東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き大石教授をゲストとしてお呼びしていますが、今回はどういったお話を。
森辺:今回は前回の続きで、海外展開、グローバルマーケティングにおける4Pの話からお話をお聞かせいただければと思っています。大石先生、どうぞよろしくお願いします。
大石:よろしくお願いします。
森辺:前回のお話で、いわゆる通常の4Pだとプロダクト、プライス、プレイス、プロモーションという順番で組み立てていくのだけど、グローバルマーケティングの場合は必ず最初にプレイスを持ってくるのだと。流通網とかチャネルを最初に持ってきて、その後プライスで、プロダクト、プロモーションなのか、プロモーション、プロダクトなのか。こんな順番になると。ここをやはり間違えているというか、不理解な企業が非常に多いと私自身も思うのですけど、この辺のお話からぜひお聞かせいただければと思うのですが、いかがですか?
大石:前回、その国内マーケティングとグローバルマーケティングの違いで国境を越えるということで、理論がそのまま適用できるのか違うのかという話しをしましたけど、今言ったように4Pの順序が違ってくると。プレイス、チャネルの先行性というのは最終、前回お話をして、その次に価格が来るというのはリーズナブルな価格でなければ行けないということが来るわけです。チャネルと営業という問題が1つあって、ある研究者は、日本は営業は強いからチャネルが弱いという言い方をしている人がいるわけです。では、チャネルと営業はどう違うのかというので、なかなか難しいところだと思うのですが、もちろん重なっている部分もあるのですが、非常に簡単に言うとチャネルはトンネルだと。その中に人が通っていって営業をする。こういうふうに考えると良いのです。だから、チャネルはそういう点で構造体をどう作っていくのか、自分たちの製品サービスを流す1つのトンネル、アーキテクチャです。そこを人が行って営業をする。人的販売ですから、営業というのは。こういうふうに考えると比較的に分かりやすいのではないかなというふうに思うのです。
森辺:これは分かりやすいです。そのトンネルというアーキテクチャがないのに営業をしてもワープしないという、そういう話ですよね。
大石:そうです。通常そこはなかなか分ち難く結びついていて、営業の人がチャネルを作っていく場合もありますが、たとえば今問題になっているインコマースという話しを作ろうというときに、営業が作るわけではないですよね。まず、構造をつくってやっていく。だから途上国の場合にTTとよばれるトラディショナルトレードをどう開拓していくかというときに、日本の場合は営業がいって頑張って開拓してチャネルを作っていくみたいなことがあるのですが、それはやはり一部の、局部の話しであって、大きくたとえばどこと合弁を組んでそこが販路を持っているからそこに流していくかとか。まずそこがない限りはいけないわけです。この区別をしないで、日本の場合は営業にも派遣をして「さ、死ぬ気で頑張ってこい。」みたいなね。日本人は優秀だから胃潰瘍になりながら頑張ってそれをやるのだけど、そこである程度開拓するけど、このチャネルというアーキテクチャと、人間の努力はやはり区別して考えることがすごく大事なことと僕は思っています。
森辺:海外のチャネルづくりの現状を見ていると、先生がご研究されているようないわゆる成功している日本の企業さんは、まさにおっしゃる通りだと思うのですけど、大手でもこのプロダクトはもう決まっています。プライスも決まっているのです。残りはプレイスとプロモーションだと。ただプロモーションに関しても導入期からそんなに赤字は埋めないよね。できれば小さく始めたいなと、そんなにドーンと売り上げが一気にいかなくてもいいからと。なおかつプライスもプロダクトも決まっているから、必然的にトラディショナルトレードはねらえないわけです、アジアの。そうするとモダントレードになる。ただ、モダントレードになるとアジアの残りも既にディスティングフィーを取ったり、棚貸し代を取ったりというのが、小売の不動産化ではないですけど、スペースを貸すという収益源がすごく大きくなっているので、やはり1つの1SKUの商品を置くにでもかなりお金を使われると。更に言うと、日用財、消費財、食品とかの分野になると欧米メージャーが必ずどの国のアジアには参入をしていると。そうなってくるとなかなかその中で勝っていくということがものすごく難しい。完全輸出型です、しかも日本のプレミアム商品です、メイド・イン・ジャパンですと。ただ、アジアの人たちは大半がそれを買えない。なので、買える本当に富裕層を狙う。その富裕層が買い物するのはモダントレードのごく限られたところであるという中で、なかなかプロダクトとプライスが決まってしまっている会社さんは結構あると思うのですけど、これはそれではダメですよと、そういうことになるのですか?
大石:多くの企業はそういう現状だと思うのです。それ自体が間違いだとは言えないと思うのです。やはり自分たちの高級な、高品質なものを出すと当然値段も高いから買える層はそのトップか、あるいは上位中間層だと。そういう人たちが行くところはモダントレードだという形になって、最初そこに行くこと自体は悪いことではないと思うわけです。ただ、自分たちが売っているものがたとえば日用品であったり、そうした場合にやはりもっと売り上げを上げようとした場合に層を下げないといけないですよね。なのに、上の方のトップだけいっていて、その人たちの所得が上がるのをずっと待っていると。そうするといつかは日本の、私たちのブランドを買いたいと思ってくれるだろうと思っているのだけど、そこが大きな間違いだと言っているわけです。商品によって、たとえば日用雑貨であるとか、食品であるとか、そういったものはどうしてもボリュームゾーンで戦わないといけない。そこのところの戦略が日本企業は少し勘違いしているのかなというのが今僕のいろいろな企業を見て感じているところです。
森辺:実際に多いですよね。高級な化粧品とかスキンケアとか食料品とかだと、例えば欧米の会社でエイボンとかニュースキンとか、本当に訪問販売に限定してものすごく高くて、小売りで一切売らないと。同じスキンケア、同じシャンプーでもものすごく高いですよという売り方を完全に変えているプレイヤーもいるから、小売りに並べるということはどんなに高級なプレミアムだと言っても、マスマーケットを狙うべき商品群という話しになるではないですか、その時点で。だから、追い付くといっても2050年になっても東南アジアの1人当たりGDPは1万数千ドル。今日本は4万ドルとか。という感じだと思うので、今の日本になるにはかなり先というか、もしかしたらならないかもしれないし、そうするとやはり戦略、導入期にそういう戦略をとったとしても、その後どうするのだということを考えていかないといけないと、そういうことなのですかね。
大石:今言ったTOPから入って成功した例としては、例えば資生堂の中国であると思うんですね。最初はクレ・ド・ポーボーテとか、グローバル資生堂を輸入してちょこちょことトップだけに売っていたと。しかしここでは当然、売り上げが大きく上がらないから、遅れという現地向けのものを作った。これは低ステージだけど、上位のソプレシーの中でも1番下ぐらいで、ちょっと頑張れば手が届くと。しかしこれは百貨店というチャネルで売ったわけですね。そこで、ある程度広がっていってブランドも出来たのだけど、そこだけでは今度はさらに広まらないので、その次に専門店とか一般店に売るためにウララとかピュアマイルドとかDQというブランド、チャネルごとのブランド戦略で一般層まで広げていく戦略をやって。今これで、中国で1000億ぐらい売り上げをあげていると。今度は逆に、全くそれができずMTに入れなくて外側から攻めていった、辺境戦略をとったのがインドネシアのフマキラーで、MTは他ががっちり抑えていて、そこに入っていくと森辺さんが言ったようにたくさんの費用を取られてしまうからもう辞めようと。ではローカルからせめて行く。だから今インドネシアのカリマンタン島、昔のボルネオです。あそこのフマキラーのシェアというのは、80%。それでブランドを作っていって、ジャカルタに最後攻め込んでいく。こういう逆の戦略です。
森辺:それって製品によってやはり取れたり取れなかったりするのかなと思っていて、殺虫剤にプレミアムもくそもないではないですか。効けばいいみたいな。瞬間に放ってゴキブリが死んでさらに無害というのが1番なので、多分ブランドもなにも関係ないかなと。なので、TTから、地方からグーッと中央に上がっていって攻め上がっていくという戦略が取れたのだろうなと。一方で資生堂は日本を代表する化粧品メーカーで、高級と言ったらもっと高級なものもいっぱいあるのかもしれないですけど、基本的にはやはり我々が思っているイメージは高級な化粧品、良い化粧品というイメージがあると思うのですけど、やはりこれは製品によっても違ってきますよね。
大石:通常ブランドは落下傘方式でないとダメだと言われるではないですか。つまり、上から下には降りるのです。でも、なかなか下から上には上がらない。だから確かに化粧品は上のところ、まずブランドを作ってそれから普及品も出しているよというのだったらある程度成功するというのはあると思うのです。だから製品によっても違うのですが、たとえばそういう蚊取り線香のようなものもあるのですが、マンダムのインドネシアとか、味の素さんの東南アジアの戦い方というのはやはりそれほど極端な階段層ではなくて、いち早くボリュームゾーンにチャネルを作っていったわけです。だからそういう点で、チャネル構築の良いパートナーを得るということは第1でしょうね。さっき言いましたように、営業とチャネルの違いというのを理解しておかなければ、いわゆる人間の努力だけでやっていこうというか、派遣社員の死ぬ気で頑張れというのはなかなか難しい気がします。それから中国で一番よく言われる、残単当社の評価というのは階下基金にお金を払わないとなると、いかに売掛金の回収を確実にするか。物は売れたけどお金が入らないとか、それで倒産ということも起こりうることですからそこをきちんとコントロールしていくということが非常に大事です。かなり、国内と違ったチャネル問題が海外で起こってきます。
森辺:そうすると、今先生がおっしゃった3つのポイント。チャネル構築にとって重要な3つのポイントみたいな、そういうイメージですよね。
大石:そうです。これはかなり、途上国一般に共通しているものがあると思います。
森辺:良いパートナーもまさにそうですし、営業とチャネルの違いを理解する。これ多分結構分かっていない人が多いのではないかなというのは多いので、そうですよね。あと資金の回収も。
大石:私のところにも相談にこられる企業も多いのですけど、たとえば良いパートナーというとどういう企業があるのですか?と。財閥とかそういう研究はある程度されているのだけど、その地域まできちんと抑えた現地卸しだとか、あるいは優良なところというのはなかなか分からないし、やってみても実際提携してみないと分からないと。これはコンビニだってうまく必ずしもいっていないのです。良いパートナー探しというのが1つの大きな問題です。
森辺:良いパートナーって、僕いつもお客さんをお手伝いしていて思うのが良いパートナーを選定するということと、良いパートナーとお付き合いをした後にいかにこれを育成していくかということがすごく大変で、結局良いパートナーを掴んだのに、それを一緒にやる日本側の人たちが良くないと良いパートナーにならずに、悪いパートナーになってしまうと。だからこれはすごく紙一重だなというのは感じることがよくあって。
大石:おっしゃるとおりです。1つはやはり僕も耳にするのですが、日本企業は全然国のことを分かっていない、破棄しているという現地の人がいるわけです。それから意思決定が遅くて実際にビジネスをやろうとしたときに全然話しが進まない。それでイラついてしまってお前のとこはいらんということもあるし。もちろん向こうの勝手というか、行動パターンの違いもありますよね。だから、そういうものを日本の企業が理解した上でやらなければいけない。たとえば、かなり機械的主義な行動をするとすれば、契約書をきちんともうけてそこに歯止めをかけるとか。いつも言っているのだけど、海外のビジネスは性善説では成り立たないということです。そこをきちんとやっていかないけど、残念ながら経験が少ないとか、特に中小企業さんの場合には海外に出たことがないということになると、なかなかそこを自前でやるというのは難しいのではないかというのが正直なところです。
森辺:契約書をとっても欧米のグローバル企業が結ぶパートナー契約書と日本の企業の結ぶ契約書の厚さは、10倍以上違うというか。向こうの企業はこういうことが起きたら契約の内容はこうねと、想定される事項を全部かき出して、全部その想定に合わせて白黒はっきりさせていったりするではないですか。それはノウハウがないとなかなか出来ないので、日本の事業が中心であった各社の上場企業の法務部とか、顧問弁護士と言っても決してその顧問弁護士がグローバルに活躍している事務所もあれば、そうでないところもあるので、そこまで想定するのは法律的な解釈をうまくするというのは弁護士ができるかもしれないですけど、やはり現場でのキャリアがないとどういう項目を入れておくべきかというのはなかなか出てこないですよね。
大石:ある大手のコンビニがフィリピンでの契約の話しをしてくれたのですが、いわゆるルイソンが何億円になったらこれは解消するのか。そういうのを事細かに決めているのです。段階で、しかも。急にパッとは切れませんから、何ヶ月の検討機関を置いてこういうふうにするとか、このオプションはこっちがもつとかそっちがもつとか。そういう、どこまで赤字だったらこれはちゃんと継続しないといけないと事細かに決めている。それをやるために25年かかったと言っていました、経験値が。
森辺:分かりました、先生。今回もお時間が来てしまいましたので、また次回ぜひよろしくお願い致します。
大石:どうもありがとうございました。
東:ありがとうございました。