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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 81 Q&A 新たな国へ展開する際に、何から始めたらよいのかわからない

著者:森辺 一樹

今回からは私がセミナーや、YouTube番組、Podcastなどでよく頂く質問についてお答えしていきたいと思います。

<質問>

消費財メーカーです。現状、数カ国への海外展開を行っていますが、今後、新たな国へ自社の商品を販売していくことを検討しています。今までは、戦略構築ということを意識しないまま海外展開をしてきており、新たな国へ参入する際の戦略と言われても、正直何をどうしていいのかわかりません。参入戦略を立てるためには、具体的に何から始めたらいいでしょうか?

<回答>

この質問に答える前に、このような企業が注意するべきポイントについて先にお話をさせてください。海外展開は、単に展開する国を増やせばよいということではありません。国数を増やせば見込める売上は上がりますが、その分リスクも増えます。従って、常に現状をしっかりと理解しながら展開国数を増やすことが重要なのです。新たな国に参入するということは、それだけ「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」といった経営資源が必要になります。それに耐えうる経営状況であれば、新しい国に販路を広げても問題はないでしょう。しかし、もし現状で展開している数カ国が中途半端な状態ならば、新たに他の国を目指すよりも、すでに展開している国の状況を改善することが先決です。場合によっては、進出する国の優先順位を見直し、現在展開している国を撤退して、別の国に切り替えることも検討すべきです。展開する国を増やせば増やすほど、当然、経営資源も多く必要になるわけで、中途半端な状態のまま放っておくと、進出先の経済が下向きになった際に一気にその ツケが襲ってきます。海外事業は経営資源をある程度集中させたほうが事業として成功する確率が高まるものです。むやみに新たな国に展開するよりも、まずは現状を見直してみることが大切です。

それでは本題に回答します。前提として、この会社がすでに展開している数カ国において、ある程度のシェアを獲得している、つまりは、ある程度の成功を収めているという状況下で、さらに、新たなA国へ販路を拡大するには何から始めたらいいのかについてお話をします。まずは次に目指すA国を想定して、マーケティングの基本プロセスをしっかり実践することが第一です。つまり、私の拙著「グローバル・マーケティングの基本(日本実業出版)」でも解説している通り、「R−STP−MM」のR(Research)である、マクロ環境分析、ミクロ環境分析、SWOT分析を実施して、その国がどんな市場(どれぐらい儲かる市場で)で、どんな敵がいて(どれだけの脅威が存在し)、展開した 場合には何が起こりそうなのか(稼げるのか、稼げないのか)を徹底的に探ります。

その後、STPであるセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを実施します。特に、ターゲティングをできる限り具体的に定量的にあげてください。そこから販売単価を掛け算すれば、販売できる最小値から最大値まで様々なシミュレーションが可能になります。そして、最後にMM(マーケティング・ミックス)=4Pであるプロダクト、プライス、プレイス、プロモーションを突き詰めていきます。

消費財メーカーのアジア新興国市場における4Pで重要なのは、ターゲットとなる中間層のための商品を、中間層が賄える価格で、買いやすい売り場に並べ、選びたくなるような仕掛けをすることです。これを高いレベルで実現しなければなりません。さらに、「チャネル構築までの8つのステップ」のステップ1から5を実施して、もっと深い部分まで分析することが必要です。ステップ1の「市場環境の可視化」では、今、参入を考えている国の市場がどういう成長ステージにいるのかを、対象の人口や所得層、今後の成長予想や、かかわる法規制などをもとに判断し、どの程度の利益が見込めるのかを見ていきます。ステップ2の「競争環境の可視化」では、どのような競合他社がいて、その脅威はどれくらいなのかを明らかにする必要があります。ステップ3の「流通環境の可視化」では、日本とは異なるその国ごとの流通環境の中で、中間流通、小売流通がどのような形態なのか、またそれにかかわる商習慣はどのようなものなのかを見ていきます。そして、ステップ4の「消費者の可視化」では、その国の消費者が何を求めていて、どんなところに不満を持っているのか、普段の生活や買いものの習慣などを調査します。ステップ5の「ディストリビューターの可視化」では、その国にはどのようなディストリビューターがいて、何を得意とするのか、スキルセットとマインドセットを可視化します。新しい国で商品を販売するために必要な機能を持ち、自分たちと合う適切なディストリビューターを選定し、ディストリビューション・ネットワークを構築していきます。

このステップ1から5を見ていくことで、自ずと参入戦略が見えてくるのです。こうした一連のプロセスの中でも特に重要なのが、3Cと4Pを深掘りすることです。3Cは、参入しようとしているのはどういう市場で、競合他社はどのような相手なのか、そして自社の得意不得意を客観的に見るためのツールです。4Pは、競合他社と比較することも重要です。自分たちが売りたい商品を、売りたい価格で、売りやすい流通で、できればプロモーション投資は少なくという従来の日本的な4Pではなく、現地の中間層が求めているモノを、買いやすい価格と買いやすい場所で、手に取りたくなる仕掛けを考えていきます。この3Cと4Pを徹底的に深掘りしていくことが、新たな国への戦略で最も重要なプロセスだと言えます。