森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。前回は、パンデミックの3年間でVIP、ベトナム、インドネシア、フィリピンの伝統小売がどういう状況にあったかというお話をしました。今日はその続きじゃないんですけど、伝統小売の今後について、この番組でもね、何回か過去やっていると思うんですけども、またお話をしていきたいなというふうに思います。
今後というときに、「なくなるのか、どうなの?」というところが、皆さんのたぶん関心事の1つ、一番大きな部分なのかなというふうに思います。結局、なぜならば、日本企業の消費財メーカーの一番の課題というのは伝統小売の攻略にあるわけですよね。伝統小売をどういうふうに攻略していけばいいのかというところが、彼らの最も近々というか、ずっと抱えている課題で。近代小売はなんとか頑張っているんだけど、伝統小売の取り組みに難しさを感じていると。その中で、できれば伝統小売が近代化するんだったら、コンビニ化するんだったら、それまで待ちたいよねみたいな考え方もあったりして、どうなっていくんだろうというのが皆さんの、製造業、消費財メーカーの関心事で。
ただ、この番組でも過去にお話したとおり、そういう状況は向こう数十年、20~30年の間では起こりませんよと。20~30年後に仮に起こったので、「さあ、参入します」と言っても、そんな市場が近代化してからぼちぼち来るようなメーカーは誰も相手にしないので、やっぱり伝統小売の間からやっておいたほうがいいですよね、というお話をしていて。
これが、ここ5年10年で来るんだったら少し待つというのはありかもしれないけど、数十年先で、それまで待つということをやっていると勝敗が完全に決まってしまうので、待つという選択肢はないですよね。「なぜ数十年かかるのか」という議論に関しては、小売は小売単体だけで決して近代化はしないんですというお話をしていて。その他のさまざまなインフラが近代化するからこそ、小売も近代化できるんですよというお話をしたと思うんですよね。例えば、道路がしっかり整備されて、物流網がしっかり津々浦々行き届くようになるとか、フィリピンだって、インドネシアだって、島国なわけですよね。ベトナムなんていうのは、北のハノイから南のホーチミンまで1,600キロあって、そこの道路というのは、まだ山越えとか途中あるわけですよ、ダナンのちょっと先とかに、非常に大変な中で、じゃあ、どうやっていくんですかみたいな、そういう問題もあるし。それからシステムの問題もあるし。基本的なガス・水道・電気・インフラ、まだまだ夜になると薄暗い地域とか都市ってあるわけですよね。ベトナム、インドネシア、フィリピンで言うと。新興国の特徴は夜暗いということなんだよね。夜薄暗いんですよ。なんか電気が行き届いていないんですよね。足りないんでしょうね。なので、そういうことを考えると、今後の高速道路の建設計画とか、国土交通省が出している、各国のね。それから、インフラの整備状況とか、インフラ投資に回る税収の割合とかっていうことを見ていくと、そんなにすぐにはその他のインフラが日本のようにはならないので、そうすると、なかなか小売だけが勝手に近代化するということはあり得ないなということを僕は予測をしていて、そこから「数十年かかりますよ」というお話をしています。
もう1つは、伝統小売の減り方なんですよね。伝統小売は確かに減っているんですよ。減っていて、近代小売が増えていると、これは変わらないんですけど。でも、フィリピンなんかは、このパンデミックで伝統小売の重要性が見直されて、「大型店はパンデミックに向いていない。でも、伝統小売は向いていますね」みたいな話から、伝統小売が14万店増えたなんていう報道もあって、非常に伝統小売の重要性が見直されているし、地域にも政府にも愛されている。特にフィリピンはそんな状態。インドネシアなんかも447万店、今、伝統小売があって、ここ5年10年の平均で、だいたい2万5,000店舗ぐらい減っているんですよね、毎年。2万5,000店減っていると、前回も話したけど、意外になくなりそうじゃない?というふうに思いがちですけど、447万店もあると、高々2万5,000店ぐらいの減り方だと、180年ぐらいかかっちゃうみたいなね。180年、じゃあ、仮に倍の5万店減るということで考えても90年ぐらいかかる。じゃあ、3倍だったらどうだろうと。7万5,000店ぐらいだったらどうだろうと。それでもやっぱり60年ぐらいかかるので。基本的になくなりませんよと考えたほうがいいわけですよね。そんな先のことって、60年、3倍で60年ですから、60年先のデジタイゼーションとかデジタル化とかっていうことを考えたら、僕がずっと言っている通り、伝統小売単体がデジタル武装して決済もオーダーも何もかも全部オンラインでできるようになってしまったら、はっきり言って圧倒的に、家から出てすぐそこにある、数メートルおきにある伝統小売のほうが便利ですからね、圧倒的にコンビニよりもね。コンビニがなんで便利かって、近くからある。でも、コンビニって何百メーターおき。でも、伝統小売だったら数メーター、数十メーターおきにあって。コンビニも…。スーパーは中に入って面倒くさいわけです、ずっと歩いて。コンビニだったらパッと入ってパッと出てだけども、伝統小売は入らなくていい、入ることすらしなくていいというね。そしたら、もっと便利なわけじゃないですか。そうすると、60年後の伝統小売の姿というと、今までの時間軸の中では衰退という時間軸だったかもしれないけど、これからはそこにデジタル化という新しい価値が加わると、むしろ衰退からリボーンじゃないですけど、新しいかたちに進化をするということも考えないといけない。むしろそういう動きが徐々に見え始めていたりとか、GrabとかGojekみたいなライドシェア型のものがデリバリーを始めたりとか、そういう世界観も出て来ているということを考えると、まったく違う仮説が次の数十年、伝統小売には起こり得るんじゃないかなというふうに思っています。だからこそ、躊躇なく伝統小売向けの販売チャネル投資はしないといけないし。仮にASEAN、VIPで投資をして苦労しても、それってメコン経済圏でも使えるし、インドでも使えるし、南米でも使えるし、アフリカでも使えるということを考えたら、消費財メーカーのこの先50年100年のノウハウとしてずっと生きていくわけですよね。100年は言い過ぎかな。(笑)数十年、少なくとも50年ぐらいの時間軸の中のノウハウとしては十分使えるはずなんですよね。100年先と言うとまったく別の世界があって、そのノウハウが本当に役に立つかはちょっと確証を持ちにくいところですけども。でも、そんな話だと、別に損はなくて、だから今、ASEANのVIPの伝統小売の攻略、ここに経営資源を使っても、決して無駄にはならないんじゃないかなというのが僕の意見でございます。
今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。