東:こんにちは。ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは。森辺一樹です。
東:森辺さん、前回に引き続き、少しグローバルマーケティングというところから先進製造業と日本のハイテク企業の違いみたいなところを少し話されたと思うんですけども、少しそこの振り返りからお願いしてもよろしいでしょうか。
森辺:そうですね。どうして先進製造業と日本のハイテク企業はここまで差がついてしまったのかみたいなお話を前回してたと思うんですが。
東:先進製造業ってそもそもイメージとしてはAppleとか?
森辺:そうですね。Appleというふうに捉えてもらって。サムスンとかですね。
東:クアルコムとか?
森辺:そうですね。そういうところをイメージをしてもらって。日本のハイテク企業っていうと、言ったらパナソニックを始め、ソニーであったり日立であったり、そういうところをイメージしてもらったらと思います。
東:わかりました。
森辺:で、そんな中で前回日本の企業の特徴っていうのは80年代90年代に成功モデルといわれた経営とか事業モデルみたいなものを今でもやってしまっていて、一方でグローバルに成功してる企業っていうのはそこがすごく違いますよというお話をしたと思うんですけども、生産モデルだったりケイパビリティのお話を前回したんですかね。で、事業運営に関しても開発生産販売の本社コントロール型の経営を先進製造業はしていて、一方で日本のハイテク企業っていうのは事業別の責任経営みたいな話を確か前回はして、縦割りの組織構造になってますよっていう話をしたんですよね。
東:そうですね。そもそも10年前の主な販売先っていうところが一番最初に来ていたと思うんですけど、そういったグローバルな先進製造業っていうのは10年前から新興国をやっていたっていう。
森辺:そうですね。もう20年前からって言ってもいいかもしれませんが、日本と欧米プラス新興国。新興国っていうのはアジアと中南米を指してますが、こういうところをやっぱり取り組んでいるし、一方で日本のハイテク企業っていうのはずっと先進国中心の経営をやってきたんですよね。で、アジアっていうのはあくまでも生産拠点としての活用で、フォロワーに回ってしまっていて、そこに対しての投資っていうのはやっぱり積極的になったのは、アジア、アジアいわれてますけど、やっぱり2009年ぐらいなんですよ、絶対に。予算がついてるのはですね。
東:そうすると、少なくとも10年間の遅れは…。
森辺:出てますよと。
東:あると。
森辺:はい。で、そこに対してグローバルマーケティングをいまだに真剣にやらずにものづくりとか技術とかって言ってると、そもそもの経営モデルとか事業モデルが遅れてるにもかかわらず、まだものづくりって言いますかっていうのが、僕がすごく強く思ってることなんですよね。
東:そうですね。ものづくりを否定するわけじゃなくて、ものづくりプラス当然グローバルマーケティングをやっていかないと、そもそもものづくりのレベルが上がってきているのに、ほかの国が。それだけでは立ち向かえないと。
森辺:そうですね。日本のものづくりっていうのはやっぱり世界一なんですよね。いろんな世界のいろんな企業見てきましたけど、日本のものづくり、技術力はもうこれは世界一なんですよ。あと、組織って人じゃないですか。日本人という人材も世界一なんですよね。で、いろんな企業のいろんな社員を見てきてますけど、やっぱり人がすばらしい。ものもすばらしい。そうすると、あと何が足りないんだって、マーケティングなんですよね。ブランド力とかっていうのはマーケティングで作り上げるものですし、そこだけあとしっかりやれば、本当に日本企業っていうのはもう1回再びNo.1になれる、そんな企業多いと思うんですよね。
東:そうすると、グローバルブランドっていうのも、こないだ岡崎さんなんかも言ってましたけど、グローバルマーケティングが先行したうえでグローバルブランドっていうのを作っていかないと、そもそもその地で成功してないのにブランドなんか築けないっていうようなことを岡崎さんおっしゃってましたけども。
森辺:岡崎さん、そうですね。お招きしたときですね。
東:なので、そうするとグローバルマーケティングの上に当然グローバルブランドだったりブランディングっていうのがくるという認識でよろしいですかね。
森辺:そうですね。だからこういう経営管理モデルなんかをやっぱり変えていかないと、なかなかグローバルマーケティングを小手先でやろうっつったって、経営モデルが古いまんまだと、それうまく発揮できないですよね、パフォーマンスを。で、ITに関してもグローバル統一とか経営管理の仕組みを全社一括導入してやってったりしてるんですけど、日本のIT企業っていうのは事業単位別の最適化みたいなことをやって、事業単位なんですよね。で、事業部門長とか事業部門執行役員とか事業部本部長っていうのがすごく力を持っているじゃないですか。例えばお仕事をいただきに行くときもそうなんですけど、事業部からいただくと。で、事業部のトップがやっぱりトップじゃないですか。で、そういう経営にもう先進製造業っていうのはなってないんですよね。まとめると先進製造業っていうのは新興国市場の攻略に適したローコスト型になるんですよね、本社主導のグローバル化。これ、言った6項目とか7項目、前回、含めてお話してるようなものが達成されると、新興国に適したローコスト型になっていきますよと。一方で日本のハイテク企業っていうのは、やっぱり先進国の成長局面に適した高付加価値型の事業ドメイン主導のグローバル化になっちゃってるんですよね。だからよくあると思うんですけど、何々部門はグローバルに展開してるんだけど何々部門はしてないとかですね。これすごくもったいなくて、だから部門が5個あったら5倍頑張んなきゃいけないみたいな、こんな意味のないというか非効率なことはやっぱり変えないといけない。なぜならばグローバル企業は変えてるのだから。そんな感じですかね。
東:駐在員も部門ごとに出ていますもんね。
森辺:そうですね。そんな意味のない、無駄なことをやるんだったらやっぱり横串をしっかり刺していかないと、なかなかグローバルでは戦えないと思うんですけどもね。
東:そうするともう、そもそもビジネスオペレーションというか組織体系的なところにもやっぱり本質的に差があるという感じなんですかね。
森辺:そうですね。
東:それを具体的に先進製造業といわれるグローバルで活躍してる企業がどうで、日本企業っていうのは具体的にどういうステージにいるんですかね。
森辺:例えば先進グローバル企業なんかとステージを分けて、まあ四つぐらいのステージに分かれるんですけど、マネージメントモデルの進化っていうことで、80年代日本がすごくよかった時代って国別組織になってるんですよね。例えばこれどういうことかっていうと、営業とかマーケとかR&DとかITとかSCMとか経理とか人事が全部国別に組織されてるんですよね。
東:なるほど。じゃあ一つ目っていうのは国別組織。じゃあ二つ目っていうのは具体的に?
森辺:そこから1990年代ぐらいから地域シェアード組織みたいなものに変わってきていて、営業、マーケ、R&D、IT、SCM、経理、人事みたいなところが北米とか欧州とかアジアとかでITと経理はシェアードしてみたりとか、いわゆる横串が刺されているところですね。そういう地域でシェアードされるような組織に変わってきてるっていうのが1990年代。
東:部分的にはシェアされてるみたいな感じですね。三つ目になると?
森辺:その先がグローバル組織といわれていて。2000年代前半ぐらいからですかね、変わり始めていて、例えばグローバルにR&DをやるとかグローバルにITを組むとか、グローバル在庫管理をして物流も全部グローバルで統一をするとか、財務とか管理会計なんかも全部グローバルベースでやるし、人事もグローバル人事で、もう完全に横串を刺しきってしまうっていうのがグローバル組織ですよね。これの必要性がいわれたのが2000年代前半ぐらいからと。
東:はい。じゃあそれをさらに進化したのが四つ目ってことなんですかね。
森辺:これもまあ、欧米企業でもやっぱりまだまだ少ないですけども、本当にスーパーグローバル、スーパーローカルとかっていって、2000年代の後半ぐらいから現在にわたって完全にグローバルと、スーパーグローバルとスーパーローカルにわかれてしまうっていう、そういう進化型の組織体系になってるんですけども、どういうことかっていうと、ローカルに権限を移譲してグローバルで利益を最大化するみたいなことをやるんですよね。で、最前線のニーズをきめ細かく対応するためにローカルに権限を移譲してって、同時にグローバルでの付加価値業務集約を徹底するっていうことをやっていくと、やっぱり企業の利益って最大化されるじゃないですか。で、こういう組織にやっぱり変わっていってる企業がいるけど、これもやっぱりP&GとかオラクルとかGEとか、こういうクラスの会社はやっぱり、この最終形に、まあ最終形と言っていいのか、現段階での最終形にやっぱり組織が変わっていってるんですよね。
東:そうすると、ちょっと整理させていただくと、1980年代からは国別組織っていうのでやっていたと。で、2段階目が地域シェアード組織っていうのが1990年代。で、3番目のグローバル組織っていうのが2000年代前半ぐらいからと。で、今の現時点で最終形と思われるのが、スーパーグローバル、スーパーローカルの組織であると。これはもう2000年代の後半から今の2013年の現在ぐらいだと。今の最終形のスーパーグローバルとかスーパーローカルっていわれるところが、今森辺さんがおっしゃったようなP&GとかオラクルとかGEっていう、もう誰でも知ってるような企業だと思うんですけど、じゃあ一方で日本の企業っていうのはどのあたりにいるんですかね。
森辺:例えば1980年代の国別組織って、ちょっと進化のポイントを簡単に説明させてもらうと、国ごとに独立した経営をしてて、成長市場におけるスピーディーな立ち上げを優先してったんですよね。で、職能が各国のトップの指揮下にあるから、いかに優秀なトップを各国に配置するかがすごく重要だった組織っていうのが1980年代で、そこから1990年代になると、各国の事業展開を統括する地域マネジメント組織の設置をしてったんですよね、企業って。で、バックオフィス業務等の地域統合により可能な範囲で地域別に最適化してコストダウンをしていったわけですよね。要は気づいたところは無駄があるので統合していって、部分的にシェアードしていったと。今、日本企業ってこの80年代から90年代の間ぐらいのところにいるのがやっぱり非常に多い。例えばソニーとかパナソニックとか日立なんていうのはまさにこの間ぐらいの組織にいて、当然必死で変わろう変わろうとはしてるんでしょうけども、そういうところにいるんじゃないかなというふうに思いますね。で、例えばユニクロですかね、ファーストリテイリングなんかはその地域シェアード組織はもう通り越えて、本当のグローバル組織に今なりかけてるっていう、そんなステージじゃないかなと思うんですけど。楽天なんかも多分この90年代から2000年代の地域シェアード組織からグローバル組織の間ぐらいに今いるように見受けられますけどもね。一方で、最低でもこのグローバル組織みたいなところにいなきゃいけなくて、ここにいる会社はやっぱり強くてサムスンなんかまさにこのグローバル組織だし、ユニリーバなんかもそうですよね。ネスレもそうだと思いますし、日本企業だとコマツなんかがここで、さっき話もあったAppleなんかもこのグローバル組織っていうところをやってますよと。で、ここから先がスーパーグローバルとかスーパーローカルというふうにいわれる、GEとかオラクル、P&Gがいるような組織になりますけども、そんな進化を遂げていってるっていうイメージですかね。
東:なるほど。そうすると、多くの日本企業っていうのはまだまだ10年とか15年、下手したら20年ぐらいの、組織体系でいってもグローバル組織から見てもそのぐらい遅れてる可能性があると。で、あくまでもこれは目安なので何とも、現時点刻々と変化してるんで何とも言えないかもしれないですけど、その遅れがやっぱり今の現状に響いてるというように考えたほうがよろしいんですかね。
森辺:そうですね。で、特に国別組織のまんまいろんな戦略を作ってるのがすごく致命的で、世界ってどんどんどんどんフラット化してってるじゃないですか。インターネットがどんどんどんどん加速して海を越えて、物理的にある大陸間の距離っていうものが実際にはすごく近くなってるわけですよね、ビジネスをするうえで。で、その中ですべてを国別にやっていってたら、こんな非効率なことはなくて。このオペレーションモデル、マネジメントモデルを変えない限り、いくらマーケティングをやっても国数だけパワーがかかる。で、この効率をやっぱり改善していかないと、この国はよかったけどこの国はだめ、みたいな。ASEANでも11カ国あるわけですよね。そしたらタイはよかったけどインドネシアでは負けたとか、フィリピンでは勝ったけどベトナムで負けたとかですね、そういうことになるわけですよね。ですからやっぱりグローバル組織に、組織自体を完全に変えていくっていうことをしないと、なかなか難しいんじゃないかなというふうに思いますけどもね。
東:で、なかなか日本企業だとグローバル組織に一気に転換するって何か難しいイメージがあるんですけども、これはやっぱりステップバイステップで変えていくべきなのか、もうここまできたら一気に?
森辺:まあ一気にでしょうね。例えば国別組織でやってるところがじゃあ次に地域シェアードに変えてそれからグローバルだなんて言っていたら恐らく市場が変わってしまっているし、淘汰されてしまうので、一気にやっぱり変えていかなきゃいけなくて。で、それをやっていくことでやっぱりグローバルマーケティングの本当のよさもものすごく発揮されるし、一気にやっぱり変えていく必要が僕はあると思いますけどもね。
東:やっぱりまだまだ部分最適で戦略を立てて、その戦略を部分最適で立てているから当然グローバルマーケティングというのも部分最適になってくると。
森辺:そうですね。
東:で、一方でサムスン、Apple、コマツ、ユニリーバ、ネスレみたいなグローバルで勝っているところっていうのはやっぱり全体最適で戦略を立てて、全体最適でグローバルマーケティングっていうの行っているから勝ってると。なんか聞いたら当たり前のような感じに受けるんですけど、なかなかそこがやっぱり変えにくいっていうところなんですかね。
森辺:そうですね。でもやっぱり変えないと勝てないですからね。で、特に思うのは、日本っていうのはすごくいいものを持っている。ものづくり、技術、品質、それから人ですよね。ものと人、すごくいいわけですよね。であれば、グローバル組織に日本企業が本当に変わっていったら、ものすごいパワーを発揮する企業っていうのはたくさんいると思うんですよね。だからこそ変わっていけたらいいなあというふうに願ってるんですけどもね。
東:そうすると、森辺さんとしては具体的に、今後日本企業が変えるに当たって、どういったことを一番必要な、と思いますかね。
森辺:そうですね。結局、日本企業って、言ってもものすごいお金持ちなんですよね。余剰金たくさんあるし、景気悪いっていったって従業員を何十年と食っていかすだけの余力がすごくあって、なかなかそれが限界近づいてこないと変われないっていうのはあるんだと思うんですね。業界トップでどの業界もきてきたわけですから、なかなか変えにくいっていうのはあると思うんでね。ただ、へりまで来ないと変われないのかなっていうのは少しちょっと惜しい気持ちがあるんですけどもね。で、もうあと5年10年すると、グローバルでも完全に勝負がついてしまう。ですから日本企業に残された時間ってそんなに多くはないので、それに早く気がついて変えていかれたらいいなあというふうに思いますけどもね。
東:そういったところに気づいて変えるっていう意志があれば、そうなったときには日本企業の可能性っていうのは?
森辺:それはすごく高くて、無限に広がってるもんだと思いますけどもね。
東:なるほど。じゃあそのうえでグローバルマーケティングっていうのをしていくことが重要だという。
森辺:そうですね。
東:今の現時点で、最後になんですけど、グローバルマーケティングっていうのをもう少し日本企業が適応するとなると、具体的にどういったことをしたらいいかっていうのを、少しアドバイス的なことを森辺さんからいただいて最後にしたいと思うんですが。
森辺:基本的には組織のマネジメントモデルを変えるっていうのは、これは経営の観点の話なので、多分一つ、話としては、それに携わるのは経営者だっていうのが一つですよね。一方で現場は現場で海外やっていかないといけなくて、経営がマネジメントモデルや組織モデル、事業モデルを変えていくというのはしばらく時間がかかっていくっていう。一方で現場のレベルでいうとやっぱりものづくりとかメイドインジャパンに固執するんではなくて、グローバルマーケティングの重要性を理解して、いかにチャネルイノベーションを起こしていくかみたいなことにフォーカスをしていく。で、チャネルがやっぱりすごく手っ取り早いというか、チャネルを取るということが僕、グローバルマーケティングの中でも最も重要なことだと思っていて、何を放っておいてもチャネルを作るっていうことを優先度をおいていく。これをやっぱりしていくっていうことが僕は重要じゃないかなと思いますけどもね。
東:わかりました。じゃあ今日はもうそろそろお時間が来たので、また次回よろしくお願いいたします。
森辺:はい、よろしくお願いします。ありがとうございました。