東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、今日は素敵なゲストをお迎えしているのですけど。
森辺:第1回目のゲストでお招きさせていただいた、明治大学の大石教授を今日は再び100回記念に向けて、今回97回ですけど、100回までお願いできればと思っております。大石先生、どうぞよろしくお願いします。
大石:よろしくお願いいたします。
森辺:大石先生の自己紹介はもういろいろなところでさせていただいていますし、明治大学の経営学部の教授であるということで割愛させていただきます。早速大石先生、本題の方に入ろうと思うのですが、大石先生が主に研究されているグローバルマーケティングに関してなのですが、国内のマーケティングとグローバルマーケティングの違いはどういうところにあるのでしょうか?
大石:2つの考え方があると思うのです。1つは国内マーケティングで使う理論とか分析方法というのはグローバルマーケティングでも同じ、共通だという形であると思うのです。多くのマーケティング研究者はこういうふうに考えているわけです。ところが私はもともとマーケティング畑から出てきたものではなくて、世界経済論端から出てくると、国家を越えて行われるマーケティングという点で考えると、やはり国家を超えるときに非常に大きな問題が生じているというところで、以前から国際マーケティングと呼ぼうが、グローバルマーケティングと呼ぼうが、非常に国家を超えたときに生じる様々なズレ。ここがやはりグローバルマーケティングの特徴だと思っているわけです。一番典型的に言うと、やはり軍歌の違いとか各国の監修の違いで違うではないかというふうに言われるのですが、これは実はあまり正しくないのです。それは大阪と東京と違うように、日本と中国は違う、日本とアメリカは違うという形でそれはあまり大きな差ではないのです。問題は国家の枠を超えて同時に意思決定をしないといけないというところがグローバルマーケティング、国際マーケティングのポイントなのです。だから、なかなかこれを最初理解してもらうのは難しいのですが、実務的に言ってもたとえばグローバルマーケティング、国際マーケティングというと、中国でどう成功するか、ベトナムでどう成功するかということに集中した議論が出されるわけです。これは、実務的にも非常に大切なので間違いではない。ただ、そこが1国だけで簡潔せずに、常に、たとえば日本との関係。これは国家を超えるわけですよね。あるいは、ベトナムとアメリカ、ベトナムと中国、ベトナムとインドネシアという関係で実はビジネスは成り立っている。その国家を越えたときにさまざまな問題が起こる。例えば移転価格とかいうものは一番典型例です。だから、国家という問題を越えていくときに生じるさまざまな問題、それが同時に起こって企業がそれを、同時に意思決定をしなければいけない。そこに非常にグローバルマーケティングの難しさがあると思っているのです。
森辺:このグローバルマーケティングなのですけど、60年代とか70年代、80年代に日本の企業が生産拠点として海外展開をしていた、アジアを中心に出て行っていた時代よりも当然昨今の方が問われるのが重要になってきていると思うのですけど、どちらかというと欧米企業の方がグローバルマーケティングは非常に上手に見受けられるのですけど、そういう理解でよろしいのですか?
大石:これは歴史の違いです。ネスレにしても、P&Gにしても、ユニリーバにしても、もう100年先取です。それから、フォードなんかも最初に世界に出てくるのは1925年で、今は自動車メーカーが、アメリカの自動車メーカーが世界で上手くやっているとは必ずしもは言えないのだけど、キャリアとしては90年先取です。ところが、日本の自動車メーカーが海外に出て行ったのはせいぜい1980年。やはりそのキャリアの違いが圧倒的にあるわけです。そうすると、ここに慣れ親しんだとか、あるいは経験値、あるいは人材。そういう点で大きな差があるというのは現実だと思います。
森辺:一説には欧米のグローバル企業とかハイパフォーマンス企業とかといわれるような会社さんと日本の一部上場の大手企業さんのグローバルマーケティングとか、オペレーションのやり方とか事業のそのものの仕組みというか、プロセスのやり方は10年とか20年遅れていると言ったりする人もいらっしゃるのですけど、やはりそれくらい差が開いているのですかね?
大石:そうです。そういう国際比較をする場合、2つのことを理解しなければいけないと思うのです。それはギャップとディファレンスということなのです。ギャップというのは今森辺さんが言われたように、時代的な遅れがあるのです。実際日本の国際化の欧米先進企業に比べれば遅れて出たのでギャップがあるのです。もう1つはディファレンスというのは構造的な違いです。だから、単なる時期的な遅れだけではなくて、日本という島国で育ったものと、最初から国境を接して、ヨーロッパでごちゃごちゃやっているので。あそこの人たちは国内市場も小さいし、最初から外に出なければビジネスが成り立たない。ネスレなんてスイスの売上高は1、2%しかないわけです。そういう世界と日本の企業の構造的な違いをいつも意識しながらやるのです。それでも一言で言うならば、やはり国際経験、グローバル経験の違いというのは明らかにあると思っています。
森辺:そうすると、日本のマーケットが今後シュリンクを刈り取る、食品なんかだと高齢者が増えていったときに、当然グローバル企業と戦っていかないといけないのですけど、今あるこのギャップとかディファレンスは埋めていくしかないというか、埋めていけるのですかね?
大石:なかなか厳しいとは思うのだけど、今僕も自分なりにやろうとしているのは、やはりそれをなんとか埋めていかない限りは、日本企業は今から生き残っていけない。日本企業が弱体化すると日本国全体が弱体化する。税金も入らないし、失業も増えていくということで。こんなんではあると思うのですが、できないことはないと思っているのです。それはやるなら今だと。何かの表ではないですけど、というのはやはりまだ技術力はあると。韓国や中国企業に比べても技術力があると。それから東南アジアで日本企業に対するロイヤリティもまだ高いと。ただこれが徐々に10年見ていると崩れてきているし、いろいろな各種調査でも、たとえば東南アジアで化粧品を買うときにどこの国を参考にしますか?というと、以前はフランスだとかアメリカを別にすればアジアでは圧倒的に日本だったのです。それが今韓国とほぼ同列になってきているという。こういう崩れ方がやはりずっと出てきているわけです。だから、インドネシアでは日本車は95%のシェアを持って、日本市場が非常に持っているではないですか。だから、そういうところだけが取り上げられるとまだまだ日本は強いと言われているけど、ほんのアジアの中の一部です。だから、たとえばフィリピンなんかでも日本にもっと近いのだけど日本の企業のプレゼンスというのは非常に弱くて、あそこでもネスレが業務をはじめたのは1911年ですか。だからもう103年です。そういう世界でやっているので、日本企業やるなら今です。今出て、それで戦い方、グローバルマーケティングをやはりきちんと学び、勉強して戦っていく必要があると思っています。
森辺:確かに日本企業のプレゼンスというか、日本のプレゼンスという意味では我々みたいな支援をする会社でも調査をするとか、コンサルをする中で現地の企業とアポイントメント、会うケースがあるのです。たとえばそれはM&Aの下調べのこともあれば、調査をするために会う場合もあれば。10年ぐらい前だと日本企業というだけで対してこちらのこと分かっていない、とにかくウェルカムというあれが強かったのですけど、最近だとネタを出せと言われるのです。結構あるので、ここまで来たかと。日本の代表する一部上場の大企業を連れて行くのだぞと言っても、Who are there? みたいな。そんなことも結構あるので、おっしゃっていることはまさにその通りだなというふうに感じたり。
大石:それを学会でも起こっているのです。たとえば、今若い人が欧米に留学したりして向こうからイミテーションを取りたいと言っても、日本に対する関心が薄れているので、日本の研究者いらないよと。中国から行きたい人はいらっしゃい、インドから行きたい人にいらっしゃいなのです。だから協同研究をやろうと言っても、そんな落ち目のところとやったってしょうがないもん。今からインドだ、アフリカだ、ラテンアメリカだという方たちの完全なシフトが起こっているわけです。ということは、単にWho is Japanese company? というだけではなくて、東南アジアの人たちが日本は、戦後は確かにこれだけ先進国になったから素晴らしいけど、今の日本は勢いないじゃんという話になっているので、だからこう森辺さんたちがいってやっても「いや、日本は、いいけどね。」と。
森辺:どうせ遅いしね、みたいになっているしね。
大石:なっているわけで、これは本当に先進国も含めて全世界でそれが起こっている。だから相当これは危機的状況だと思います、僕。
森辺:東南アジアなんかだと、財閥系のグループ企業が結構経済の大半を牛耳ったりする構造があるのですけど、10年前とか彼らの売り上げは今ほどなくて、結構取っ付きやすかったのが、今1兆超えていたりしていてなかなか取っ付きにくくなってしまったなというのが非常にあって。先生がおっしゃる通り、今でしょということなのですよね。
大石:もうイマージングジャイアンツということが言われていて、途上国そのものが多国籍企業化して自信を持ってきていますから、だからそういう点で言うと日本の企業が出て行って上から目線でやってもとても相手にしてくれないし、非常にそれは難しい時代になってきたと思うのですけど、さっき言ったようにまだサービスだとか製品だとかいろいろ力を持っているので、そういう点で言うとやるならば今。これがあと5年、10年経つと本当に市場開拓が難しくなると思います。
森辺:なるほど。先生、続いてなのですけど、先生がよくおっしゃっている中で4Pの順序が日本と違いますよということをすごくおしゃっていると思うのですけど、それに関してお聞かせいただけないですかね。
大石:日本というよりも、いわゆる通常のマーケティングの4Pはプロダクトが最初に来ると。これはもうマーケティングのSTPです。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングという形で、特にターゲティング。市場対象をどこにするかがマーケティングのスタートです。そのためにセグメンテーションをするし、自分の一応明らかにするポジショニングをやる。それで、そのターゲティングをした、それに合わせた製品サービスをどう作っていくかがマーケティングのまずスタートだよと。だから単に販売とか、あるいは販売促進とかいう戦術的なことではなくて、その製品から作り上げていく。ところが、グローバルマーケティングで海外に出た場合に通常自分の国内で持っている優秀な製品を持っていくというのが全てのスタートです。これは今の伝統的工芸品や日本酒とか、ああいうのを全部含めてそうです。そうすると製品は既にあるのです。後からそれを適合化していく。問題は1番最初にチャネルがなければ。それをどう作っていくかでないとできないわけです。最初は輸出という形でやるし、しかもそれは商社を通して売ってもらう。それだったらその各国の市場の情報が入ってこないので、次の段階として自らが輸出を担う。輸出マーケティングを担う。そういう形でローカルのチャネルをどうしていきましょうかと。大きな企業は自前でできる場合もありましょうけども、多くはそのローカルと合弁をつけてやっている。だから、そのグローバルマーケティングの4Pではプロダクトではなくて、プレイスが最初に来ると。ここが徹底的な違いです。
森辺:通常だとプロダクト、プライス、プレイス、プロモーション。このプレイスが流通網とかチャネルということになると思うのですけど、グローバルマーケティングでいうと、まず最初にプレイスであるということで、プロダクト、プライス。
大石:プライスが2番目。これはまた後でお話をしますけど。プレイス、プロダクトではなくて、プレイス、プライスと言われていると。そのあとにプロダクトだとかプロモーションがくるというのが、グローバルマーケティングの特徴となってきます。
森辺:先生、今回はお時間が来てしまいましたので、次回また続きのお話をお聞かせいただければと思います。どうもありがとうございました。
大石:お疲れ様でした。