東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:それでは森辺さん、前回の振り返りからいくと、われわれとしてはFS、事業化調査ですとか、そういったところの重要性っていうのをいろいろやってきたと思うんですけど、その辺から少し振り返っていただいていいですかね。
森辺:はい。何回目のポッドキャストだったか、あれですけど、フィジビリティー・スタディーが重要だというお話をして、結局アジアで事業をしていく、ものを売っていくっていうときに、実現可能性をいかに事前に検証するかっていうことはすごく重要ですよっていうお話をしたと思います。で、これは法人を現地に立てるにせよ、輸出でやってくるにせよ、基本的に現地で売るという行為をするっていうことは、それに伴って投資が発生しますので、その投資の回収見込み、並びにさらなる利益の拡大のための、いわゆる妥当性、事業化の可能性の検証、それをフィジビリーティー・スタディ-、FSというふうに言いますが、それをしっかりやりましょうという話をしました。
東:そうですね。で、それができていると仮定すれば、次に進むべきだと思うんですけども、グローバルマーケティングっていうのをそもそも日本企業でどうやって活用していくべきなのか、それを森辺さんなりの持論でいいんですけれど、教えていただければと思うんですけれど。
森辺:はい。僕のセミナーなんかでよくお話をしているんですけど、時代がね、大きく変わっていっているんですよと。変わってしまったんですよっていうことをまず理解をしてくださいというお話をしていて、いっときの日本がすごく欧米で成功していた時代っていうのは、いろんなものが日本しか作れなかった。で、欧米からそれを日本が奪い取っていって、テレビもラジオも冷蔵庫も洗濯機も日本しか作れなかった時代っていうのがあって、出すもの出すものが、すべてが新しかった。で、世の中ってコモディティー化してなかったんですよね。だから日本がすごく力を発揮できて、いわゆる重要だったのって、物作り、技術力、品質、機能、みたいなところがすごく重要で、ここを徹底的にやっていくことこそがメーカーのあるべき姿で、BtoCの大手の消費財のメーカーさんがそうであるように、当然その下に連なっているBtoBの部品、中堅中小のメーカーさんもそういう考えで今まで来ていると。ただ、今のこの時代って、欧米と日本というマーケットにプラス、アジアが加わって、さらに中国や韓国、台湾、その他多くのアジアの企業でもいろんなものが作れるようになってしまって、ものってコモディティー化しているんですよね。それによって今までの物作りとか技術とかじゃなくて、マーケティング力がすごく重要になってきているっていう、ここをまず理解をする必要があると。これは大企業であっても中小企業であってもね。
東:なるほど。じゃあそれを理解したうえで、その次のステップっていうのはどういうかたちになるんですかね。
森辺:ここをじゃあ、本当に理解をするということをしないといけないんですけどもね、よく使われる言葉で、プロダクトアウトっていう言葉があると思うんですけど、これがまさに今までずっと日本がやってきたもので、いわゆるプロダクトアウトというものっていうのは、メーカー側が製造する、作り手が考えるものをそのまま市場に投入をしていくと。もっとわかりやすく言うと、作り手のエゴを市場に押しつけるっていうとちょっと言いすぎかもしれないですけど、まあ、そういうやり方をずっとしてきたんだけど、それでも欧米で成功してきているんですよね。なぜならばコモディティー化してなかったし、市場はものにあふれていなかった時代。で、そこから変わらないといけないっていうことで、マーケットインの発想が重要だって、これももう多くの人が言っていて、市場が何を求めているか、これをベースに作り手が製品開発をやって、それを市場に投入をしていく。プロダクトアウトじゃなくて、マーケットインが重要だというふうに世の中では言われていて、多くの学者もそういうふうな研究論文を出しているんですけどね。私はプロダクトアウトでもマーケットインでもなくて、マーケットクリエーションとか、マーケットメーキングをやっぱりしていかないといけなくて、日本がかつて欧米で大成功した時代って、別にプロダクトアウトだった、通用した時代だったとかですね、もちろんコモディティー化してなかったとかね、日本企業しか作れなかったっていうことは重要な要素であって、彼らの成功要因の大きい要因にはなっているんだけど、基本的にあの時代の日本企業ってマーケットクリエーションとかマーケットメーキングをやってきたんですよね。で、結局それが今になって自分たちの、いわゆるメイドインジャパンが輝いてしまったことにあぐらをかき、マーケットメーキングとかマーケットクリエーションをしないといけないっていうことを忘れている。で、マーケティングをやってたわけなんですよね、その、認識していたかどうかは別にしてね。例えば、キッコーマンが醤油をアメリカで定着させたっていうのは、休日返上でキッコーマンの社員が醤油でアメリカのビーフを焼いて、照り焼きだと言って食べさせてみて、アメリカ人に。そこでおいしいと言わせて、それで定着をさせてったとか、ホンダの二輪車、アメリカではバイクっていうのは、チョッパーとかハーレーとか。
東:そうですね、大きな。
森辺:大きな男が大きなバイクに乗るっていうのは、これはバイクのいわゆる定義というかイメージというか、そういう世界に、女性でも学生でも、スクーターのような小さなバイクに乗るっていう、そういう習慣を定着させてきたし、ヤクルトだって、あれだけ早くから世界中にヤクルトを売っている、これもマーケットメーキングなわけですよね。世界中どこにいってもある商品っていったら、サロンパスとかね、あれもマーケットメーキングだし、ブラジルの僻地のドラッグストアに行ってもサロンパス売っているし、あと、ピジョンさんね。お子さんがいる方はすごく親しみあるんでしょうけど、ピジョンもやっぱりマーケットメーキングをしているし、成功している企業っていうのは、マーケットメーキングをやっぱりやっているんですよね。その発想をすごく持っているっていう。だからこれからっていうのは、やっぱりその、マーケットも作るんだっていうことをやっていかないと、アジアの市場はまず取れないですよね。
東:なるほど。今のだと、プロダクトアウトでもなく、マーケットインの発想でもなくて、マーケットメーキングとかマーケットのクリエーションが必要だと。そうすると、プロダクトアウトっていうのは、いいものをつくっていれば売れるんだ、みたいな、多分簡潔に言うとそういうことだと思うんですけど、マーケットインとマーケットメーキングとかマーケットクリエーションの違いっていうのが、少しリスナーの方にはわかりにくいのかもしれないんですけど、その辺、森辺さんとしてはどう考えられますかね。
森辺:僕はこういうふうに定義していて、プロダクトアウトっていうのはメーカー主体で市場に商品を押しつけていくやり方ですと。一方でマーケットインというのは市場のニーズをくみ上げて、そのくみ上げたものに対して、合ったものをメーカーが出していくっていう話で、マーケットクリエーションとかマーケットメーキングって僕が言っているのは、市場、なかった市場を作っていくっていう、そういうイメージがすごく強くて、これは例えば、アジアの人にどんな商品が欲しいですかって、それを聞いて、その商品を作って売って、で、本当にそれが売れるかって、これは全然違ってね。これがまさにマーケットインの発想だって言っているんですけど、例えばLGが成功した、インドで成功した鍵つきの冷蔵庫とか、あと蓄電機能がついている冷蔵庫、これは停電が多いからと。で、鍵をつけるっていうのは家の使用人が冷蔵庫の中のものを勝手に食べるとか、レストランで従業員が冷蔵庫の中、勝手に持っていっちゃうとかっていう現実から、そういう機能をつけてったんですけどね。これはもちろん、マーケットインの発想から得たものでもあるんですけど、彼らは同時にそういうマーケットを自分たちで見つけたし、そこに鍵をつけたり蓄電機能をつけることで、一つの大きい、冷蔵庫の需要を作り出してった。マーケットを作ってったんですよね。結局これ、商売で重要なのって、何をいくらで誰にどう売るかっていう話でね、マーケットインの発想だけじゃものなんて売れなくて、利益も出なくて、彼らは同時にそれをどうやって売っていくかっていう、流通を押さえるっていうことをやっているわけで、多くの冷蔵庫を売っている小売量販店の売り場がね、電源タップが少ない。そういうところに自分たちの商品には必ずテレビでも冷蔵庫でも、電源が入っている状態にする、とかですね。あと、多くの小売量販店、新興国行くと電気消えているんですよね。暗いんですよね。閉まっているのか、開いているのかわかんないと。電気代がもったいないからっていう、店側の都合なんだと思うんですけど、そういうところに電気代の補助が出る電気をつけてあげるとかですね、これ、そもそもマーケットを作っていこうという、いわゆる流通のマーケットも同時につくっていっているっていうことなんで、商品ありきの発想だけじゃなくて、もう一個、マーケットを本当に作っていくっていうのは、欲しがる商品、市場に求められる商品と同時に、それを買える場所を押さえていくっていうことを含めて、ちょっと広い意味で僕は使っているんですけど、そういうふうに捉えていますね。
東:なるほど。そしたら今、日本の企業がマーケットクリエーションができてないからアジアで苦戦をしているっていうことが考えられるんですかね。
森辺:そうですね。だから、あれだけいいものを作れるわけじゃないですか。いいものはいいわけですよね。マーケットを作るっていうことは、商品だけがいいでもだめだし、価格ですよね、同時にね。であとは「何を」が商品だとすると、「いくらで」が価格じゃないですか。で、「誰に」がターゲットで、「どうやって」のこの4つのセットでマーケットって作られていくわけで、いくらいいものを作っても、その四つそろってなかったら、やっぱりマーケットってできあがっていかないし、そもそもビジネスモデルしかりかもしれないですけどもね、製造業だけに限らずですね。だから、既存の事業をそのまま輸出していくっていうことではなくて、その地で本当にマーケットを作るっていう発想にならないと、なかなかアジアでものを売るっていうのは難しいというふうに思いますね。
東:さっき聞いていたマーケットインの発想だと、ニーズを聞いても出てこないとか、そういったこともあると思うんですけど、そうすると、ニーズを読むとか先読みするとか、そういった仮説を立ててマーケットを作っていく前提で何かを動かしていくっていうことが必要なのかなっていうのを感じたんですけど、その辺はどうなんですかね。
森辺:そうですね。結局、市場にどういうものが欲しいですかと。こういうものが欲しいです。なるほど、じゃあ作りました、買ってください。これ、非常にシンプルで、実態ビジネスでそんなこと起きるかといったら、まあほとんど起きないわけですよね。当然、それでできあがってくる部分も当然あるんですけど、市場のニーズ、市場が潜在意識の中でニーズと捉えているものをいかに導き出していくかっていう話だと思うんですよね。韓国のLGとかサムスンとかがなぜアジアであれだけマーケットシェア、日本の企業とは比べ物にならないくらいのマーケットシェアを取っていて、日本の大手家電5社が固まったって勝てないっていう話なんでね、なぜそれをやれているかっていうと、彼ら自身がその国の文化だったり習慣にものすごく深く理解をして精通して、そのうえでマーケットにこういう商品を投入したら売れるっていう仮説をしっかり持って、そのうえで戦略実行してるわけですよね。それがやっぱりすごく重要なことで、潜在意識の中にある、市場の欲求っていうものを取り出していかないと、そこに商品をぶち当てていかないと、なかなかマーケットっていうのは作れないと思うんですよね。
東:そうすると、日本企業はなかなかそこの現地レベルまで、こないだ大石先生が言った「現地適応化」と「適合化」の違いみたいなかたちで、まだまだ適合化っていうところまで入り込めていない、みたいな感覚なんですかね。
森辺:そうですね。で特にね、アップルのような圧倒的なブランド力のある企業っていうのは、どの国でも同じ製品を売ってればいいわけじゃないですか。アップル、僕たちはアップルです。僕たちはこういうポリシーでこういうビジョンでこういう製品を売っていると。気に入っている人たちだけぜひ買ってくれ、気に入らない人は買ってくれなくて結構だ、というスタンスなわけで、いわゆる、標準化なわけですよね。で、同じものをどの国でも売ると。でもそこにはブランド力があって、残念ながら今の日本の多くの企業、これは業界問わず、そんなブランド力ないですよね。で、これって、特に欧米の企業と日本の企業ってのはすごく差があるんですけど、車だってそうですよ、BMWは2個2個のね、2つ2つの目の4つのね、あれが彼らの顔で、僕たちの顔はこれですと。この車を気に入ってくれる人は乗ってくれたらいい、でも気に入らない人はどうぞ乗らなくていいです、と言って1,000万以上の車を売るわけで、ベンツもそうですよね、あの目とあのグリルとあのボディーとね、あれがベンツで、嫌いな人は乗らなくていい、ベントレーもそうだし、結局欧米は主張があるんですよね。だからその主張を絶対に崩さない。けど日本車をパッと見たときに、どれがどのメーカーの車で、一見わからないですよね。顔がない、主張がない。いろんな市場ニーズに合わせて、いろんなものを作っていくっていう、これが日本のメーカーが今までやってきたことなので。それがいい、悪いかって議論は今回は別にして、やっぱりそういう違いっていうのはすごくあるんですね。
東:そういう違いが、欧米にはブランド力で敵わない。一方で、韓国、まあ中国も含めてになってくるんでしょうけど、そういった現地の適合化ができているメーカーには先を行かれていると。その中で多くの日本企業はまだまだ追いかける立場に立たされていると思うんですけど、アジアの中で言えば。これからどうやって、そういったことを成し得ていくのか、もしくはさっき言ったマーケットクリエーションなのかメーキングなのかわからないですけども、それともどうやって実現していけばいいかってのを、森辺さんなりにどう考えますか?
森辺:これはね、戦略論の話と、もう一つは社員一人一人が意識みたいなところをまず前提として、やっぱり企業っていうのは人が作っているんで、そこの話をまずするべきだなと思うんですけどね、10年、15年ぐらい前に僕たちは中国製をばかにしたわけですよね、安かろう悪かろうと。で、中国製の家電、中国製のいろんなもの、韓国製もそうだし、サムスン、LGなんてのは10年前に…。
東:そうですよね。2000年前半はまだまだでしたね。
森辺:知らない人たちも多かっただろうし、そういうメーカーが今アジアでどれぐらいの位置に来ているのか、要は、ばかにしてた国の企業さんたちがいつの間にか自分たちの先に行っちゃっていると。で日本は1億2000万の巨大な市場があるから、まだそこで何とかやれているからいいんだけど、グローバルレベルで考えたときに、やっぱりものすごく遅れを取ってしまっている。世界は今、中国製、安いしそこそこクオリティもいいし、それでいいって。多くのものがコモディティー化しちゃっているから、テレビなんてこれでいいって、こう思っているわけなんですよね。で、そこをやっぱり理解をするってことが僕はすごく重要だと思っていて、これは海外事業部とか、そういう人たちだけじゃなくね、開発をやる人、生産の人、その他の部門の人たちもやっぱり、そこをしっかり理解をしていかないと、もう日本企業に残されている時間っていうのはそんなに多くないんじゃないかなと。NECの株価もそうだし、シャープもそうだし、パナソニックもそうだし、一方で彼らの売り上げや利益や時価総額と、韓国、中国の会社を比べてみると、多分すごくよくわかる。ハイアールがあんなことになる、あんな世界の巨大家電メーカーになるなんてのは、誰も想像しなかったことで、そこをやっぱりまず、日本の企業の社員が一人一人意識するっていうことが僕はすごく重要だなあというふうに思いますよね。
東:わかりました。じゃあ次回も引き続き、このマーケットメーキングとかクリエーションについて、少しお話をいただきたいなと思っていますので、森辺さん、よろしくお願いします。
森辺:ええ、よろしくお願いします。
東:では、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。