東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き米倉先生をお迎えしていますけれども。
森辺:米倉先生、引き続き第3回目ということでよろしくお願いします。
米倉:お願いします。
森辺:今回も、前回盛り上がったイノベーションのお話。先生の書かれている創発的破壊の中から少しお話をお聞かせいただければと思うのですが、いかがですか。
米倉:はい。前回も話しましたけど、価値をつくる。ある市役所も休みは12時から1時だったのです。それに住んでいるわれわれの大学、国立市というところのわれわれの休み時間も12時から13時と。さて、書類を取りに行こうとか何かしようと行って見ると窓口は閉まっている。これは問題だと言うので、ある職員があるチームは11時半にお弁当を食べる。あるチームは1時にお弁当を食べると。早番、遅番に分けて12時から1時まで窓口をオープンしたのです。僕は、これは立派なイノベーションだと思うのです。やはり、まずパラダイムチェンジ、考え方を変える。市民は自分たちの顧客なのだと。市民は面倒くさいことを言ってくる、書類を取りにくる、転居届を出す人ではなくて、自分たちがまさに生きて行く糧を提供してくれるカスタマーなのだというふうに思った。それが重要なパラダイムチェンジです。もう1つは、やはりそのことによって市とか行政サービス、普通のサービスもそうなのですけどサービスというものに本当に価値がついたのです。だから、価値を付けるという点では、これはイノベーティブが勝つと。そのときに視点を変える。国も、例えば楽天の三木谷(浩史)君がローコスト国家になろうと言ったときに、ローコスト国家って何なのだと。サービスが悪くなるのではないかというのではないのです。サービスがすごく良くてもローコストの会社はいっぱいあるのです。コストをかけないでいかに良いサービスを提供するかと。このときも、国の中にパラダイムチェンジが起こらないとダメなのです。国民の、われわれのカスタマーであると。それに対して、最大限のサービスをいかに安いコストでできるか。こういうことを突き詰めていくと、ソーシャルイノベーションという考え方が出てくるのです。それはグラミン銀行のユヌスさんがマイクロファイナンスになるのですけど、彼の場合バングラデシュに住んでいて、バングラデシュに今世界各国から何億円、何兆円というお金が国際援助として流れてきた。でも一向に貧困はなくならない。あるときに貧しい農村で話しを聞いてみたら、49人の人が困っている金額は27ドルだった。今、100円なので、360円だとしても1万円のお金のために49人が自殺に追い込まれないような高利貸しの被害に遭っていると。彼はそれを自分のポケットマネーからあげてもよかったのだけれども、ちょっと待てよと。自分が上げてしまったらそれで終わるけれども、こういう人たちに担保なしでお金を貸し付ける、マイクロファイナンスというふうに考えたらどうだろうと言って、自分で銀行をスタートしたのです。たった49人、27ドルから今800万人、1,000万人に1兆円を貸し出す。世界最大の銀行になったのです。彼が言ったのは社会的な課題、例えば貧困撲滅とか、福祉の充実とか、教育風の向上とか。それはみんな政府とか国際支援所が行政機関を使ってやると思っていたけれども、ビジネスの手法でやった方がより効率的でより効果的なのではないか。今の生まれてきたのが、ソーシャルイノベーション。要するに社会的な課題を税金とか国際援助資金を使わないでビジネスの手法でやってみようと。これはすごいイノベーションです。だから、みなさんがよく知っているように例えばフローレンスの駒崎(弘樹)君なんかは、病児保育ができないのであったら自分がやってやろうと。現実に回っていますしね。この国で彼はベンチャービジネスをやっていて、ビジネスの経験があるから。こういうふうにしたら良いのではないか。例えば、病児保育はすごく面白い、聞いていてすごく面白いと思ったのは、病気はいつ出るか分からないではないですか。だけれども、区とか都とか県の行政指導としては病児保育をするときには、ちゃんとお医者さんを抱えておきなさいと。それから、病児保育の施設があるようにしなさいみたいなことを思い込んでいたので、施設を作る、お医者さんを抱えてしまって、いつ来るか分からない顧客。これはビジネスとして成立しないのです。そうすると、来たときに医者とできるネットワークを使っておけば良い、来たときに集まれる人をネットワークしておさえておけば、そうすると固定費がなくなる。固定費が無くなっても事務所とか施設がある州には定額収入がなければいけない。定額収入は来るたびに上がったり下がったりがあるので、掛け捨て型保険ということにして、月8,000円とか払ってください。そうすれば、どんな事態でも対応しますと。でもある程度超えたらまた負荷を置かない日を。1回も使わなかったらばラッキーだと思って、保険止めますよね。そういうふうにしましょうといって固定費を安定させていく。こういう仕組みは言われてみればなるほどと思うのだけれども、そういう固定費をどうするかとか、しかも季節なのです。風邪をひきやすいとか。季節変動商品にどう対応するかとか。こういうことはやはりビジネスの経験がないと分からないです。それを、そんなのは行政サービスがやるものだではなくて、自分たちでできるというパイオニアになったところが良いところなのです。ただ、今の学生は実に彼らは弁舌爽やかだし、頭もいいし格好いいので、大学から私はソーシャルアンテナになりたいとか、社会起業家として生きて行きたいとか。でもここ一番大事な前提は社会的な課題をビジネスの手法を使ってより効果的な、効率的にやるということだから、ビジネスの能力がなければできない。だから、僕は学生たちに社会起業家の課題を探すのもたいしたことだ。ビジネスの課題、ビジネスの勉強をしないとそれはできない。だから偶然、ある意味本質的になるけど、そういうことをやっている日本でもアメリカでも近世の出身者とかマイクロソフトとか、そういうところでかなりいいヴァイス・プレジデント級まで活躍した人とかですよね。彼らが大事なのは、やはりそこでのスキルを新しい課題に当てているというところなのです。だから僕は、社会起業家ブームは悪くないのだけれども、本質にビジネスの能力というのがあるのを忘れてはいけないなと思うのです。
森辺:BOPのビジネスもやはりユニリーバさんがインドでやっているような、せっけんを配って衛生を変えて、社会的な課題ですかね。コレラとか。それも同じような。
米倉:そうです。だから、ビジネスの手法を使ってあれをするのだけど、例えば味の素がアフリカでやっているのが、味の素を売りにいきたいでは社会的な課題を解決しないのだけれども、栄養を摂ってもらって健康になってもらえば、さらに食料品も伸びると。では、子供に本当に、本質的に必要な栄養は何なのだろうか。それを安く提供するにはどういうことができるのだろうか。そういうことです。それは結局ビジネスを通じて社会的な課題、栄養不足とか幼児死とかいう問題を解決していると。だからこれは全然恥ずべきことではないのです。ビジネスをすることはいけないみたいなね。ついでに言うと、NPOというのはNonprofit Organization。利益を上げることを目的にしてはいけないのです。利益を上げないといけないのです。だから、僕はNPOの人間がもっと高い給料をもらってもいいと思うし、もっと利益に執着してもよいかな。NPOはそれを目的にするのではなくて、社会的なNPOが掲げた課題を解決する。そのことによって利益が出ても、僕は、それはおかしくはないと思っているのです。
森辺:その利益をまた次の課題に再投資ができるわけで。
米倉:そういうことです。ビジネスよりを良くするとか。そういうことを考える起業家は、社会にとってものすごく価値のある人なのです。価値のある人がやはり日本の風潮だとNPO入っているのに、年収1,000万はけしからんと。それ以上の価値を生んでいるのであれば、彼らに報いないと良い人才が入ってこないです。だから、アメリカのNPOで、リーダーシップ研修に行った。これは本当に28区ですごく中堅になって活躍している男が寿退社だ。今度結婚することになったからNPOを辞めますと。何で?と。だってNPOでは妻子やとえない、食わせられない。だから普通の会社に就職しますと。それはおかしいな。こんなに良い仕事、こんなに自由。だからそこで大事なのは、NPOがやるのであったら飲まず食わずでも良いと。志だけでやってくれというのもおかしくて。そうではなくて、サステナブルになるためにはちゃんと利益があって、良い人材を見る人間になると。これは難しい話です。決して優しくない。だから、できる人、あるいはビジネスの経験を積んだ人がこういうのをやりながらテクニックを、ますますソーシャルイノベーション、正しいことができるのだなと思います。
森辺:でもそういうソーシャルイノベーションも、日本でも徐徐に起きてきているというのは先生の感じているところで、これからもっともっとそれが。
米倉:ブームではなくて、大事な。だって、1,000兆円の借金があるのだからね。これはこれからますます政府がどんどんお金を使って、社会的解決、課題を解決してくれるだろうと思う方がおかしい。政府がいかにお金を使わないか。いかに民間の人間が肩代わりしていけるかという。
森辺:10年とか20年前だったら、ソーシャルイノベーションなんていう発想すらなかなか身近になかったのですけど。やはり世界はどんどん動いて、ビジネスモデルもマネタイズの仕方もいろいろ変わってきているというのをすごく感じます。なるほど。あと、先生すみません。1つお聞きしたかったのですけど、チャネルイノベーションという言葉があると思うのです。今日本企業が世界で事業を拡大していく上でチャネルをとる、流通を抑える、販路を作るみたいなところが非常に弱くて、先日の日経の一面にあったソフトバンクの買収劇で、ブライトスターという携帯の卸しを買ったと。これがすごくチャネルイノベーションだなというイメージがあって、ソフトバンクという会社はiPhoneというドリームプロダクトを手に入れて、ドコモもまたそのドリームプロダクトを手に入れたので、次の孫さんの一手というのがチャネルに動いたというそんなイメージを受けているのですが、日本企業の海外展開におけるチャネルイノベーションみたいなところは、先生はどんな風にお考えですか?
米倉:すごく大事です。オープンイノベーションもそうなのですけど、イノベーションの源流だけではなくて、外をどうやってつながっていくか。やはり、日本企業は総合商社という素晴らしい機能があったので、彼らが販路を開拓してきてくれてやったのですけど、そのときには日本のものはのせやすかったのです。例えば、当時、昔、今から30年も前にソニーの小さなラジオとかテレビは、他のメーカーに比べて絶対的に品質がよかった。その一度こういうのを流して小売を抑えるとかチャネルを流すのをやれば、自然にプロダクトが出て行ったけれども、今言ったら携帯とかというのはただ使うだけではなくて、それに付帯するサービスもあるし、それをどうやって更新させていくかというのもあるし、その現地、現地で事情が分かっている人間。そういう人たちとタッグを組まないと難しいです。僕がこの間本当にそうだなと思ったのが、中東で一番売れている携帯はLGだと。何でと聞いたらいつ開けてもメッカを指すという。
森辺:テレビにも指すらしいですね。
米倉:なるほどね。1日5回お祈りする人たちにとって一番大事なのが、西を指すということなのね。そんなのは日本にいてもどんな人も分からないから、うちの携帯はメールができます、写真が撮れますとか。それも確かに重要だけど、メッカはもっと重要なのだというのが現地にいないと分からない。そういう意味ではチャネルを広くとっていくというのが戦略もそうだし、特に複雑なプロダクト。単体ではできない。今や単体でやることがすごく少なくなっているのです。ビックデータを上手く使って、1人1人の消費者の行動を理解しながら、それにあったサービスを瞬時に送ると。こういうところだから、まさにチャネルイノベーションというのは、どっかチャネルを作ってくれば良いのではないかと。あるいは、資金力があれば強い会社を買収するというのもあるのだけれども、やはりつながっていく。考え方が僕はすごく重要だと思うのです。DSMというオランダの会社はものすごく化学の会社で、ものすごく強いポリマーを持っていたと。これを使ったらナイロンなんて目ではないよなという強いものができる。それを紡ぐという技術がなかった。それで世界中を探してみたら、TOYOBOが世界一の紡ぐ技術、オランダの一番良い技術、オランダの一番使えるものが合わさってダイニーマになったのです。だからこれのできてきた商品を、これをどんなふうなチャネルで、何にしていくという。これはまた別の用途開発が必要。そこで今度は新しいイノベーターたちが乗ってきたりすると、ますます面白いことなのです。
森辺:なるほど。ありがとうございます。先生、今日もお時間が来てしまいましたのでこの辺で。どうもありがとうございました。