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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 27 重要なのは「海外売上比率」ではなく「現地シェア」

著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長

アジア新興国でシェアを伸ばすグローバル消費財メーカー

私はシンガポール・マレーシア・タイというASEAN の中でも先進的な3カ国を頭文字をとって「SMT」と呼び、ベトナム・インドネシア・フィリピンの新興3カ国を「VIP」と呼んでいます。日本の市場とそうかけ離れていない先進 ASEANであるSMTにおけるビジネスでは、日系企業もそんなに深刻な状況ではありません。すでに利益が出ている企業も多いはずです。
問題なのは、新興 ASEANのVIPです。どう攻略していいかわからず、現地法人を抱えている企業であれば赤字が長期にわたって続いているのは、恐らく新興ASEANであるVIPにおける事業展開です。
まずは、この連載でもお話をした世界を牛耳っている先進グローバル消費財メーカーが、VIPでどれだけマーケットシェアを獲得しているのかを見てみましょう。ヘアケア商品では、世界に浸透している蘭英ユニリーバと米P&Gです。 ベトナムではこの2社で半分近くを占めています。日系企業はホーユーが第8位で健闘していますが、日本でシェア第1位を誇る花王は残念ながら圏外という状態です。インドネシアではマンダムが4位、ライオンが6位に食い込んでいますが、やはり圧倒的シェアを獲得しているのは蘭英ユニリーバと米P&Gで す。フィリピンではマンダムが6位に入ってはいますが、シェアは1%以下と、蘭英ユニリーバや米P&Gの足元にも及びません。

アジアの企業も日本企業の躍進を阻む脅威に

次にチョコレートで見てみると、アジアの企業の活躍が目立ちます。ベトナムでは1位が米マース、2位が瑞ネスレ、3位が韓ロッテに買収されたベルギーのギリアン、4位が地場のBien Hoで、日系の姿はありません。ベトナムでは、キシリトールガムを中心に日本のロッテの活躍が著しいですが、現状では、明治や森永、グリコはなかなかシェア争いには出てきません。
インドネシアの1位は、シンガポールの食品メーカーであるDelfi(Ceres) で、フィリピンの1位は当国最大級の食品メーカーであるUniversalです。どちらの国でも高品質なプレミアム商品のみが売り物の日本の企業はまったくシェアが取れていない状態です。
消費財の中でも食品の分野では、やはり地場や ASEANの企業の強さが目立ち、タイやインドネシアではすでに数百億円、数千億円の売上を誇る食品メーカーも生まれています。日本ですら売上数百億、数千億円規模の食品メーカーは限られていることを考えると、昨今のアジアの食品メーカーの勢いの凄まじさがおわかりいただけるでしょう。そのような中で特筆すべきは、チョコレートでインドネシアの1位とフィリピンの4位を獲得しているDelfi(Ceres)です。先にも記した通り、 Delfi(Ceres)は、シンガポールに本社がある優良企業です。欧米か、地元政府の優遇措置を受けた地場メーカーならまだしも、シンガポール発の企業がVIPでシェアを取るなどとは、20年前には考えられなかったことです。
先進グローバル消費財メーカーだけではなく、アジアの企業も、今では日本企業の躍進を阻む脅威になっているのです。

海外売上比率が高くても成功とはいえない

これらの高いシェアを誇る先進グローバル消費財メーカーや、昨今、成長著しいアジアのグローバル消費財メーカーの戦略を見てみると、どこも自社の総売上に占める「海外売上比率」を重要視していません。彼らが重視しているのは海外売上比率ではなく、各国のマーケットシェアです。つまり、自国の売上と海外の売上といった2軸の指標のステージ はとうの昔に過ぎており、海外売上であれば、どの国でいくら稼いでいて、それは市場シェアの何パーセントなのかが指標になっているのです。日本では、決算説明会などで、「当社の海外売上比率は○○%」とその高さを強調することで、あたかも海外展開にも成功しているようなイメージの企業がありますが、どれだけ海外の比率が高いとしても、各国におけるマーケットシェアがほんの数%では、本当の意味で成功しているとは言えません。1カ国でもいいので、高い現地シェアを獲得することが、海外事業では肝心なのです。

アジア各国において現地シェアを重視すべき

では、なぜ日本企業は海外売上比率にこだわり、現地シェアは低いままなのかといえば、第1章でお話ししたように「チャネルビジネスをせずに、輸出ビジネスをしている」からに他なりません。輸出ビジネスをしている企業はどうしても頭が日本中心になるため、「日本国内と比べて海外はどうか」という海外売上比率の考え方になってしまいます。まるで、日本国内に本社がある地場企業が県内と、その他の地域、つまりは県外の売上比率を比べるような発想です。県内売上、県外売上などの指標を用いている企業は、さすがにもうないと思いますが、これだけグローバルな時代においても、県内売上、県外売上と同じように国内と国外の2軸指標を重要視している企業は少なくないのです。

しかし、こうした企業であっても国内ではしっかりチャネルビジネスをしていて、国内におけるマーケットシェアは常に気にしているはずです。先進的なグローバル企業は、各国において高いシェアを獲得することを第一の経営指標としています。海外売上比率などといった指標は持たず、より具体的な指標であるシェアを軸に各国でチャネルビジネスを展開しているのです。世界10大先進グローバル消費財メーカーは、1社の例外もなく、海外売 上比率という指標は重要視していません。彼らが重要視するのは、あくまで各国もしくは、各地域におけるシェアです。日本の消費財メーカーも、耳触りのよい「海外売上比率」という概念を捨て、「各国のシェア」と真剣に向き合う時が来ているのです。