東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:引き続きヤフーの河合さんをお迎えしているのですけれども、今回はどういうお話を。
森辺:河合さん、どうぞよろしくお願いします。
河合:よろしくお願いします。
森辺:今回は、ヤフーが取り組んでいるリーン・スタートアップについてお話をお伺いできればなというふうに思っていて。このリーン・スタートアップの取り組みなのですけど、日本の企業の海外展開に非常に参考となる取り組みだというふうに捉えております。いったいこのリーン・スタートアップは、恐らくリスナーのみなさんは初めて聞く方もたくさんいらっしゃると思うので、ヤフーが取り組んでいるこのリーン・スタートアップとは一体何なのかというところから、詳しくご説明をいただいてもよろしいでしょうか?
河合:リーン・スタートアップは方法論の名前なのですが、アンチテーゼ的に生まれてきた方法論だと言えるのです。というのも、よくある企画であったり、会社だったりというパターンを見ると、市場調査をガーッとして、すごく立派なパワーポイントで企画をたてて、何カ月かザッと開発をして、サーっとリリースをして上手く行かなくてこけると。といったことが、特にテクノロジーの界隈では頻発するわけです。これは何か間違っているだろうと。それに対していろいろな方法論がたくさん生まれてきたわけです。アジャイルの開発手法であったりとか、トヨタ製造方式とかそういうところに含まれると思うのですが。その中の1つとしてリーン・スタートアップという考え方があって。リーン・スタートアップは特徴としては、まず物事の問題が最初は分かっていないということ。ちゃんと認識をしようと。分かっていないのに、市場規模が123万8,000人ですとか、どうやってそんな細かいことが分かったのかと。実はそれは曖昧な数字なわけです。曖昧なのは曖昧でよくて、分かっていないものからどちらの方向に進まなければいけないのかとい徐徐にうところを、だんだん明らかにして行く。明らかにして行くためには、仮説を立てて、それを検証してというふうに徐々に道を開いて行かなければ分からないだろうと。そのための方法論なのです。
森辺:なるほど。まず、何も分かっていないということを認識するということから始まるわけですよね。
河合:そうです。言ってみれば、霧の中をやみくもに突進する前にまず地面に棒でたたいてみて、橋があるか、橋があったとか、橋がない、ではどうすればよいか。橋をかけるかといったところを徐々にビルドアップしていくと。ビルドアップしていくためには仮説と検証を行わなければいけなくて、それが例えば1年しか時間がないのに、仮説を立てて検証というのが2回しかできないのだとしたら、正しい道を探る回数が2回しかないと探れない。では、どうしたら仮説と検証と次のアクションを起こすというところを最大化できるか。そのための手法としていろいろなメソッドであり、バラエティを構築したというところがリーン・スタートアップの大体の経緯と実際の方法になります。
森辺:なるほど。われわれが企業の海外展開を支援するときにやる、フィジフィジティー・スタディーに非常に多分よく似ていて、霧がかかっているのに、日本での実績と自分たちの高いクオリティーの製品を持って、霧の中、最近だとアジアになるわけですけど、ドーンと突っ込んでいくわけで。その仮説・検証すらやらないで、恐らく行けるだろうというところでドーンと行く企業さんが非常に多くて、3年、5年ぐらいでハイアールに、撤退をしましたとサラっと帰ってきて、なかったことにするというケースが非常に多いのですけど、それに非常に似ていますよね。
河合:そうですよね。このあたり、幾つかの手法を並行して研究したのですが、やはり本質は同じなのです。全く同じところで、結局顧客の求めるものを作る。本質が何か、それをどう最大化するかといったところをどの方法論も変わらなくて、それはいろいろな切り口から切っているだけなのですね。よくいわれる「盲人の象」と同じで、「足をさわると丸太で耳をさわる扇」と言っていますけど、本体は1つの像ということで、そこでいろいろな切り口でアプローチしようとしていると。ここで一番大事になってくるのが、まさに今例であげられたように、こちらで作ったものがあっちに、それでいいやと自信のあるものを持ってくるのですけど、結局全ての事例がそれぞれの個別の事例があるので、そこにフィットさせなければいけないという前提でやはり何も分かっていない。すごくいい製品があるというのは分かっているのだけれども、それが合うかというのは全然分かっていないのです。というのを認識しましょうというところからスタートしようという話につなげられるかなと。
森辺:河合さんの資料で、「全部嘘です。控えめに言えば希望的観測です」という啓示があるのですけど、まさにそのとおりで。多分大丈夫だろうとか、こうなはずだと、希望的な観測で出ていかれる企業が非常に多いので、このリーン・スタートアップというのは非常に通ずるものがあるなというふうに思って。
河合:そこも確認しなければというところは当然誰もが確認しないとねとなるのですけど、そこでまた確認をするのにすごく時間とお金をかけてとやっていると、さっき申し上げたように確認する回数も減るし、下手すると確認している最中に状況が変わるなんてことも十分あるわけです。なので、リーン・スタートアップでそこの仮説に対して検証するときには、ある仮説に対してそれを検証するのにタルだけの最小限の何かを作り上げて、それでもって仮説を検証しようと。つまり仮説を検証するサイクルを回すための、そこのリードタイムをなるだけ短くしなさいという考え方なのです。それは、ミニマムバイオルプロダクト、MVPと言っていて。それがリーン・スタートアップの象徴的なワードとしてよく使われます。
森辺:なるほど。分からないことを可視化することが重要だけど、可視化ばかになってはいけないという話ですよね。
河合:そうです。特にわれわれが製品を作っていると、フルのプロダクトを作りたくなるのですけど、検証したい部分が、顧客がここのボタンに対してどう反応するかだけであったら、実は製品ではなくてもただの紙に書いた絵でも検証できるかもしれないのです。仮説を検証するのに必要なのは本当にプロダクト全体なのか、関係ないところまで作り込んでないか。
森辺:調査会社も経営しておきながらこんなこと言うのもあれなのですけど、可視化のお手伝いをしていて、可視化ばかになるのって本当に無駄な作業で、目的を見失うのですよね。可視化すればするほどドツボにはまっていくというケースが非常に多くて。やはり可視化すべきポイントとしなくて良いポイントを整理して、すべきポイントをザッと可視化して、それに対する仮説を立てて検証していくというところに多分パワーをかけた方が、よほど事業の成功という意味では、成功確率は圧倒的に上がるとすごく思います。でも調査好きな会社はすごく多くて、そこまでしなくて良いですよと言うのですけど、一応セカンドオピニオン、サードオピニオンまでやる会社さんはやはり慎重な会社さんが日本には多いので。そういう会社さんは結構いますものね。なるほど。そういうことなのですね。
河合:そこのところだと、セカンドオピニオン、サードオピニオンという形ですと、やはり1個のバーンという完全な回という形だと思うのですが、もう1つ特徴的な考えとしては、その回を100%の回というよりは確からしさの固まりで考えるのです。例えば、最初の段階では10%ほどしか確からしくない、フワフワしたこういう固まりであると。ところからどんどん仮説を繰り返していけば、80%が結構堅い顧客に割とフォーカスしている、90%、95%と上がって行くのですけど、どこまで行っても100%ではないです。よく100%のものを出してとなるとそこで終わってしまうのですが、確からしさという考え方でいくと出した段階で、これくらいで確からしさは市場の変化で確からしさがフワっと変わるかもしれない。変わること前提で捉えて、それの変化に追随し続けていかないといけないというのも、リーンの考え方の大きな1点です。
森辺:河合さんがいらっしゃるインターネットとかモバイルの世界も変化がものすごく激しいではないですか。私がいるアジア新興国の世界は非常に変化が激しいので、今おっしゃることは多分そのままだと思うのです。今どんな事業をやるにしてもITとかモバイルとかは必ずどこかで関わってくる世界になってきてしまっているではないですか。そうすると、変化が本当に激しいから、確実なものをビシっと作って、グワッと進んで行くという戦後日本がずっとやってきたような進め方から、やはり大きく変わらないといけないのだなとすごく理解できます。
河合:変化の早い業界で成功している例は、恐らく必然的に皆さん意識する、しない関わらずこういうやり方をとっているのではないかと思っているのです。そうではないと、本質的に成功し得ないと思いますので。
森辺:なるほど。このリーン・スタートアップというところに、スタートアップというのが付くではないですか。これは、何かあれがあるのですよね。
河合:そうです。もともと、スタートアップは文字どおり金がない、人がない、時間がないというところが、生命線が尽きる前に何とか成功しなけりゃいけない。もう先が見えているので、よく滑走路と言いますよね。滑走路を離陸するまで、離陸できないといけない、離陸できなかったら死んじゃうみたいな。なので、いかに効率よく仮説のサイクルを回せるかというところで、文字通り死活問題になるので、やはりそのスタートアップ向けの、向けというか、スタートアップはこうしないと死んでしまいますという。そういう意味合いだと思ったほうが良いかもしれないです。それがリーン・スタートアップなのです。
森辺:そういう意味では、アジア展開も同じですよね。お金を使える予算は収益が出ていないから限られていますし、人と言ってもグローバル人材も限られているし、時間的猶予も日本の内需の落ち込みを考えるとそんなにないですよということで、一方でアジア新興国の成長のスピードを考えるとあまり時間もないと。その中でいかに早く立ち上げるかという話なので、すごく類似しているわけですよね。なるほど。これをヤフーは事業を生み出して行くときに、考え方を取り込んでいろいろなサービスを生み出しているという、そんなイメージなのですか?
河合:そうです。今は会社としても取り組みを今継続的にコミットし始めているというところです。
森辺:この曖昧なものを確かなものに変えて行くというのは、河合さんのどこかプレゼン資料にあったのですけど、ここというのは、今おっしゃっているリーン・スタートアップの手法のお話のことですよね?
河合:そうです。ただ、ここでイメージしていたのは、われわれがインターネット業界で、しかも昨年度のフレーズですと、ビックリなサービスを生み出すと。ビックリなサービスは何と。誰も答えを持っていない。持っていない、つまり曖昧のことです。それをどう形づくっていくかということで。そんなのを、いきなり企画を一発立てて、バーンと出して、やはり外れるわけです。なので、それを曖昧なものから本当にビックリなところは何かというところをどう効率的に形にしていくかというところで、スタートアップではなくても、われわれではとても有効な手段なのです。
森辺:なるほど。ビックリマーク。ビックリなサービスを生み出すということですよね。爆走、課題解決エンジンということで。3つのキーワードについてというところがあると思うのですけど、3つのキーワードというのがこれなのですよね?
河合:当社が爆速、課題解決エンジン、ビックリなサービスと拠点、今年はさらに×10倍というスローガンを打ち出しました。
森辺:爆走、課題解決エンジン、ビックリなサービスを生み出す×10倍。これはスピードも収益率も、全てにおいて×10倍みたいな、そんなイメージなのですかね?
河合:控えめに、何かしら10倍と宮坂が言っていましたから、控え目といっても10倍ですからね。全然控え目ではないと思いますが。
森辺:このリーン・スタートアップなのですが、ベンチャー企業が、限られた軽資源の中で新しいサービスを生み出すというイメージがあるのですが、それは私は大企業であっても中堅中小企業であっても、同じことがアジア展開、新興国展開には通ずるものがあると思っているのです。一方で、大組織にリーンは必要だというふうに多分河合さんはおっしゃっていると思うのですけど、これはどんなところからそんなふうな。
河合:必要という意味の前に、大組織の方がけんかしたら強いと。割と単純な話で。もともとさっきの滑走路、離陸しなければならない、中小企業のものなのです。それをつまり大企業でやれば滑走路を10本、20本も並列で並べたり、次の滑走路をすぐ用意したりできるわけなのです。これは野球の話にいくと、打率が実はあまり変わらないのです。才能で多少は変わるのですけど、野球の打者の打率がイチローでも4割うんたらと言っているぐらいで、打てないと言っている人も2割というぐらいで。8割とかはいないのですよ。となると、ヒットを出す、ヒットの数といのは、打数で決まって来るのです。どれだけ打数で勝てるか。そうなると、人と金と時間がある大組織がリーン・スタートアップ的な手段を使って、たくさん打席にたったらそれはもう圧倒的な有利。有利だからやるべきです。でも大組織になるとなぜかあぐらをかいて、1年間と決まったところで1個だけみたいな。そういうのが動いておしまいみたいなもったいないことになっているという例があるので。
森辺:それすごく分かります。垂直逃亡をしまくって、無謀の共有、何もなしにリーン・スタートアップという概念は恐らく全く持っていないようなご相談を受けることが結構あるので、確かにそうです。今回はもうお時間が来てしまったのですけど、次回引き続きリーン・スタートアップと大企業みたいなところでまたお話をお聞かせいただければと思います。河合さん、どうもありがとうございました。
河合:ありがとうございました。