森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日はですね…。先日、ある技術者の方とお話をしていて、「マーケティングって一体何なんだ?」という質問を、その技術一筋40年みたいな頑固おやじ…。おやじと言っちゃいけませんね。その言葉から想像されるような方で、もう技術の道では本当に超一流で、技術をずっとやってきたと、良いものさえつくれば売れるんだと。なので、コストとか販売とか、そっちサイドのことはもうまったく無視と。とにかく良いものをつくるという世界で40年生きてきた、そんな方とお話をする機会があって。この方にマーケティングの重要性を理解させるというか、理解をしてもらうために、どういうふうに説明すればいいかなということを、その人と話しながら考えてたわけなんですけど。僕のミッションは、その人に売ることの重要性というか、マーケティングの重要性を理解させることだったんですよね、そのシーンの中では。
「生産技術だ」と、「うちの会社は生産技術なんだ」と、「それで今までやってきたんだ」と、自分の人生も生産技術そのものなんだ」ということをずっとおっしゃられていて、おっしゃることはよく分かるんですけど、マーケティングとかそういうことは小手先の話だと。もう生産技術が根底にあって、そこがしっかりしていればモノは売れると。マーケティングとかカタカナ並べて小手先で何かやったって意味がないと。それぐらい、そんなことは言いませんけど。(笑)そんな感じの人に、このマーケティングの重要性を分からせるという、そんなことをしていたんですけど。それでうまくいったのでね、結果ね、うまくいったので、そのときの、どういう説明をしたかということを今日は紹介したいなと思ったんですけど。
「生産技術が大切だ」というふうに彼はすごく言っていて、それはモノをつくるということをやっていく、製造業ですからモノをつくるということは非常に重要なわけなんですけども。結局、製造業も進化していて、ステージをいくつか進化を遂げていて、今では自分たちで生産そのものは行わないなんていう企業はざらにあるわけですよね、OEMとかファブレスがまさにそうで、それを代表するような有名な企業と言ったらAppleなんかそうですよね。自分たちの自社工場は1つも持っていないと。研究開発はもちろん自社でやるし、マーケティングはApple本体でやるけども、基本的には生産は委託をするということですから、生産技術そのものは自社の中にはないわけですよね。もちろんノウハウは持っていると思いますけども、生産の現場の第一線での生産技術という意味では持ち合わせていないと。つまりは、生産技術というものが必ずしも製造業が持つべきであるというステージというのは、もう、とうの昔にクリアになってしまっているわけですよね。あらゆるものがコモディティ化してくると、当然それはどんどんどんどんステージが上がっていくことになると。
一方で企業にとって重要、製造業にとってもう1つ重要な力、技術というものが出てきて、2000年代を境に出てきて、特に日本企業なんかで言うと。それは販売技術ですよと。これはモノをどうやって売るのかということであって、ずっと生産の場で、生産の現場で40年やってきたその方は「生産技術が一番だ」と言うけども、ずっとモノを販売する現場でやってきた人は、「やっぱり販売技術が一番だ」というふうに言うわけですから、これはお互いどっちが偉いとか、どっちが悪いとか、そういうことではなくて、生産技術、つくるための技術、販売技術、販売、売るための技術、これは両方必要なんですよと。これが時代によって、昔は生産技術が9割で販売技術が1割だったけども、これどんどんどんどん世界が変わっていくと、残念ながら、今、生産技術というのは3割とか4割とか、それぐらいになってきてしまっていて、業界によってはね、2割とかそういう業界もあると思いますけど、2割~4割ぐらいになってしまっていて、6割以上は販売技術がやっぱり重要になってきてしまっていると。それは40年前、「40年前にインターネットなんてありましたか」と、「ないですよね」と。「ファブレスとかOEMなんていう言葉がありましたか」と、「ないですよね」と。「そう考えると、それは非常に自然なことなんじゃないですか」と。「だから、残念ながら生産技術が重要なように、販売技術も重要なんですよ」ということを話したら、何とか腹落ちをしたようで。
この「販売技術」、なかなか聞かない言葉かもしれないんですが、別に営業のテクニカルな話を言っているのではなくて、販売技術なんですよと。「生産技術」と言ってくる人に対しては、「もう1つ販売技術というものが重要なんですよ」と、「どちらも技術なんですよ」という説明は、意外に私のケースでは通用したので、皆さんもぜひそういうシーンがあったら使ってみてください。
それでは今日はこれぐらいにして、また次回お会いいたしましょう。