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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 80 「今は海外に出ない」も立派な経営判断

著者:森辺 一樹

武器を持たずに戦うぐらいなら、戦わないほうがまし

中堅中小企業が海外に出るための方法を、おさらいの意味もこめて簡単 にまとめておきましょう。中堅中小企業の戦い方は、そのノウハウを集約すると5つに分類されます。
1つ目が、「出ない戦略を徹底する」。まずは固定費のかかる現地法人を出すかたちでの現地展開ではなく輸出から始め、ある程度実績が出たところで現地に進出することを徹底する。
2つ目は、中堅中小企業にとって入りやすい国と入りにくい国があり、「攻めやすい国から順に攻略していく」のが重要。また、国ではなく、首都や大都市をまず狙う。
そして、3つ目は、「狙うべきターゲットをできる限り明確にする」。B2Cであれば小売ベースで、B2Bであれば企業名ベースで。これらが具体的になっていれば、売上予測や戦略の具体性は格段に向上します。
そして4つ目は、「ディストリビューターの選定には時間と労力をかける」。 どのようなディストリビューターを選ぶかで、成功確率が大きく変わってくるので、「出会い」で決めるのではなく、「スキルセットとマインドセット」で決めます。
最後の5つ目が、「ディストリビューターの管理育成」が成功をもたらす。売ることのすべてを任せるのではなく、自分たちもディストリビューター以上に現地市場の理解を高め、積極的に売ることに介在していかなければならないということです。これら5つを実行するだけで、中堅中小企業の海外展開は大きく変わり、高い成果を得られることでしょう。

海外事業をする意義を今一度考える

海外事業は、国内事業よりも確実に多くの経営資源を必要とします。「人」「モノ」「金」「情報」が、すでにでき上がった国内での展開とは比較にならないほどかかります。国内の事業はすでにでき上がった土台の上で行っているビジネスであり、海外事業とは、土台作りから始めなければならない事業です。そこには多くの想定外や、多くの困難が待ち受けています。だからこそ、今一度、冷静に自分たちが海外事業をする意義とは一体なんなのかを見つめ直すこと は大変重要なのです。

自分たちはなぜ海外市場が必要なのか?その意義をできる限り具体化できると、戦略が具体化してきます。意義が明確でない企業の戦略は、同じようにぼんやりしたものになります。しかし、海外事業の意義が明確な企業の戦略は具体的です。どれぐらいの期間で、どれぐらいの目標を、どう達成するのかが具体的に作られます。そうなれば海外事業の成功は大きく近づきます。ぜひ今一度、海外展開をする意義を見つめ直してみてください。

「今は出ない」は負けじゃない

海外展開は目的ではなく手段です。そして、海外市場は慣れ親しんだ国内市場とは異なり、多くの武器を持たなければ勝つことはおろか、生き抜くこともできません。海外市場はトップの能力だけでなんとかなるような市場ではないのです。
今、進出するための武器を用意することが難しいのであれば、武器を持たないまま戦うのではなく、最低限の武器が整ってから戦うことを選ぶべきです。「今は出ない」は決して負けではありません。今後、グローバル化はますます進み、経済活動から国境はどんどん消えていきます。そして、我々が外に出なくとも、これからは海外の企業がこちらに入ってくるようになるでしょう。ということは、いずれは海外に出なければならないことに変わりはありません。そのために、今日からリサーチを始め、1つひとつ武器を増やしていってください。
私も今後の人生において微力ながら大企業だけでなく、中堅 中小企業のグローバル化の支援もさらに推進していく所存です。