第516回 パンデミック後のASEAN6小売市場の変化 その2
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テキスト版
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、SPYDERの森辺一樹です。今日も引き続き、よろしくお願いいたします。前回に引き続いて、パンデミック後の近代小売と伝統小売、そして今後の近代小売と伝統小売の未来のお話ということで、デジタル武装、それからEコマース含めて、引き続きお話をしていきたいなというふうに思います。早速、前回使った同じスライドをもう1回見ていって、まあまあこのようなかたちで近代小売(左)と伝統小売(右)の比率ってこんな比率なんですよということで、タイ、マレーシア…。シンガポールはもう伝統小売はないんですよ。僕が住んでいた1980年代とか90年代前半ぐらいまではね、若干ちょっと、田舎のほうに行くと若干あったんですよね。なんですけど、どんどん、どんどん、淘汰されていって、キャンティーンとかホーカーセンターと言われる、いわゆる広い敷地に屋根だけガーッとあって、吹きさらしというかね、風がバーッとこう、壁はないんですよね。そういうところで屋台のご飯を振る舞うという、シンガポールも当然中華圏なので、家で食べるというよりかは外食文化が非常に多くて、いろんな人がそこで思い思いのものを食べるという、そういうキャンティーンとかホーカーセンターと言われるようなところが、キャンティーン、ホーカーセンターと当時は言われていて。そこでね、僕が好きだったドライミー、1ドル50セントぐらいで非常に安くて、今ね、たぶん5ドル以下で食べられるところってほとんどなくて。マレー系の人はマレー系のラクサ食べたり、サテー食べたりとか、インド系の人はインド系とか、多民族国家ですから、いろんな国の人たちが、民族の人たちがいろんな自分たちの料理をつくって、それぞれのところで買って食べるみたいなね、そういうのが主流だったんですけど。そういうキャンティーンとかホーカーセンターも、この2000年代、ちょうどマリーナベイ・サンズができたぐらいから、フードコートと名前を変えて、いわゆるエアコンの効いた室内のところに、そういうものがよりきれいに衛生的に変わっていってしまったというね、そういう背景があって。それと同じでもう伝統小売はないので、シンガポールは伝統小売はないというふうに思ってもらったらいいと思います。ちょっとすみません。昔話で話が逸れて長くなってしまいましたけど…。
タイ、マレーシアはね、実はこの45万店と20万店というふうにありますけども、なかなかタイとかマレーシアの伝統小売の数を公表しているところはなくて、正式な公表値というのは出てなくて。僕もいろんな文献やシンクタンク並びにいろんなデータから推計して、おおよそタイが45万店ぐらいじゃないかなと、マレーシアは20万店ぐらいじゃないかなと、弊社ではそういうふうに考えて取り組みを行っています。ただ、タイは1万7,300店、CPグループとセントラルグループ、2強の小売グループに分かれていて、それがあって、マレーシアも6,600店舗あって、非常に先進ASEANであると。マレーシアなんてね、昔はもう、80年代とかって言うと本当にシンガポールに出稼ぎに来て肉体労働するみたいな話だったので。マレーシアってジャングルで、僕も1回、シンガポールから父親に連れられて、ジョホールからクアラルンプールに抜けるパームツリーがバーッと左右に並んでいるようなね、確か花王さんのパームツリーの畑だったんじゃないかなと思いますけど、そこは山賊が出るとかいう噂があって、1980年代はさすがに噂ぐらいで済んだんですけど、たぶん70年代とか60年代は本当に山賊が出たんだと思うんですけど、子どもながらに怖いなと思いながらそこを車で何時間も抜けていくというような経験をしましたけど。そのマレーシアなんかもハラルがある。ただ、インドネシアほどハラル比率は高くなくて、ある一定レベル、中華マーケット、中華圏の人がいるのであると。市場としてはそんなに大きくないですよね、マレーシアも。ただ、やっぱりシンガポールと陸続きだし、非常に近代化されているし、マレーシアとタイに関しては、特にタイに関しては、近代小売だけを輸出でやっていてもある程度売れる。シンガポール、マレーシア、タイは輸出で。これは現法を出してしまったら無理ですよ、おそらくそれだけでは現法の費用が賄えないので。まあまあ、そういう市場であると。なので、この45万店とか20万店というのはプラスアルファで獲っていかないといけない市場で。
ベトナム、インドネシア、フィリピンの66万店、447万店、80万店、フィリピンの80万店なんていうのは、これはもう、基本的には伝統小売をやらないと儲からない市場。近代小売って、日本と違って何がASEANの近代小売は特徴的かと言うと、モノを置くのにお金がかかるんですよね。リスティングフィーという商品登録料が1SKUごとにかかります。それから棚代というのがかかってくる。これ、棚は、いわゆる彼らは不動産屋さんと考えたほうがいいですね。いわゆる店舗をつくって、棚を置いて、この棚を貸しますと。「棚貸しですよ。どうぞ置いてください」ということで棚代を取りますと。より高く払ってくれたところはいいコーナーに棚を置きますよと。棚代を取るんだけども、基本的には流通マージンも取ると、売上に対してのマージンも取るし、返品比率もある程度許容してくださいねと。そして、売れ行きが悪いと「Buy One Get One Freeをやれ」と、つまりは「50%オフやりなさい」しか言わないので。日本人の定義で言うと、小売というのは売るプロであって、いかに消費者に商品を魅力的にね、メーカーがATLをやるとしたら、BTLをメーカーと一緒にやりながら、魅力的に商品をセルアウトしていくかというのが基本的には小売の役割で、場所貸し屋さんじゃないですよね。基本的には小売というのは商品を売るのが1つの仕事なんだけども。だから、いろんなことを試行錯誤して、店舗が、より店舗をどうしていくかということを考えるわけですけども。対顧客に売っていく方向に日本の近代小売は頭を使っていくわけですけども。これがASEANとかになってくるとね、いかに儲かるかというところに小売自身が頭を使っていくので、基本的に売るのはメーカーでしょという、そういう考え方がたぶん根底にあって。だから、棚貸しになるし、いわゆる、僕は小売と散々商談してきていますけど、売れ行きが悪いときの帰着としては、「値引きしよう」「安く売ろう」以外聞いたことがないので、あまり劇的なアイデアを持っているかと言うとそうではないですよと。メーカー側がしっかり考えていかなきゃいけないという、そういう話ですよね。
非常にお金がかかると、近代小売は、だからこそ伝統小売で売っていかないと儲からないですよと。伝統小売というのはお金かかりませんから、棚代を取ったり、そういうことはしませんので。基本的にはどの小売事業者、もしくは流通事業者、業界関係者に聞いても、VIP、ベトナム、フィリピンは、近代小売はショーウインドウであって、商品をプロモーションしている棚だというふうに割り切るしかないと。そして、いかに伝統小売で儲けるかがポイントなんだということを皆さん口を揃えて言っているので、この構造をまず理解をしないといけなくて。もちろん伝統小売のオーナーというのは近代小売で売れ筋にならないと取り扱いをしないので、基本的には近代小売で売れているから伝統小売で売りたいと思うわけなんですよね。なので、近代小売をやるということはマストであるということは絶対に変わらない。ただ、これだけでは儲からないし、現産現販をしていかないとなかなか伝統小売における商品にはならないので、やっぱりどこかでメーカー自身が腹を決めて。ASEAN単国で見ていたら、これは絶対に儲からないので、ASEAN圏内を1つの大きなマーケットとして見るということです。もしくはRCEP全体を1つの大きなマーケットとして見る。今までみたいに日本とタイとか、日本とマレーシアとか、日本とインドネシアという見方ではなくて、ASEAN地域全体をマーケットとして見たときに流通戦略どうするんだっけ、小売戦略どうするんだっけということを考えないと、シンガポールの小売はマレーシアにもあったり、タイの小売はマレーシアにもあったり、インドネシアの小売がフィリピンに出たりと、こういう構造が今後もっともっと増えていくわけなんですよね。なので、非常に重要なのは、ASEAN単国で見るという目も、もちろんマクロな視点は必要なんだけども、全体で見ていく、これこそがまさにグローバル・マーケティングの視点なので、国際マーケティングではなくて、グローバル・マーケティングで見るということはまさにこういうことを言っているわけなので、この視点は非常に重要になってくるので、ぜひそういう視点で見ていただくということでお願いいたします。
今日も話が長くなってしまいまして申し訳ない。これぐらいにしたいと思いますけども。次回さらにこの伝統小売がこのパンデミックでどういうふうに変わっていったのかということについて、さらに掘り下げていきたいと思います。それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。