東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:じゃあ森辺さん、引き続き岡崎さんをお迎えしてやっていくんですけど、今日はどういうお話をしましょうか。
森辺:はい。また引き続き電通北京の岡崎さんにゲストとしてお越しいただきまして、今日は岡崎さんが東洋経済オンラインで連載をしている、日本のトンカツが中国人を魅了する、という記事が、私も拝見させていただいて、これ結構最近の記事で、2013年3月19日ですかね、yahoo!トピックスにも載って、かなり反響があった記事なんですけど、この辺のお話を直接岡崎さんにお聞きしようかなというふうに思っております。岡崎さん、どうぞよろしくお願いします。
岡崎:はい、よろしくお願いします。前回もお話しましたけれども、東洋経済オンラインに2週間に一度コラムを持たせていただいて、ちょうどその3月ですね、トンカツの話を書いたんですね。で、書いて、そのあと私、普通にyahooのポータルで使ってるので見てたら、なんかトンカツの記事がyahoo!トピックスに載ってるんです。なんだこれは、とクリックしてみたら自分の記事なんです。びっくりしたんですけれども。
東:(笑)すごいですね。
岡崎:これはですね、実は中国のサービス業の話なんですね。前回も森辺さん、お話ありましたけれども、中国のサービスはあんまりよろしくなくて、例えば笑顔一つないと。要は仏頂面で、以前国営企業だったときの名残で物は売ってやるものだ、
森辺:うんうん、お釣りは投げ返す、みたいなね。
岡崎:お釣りは投げ返す、本当に投げます。クレジットカードも投げ返すと。こっちはお客様だよと。なんですけど、基本的にその辺の理解ができてないというのがありますね。それで特に北京はそういう傾向があって、ゴルフ場でもお店でもホテルでも、大変つらい目に遭うことが多いんですが、もう一つは北京は日本人人口は上海ほどはないものですから、本当においしい日本料理というものがあんまりなくてですね。その中で今年の3月に、皆さんご存じだと思うんですけども、新宿の「さぼてん」が初めて北京に出店をしたわけです。で、行ってみて私は感動したのは、これは日本の「さぼてん」と全く同じだと。もちろん料理の内容もそうですし、それから何と言ってもサービスがすばらしいと。当時は、日本人の方も1名来ておられましたし。中国人のサービス、向こうでは「フーウーユエン」っていうんですけども「服務員」と書くんですね。サービス担当の「ウェイトレスやウェイターの方の態度がすばらしくてきぱきしていて、店の中も清潔だし、笑顔もあるし、これはすごいということで、びっくりしてコラムに書いてしまったんですけれども、それぐらいわれわれ駐在員にとっては朗報だったわけですね。で、ここまでサービスのレベルを上げるっていうのは、北京では容易ではないと。で、聞いてみたらば、「さぼてん」は台湾で何店舗か成功させていて、その台湾の店舗の台湾人を北京に呼んで、マネージをさせているということを聞きました。なるほどということで、それをきっかけに日本式のサービス、僕は間違いなく日本のサービスのレベルっていうのは世界トップクラスだと思います。非常にきめ細やかだし、しかもマニュアルに書いてあるからやるっていうことではなくて、一人一人が工夫して、心からのおもてなしの心でサービスをするっていう、こんな国はほかにあんまりないと思うんですよね。で、そのサービスというのは中国でも実は非常に喜ばれるサービスであって、当然そこに対して対価を払ってくれるであろうということで、つらつら考えていると、例えば美容院ですね、ヘアサロン、もあるでしょうし、流通、小売りもあるでしょうし、日本企業にとってもまだまだ開拓できる市場があるなということで、書いてみたコラムですね。
森辺:なるほど。確か「さぼてん」さんは韓国とかにも進出してましたよね。なんか、日本の店舗数を韓国では上回ってるっていってお聞きしたことがあって。日本でも私たまによく行くんですけど、非常に北京もじゃあサービスの質が上がってきてて、っていうことですよね。で、中国の北京にもあったと思うんですけど、火鍋屋さんでものすごいサービス有名なところ、何でしたっけ?ど忘れしちゃいました。
岡崎:ああ、ハイディーラオっていうお店ですね。
森辺:はいはい。あそこなんかも徹底していて、日本企業全く関係ない純粋なローカル企業なんですけども、過剰サービスだっていうぐらいサービス徹底されていて。
岡崎:これは面白いですよ。要するに、人気店ですから当然待たなきゃなんないんで、大勢を待たせなければいけない。そのときに無料でネイルをやってくれるとかですね。
森辺:お菓子を出すとか。
岡崎:お菓子を出す。いろんなサービスをやってくれるんですよね。これは日本式のアプローチと全く違う顧客サービスで、中国人の考えるサービスっていうのはこういうことだなというのが、あれ見てよくわかります。ですから中国人にサービスのいいレストランはって聞くと必ずそこの名前が出てきます。火鍋屋さんですね。
森辺:そこの名前出てきますよね。火鍋自体もすごくおいしいんですけど、嫌な顔一つせずに対応してくれるっていうか、呼んだらすぐ来るし、中国にもこんなレストランがあるんだっていうのはすごく印象にあるんですけど、やっぱり中国のサービスレベルも一昔前に比べたら本当よくなったと思うし、これからもやっぱりどんどんどんどんよくなっていくし、より高いサービスをやっぱり中国の人っていうのは求めていくようになるんですかね。
岡崎:間違いなく求めていくようになるでしょうが、そのサービスの供給源、これ人ですよね。ここは一朝一夕に変わらないと思いますね。やはり日本人の特性であるきめ細やかさ、優しさ、おもてなしの心、これはそう10年20年ででき上がるものじゃないと思いますね。ですからそのレベルにはかなり遠いものがありますね。ですからかたちだけトレーニングをしてマニュアルを渡しても追いつけない世界がそこにはあると思いますね。
森辺:なるほど。じゃあサービスは向上していくけどまだまだ時間がかかるという。
岡崎:ええ。と思います。ですからそこに日本のサービス業が進出するチャンスは大いにあると思いますね。
森辺:あと何か私すごくいろんな、中国に限らずいろんな国に行くと、日本っていうのはサービスは無料という認識を持たれていて、万人が万人のサービスを受けられることが普通という感覚があるじゃないですか。確かに日本のサービスはいいと。ただそれが一概に本当に世界に持っていって全部通用するのかっていうと必ずしもそうじゃないなと思っていて、世界だとサービスっていうのは無料ではなくて有料であるべきだっていう認識がすごく強いんじゃないかなと思っていて、例えば銀行なんかそうだと思うんですけど、日本の銀行だと1億円預金がある人だろうが1000円しかない人だろうが100億円ある人だろうが、表向きは列に並んで手続きをするということになってると思うんですけど、海外に行くと必ず高預金者のためのプライオリティレーンっていうのがあって、並ばないでいろんな、預け入れだとか引き出しができるみたいなですね、もう明確にわかれていて、それが日本の中でも露骨なのが、航空会社さん。お金を払えばファーストだし、そこでは徹底的なサービスがなされるし、一方で普通はエコノミーということで、これは日本で唯一お金によってサービスが全く違うことが露骨に表現されてるのが、僕は航空会社さんだけだなあと思っているんですけど、そんなことってどんなふうにお考えになってますか。
岡崎:今お聞きしてて思ったのが、やっぱりヨーロッパのことと中国のことですね。ですからヨーロッパはもう伝統的な特権階級みたいな、貴族階級が存在して、それと労働者階級ははっきり違う扱われ方をすると。で、中国も巨大なピラミッドがありまして、政府のトップの人であるとか、あとは今この時代ですからお金持ちですよね、お金がある人。要するに偉い人をもてなす文化っていうのが、これがすごいですよね。ですからもう、偉い人というのは食事をする場所も違うし乗る車も違うし、すべてにおいて待遇が違うと。で、一般庶民は慎ましいつましい暮らしをしていると。この巨大なピラミッド構造というのはむしろヨーロッパと共通するかもしれませんね。ですから今おっしゃった、航空会社のクラス分けっていうのも、ルーツは船ですよね。巨大な船でお金持ちたちは豪華なキャビンで窓もあってと。お金のない人たちは窓もないところに雑魚寝というようなところもあって、中国もそういう雰囲気はありますよね。ですから日本は本当に、いい意味で、もちろん払うお金の多寡によって、当然その受けられるサービスに違いはあれど、皆同じ人間として扱ってもらえるというのは日本の特徴ですよね。
森辺:だからそれが海外に現地適合化させるときに、この発想っていろんなとこで影響が出てるなあってすごく思うんですけど、どちらがいい、悪いかはまあ別にして、例えば確実に格差っていうものがアジアに行けば行くほどあって、例えば中国だと社長、まあ老板(ラオパン)と。で、ラオパンは本当にまあ、見たまんまラオパンなわけですよね。俺は偉いんだっていう部屋があって、俺は偉いんだっていうテーブルがあって椅子があって、そこで俺は偉いんだという態度で接しられる。これも、能ある鷹は爪隠すで、本当のグローバルなラオパンというのはそうじゃないケースも僕もたくさん見てきてますけど、一般的に言うと、やっぱり日本の社長と中国のライパンだと、偉さが全然違うという感じで、組織の中でもですね。ところが中国人の部下と、日本人の上司と中国人の上司だと部下の扱い方がやっぱり全然違う。日本人ってどっかいい人な感じがしていて、そんなこともすごくサービスじゃないんですけど、格差っていうところからそのサービスがきているんだとすると、いわゆるその上下みたいなところもなんか関係してるんじゃないかなという気がするんですよね。
岡崎:そうですね。ですから中国の現実なんか見てるとちょっとつらくなるときありますわね。偉い人はあくまで偉くって、偉くない人は偉くないと。下のほうの人がそういう偉い人、上の人、お金持ちの人に一生懸命サービスするのは、そのことによって自分に見返りが期待できるから一生懸命やるんだっていう、そういう構図が透けて見えると、やっぱりそれもなかなかつらいなという気がしますね。
森辺:そうですよね。これ、インドなんか行ったらもっと露骨で、実際にはないと言われていてもやっぱり格差社会って明確にあって、やっぱり中国以上にそれがすごい。
岡崎:話しませんからね。階層の違う人だとね。
森辺:話をしないし、で、名前でわかってしまうし、見た目でわかってしまうし、やっぱりそこがすごく新興国というかそれがあって、そこを加味してビジネスをやっていかないといけないっていうのは、すごくあるなあっていう感じがあるんですよね。なるほど。じゃあ連載のほうの話に戻るんですが、この『日本式の”とんかつ”が、中国人を魅了する』という連載の中に、社員をやる気にさせるインターナルブランディングというのがあるんですけど、これはどんなお話なんですかね。
岡崎:そうですね。サービス業にかぎらず、やっぱり一番大事なのは身内ですよね。例えば会社であれば、その社員全体が、工場まで含めて、経営者からセールスマンも実際に工場で働く人たちまで全員が同じビジョンを持って、同じ信念を持って毎日働くっていうことが最終的に商品やサービスにも影響してくると思うんですよね。で、ブランドコンサルティング、ブランドコンサルタントたちがよく言うんですけれども、まずそのブランドのビジョンをしっかり持つと。で、それを伝えていくということなんですが、外に伝える前に、まず自分たちがそれを信じてなければ外の人を説得することもできないでしょうし、そういう意味でよく教科書に出てくるのがいわゆるリッツ・カールトンのモットーですよね。ホテルですからいろんな仕事があって、それぞれにマニュアルもあるんでしょうけど、一言で言ってリッツ・カールトンっていうのは何なんだというときに、その例の「We are ladies and gentlemen serving ladies and gentlemen」と。「お客様は紳士淑女の方々なんだから、私たち従業員は全員、紳士淑女として振る舞う」。もうこれだけですよね。で、これだけで要するに行動の指針になっているし、プライドの源泉にもなるし、リッツ・カールトンで働くっていうのはどういうことなのかと。で、ホテルですからいろんなトラブルもあるでしょうし、問題も起こるでしょうけども、そういうときにどういうふうに対処すればいいのか、振る舞えばいいのかっていうのが、このたった一行の言葉で全員が共有できると思うんですよね。そういう、いわゆるインターナル、自分たちの仲間内でビジョン、信念を共有して、日々仕事をしていくっていうことで、結果も大きく変わってくるんだろうなと思いますね。
森辺:そうですね。リッツ・カールトンのサービスは非常に世界的に有名で、日本でもリッツ・カールトンに住んでる人いますもんね。お金持ちの方でね。私の知り合いでも六本木のリッツ・カールトンに住んでいて、賃貸マンションよりリッツ・カールトンに住んでるっていうような人がいますけど。なるほど、そういうお話なんですね。わかりました、ありがとうございます。実はこの岡崎さんなんですが、東洋経済オンラインでりかちゃんの話とかメルセデス・ベンツの話とか、まだまだ面白い話をたくさん書いておりますので、また次回、そんなところのお話も含めてご紹介いただければなというふうに思っております。じゃあ今回はこの辺にして、どうも岡崎さん、ありがとうございました。
岡崎:はい、こちらこそありがとうございました。
東:ありがとうございました。