森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日も前回に引き続き、日本企業が新興国に展開する際に重要なことについてお話をしていきたいと思います。前回は確か、可視化の重要性についてお話をしたと思うんですが、今回はちょっと別の観点でお話をしたいなというふうに思います。
日本企業が、これはいずれのインダストリー、B2C、B2B問わず、いずれのインダストリーにおいても、製造業だけじゃないですね、サービス業もそうですけども、いずれのインダストリーにおいても必ず、必ずというか、非常に高い確率でこの過ちをおかすんですけれども。どうも新興国市場…、新興国市場に限らず海外市場に展開する際に、日本企業のマインドセットとして、誰に売るかよりも、誰と売るかのほうが重要だというような誤った考え方で進んでいってしまうケースが非常に多くて。つまりは、重要なのって自分たちの商品を誰に売るかというターゲット、ターゲティングが非常に重要で。このターゲティングが明確に設定された後に、じゃあ、そのターゲットに最も売れるパートナーは誰なんだ?ということで合弁パートナーであったり、ディストリビューターを探していくという、こういうプロセスになるわけなんですけども。基本的にざっくりばっくり「ターゲットってこんな感じだよね、日本でもこうだから」というのがあって、その上で、とにかく現地のことは不理解なので、よく分からないので、現地の強いパートナーを見つける必要があると、「とにかく大手だ、とにかく財閥だ、とにかく力のあるところだ」と言って、大きいところに引っ張られていくという、こういうケースが非常に多くて。「大きいからきっと私たちが売りたいところに売れるはずだ」という希望的観測がまたここで出てくるわけなんですけども。それでうまくいけば、それはそれに越したことないですけど、多くの場合、残念ながら日本企業のつくるものと新興国市場があまりにも乖離しているので、なかなかそれが浸透せずに終わってしまうというケースが非常に多くて。
結局、これはなぜこういうことになるかと言うと、日本企業の考え方の根本に「自分たちはつくる人で、売るのは現地のパートナーさんです」という考え方が非常に大きくあって、本来メーカーがやるべきターゲティングとかマーケティング戦略みたいなところに実はほとんど介在していなくて、それをパートナーに委ねていくという。なんとなく自分たちの機能をマーケティング機能というふうに定義しているところも、やっていることはプロモーションであったり、そういうことになってしまっていて。
重要なのって本当にターゲットで、自分たちの商品、誰に売るんですか、誰に売れるんですかというターゲティングが最も重要で、じゃあ、誰と売るかなんていうのは、そのターゲットに売れる人と売るのが一番いいわけですよ。そうすると、必ずしも大手がいいとは限らないと。大手はなぜ大手かと言うと、これから新規に取引をするわれわれよりもずっと長くから昔からお付き合いをしている欧米の企業があるわけで、その企業の売上が2割3割とかなんですよね。そうすると、そういう企業が5社6社いる中に新参者として入っていって、大切にされるわけがないんですよね。
一方で、日本企業がダイナミックに投資をして市場を獲っていこうなんていうことをするかと言うと、もうそれもしないということは現地の大手の企業ももうここ10年15年で十分理解をしている。とにかくお金は出さない、良いモノだけつくります、やってみてください、やれたら徐々に予算を割いていくみたいなことなので、なかなかそういったプロモーションの費用も出てこないことは分かっているわけですよね。そんな中で本気になってやるかと言うと、やらないですよね。そうすると、必ずしも大手じゃなくて、実は中堅ぐらいがよかったりするというケースもあるわけですよね。もしくは、必ずしも1社にする必要はなくて、エリアで分けて複数使うということのほうがもしかしたらいいというケースもあったりするわけですよね。
結局、A社、B社、C社と取引がないディストリビューターに…。自分たちのターゲットがね、例えばB2BだったらA社、B社、C社ですと。このA社、B社、C社に売りたいのに、A社、B社、C社と取引がないディストリビューターを選んで、そこに売れるようになれって、やっぱり5年10年かかるわけですよね。10年かかるということは、もうできないということだと思うので、3年5年かかるわけですよね。だって、新たに口座を開けて提案してみたいなことをやっていくわけですから。そうすると、すでにA社、B社、C社と取引のあるディストリビューターを選んでいかないと、基本的にはすごく中長期でシナリオを描かないといけなくなってしまう。ある程度、短中期でシナリオを描こうと思うと、すでに取引があるところを選ばないといけない。そう考えたときに、誰と売るかなんていうことよりも、誰に売りたいんですかと。B2Cだったら、例えばフィリピンだったらもう、SMとピュアゴールドとロビンソンズに置かれなかったらTTにも置かれない、80万店のTTにも置かれないので、基本的にはまずこの3社のこういう売り場のこういうコーナーにしっかり配荷できるディストリビューターということがもう決まっているわけですよね。そうすると、この3社に売れるディストリビューターはどこなんだ、A社なんだ、B社なんだ、C社なんだというところから決めていかないと。なんとなくぼわーっとターゲットがあって、ここはでっかいからいけるだろうと思って付き合ってみたんだけども、いけないみたいな。仮にいけたとしても、このやり方というのは再現性がないんですよね。結局、フィリピンでは成功したけども、インドネシアでは無理だったとか、ベトナムでは無理だったということになるので、やり方に再現性がないと。これが非常に日本企業の問題で。単国、ASEANの1カ国では成功して実績を上げているんだけども、そこでの成果がほかのASEANに転用できていない。なぜならば、ノウハウが社内に蓄積されていないので応用が利かないんですよね。これが結構、先進的なグローバル企業とそうでない企業の最も大きな違いなので。うまくいっている企業というのは、必ず誰と売るかよりも、誰に売るかを徹底的に考え議論し尽して、そしてその上で、そのターゲットに売れる人と売る、売れるパートナーと売る、売れるディストリビューターと売る、ということを確実にやっています。
ということで、今日も話が長くなりましたけども、これぐらいにしたいと思います。また皆さん、次回お会いいたしましょう。