森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。今日も引き続き前回の続きで、今日で最後ですかね、第2章「成功の8割は契約締結前に何を決めたかで決まる」ということで、ディストリビューターとの契約締結そのものよりも、契約締結前に何を決めたかが非常に重要ですよというお話をさせてもらいました。「誰と」売るかよりも「誰に」売るかのほうが重要で、そして、誰にどれぐらいの金額を売りたいのか、そして、その金額をどういうふうに売り上げるのか、どういう組織で、その組織が何をやるからその金額に到達できるのかという裏付けをしっかりとディストリビューターと契約締結前にやってしまうということが大変重要ですよと。契約の条件交渉、契約後の戦略のすり合わせ、KPIの設定みたいなものがまさにそれになるわけですけども、それが大変重要ですよというお話をさせてもらいました。例えば10億をやるということで両社合意、まず数字が合意できるのかということですよね。じゃあ、数字が合意できたとしても、それを具体的にどういう組織が何をするからその10億に到達できるのというところまで含めて詰めましょうねということをお話をさせてもらったと。
今日は、契約書のテクニカルな部分のお話をしたいなと思っているんですけど。私も自身のキャリアの中で、何百というディストリビューターとメーカーとの契約書、いわゆるディストリビューション契約書というものを見てきたんですけど、その中で非常に思うのは、見てきたし、契約を支援してきたし、契約そのものに関わってきた中で感じるのは、非常に契約でもったいないことをしてしまっているなというのが1つあって。
契約書って攻めの部分と守りの部分があって、日本のメーカーの場合は守りの部分はね、日本の法務部は非常に優秀ですから非常に完璧に仕上がっていると。一方で攻めの部分がなかなかうまく活用できてなくて。例えばなんですけど、結局、この地域ではもう事実上独占的にこのディストリビューターに販売権を渡しているにもかかわらず、何かあったら困るので、一応契約書は非独占というふうになっているケースが非常に多かったりとか。あと、単年度更新になっているんですよね。1年で契約書を更新をしていきましょうと。また、コミットメントみたいなものは付いていないと。例えばさっきの10億円やるとかっていうところはコミットメントにはなっていない。非独占だし、コミットはないし、単年度だし、という契約書で、確かに守り的な守備的な考え方で言うと、あんまり複数年で結んでおくと何かあっても困るので単年度のほうが安心だよねと。確かに事実上独占なんだけど、一応もっといいところが突然現れるかもしれないので非独占にしておいたほうがいいよねということなんですけど。
これ、逆にディストリビューター側の立場に立ったときに、単年度で契約が切れてしまうし、非独占であって、何をそんなに自分たちが投資をできるだろうと、この案件にどれだけ自分たちの経営資源を投下できるんだろうと当然思いますよね。日本だと「非独占、でも、独占みたいなものだから」と言えば、まあまあまあ、なんとなく日本人同士は分かるし、「一応、単年度契約でやっていくというのが商習慣ですから、本当に長いお付き合いをしていくつもりなんですけど、一応、単年度契約で」と言われたら、「まあまあ、そうなんだろうな」と思って契約をすることも多いのかもしれませんけども。これはやっぱり日本から外に出たら、ASEANでも同じことで、契約書に書いてあることが全てで、それ以上もそれ以下もないんですよね。そうしないともうややこしくてしょうがなくて、空気を読んだり、行間を読むなんていうことは基本的にはないですから。そうなったときに単年度しか権利を与えられてなくて、しかもその単年度で非独占であるといったときに、じゃあ、どれだけ自分たちの会社の中の経営資源のね、例えばチームでも優秀なチームをそのメーカーのために使おうと思うか。もしくはある程度プロモーション的なところのリスクもディストリビューターが担ったりする面もあるわけですよね。そのときにどれだけ投資をするかと、ディストリビューターとして。そんなこともやっぱり考えてしまう。
どうせ複数年やるんだし、どうせこことしかしばらくやらないのであれば、地域を限定して独占を与えたらいいし、別に複数年度契約をしたらいいんですよね。3年契約、5年契約をしたらいいですよね。ただし、それだけの権利を与えるのであれば、やっぱりコミットメントをしっかり取るということが重要で、これを達成すれば複数年契約だし独占ですと。例えば初年度いくら、次年度いくら、3年度いくらと決める、コミットメントを。それだけのコミットメントをしっかり買う、セルアウトさせることができれば、契約は5年度の契約にしておいても、コミットメントは5年間のコミットメントで設定をしておけば、別にそこをクリアしてくれるんだったら5年間契約してしまっていいわけですから。しかも独占をその地域で、どうせ自社内競合してしまうので、その地域内、商圏内で他を使うなんていうことはないわけですから、独占を与えたらいいわけですよね。仮にそのコミットメントが達成されなかったときには単年度契約並びに非独占契約に切り替える、戻すことができるというふうな条項にしておけばいいだけの話なので、それをすることの権利をこちら側が得られるという状態にしておけばいいわけですよね。もちろん達成しなくても、そのまま複数年度、それから独占契約でやっていってもいいわけで。
僕が関わってきたディストリビューターとの契約は、全てそこの設定をしっかりしていて、コミットメントは絶対に持ってもらう。その代わり、こちらとしても向こうが投資をしやすいような状態を築くと。しかしながら、そのコミットメントが守られなければ、それは単年度になるし、非独占になるという。単純な契約の期間と、この独占なのか非独占なのかを使うだけでも、向こうの投資意欲というのは変えられるので、この部分だけでも少しうまく条件交渉で使うと、向こうのやる気というか、勢いというのはだいぶ変わってくるので、ぜひそこを1回見直してみてはいかがでしょうかというお話でございました。
それではね、今日はこれぐらいにしたいと思います。次回が第3章、最後ですかね、「契約締結後のアクションでさらに伸びしろが変わってきますよ」というお話をしたいと思います。今日はありがとうございました。また次回お会いいたしましょう。