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第273回 導入期の戦略が違う その3

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森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDERの森辺です。今日も前回に引き続き、先進グローバル企業と日本企業の導入期の戦略の違いについてお話をしていきたいと思います。

前回、前々回と導入期戦略について、欧米の先進的なグローバル企業、今回はFMCG(Fast Moving Consumer Goods)ですね、食品・飲料・菓子・日用品等の消費財のインダストリーを例に出して、先進的なグローバル消費財メーカー、これはP&Gとか、ネスレとか、ユニリーバとか、こういった企業と日本の消費財メーカー、大手消費財メーカーのアジア新興国市場における導入期戦略がどのように違うのかということについて、前回、前々回とお話をしてきて、今回が3回目なんですが、今回でこの話は終わりにしたいと思いますが、今回も引き続き、欧米の先進グローバル企業と日本企業の導入期戦略に違いについて一緒に学んでいきましょう。

今回は、前回のちょっとおさらいをざっとやると導入期戦略が全く違いますよと。何が違うかと言うと、欧米の先進的なグローバル消費財メーカーは消費財ビジネスの神髄をしっかりと理解していて、ターゲットは絶対中間層ですよと。アジア新興国の最大の魅力は30億人に拡大する中間層であって、基本的には数十円、数百円のものを売っている消費財ビジネスにとって重要なのっていうのは、いかにたくさんの人に、いかに速い頻度で、いかに永遠に、繰り返し買い続けてもらうかということが非常に重要だと。そうなってくると、もうターゲットは中間層以外あり得ないですよねと。これが1本1万円の化粧水を売っているとか、1本1万円の水を売っているというのであればもちろんターゲットは変わるし、1箱1万円のチョコレートでもいいですね、これもターゲットは富裕層とか上位中間層で構わないと思うんですが、基本的には消費財というのは中間層がターゲットだから、ターゲット設定が中間層ですよと。そして、この中間層にリーチするためのチャネルづくりが非常にうまいということをお話をしたと。

どういうことかと言うと、消費財というのはアジア新興国、アジアだけじゃなくて新興国の最大のポイントというのは、流通が、小売流通が2つあるということですよね。1つは近代小売、もう1つは伝統小売。MT、Modern Trade、Traditional Trade、TTというふうに言われていますが、多くの日系の消費財企業の場合は、中間層が大事だと分かっていながらも、なぜかチャネルづくりがうまくいかずに、結果としてMTにしかものが入らず、TTの攻略が難航するというケースが非常に多い。まずはMTを攻略してからTTにいずれ行くんだというふうに言うんですが、なかなかTTに行けずにMTのままどん詰まってしまうというケースが非常に多い。

一方で、先進的なグローバル消費財メーカーは、もうTT含めて獲らないと、これはマーケット獲れないし儲からないということは端から理解をしているので、逆算をしていって、端から理解をしています。結果どうなるかと言うと、MTを確実に獲ると同時に、MTを攻略しないとTTにものを置いてくれない。TTのオーナー、パパママショップのオーナーはMTで売れ筋になっているものしかTTに置きたがりませんから、基本的にはMTの攻略というのはマストになるわけですよね。MTの攻略をしつつ同時にTTに配荷ができるディストリビューション・チャネルをつくっていくというのが、これ、先進グローバル企業の強さなわけですね。

そして、基本的にはドミナント戦略なんですよね。このAエリアでMT、TTを攻略したら次のBエリア。ここでもMT、TTを同時に攻略して次のCエリアというふうに行くと。一方で、日本の消費財メーカーはまずMTをネーションワイドに攻略しようとしがち。もしくは都市部を中心にMTを攻略して、その後、地方部のMTを攻略して、そしてTTどうしようかなという、こういうふうになってしまう。結果として市場で負けているわけなんですよね。

こういった違いがなぜ起きるかなんですけど、やっぱりTTを攻略するためのチャネルとMTを攻略するためのチャネルというのは全く違っていて、ここがやっぱり1つ日本企業がまだまだキャッチアップしていかないといけない、TTを攻略するためのチャネルづくりというのをキャッチアップしていかなきゃいけないなと。

今日はその話をちょっと中心にしていきたいと思うんですが。まず、図をお願いします。今日の図、これですけども、上のほうの図が、導入期、成長期、成熟期、衰退期というふうにあって、プロダクトサイクルがあるわけですけども、進出をするのも同じように導入期があって、進出してから成長期に入って、そしてだんだん成熟していって衰退をしていくと、商品が売れなくなっていくと。これを何個も何個も商品で重ねていくわけなんですけども、この導入期にやっぱりMTだけじゃなくてTTを両方獲らなきゃいけないというのが下の図なんですけども、基本的には金額ベースでASEAN、国によって比率はまちまちで、前回か前々回かお話しましたけども、だいたい2割ぐらいしかMTはないというふうに思ってもらって構わないと思いますけど、8割はTTの市場なんですよね。これ、間口で言うと、間口というのは店舗数、店舗数で言うと、もう99.9%、限りなくTTなんですよね。ベトナムのMTの数はだいたい今主要MTで3,000店舗、一方でTTの数は50万店。インドネシアのMTの数は3万5,000店、うち3万店はアルファマートとインドマレット、残る5,000店舗が純粋なその他のMTと。一方で伝統小売はどれぐらいあるかと言うと300万店存在する。フィリピンはどうか。フィリピンはMTが主要なところで6,500店舗、一方でTTは80万店存在する。そんな中、もうこのTTを攻略しないと、やっぱりシェアは獲れないし儲からない。

そうなってくると、先進グローバル企業の戦略って2つの要素を徹底的に行うんですよね。1つは何かと言うと、ストアカバレッジを獲るということなんですよね。ストアカバレッジというのは横軸で、いかにたくさんの店舗に自分たちの商品を置くかということがストアカバレッジ。セルインするということですね。一方で、置いたものをいかにインストアマーケットシェアを伸ばすか、これは縦軸なんですけども、入れる、セルインを伸ばして、セルアウトを伸ばすという、当たり前の話なんですけども、横軸と縦軸の勝負なんですよね。これを特にTTの戦略においては、それが実現できる販売チャネルをつくらないといけない。MTなんていうのは基本的にはもう近代小売ですから、セントラル物流化されていて、セントラル物流倉庫にドーンと商品を納めれば、そこから各店舗に商品が配送されていくようになっているんですよね。なので、チャネルをつくるとか、そういう話じゃないんですよね。いかに小売、チェーンの小売と強い交渉ができるかという話なんですよね。

結局、日本企業がなぜMTで強い交渉ができないかと言うと、TTでシェアを持っていないから。TTでシェアを持っている会社はやっぱりMTもそういう目で見ますよね。コカ・コーラがあれだけTTに入っていたら、コカ・コーラとの折衝というのは当然MT側も、コカ・コーラを売っていないMTなんていうのは、もう店としてはあり得ないわけなので。ユニリーバの商品を売っていないとか、ネスレ売っていないとか、P&G売っていないというのは、もう小売としてはあり得ない話なので。なぜならば、彼らはMTだけじゃなくて、TTも網羅的に配荷ができていると。その商品を置けていないMTなんていうのはそもそもあり得ないので、非常に交渉力が強いわけですね、こういうメーカーは。だから、TTをやるということは、結果として小売、近代小売との交渉力も強くなる。欧米の先進的なグローバル消費財メーカーはそんなことも分かっているので同時にドミナントで攻めていきますよと。そして、なぜドミナントかと言うと、消費財ってわざわざ遠方に行って買いませんから、自分たちの居住エリア、生活エリアでしか買わないんですよね。そして、アジア新興国の場合は、自分たちの家庭のキャッシュフローと、言ったら用途に応じてMTで買ったりTTで買ったりということが起きるので、このTTが重要で。

彼らはこの間口を獲るということに必死になると。次のスライドで説明しましょうかね。ごめんなさい。1個前に戻ってもらって…。

この間口を獲るという横軸をまずとにかく徹底的に伝統小売にセルインすると。一方で、セルインしたものがしっかり売れ続けるためには、やっぱりMTでも売れてないといけないわけですよね。TTでストアカバレッジを伸ばして、そしてインストアマーケットシェアを伸ばすと、この2軸を徹底的に繰り返す。MTの場合は、例えば伝統プロモのガールを店頭に置いて、この商品はこういう商品ですよというのを店頭でプロモーションガールが案内をして、消費者にそれを知ってもらったりということをやって。ある一定の間口が獲れたら、ATLをドーンとかけたらいいんですけど、それまではBTLでひたすら市場認知を売り場の最前線で行うんですけども。

一方で、TTの1店舗あたりでプロモーションガールを置いてこれどうですかとやったって、これは意味ないので、やっぱりストアカバレッジを増やしていって、その売り場にあるよという存在感を出すということはすごく重要で。それをするためにはやっぱりチャネルが非常に重要で、自社のセールス体制どうしますか。次の図ですね。ディストリビューション・ネットワーク、他社を含めたディストリビューション・ネットワーク、どうしますかと。例えば、ネスレ、ネスレ式のチャネルと言うと、100、200の小さなディストリビューターをたくさん使って、本当にきめ細かいマイクロディストリビューションをやると。P&Gは中堅・大手のディストリビューターを使って、これは商品特性上、マイクロディストリビューションをやるのか、ネスレ式かP&G式かで分かれるんですけど、そうやってストアカバレッジを伸ばしていくわけですよね。彼らはこの図の通り、都市別、エリア別、地区別にターゲットを、間口をしっかりと設定しています。何年で何間口を獲るのかって、獲らなければいけないのかということを非常に明確に設定をしている。明確な間口目標を設定して、その実現方法を、仮に設定をして行っていく。仮説検証をずっと繰り返していく。これを実現するための自社チャネルであるわけですから、自社のセールス体制をどうするんだ、ディストリビューション・ネットワークをどうするんだということを仮説検証を繰り返して、チャネルをどんどんつくっていくということなんですよね。なので、やっぱり、ここの仕組み、そもそもの考え方、ドミナント戦略でMTとTT両方獲っていかなきゃいけないですよという概念の考え方のところの部分と。じゃあ、MTはいいよと、セントラル物流だし、日本でもMTの商談なんていうのはやっているわけですから、これは何となく分かるよと。じゃあ、TTどうするんだと言ったときに、やっぱりTTにはTTに適した販売チャネルの構築方法というのがあって、必ずしも自前でやるということが決していいことではなくて、何万、何十万というチャネルを獲っていかないといけないわけですから、このためにディストリビューション・チャネルを構築していくということをやっていかないといけないというのが非常に重要です。ここが先進グローバル消費財メーカーと日本の消費財メーカーの大きな違いですよというお話でした。

今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。