいは、ECを通じてものすごいデータを集めていますよね。そのプロセスで、その人たちのプロファイルがどんどん蓄積されていると。それをAIでつくれば、どこに誰が何を欲しいか、そういうのも見えてくるわけですよね。そこにペイペイという金融も来ますし、ほかの金融機関からのお金を貸すというのもあるし、トランザクション、何かが起こると。この間、面白い話で、アルファロメオが年間高級車300台売ろうと思って、アリババに相談して「どうやったら戦略的に売り込めるか?」と言って、アリババがデータを蓄積をして350台、予定より50台オーバーの350台完売するのにかかった時間が33秒!
森辺:(笑)すごい!
米倉:これね、アリババは手数料だけで6兆円なんですよ。トヨタって一生懸命ものをつくっていて、今、2兆円ぐらいかな。怖いのは、そういうプラットフォーマーたちにとってみれば、いいものをつくっているのは部品提供業者なんです。さっきのアルファロメオなんですよ。テスラのほうがいいって言ったら変えちゃうし、じゃあ、レクサスのほうがいいって言ったらレクサスにするだけなんですね。このプラットフォーム、大量のデータを使って瞬時にAIで解析して、そこに金融機能が乗ってくるようなものをつくっている企業がAmazonとかGoogleとか。だから、そこに日本が名乗りをあげていないんですよね。
森辺:ですよね。
米倉:ただ、僕は、1つだけ可能性があるなと思っているのはエネルギーなんですよね。電力っていうのは、毎秒動くじゃないですか。誰がどこでどう使うか見れますよね。これをAIで解析して、僕は自然、リニューアブルエナジーがいいと思うんですけど、そこに課金がされると言うと、これで本当に小さくてコンパクトで、スーパーシティでもいいし、スマートシティでもいいんですけど、そのプロジェクトをつくれば世界に出ていける余地があるんですよね。だから、ものを、「うちは素晴らしい家電をつくっているよ」ではだめなんですよね。
森辺:だめですね。
米倉:それにパッケージしたプラットフォームをつくろうという世界になっているので、そこの分野で遅れましたよね。
森辺:そうですね。その、今、先生がおっしゃった世界ってめちゃめちゃ怖いですね。
米倉:怖い。
森辺:要は、価値の源泉がメーカーからプラットフォーマーにグーっと変わっていくって話じゃないですか?
米倉:そうですね。
森辺:だから、もっと分かりやすく言うと、PVの極論版みたいな話ですね。小売のプライベートブランドの極論版みたいな話になって、その世界がもうまもなく来るだろうと。
米倉:いや、もう来ちゃっているんですよね。だから、その中で日本はどうするかと言うと、部品提供業者としては常に一番選ばれるものを使う、つくる。それは大事ですよね。だから、それは、だから、そこが問題なのは、顧客が何を望んでいるか。実は、ビッグデータを持っている人間のほうが分かっているんですよね。だから、僕は、トヨタがソフトバンクと組んだというのは、レクサス2,000万円で売っても、それ売り切りだと意味がない。ローンとか、自動運転とかをやることによって、誰がいつどこで何を買って、どういう食事をして、どんなローンに入って、どんな保険に入っているか、これが欲しいんですよ、データをね。そうすると、ああいう素晴らしいもの売り、ものづくり企業は同時にプラットフォームを取るために、どことアライアンスを組んでデータをやっていくか、そういうビジネスモデルをつくらないといけないですね。
森辺:なるほど。いやー、なんか。(笑)
米倉:短い時間で話すのは。
森辺:難しいですよね。
米倉:もうまだまだ話したいことはいっぱいありますけど。これは結構真剣です。深刻ですよね、日本の企業。
森辺:孫さん頼みみたいになっちゃっていますけど。
米倉:ん?
森辺:孫さん頼みみたいになっていますね、ソフトバンクのね。
米倉:うん。ある意味ね。だから、あそこに10兆円とか100兆円集まる理由はそういうことでもあるんですよね。
森辺:いや、先生、この番組でも、引き続きこの課題は定期的に追っていきたいと思いますので、また次回、お時間が許す限りですね。
米倉:よろしくお願いします。
森辺:ぜひお願いします。それでは、小林さん、そろそろですかね?
小林:はい。
森辺:じゃあ、すみません、リスナーの皆さん、今日はこれぐらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。
米倉:ありがとうございました。