東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き米倉教授をお伺いしているのですけど、今回はどういう。
森辺:私どうしても先生に聞きたいことがあります。全然ビジネスとは関係ないのですけど、先生がやっているザ・サーチングクランベリーズ(The Searching Cranburys)というバンドのお話を柔らかいところから今回入れたらなと思うのですけど、先生バンドをやっているのですか?
米倉:バンドやっていました。僕が大学時代にすごく渋い「ウィッシュアールビーリリースト」というボブ・ディランの『アイ・シャル・ビー・リリースト I Shall Be Released』をもじったバンドをやっていたのですけど、そのときのバンドの仲間に鈴木(博文)さんという人がいて、今のサーチングクランベリーズのバンマスなのです。彼のバンドでベースが足りないということで、僕がベースを演奏しに行ったことがあって。それから時が経て、一橋大学が125周年の記念ビデオを作った。そのときに僕は大学で選ばれて、そのビデオの担当委員になったのです。今日はNHKとかコマーシャルでビデオプロデューサーをやっていた鈴木さんという人が来るからねというので、大学で打ち合わせをするということで僕が待っていたら、ドアがバッと開いて、「おー!鈴木さんではないの。変わり果てた姿になってしまって。」と。お互いじじいになっていました。そうしたら、久しぶりだねと言ってめでたくビデオが出来たのですけど、50過ぎているのだからバンドでもやろうかと言って、それ久しぶりですね、やりましょうかというときに一緒にやることになったのです。そのときの仲間が5人全員いるのですけど、サーチングクランベリーズという、これはジョージ・ハリスンとかボブ・ディランとか、ロイ・オービソンが作ったトラヴェリング・ウィルベリーズ(Traveling Wilburys)というバンドがあって、それをもじってサーチングクランベリーズ、クランベリー兄弟、探し求めるクランベリー兄弟ズということで作って。作っただけではあれなのでと言って、毎年ライブをやろうということで、いつも11月の終わりか12月の始めにライブをやって、そのために練習をしているというバンドなのです。鈴木さんが今年は上智大学の卒業なので、上智は開校100年、今年。その開校100周年の会があって、サーチングクランベリーズがトリを務めさせていただきました。卵とか飛んできましたけど。やっているほうは楽しかったです。今年は12月1日に赤坂のビーフラットというライブハウスでライブをやると。ボケ防止の意味ですけど。
森辺:チケットは?
米倉:チケットはどこかで売るのですよね。
森辺:検索して、見つけてくださいと。
米倉:サーチングクランベリーズ、ワンドリンク付き3000円もとるのですよ。
森辺:安いではないですか。
米倉:まんまスリですね。3000円差し上げてきてもらったほうが良いのではないかと。
森辺:リスナーのみなさんもぜひ。ネットで検索するとYouTubeで先生がギターをひいて、4人ぐらい並んでいるのを私みて、非常に面白いバンドだと思うので。
米倉:ぜひ来てください。
森辺:というところで、先生のバンドのお話が終わったわけなのですけど。前回『ビッグイシュー』とか、日本元気塾のお話をお聞かせいただいたのですけど、今回はちょっと真面目なというか、ビジネスよりのお話で。先生のご研究の主でもあるイノベーションみたいなところについて、少しお話をお聞かせいただければなと思うのですけど。私も非常に読んで感銘を受けたのが、『創発的破壊』という先生が出している本があるのですけど、そのイノベーションのところで少しお話をいただけたらなと思っています。
米倉:イノベーションというと、日本ではすごく技術革新みたいな話が大きく取り上げられるのですけど、元々それを経済理論の中に当てはめたシュンペーターという人、1912年に経済発展の理論という本を書いて、それを体系付けたのですけど。その中ではもっと広い概念なのです。もちろん新しい商品もありますけど、同じものでも新しい作り方をしてくれとか、新しいマーケットを作るとか、新しい原材料、仕入れ先を変える、あるいは新しい組織。そんなふうに広い概念で、我々も社会に何か新しい価値を生み出す活動は基本的にはイノベーションであると。たとえば、今年僕が一橋でやっているNBAのクラスにゲストとして来てくださるのですけど、眼鏡のJINS(ジンズ)の田中(仁)さん。田中さんはやはりイノベーターだなと思うところが、眼鏡をかけない人に眼鏡を売ろうと。これはやはりリニューマーケットの経営者ですよね。眼鏡屋だと普通眼鏡をかける人に眼鏡をどうやって売ろうとかするのに、眼鏡をかけない人にPC用眼鏡とか花粉対策眼鏡とか。この発想は素晴らしいと思いますし、小さなことで言えば、たとえば居酒屋が女子会というブームを作ると。居酒屋というと男というマーケットに対して、女性というマーケットを開拓しようと。これはやはりイノベーションなのです。
森辺:そうなのです。技術革新ではないと先生はおっしゃったではないですか。僕もまさにその通りだと思っていて、さっき言ったJINSの田中さんの眼鏡も、ゴルフを過去に何回かご一緒したときに、芝を読みやすい眼鏡とか。JINSゴルフというのですかね。本当にすごく読みやすいのですよ。読んだからといって、私のパッティングがうまくなるかと言ったらまた別な話なのですけど。やはり今までこうだった価値がJINSの眼鏡で大きく変わって。眼鏡は4万円とか5万円とかしてすごく目の悪い人がかけるものだったのが、今はそうではなくなったではないですか。それは、掃除機でもそうだと思うのですけど、ダイソンという会社がいわゆるサイクロン掃除機を出して、あんなにコモディティ化した掃除機は日本の会社が中国製の組織にどんどんやられていた中で、9万円もするのですよね、あの掃除機。それを世界中で売りまくって、1,400億も売り上げて、500億ぐらい利益を出しているわけですよ。だって、羽根なしの扇風機とか。元々東芝が1981年かなんかに特許を申請しているらしいのですよ。でも商品化ならず。ダイソンがそれを商品化して、あれも7万円ぐらいなのです。アイロボットという自動ロボット掃除機。あれだって日本の技術で作れるかと言ったら作れるのですよ。にもかかわらずルンバに先を越されて、それを後追いするシャープと東芝みたいな。それが僕はすごく悲しくて。それこそがイノベーションなのかなという気がするのですけど。
米倉:そうですね。日本は技術があるのですよ。本当に。無いのはやはり経営力とか世界を相手に自分たちが作り出した価値をきちっと提供するというマネージメント能力というのかな。そこが欠けていると思うのです。ですから、本当にそういう人たちがこれから出てきて、あるいはエンジニアも技術を作ることだけではなく、それをどういうふうに商品化したら何が人々に新しい価値を与えられるのか。そういうことを考えてほしいです。僕もジェームズ・ダイソンさんと話をする機会があったのですけど、彼はやはり素晴らしいです。今、キャメロン政権の中で、彼は技術担当の顧問で、サイエンスをベースにしたイノベーションをもっとやらないといけないと。ここで、さっきの話しで我々がマーケティングよりとか、そういうのもイノベーションだと言うのですけど、ダイソンさんはこれも本当に正しいなと思うのは、これから人類が抱える問題。食料、電気、エネルギー、公害そういうものをサイエンスなしで解決できるのかという部分に惹かれて。そりゃそうだよなと。確かにサイエンスというのはすごく大事で、日本の子供たちは理科がすごく好きなのです。小学校まで。ところが中学校になると最も嫌いな科目。なぜかというと、サイエンスがどれくらい面白いか、どれくらい人の生活を、だからサイクロンのあれでもごみをたたき落して何ミクロンの集塵してしまう。これは科学の力なのだけど、こんなものを掃除機に応用したらどうなるのだろう。理想の発想ですよね。だから、子供たちにもっとサイエンスは面白いし、それをさらに物にして人々が笑顔になるという循環を見せてやると。こういうところでイノベーションは大事です。そういうときでも日本だと1人の天才、カリスマが全てをやるみたいに思いがちなのですけど、僕は創発的破壊という本で1番大事だと思ったのが、1人1人が小さな力で、総合になるとものすごく大きくなる、大きな変化をもたらせるというのが複雑系科学でいう創発、イマージエンスということです。今の日本で必要なのは、たった1人のカリスマリーダーが出てきて日本を一変に変えてくれるということを幻のように思い描くのではなくて、1人1人がプロフェッショナル。昨日より今日、今日より明日、自分の価値を守って行けるという小さな集団であれば、それが総合になったら日本はすごい国になる。だからGDP、1人当たりのGDPで言うと、1980年で日本は17位ぐらいです。それが1995年ぐらいまでに3位になって、この3位は本当にすごいことだと。1億人を越す。それがまた17位に戻ってしまったと。一昨年中国に抜かれた。中国に抜かれても、向こうは人口が14億ぐらいいるわけですから、1人にして見れば日本の11分の1ぐらいになるわけです。1人1人が問題なので、日本人がさっきのプロフェッショナルイズムではないですけど、去年より今年、今年より来年、1人1人が付加価値を守っていれば、17位から落ちるということはないのです。数学で抜かれる、抜かれないなら、全然問題ない。1人1人なのです。だから、元気塾もそうなのですけど、1人1人がプロになる、1人1人。それがプロというと、やっぱり●●(@13:00)とかそういう話に聞こえますけど、そば職人だっていいし、植木屋さんだっていいのです。彼らが去年より今年のほうがより高い価値を顧客に提供している。あるいはそれを多くの人々が感謝して受け止めていれば1人1人のGDPが下落するなんてあり得ないのです。人口が減っているからしょうがないでしょ。人口の1人1人に割れば、世界で今1位が42万人しかいないルクセンブルクなのです。人口が小さいのは関係ないのです。そんなことを思うと、イノベーションというのはいろいろな広い定義にして、何しろ自分1人1人が付加価値を上げていく、自分の価値、あるいは顧客に提供する価値をどうやって上げていくかということを真剣に考えれば、そのこと自体がイノベーションだと思うのです。
森辺:本の中で、静かなるジャスミン革命とかパラダイムチェンジとイノベーションの重要性みたいなことをすごく書かれていて、私すごく面白い書だと思って。あと世界から学ぶみたいな話もあったのですけど、詳しくはリスナーのみなさんも読んでいただければと思うのですけど、この辺は今まさに先生がおっしゃったようなことなのですよね。
米倉:そうです。ですから、ジャスミン革命も終わったあとが大変だったというのが分かったのです。あのときに僕が見たのは、CIAが30年かかって倒したいと思っていたリビアのカダフィ少佐とか、モバラク政権40年の独裁を続けたモバラク政権が、あれだけ言論抗争とかすごく力を持ってしても、やはりFacebookとかTwitterとか小さなつぶやきを前には勝てなかったのです。これはすごいことが起こったなと思ったのです。だからそういうことで、日本も誰か1人ではなくておかしいよねと、こんなことがあって良いのだろうか、原発は本当に進めてよいのと、1人1人のつぶやきが大きなパワーになっていくということを込めたのですが、確かに破壊が起こりました。想像のプロセスが実は今中東が大変ですね。これは破壊、創発的破壊、創発的想像、これはまた違うモデルみたいなのが必要なのかなと。それはやはり我々が課せられているところで、そのときにやはり価値創造です。これから先、ダイソンの時代も同じだと思うのです。やはり、掃除機で1300億も売り上げると、安売りしない。この間、スイスを研究している僕の同期の江藤さんという教授が一橋、イノベーション研究センターにいますけど、スイスなんかの国の作り方も面白いです。だから、みんが知っているフランクミュラーは、ジェノバーの魔法時計芯とか。フランク・ミュラーなんて16世紀ぐらいからある会社だと思ったので、1990年に出来た会社です。1個何十万、何百万するのが売れていて、日本の電波時計。10万年に1秒しか狂わないと。だからどうなのですかと。それが3万円で、ドン・キホーテで売られていて、下手したら1年に1秒も狂う時計が何百万円で売られていると。だから価値を作るというところなのです。
森辺:確かに時計の世界で言うと、1980年代にクオーツが出てきて、スイスの時計メーカーは壊滅したと言われたのが、それがそのトゥールビヨンとかいって時間が狂わないとかいったって電波時計にはかなわないではないですか。それが1,000万とか、パテック・フィリップとかヴァシュロン・コンスタンタンとかいっぱいあります。あれがやはり僕はヨーロッパのすごさだなと思っています。
米倉:そうです。価値を作る。
森辺:車もそうなのですけど、今中国を含めて車を作れるメーカーは世界中に100も200もあって。テレビすら単なる受像機になってしまっているなかで、いかにものにバリューをもたせるか。多分、ベンツとかベントレーとかロールスロイスは新興国で車の需要が伸びつつも、安い車は作る必要がないです。けど、日本のメーカーさんは車に限らずどこもそうなのですけど、コモディティ化かドリームプロダクトかどっちかに分類しなさいと言うと、恐らく大半がコモディティ化のところに分類されてしまって、そこで韓国とか中国とか出てきて戦って行く苦しさを、先生の言うイノベーションでバンと変えて行くと技術はあるわけではないですか。そうすると、より良いものが、良い日本の未来というものが見えてくるのではないかなという気がするのです。
米倉:そうですね。2つあって、大事なことは、日本の国営云々、地点にしないということです。世界を走り抜くからマーケットとして相手にすると。そのときに、今度逆にいうと、日本の強みは何なのかと。だから、僕は、レクサスが出てきて、ヨーロッパとかみんなミニベンツとか言われていたのだけど、レクサスハイブリッドが出てきたときにこれは日本が勝てるかもしれないと。なぜかというと、ハイブリッドという技術がヨーロッパにはなかったから。今はディーゼルが出てきたので彼らも簡単には引き下がらないと思うのだけれども、僕がヨルダンに行ったときにハッサン皇太子がベンツに乗っていて、僕はハッサン皇太子に「恥だ」と。中東の人間こそレクサスハイブリッドに乗るべきだと言ったわけ。要するにガソリンが一番大事な国というのは彼らなのですよね。そのときにお付きの人が、「いや、注文したけど待っているのに半年かかると言われているのだと」言われたときに、これはすごいなと。世界の大きなマーケットで高級車がある。そこでメカとか伝統とか欧州車にいたら難しいけど、日本の優れた技術。ハイブリッドというものがあるではないかと。こういう組み合わせをやはり一種の光を生み出した。これからどんなものが出て行けるのだろうかと。10万年に1秒しか狂わないのはすごいけど、10万年生きる人がいないから価値にならない。価値にはならない。セイコーなんて素晴らしいと思うのだけど、ダルビッシュ有を使ってちゃ駄目だと。だってプロダクトとキャラクターの間に乖離があるもん。ダルビッシュ有はすごいと思うのですけど、あのグランドセイコーを買いたい人は、やはりエグゼクティブとか日本の素晴らしいいいものを大事にするという50代、60代の人が買うようなものを。価値付け出来ていないと思ったね。もしそういう、たとえば、金城武さんを使って、シチズンの電波時計もああいう本当に代わりがあって。もし僕だったら、絶対NASAの研究者とか世界的に有名な機械工学の人。なぜかというと彼らにとって一秒というのがどれくらい重要な人なのか。こういう価値を付けるとキャラクターの選び方。日本は本当に下手くそです。
森辺:広告代理店の提案みたいになりましたもんね。
米倉:広告代理店が、センスがないのです。
森辺:僕もグランドセイコー、機械式時計としてはすごく良い時計で彼らの時計は数十万。けど、これの桁を1つ、2つ変えるためにはどうしたら良いかと1人で想像したことがあるのですけど、スイスの本社を移転させてグランドセイコーだけはグランドセイコーだけで1つ会社を別にしてブランドを隔離させないともったいないです。機械式の時計としては最高にムーブメントが素晴らしくて、そんなイノベーションを日本企業もどんどん起こして行けたら非常に良い社会になる。
米倉:技術を極める前に、やはり価値だよね。価値を作ると。
森辺:先生、大変興味深い話をありがとうございました。また、時間が来てしまいましたので、またぜひ次回よろしくお願いします。ありがとうございました。
米倉:ありがとうございました。