森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。森辺一樹です。前回に引き続き、弊社のセミナーでお話をした、このパンデミックの3年間でASEAN6の小売、それから中間流通の環境、市場環境、競争環境がどういうふうに変わっていったのかということについてお話をしていますが、前回ね、近代小売がどういうふうに変わったかというお話をして、EC化率の話なんかもしましたけども、今日は、伝統小売のほうの話を少ししようかなというふうに思います。
伝統小売はね、近代小売はどの国でも基本的に同じような傾向があったと、大型店舗の出店から、中型・小型店の出店に切り替わって、EC化率が3倍になっていってという、どの国でもASEAN6、同じ方向に向かっていったんだけども、伝統小売はね、結構二極化しましたということで。だいぶ苦しんだ国もあれば、非常に潤った国もあるということで、少しご紹介をしていきたいと思うんですけど。ベトナムなんかはね、結構大変だったんですよね。ロックダウンでもう営業しちゃ駄目というお達しが出て、だいぶ苦しんで、2021年後半の時点でも50%ぐらいしか戻っていないと。私が実際に現場に行ったレポートの動画なんかも異なるエピソードで上げていますけど。やっぱり政府の営業停止命令ですかね、営業を一旦ストップしなさいということで、やっぱりだいぶ苦しんだし、今まで日用品を売っていたようなところが、日用品は売れないので飲料を売り始めましたみたいなね、伝統小売の中での業態変更みたいなことをやっていたりとか、結構ベトナムはだいぶ苦しんだというような状況だったかなと。
一方でフィリピンなんかは、やっぱりフィリピンってもともとお国柄、伝統小売を消費者も業界も行政もみんなで支援しているというのがフィリピンの特徴なので。例えばね、ピュアゴールドとか、インドネシアからアルファマートも進出していますけど、そういったところが伝統小売向けのサービスを展開していて、仕入れ先になっているわけですよね、伝統小売にとっての。そういうところが引き続き支援をしたし、あと、日本でも小規模事業者への国の支援ってありましたけど、フィリピンでもね、それがこのパンデミックの間は非常に積極的にされていて。もともとあったんですよね。フィリピンっていわゆる高利貸しの、違法な高利貸しが非常に多いので、そういったところに伝統小売のオーナーさんとか小規模事業者が手を染めて借金で首が回らなくなるみたいなことを防ぐために、政府が融資の支援をしているんですけど、このコロナ禍においては非常にたくさんの融資をしたということで。フィルスターという現地のメディアが発表していた、これはちょっとまだ弊社では未確認なので正式にはあれですけど、フィルスターの記事によると、すでに80万店あるね、伝統小売は80万店フィリピンにあるんですけど、このパンデミックの3年間で16万店増加したと言うんですよね。なので、あり得ない話ではないなと思うんですけど。いろんな支援があるので16万店ぐらいが単純に増えていったということで、非常に伝統小売は国によって支援の差が出たなという状況だったと思います。
あと、もう1つ、伝統小売のこのパンデミックの3年間で大きく変わったことはね、これはパンデミック前からもう始まっていたんですけど、伝統小売のデジタル武装ですよね。つまりは伝統小売がDX化していくということで。これも彼らが自らDX化していくというよりかは、どちらかと言うと、第三者のテック系の企業のデジタルサービスを導入していくというのが多くて。すでにもう10数万店レベルで始まっていて、何がデジタル化、デジタル武装なんだということなんですけど、まず、対消費者、対顧客に対してキャッシュレスで商品を購入できるということですよね。伝統小売のオーナーはパソコンなんて持っていませんから、自分たちのスマホでディストリビューターにオーダーができると、商品を注文できますよと。これが非常にこの業界全体にとってのDXの最大のメリットなんですけど、今までってディストリビューターが汚い現金を、現金で回収してきて、商品をデリバリーして、それを手書きの伝票でまた集計してみたいな、そしてメーカーに報告してみたいなことをやっていたんですよね。ただ、それがもうキャッシュレスになったら要らないわけで。じゃあ、キャッシュレスで買ってくれる代わりに5%引きますよ、10%引きますよみたいなことが可能になると。これって非常に三方よしですよね。メーカーにとっても、ディストリビューターにとっても、伝統小売のオーナーにとってもよくて。メーカーやディストリビューターは、自分たちの商品が今どの地区のどの小売でどれぐらい売れているかというのを瞬時に見ることができるという、大変マーケティング戦略を今後考えていく上で、施策を打っていく上で有効な手段で。今までってやっぱり月で締めてとかね、四半期で見てみないとなかなか傾向って見れなかったのが、デイリーで、オンラインで画面で見れるというね、こういう世界がやっぱりさらに進んだ。少し前まではね、伝統小売は近代小売化すると、淘汰されていくというふうに、そういう議論が主流だったんですけど、ここに来て私がずっと言っている伝統小売はなくなりませんよという議論がいよいよ本格化してきたんじゃないかなと。彼らがデジタル武装すれば、コンビニよりも便利な存在になるわけなので、数百メーターおきにあるコンビニよりも、数十メーターおき、もしくは家を出てすぐ目の前にある伝統小売、こっちのほうが圧倒的に便利だったりするわけですよね。
われわれの国ではいわゆる中央集権で、大きな組織の一員となって対価をもらうということのほうが、なんとなく性に合うというか、国民性にはマッチしていたのかもしれないし、そういう生き方が幸せの象徴だった、時代だったのかもしれないけども、ASEANの華僑のそういう商売をやっている伝統小売のオーナーなんかは、そんなにたくさん望んでいない、ただ自由に気ままにやりたいと、こういう生き方もまた尊重されるべきで、自分たちのファミリーが食べれるだけ、食べれたらいいと。何か中央集権で大きな組織に属して、上から指示されることを一生懸命やって頑張らなきゃいけない、そういうのはあまり嫌ですと。最低限のことをやって、最低限のお金をもらって、利益が出て、生活できればいいと、より分散型のビジネスモデルのほうが適していたりもする。これは僕、本当にASEANの国民性とかね、新興国にはこれはマッチしていて。行政にとっても、やっぱり人々の生活がそういう意味で豊かで、そこにいわゆる生活がかかっているわけだから、伝統小売を一掃するなんていうことはまずやらない。政治の観点で見てもやらないし、フィリピンなんかは業界も消費者も支援していて。そうすると、必ずしも今までみたいに、小売が近代化していくというね、外見が近代化していって、売るものが決まってシステマチックにみたいな、そういうものが会社単位で中央集権でやっていくという流れがガーッと来たんだけど、実は今後はもっと外見とかは自由でよくて、それよりも商売にとって根幹となる部分だけがDXしていってね、よりそれぞれが小さなオーナーとして存続し続けるような、新たなかたちのニューリテールみたいなものがね、僕は主流になっていくんじゃないかなと思っていて。そんな片鱗が今、ASEANの伝統小売市場では見えているという状況かなと、パンデミックでそんなふうな感じになっているというふうに思います。
それでは今日はこれぐらいにしたいと思います。また次回お会いいたしましょう。