東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは。森辺一樹です。
<本のご紹介>
日頃よりSPYDER CHANNELご覧いただき、誠にありがとうございます。森辺一樹の新刊『この1冊ですべてが分かる グローバル・マーケティングの基本』が出版されました。ぜひ、お近くの書店、Amazonでお求めください。今後とも、森辺一樹とSPYDER CHANNELをよろしくお願いいたします。
東:森辺さん、前回、靴下の話をされていたと思うんですが、靴下自体の品質は非常に良いと。
森辺:品質最高。
東:ただ、ブランドがないので、そこにライセンシーを持ってきてブランドのロゴを付けて売っているという、それはそれで1つの商売じゃないですか。そことヨーロッパのブランドというのは何が違うのかとか、日本のブランドというのは、文化の成り立ちによっても違うので、歴史がないとブランドが築けないとか、そういうジレンマもあると思うんですけど、その辺は何か、森辺さんが専門のグローバル・マーケティングと兼ね合わせて考えるとどうしたらいいのかなという、答えはないんでしょうけど、森辺さんの意見をお聞きしたいなと思いまして。
森辺:そうですよね。やっぱりクラフトマンシップというか、職人技に人々が憧れて興味を持って、それを尊重して尊敬して、それを買っていくわけじゃない?
東:うん。
森辺:多くの日本のメーカーって、これは靴下に限らず何でも良いんだけども、そのもの自体の品質を高めることにだけ労力を経営資源を使って、そのもののブランドを高めることに、要はブランディングすることには、やっぱり軽視してきたというか、今でも軽視している。これって両輪なんですよね。ものの品質だけよければそこがブランドになるということではなくて、もちろんそれに品質が良いことによって、それがどんどんブランドになっていくというのはあるんだけども、その自然派生的な流れよりもさらに故意的にブランディングをつくっていくという努力を、やっぱりヨーロッパのメーカーって、自動車にしたって、アパレル、いわゆるラグジュアリー・ブランドにしたって、何にしたってやっていて。そういうことをやっぱりやっていかないと、靴下の品質が良いって実感できる?東ちゃん。
東:(笑)なかなか難しいですよね。
森辺:靴下3回洗ったら、うーんってならない思う。最初は、うーん、履き心地良いなとか、いろいろあるかもしれない。洗っても毛玉が付かないとか、白いの付くのコロコロしなくて良いとか、いろいろあるかもしれないけど、でも、ストレッチ具合が良い悪いとか、そんなの好みがあるから。だから、五感で感じられないものであればあるほど、やっぱりブランディングをしていく、ファンにならせないといけないんだよね。ユーザー、消費者が、この会社、俺は好きだと。この会社のビジョンや理念や歴史が好きだ、考え方が好きだ、クラフトマンシップが好きだ。だから、俺はここの商品を買うんだと、ここの商品を使っていることに誇りを持っているみたいな、そういうものがないとやっぱり駄目で、日本の多くのメーカーはそこの部分はライセンシングでヨーロッパやアメリカから持ってきて、ひたすらものの品質を磨くみたいな、これはやっぱ長続きしないなと思うんですよね。ここが惜しいところで。
東:そうすると、片っ方のものづくりというところに関しては引けを取らないのかどうかは分からないですけども、いい勝負をすると。
森辺:ブランドづくりもものづくりですよ。
東:もう一方のブランドづくりのほうが、なかなかおろそかになりがちであるということなんですよね。
森辺:うん。だから、日本の伝統工芸品なんかまさにそうで、めちゃめちゃ職人さんの、要はなかなか真似をすることのできない素晴らしいものなわけでしょう。
東:はい。
森辺:きっと、ヨーロッパの伝統工芸に比べたら、たぶん職人1人の個人の腕と言ったら、もしかしたら日本の職人のほうが上なのかもしれないでしょう。
東:はい。
森辺:例えば、日本の職人がつくったバッグとかよくあるじゃない?
東:うんうん。
森辺:イタリアの職人がつくったバッグよりも、よっぽどたぶん良いんだと思うんだよね。なんだけど、ブランディングをどうしていくかって、これはマーケティングなんですよね。例えば、バッグで言うと、パッと思い付くのって、高いバッグと言ったらエルメスのバーキンでしょう?
東:はいはい。。
森辺:200万円するんでしょう?
東:うん。
森辺:あのバーキンと日本の職人がつくったバッグと、同じだけ原材料、お金を使えたら、たぶんそんなに引けを取るようなものにはならなくて。けど、みんながこぞってバーキンを求めるのは、そこにそれだけのブランドストーリーがあったりするわけでしょう?
東:うんうん。
森辺:1人の職人が最後まで1つの商品をつくって、修理に出しても永久的に修理ができて、なおかつ、それをつくった人がそれを修理するみたいな、本当かよ、そんなの?と思うじゃない。
東:(笑)はいはい。
森辺:なんだけど、そういうことが消費者を魅了していくわけでしょう。それの積み重ねで、これって1日にしてできないから、エルメスが何十年かけてつくってきた1つのブランドポジションだよね。
東:はいはい。
森辺:これを次の30年に向けて日本のメーカーはつくっていかないと、やっぱり最後生き残るの、ブランドが一番だと思うんですよね。なので、そこって思いきり個性なので。技術は真似できるけど、ブランドというのは同じものはつくれないから。なので、そこに力を入れるべきだと、僕はすごく思うんですけどね。
東:そうすると、今現状があるわけで、そこから、例えば何かを変えようとするときに、どういったことが必要なのかとか、というのは森辺さんなりにちょっとご意見をいただければと思うんですが。
森辺:僕は、こういう話を聞いて少しでも、うちちょっと…と思ったときに、やっぱり自分たちってどういうメーカーであるべきなんだろうということを、もう1度ブレーンストーミングするという、それは経営層だけじゃなくて、社員も含めて、工場の社員、生産現場の社員、営業の社員、すべての社員含めて、自分たちってどういうメーカーであるべきなんだっけ?と、その自分たちのあるべき姿、こういう姿でなきゃいけないんだ、私たちの存在意義ってこうだよねと。30年後、50年後、100年後もこういう価値を変わらず持っているべきだよねみたいな1つの軸を決めないと、その軸をベースにブランディングってつくられていくので、その軸がない、ただ良いものをつくるんですでは、もうこれは別に中国企業でいいですよという話になっちゃうので、そこだと思うんだよね。それが世間と違っていてもいいんですよ。世間が求めているものと真逆でもいいんですよ。そこに世間がその1本貫いた姿勢に対してユーザーがくっついてくるわけだから。そんな1本軸をまずは持つということが重要なんじゃないかなというふうに思いますけどね。
東:分かりました。今日はありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。