第272回 導入期の戦略が違う その2
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日は、前回の続きですね。前回の続きで、先進的なグローバル消費財メーカーと日本の消費財メーカーのアジア新興国市場、アジアじゃなくても新興国市場への導入期戦略が全く異なりますよというお話の続き、その2ということでお話をしていきたいと思います。前回はだらだらといろいろ話したんですが、導入期戦略が全然、ちょっと図を出してもらって、この図の通り、導入期戦略が全然違いますよと、導入期、成長期、成熟期という一番最初の図ですね、あって、この導入期で先進的なグローバル企業はMTもTTも両方やるんですというお話をしたと思います。なぜならば、3枚目のスライドですかね、なぜならば、この図の通り、近代小売と、MMとTTの比率がこれだけ違うので、基本的にはTTをやらないと消費財メーカーとしては旨味がないと、シェアが獲れない、利益が出ないという構造になっていますと。そして、最後のスライド、近代小売だけの数を見ても、ASEANの場合だと、例えばこのぐらいの数しかありませんよということを申し上げたと思います。日本だったらセブンイレブン1社で2万店あるのが、こんなふうな店舗数なので、この店舗数じゃどれだけ売ったって儲からないよね、近代小売だけじゃというお話をしたと思います。
よくある議論として、でも、ASEANの市場も年々ものすごく近代化をして成長しているので、市場もそのうち近代化するんじゃないのかと。なので、日系企業としては近代小売を中心にやっておいて、手間の掛かる伝統小売、結局、伝統小売をやるということはディストリビューション・チャネルをものすごく強固に構築をするということになるんですよね。それが日本企業は非常に下手というか、苦労しているわけで。それをやらずに近代化する、小売が近代化するのを待つのはどうかという事を言う方が結構いらっしゃいます。セミナーでもよくその系の質問は出ます。ただ、私が思うに、じゃあ、10年後にASEANで、例えば、ASEANで捉えたときに、確実に小売りの近代化は進んでいます。小売が伝統小売化しているか、近代小売化しているかと言ったら、近代小売化しているんですよ。どんどん、どんどん、近代的になっていきますと。ただ、じゃあ、これが向こう10年15年で完全に近代小売になるかと言ったら、今の比率の、さっきお見せした、このスライドを出してもらおうかな、このグラフの通りのこの比率の、これがもう完全に近代化するかと言ったら、あの中国ですらまだ62%なわけですから、タイですら41%、皆さん、タイへ行ったことあると思いますけど、マレーシアですら51%なので、向こう15年で完全に近代化するかなんて言ったら絶対しないんですよね。しないとなったときに、じゃあ、数十年掛かってようやく近代化して、さあ、われわれ日本企業、近代化したので、近代小売で売るべき良いものなんです、品質が高いんです、さあ、現地の皆さんどうですかと言って商品を出しても、いやもうそのときには正直全く相手にされないぐらいに競合の商品が市場を席捲することになるので、なかなか小売が近代化したから、はい、入りますと言っても、もう何十年ってその間消費者や流通事業者や小売と関係、信頼を築いてきた欧米の先進的なグローバル企業、また、成長著しいアジアの企業の商品が市場を席捲しますから、そこに来て日本の商品をどうですかと言っても、これももう全くお話にならない話だと思うので、やっぱり今から伝統小売を築いてシェアを獲らないと、今シェアを獲れなかったら、30年後のシェアなんていうのは、突然出ていって近代小売お願いしますと言っても、これはなかなか虫のいい話なんじゃないかなというふうに思うので、それもちょっと難しいのかなというふうに思います。
結局、チャネルなんですよね。チャネルをつくっていくということをやらないといけなくて、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーってなぜそれができるかと言うと、すごく戦略的で思考が逆算なんですよね。このビジネスというのは、消費財のビジネスというのは数が勝負なんだということをまず理解をすごくしていて、しっかり理解していて、いかにたくさんの人に、いかに速い頻度で、いかに永遠に、繰り返し買ってもらうかが私たちのビジネスの肝ですということをまず理解していると。そういった中、この市場の特性は伝統小売が圧倒的に今多いと。これがどんどん近代化していくんだけども、それには数十年の時間が掛かりますねということも彼らは計算済み。であれば、その間、伝統小売含めて収益を上げる必要があるので、じゃあ、50万店の伝統小売を攻略するためにはどうしたらいいのか、50万店にリーチをするためにはこういうディストリビューション・チャネルが必要です。これがあるべき姿です。じゃあ、これを10年後につくるために今年こうしよう、来年こうしよう、再来年こうしようということをずっと逆算でやっていく。
一方で、日本企業は、取りあえず伝統小売はチャネル構築が大変だと。なので、近代小売にまず入れてみようと、何となくこうなった。じゃあ、こうなったので、また来年はこうしてみよう、再来年はこうしてみよう。俗人的でかつ積み上げ式になっているというのが日系企業の導入期戦略で、ものすごい俗人的。そのミッションを課せられた担当者が、少し武闘派でアジア新興国向きのガッツのあるような方で、どんどん、どんどん、前向きに行かれるような方がいて、その人が10年ぐらいそこに駐在していくと初めて、10年の駐在員プレイヤーが、10年以上の駐在員プレイヤーがいるからその国では何となく形ができているけども、そうじゃない国は全くノウハウが生かされないので形ができないみたいなことというのは往々にしてあるし、とにかく俗人的。仕組みに頼るんではなくて人に頼るし、逆算をするのではなくて積み上げをするという思考がやっぱり非常に強い。
20年、日系企業の支援を見てきましたけども、欧米の先進的なグローバル企業も数百社、僕はインタビューをしてきましたけども、やっぱり圧倒的な思考の違いというのが今の導入期の戦略であったり、現状のシェアに大きく出ているんじゃないかなというふうに思います。
ということで2回にわたって先進グローバル企業と日本企業の新興国市場に対する導入期戦略の違いのお話をしてきましたが、この辺にしたいと思います。
それでは、皆さん、また次回お会いいたしましょう。