東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、引き続き徐向東さんをお迎えしているのですけども。
森辺:除さん、引き続きどうぞよろしくお願いします。
徐向東(以下、除):よろしくお願いします。
森辺:前回と引き続き中国ビジネスのお話をしていきたいなと思うんですが。中国が前回ものすごく変わりましたよねと、この10年でものすごく成長をして、また次の10年もっともっと変わっていくというお話をさせていただいたと思うんですけど。中国ビジネスをやっていく上で、一般的に除さんが本なんかで書いてあるようなこともあれば、一般的に言われることもあるし、色々な難しさというのがあると思うんですけど。日系企業、もしくは日本人、ここを変えないとダメだよねという、除さんは中国人じゃないですか。けど、日本にこれだけ精通していて、これだけ流暢な日本語を喋って。本音で。日本人がどれだけ中国のことを詳しくなっても中々分からない、中国人ならではの分かっている日本企業が変わらないとダメ、日本人が変わらないとダメという、そんなことってありますかね?
除:よく有名な大企業に聞きますと、そこに感謝、社是、社訓みたいなことを掲げていますよね。どういうことかと言うと、だいたい顧客第一、顧客の立場に立って物事を考えろとかそういう言葉を書かれていますよね。これはどこの国でも一緒なのです。それが、私が講演でいつも言うのですが、形と本質を本末転倒してはいけないと。要は、本質とはそういうこと。どこの国に行ってもまず顧客第一。まずお客様に満足してもらわないと商売が成り立たないということなのです。形というのはそれが本質なので、本質の上に仕事の形を作るから。ただ元々、それがようはビジネスモデルなのです。仕事の形というのは。ただ、元々これが機能するには、本質、お客さんの利益を追求しているから、だからうまくいったわけです。ただそれがたまたま日本で成功した会社は、日本の中でそれを作り上げたものなので。日本のサラリーマンの多くは、あるいは中国ビジネスをやっている日本人の多くは、何で失敗しているかと言われると1つはそこなのです。つまり形を本質だと勘違いしたのです。
特に、会社の規模がそんなに大きい会社は、元々ビジネスモデルそのものが今つくりあげたばかりのものではなくて、もっと数十年、30年前に当時は日本と中国の「祖」という言葉がありますよね。一般の経営者が行って、その人が作り上げた。日本のたとえば商売の商習慣を徹底的に覆す。ユニクロもそうなのだけど、立派なビジネスモデルを作りましたと。これもそのまま中国でやろうとすると、うまくいかない。要は、みなさんの目が本社を見ているから。自分が将来また日本に引き返してしまうので、本社がどう評価してくれる。目が中国の人たちを見ていない。中国人に見られる商品を買ってもらうためにはどうすればいい?だから、みんな勘違いしている。たとえば、値段が高いからだから中国人に買ってもらえないだとか。実はそうではなかったのです。値段の問題ではなかったし、中国人の目をちゃんと見ていないと。
これが典型的な例で言いますと、本当にとてもとても簡単な、誰でもすぐ気付くようなことなのですけど、日本人は真面目じゃないですか。前回僕らが空気清浄機の話をしましたけど、今空気清浄機は中国で売れると。SHARPもダイキンもPanasonicも、プラス、フィリップスも売れていると。ところで1位はフィリップスなのです。空気清浄機は、僕は実はものが良く出来ているというか、これは間違いなく日本企業のものだと思います。じゃあ何で中国ではフィリプスに負けている?
森辺:日本ではありえないですものね。
除:そうです。同じようにスマホなんかで、空気清浄機の広告、チラシを持ってきてみたらすぐ1発で分かります。フィリップスの空気清浄機はとても簡単なのです。プロモーションの仕方が。子供が出てくる、親子3人で、中国は一人っ子だから。子供がものすごく大事に、お母さんお父さんが大事にしていると。そこに、その写真にプラス空気清浄機。余計な機能性の説明とか何もない。キャッチフレーズで、あなたの子供を大事にすると。これが中国の社会事情を分かれば中国はみんな新築マンションに住もうとしていて、新築マンションでは内装を中国は全部スケルトンで、内装をしていない、自分でやりますよと。内装で結構悪い材料、建材を使われていて、子供で小児ぜんそくを起こしているとか。
森辺:ホルムアルデヒドみたいなやつですね。
除:だから、空気清浄機というのは本当に自分の子供が生まれたら、まず空気清浄機を買うという。こういうある種強迫観念になっているのだけど、それがずばりそれで訴求しているのですよ。日系の空気清浄機なんか見ていると、技術用語がずらりと。あり得ないことに、あるチラシを持ってきたら小さい文字で上から下まで全部書かれていると。
森辺:イオンだなんだ、どうのこうの、チリを取るとかそうですよね。
除:僕なんて日系と仕事をすると、我々先ほど申し上げたようにホームページも作るし、チラシもやって、プロモーションもやりますけど、だいたい今デザインが、今日も午前中会議をしていて昨日デザイナーが4時まで仕事をしていたと言いますよね。日系は要求が多いし、しょっちゅう書き換え、書き換えとやりますよね。いっぱい、いっぱい書きますから。ところが、そういうのを中国人に見せた瞬間に、中国人はもう情報処理ができない。パンクしてしまう、頭が。その瞬間で。何を言いたいのか、みたいな。そういうのをやはり日本人向けと中国人向けが違うのに、日本国内のやり方を中国でやろうとするのですよ。
森辺:日本国内でも、テレビもそうですけど、機能、機能、機能の宣伝ばっかじゃないですか、家電は。どこなんだかよく分からないから、だから僕がしたいことはこうなんだけど、それに1番適しているのはどれ?と言ってくれたほうが。
除:楽なんだけどね。
森辺:楽なんですけどね。あとはイメージで訴えてくれたら。僕はSONYのイメージが好きだから、機能なんてあまり見ていないです。SONYだったら買おうみたいな。そんなあれですけど、そうですよね。
除:多分、やや消費者を忘れていますよね。
森辺:そうですよね。なるほど。では、それを整理すると、基本理念というか根幹はどこの国へいっても変わらないと。本質は一緒なのだけども、そこの周りのものが日本はいわゆる会社の歴史が100年とかあるわけじゃないですか。そうするとこのガワが古くなってきて、でも除さんそれ、僕らの仕事でもそうなのですけど、日本ってもうチャネルがあるではないですか。チャネルがあるからひたすらそこにルート営業をすればいいですよね。そこに必要な要素は何かというと、営業力なのですよ。けど、海外に行くとチャネルをゼロから作るので、営業力じゃなくてマーケティング力が必要になってくるという、まさにそれですよね。
除:そうです。多くの日系企業は現地に派遣する人が、それこそ国内で営業をやっている人なのですよ。つまり、走り回れば何とかなるとみんな思い込んでいます。これは大きな間違い。
森辺:ならないですよね。
除:そうです。今中国から撤退する会社なんて、よく言うとそうなのです。名前を言っちゃいけないけど、本当にそうなのです。営業の人を派遣して、ただ単に社員に発破かけて、頑張れみたいな。何をどう向けて頑張るのですか?みたいに分からないですから。
森辺:気合いと根性で。
除:気合いと根性で回れば何とかなる。それは全然違う。これは日系の、上海にある日本人にアプローチするとそれがうまくいく。こいつは何度も何度も来るから、よく頑張っているねみたいな。情が多いから、いいか、一回物買ってあげましょうかみたいな。
森辺:我々みたいな日系企業を相手にしていたっていいわけないですからね。
除:中国人にそれをやるとだんだん、あなた何なんですかみたいな。だから僕はしょっちゅう日本の会社に言うのは、うまくいかないなら1回ちゃんと自分の問題を分析しましょうよと。たとえばお客さんが、しばらく最初はアプローチして買っていた人がいたと。でも途中から買わなくなってしまった。中にはずっと買い続ける人がいたりして。中では話をブランドで名前で言えばみなさん分かりますけど、でも絶対一度も買ってくれない。そういう人たちをちゃんと呼んで、ちゃんとじっくり話を聞けばいいのですよ。絶対分かるのです。僕らがこういった仕事に集中してやっていて、だいたい日本人の国内の担当の人を連れて行ったらみなさんビックリしまして、これがうちの社長に聞かせるべき話だったと言いますよね。中国人は意外にそういうところが素直なのですよ。ガンガン言いますよね。これは恐らく東南アジアに行ってもそうですよね。結構言いますよね。2時間と拘束されたら、ものすごく言うのですよ。
森辺:遠慮しないですよね。
除:遠慮しない。中国人にアンケートを書かせるとみなさん適当に書きますけど、だいたい10問を超えたら、15問とか、11問からは適当に書きますよね。でも、ちゃんとこの場所にいて2時間でお互いに負けないくらいガンガン言いますから、そういう話をちゃんと聞いておけば良いのですよ。
森辺:でもそうすると僕いつも思うのですけど、駐在をする方々が会社員じゃないですか。当然会社の業務命令なので駐在をするというのはありなのですけど、本社の事業部長なり、海外担当役員なり、社長なりが、そういう違いを分かっていないと、駐在員の立場からそれを変えていくって、中々難しいではないですか。
除:だから、ユニクロみたいに、柳さんみたいに次は中国市場。中国マーケット。何が何でも中国ではこれくらいの売り上げをつくりますと。そのために何をどうすればいいか考えます。人材をどうすれば良いかを考えます。それぐらいの気合いがないと、とりあえず来年の株主総会では今年は中国をやりますと言いながら、実は本腰を入れていない会社が多いので。日本でうまくいっているから日本のやり方をそのままやっていれば何とかなると思う会社が多いのです。それが結構間違っている。
森辺:上場企業でも株主総会のIRの発表資料を見ていると、色々な目標数値とかこうやります、ああやりますと書いてあるのですけど、こんなの専門家から見たら絶対できるわけないと。こんな目標数値をこの期間で達成している前例が無いもんと。それをやる大枠の戦略みたいな、モヤっとしたものが書かれているのですけど、やはりこれは絵に描いた餅だなというのがたくさんあるし。でもその駐在員が一生懸命現地で仕事をしているわけじゃないですか。だからよく思うのが、我々みたいな支援をする立場の人間が本社のしかるべき権限者の思考を変えていく。東京が1番グローバル化していかないと、中国が変わっていかないという。
除:そうですね。だから、僕がよく言う言葉の1つは、日本人は謙虚になれと言いますよね。つまり、分からないことは分からないと認めちゃうと。今、中国でマンションを作って中国に売ろうとする会社がありますよね、日本では立派な大企業なのだけど。でも作ったら売れないとか。僕らがそこで調査を頼まれていませんけど、よく色々な会社からこういうのはどうすればいいかと色々なところから聞かれるのですよ。あるいは家電の量販店を作って、でもうまくいかないと。日本の会社から聞かれる、どうすればいいかと。実際調べてみたら全部わけがあります。
たとえばマンションは北のほうで作った。上海とは違う、北のほうで作ったと。中国のマンションは基本スケルトンですよね。日本のマンションは内装材のマンションと。だから日本のやり方でやろうと、日本人の強みを出そうと、スケルトンなんて作って中国の会社と同じように勝負すると、日本のほうが作ったほうが全然、日本の強みが出てこない。だから、最初は内装済みのマンションを作ろうと。それはそれで良いのだけど、色々な僕の幼なじみが北のほうにいっぱいいるので、みなさんにマンションの間取りを見せたり話をしていたら、みなさん買わないでいます。私の友達からもそう言われました。何でですか?と聞いたら、親が来たら泊まる場所がないと。日本のマンションをみなさん思い出してください。親が一緒にきて一緒に住むことってないですよね。これは上海もないよね。上海も日本人のようになってしまっているから、大分。でも北の人は親が、そもそも頭金を親が相当支援してくれていますので、今度子供が生まれてくると一緒に来るし。親の住まいまで考えておかないとか、少なくともベッドルームは2つくらいです。この間取りが完全に日本と違うので。
森辺:それはかなりクリティカルですね。建て直しがきかないですもんね。
除:そうですよ。同じように家電量販店でベストバイという中国から撤退したアメリカの。中国の会社がよほど強いと。今ほとんど中国の家電量販店が全部ネットに切り替えています。去年の11月11日、この日は中国最大の通販、アリババサイトが6000億円。
東:1日で?
除:1日で。新宿伊勢丹の2年分。楽天の半年分。1日で売り上げちゃうんですよね。その日に中国の家電量販店のサイトに行きましたらみんなやっているのです。みんなその日に囲い込むだけ囲い込んで、今月の6月18日。GT.comで中国では今家電通販、家電のネット通販ですよ。これがNASDAQで上場している。上場したあとにまた時価総額が2倍くらいついちゃったのです。すごい元気なのです。この会社が、6月18日が誕生日、要は設立記念日なので、イベントをやろうと。そうしたら他の会社がみんなそれに負けては行けないとみんなやり始めましてね。アリババさんで彼らがTモールというB to Cをやっています。今JT.comと競合していますよね。1日で100万台携帯電話、1日に100万台ですよ、携帯電話。そういうのって、みんながそこに行ってしまうではないですか。そういう日に日系さんがやっている家電量販店なんて、キャンペーンなんて何もやっていない。
森辺:もったいないですね。
除:これはありえない。この日にはみなさんそこにドカーンと流れていきますから、それをやらないとダメなので。そういうことなのですよ。
森辺:だからそういう、その情報のセンサーというか感度。
除:ないと。だからそれが、たとえばマンションを建てたら今更取り壊して間取りを変えるなんてできないから。だから最初はもう少し謙虚にちゃんと中国人の声を聞いて、実際に日本の良さを活かしながら、でも現地の人にしてみればこういう間取りがほしい。でも日本の良さをプラスアルファーして、だからみなさん買ってくれる。家電量販の場合はみなさんネットでこの日はやっているので、僕らが何をどうすればいいか。それくらい対策を考えたりとかね。街に出て1番の一等地をとっているのに、そこを行き来する人に聞いたらお店はここに名前がついているのはあるけど、何やっている会社か分からないと言われているのですよ。
森辺:やはり日本の海外担当役員とか事業部長とかだったら、頑固な方が本当に頑固ですから、今まで俺はこれでやってきたのだと。この会社はこれで成功してきているからこれでやるよ森辺くん、という方が結構いらっしゃって。
除:だから先ほどの話に戻るけど、僕は本質、形なのです。もう1回本質とは何ですかと。本質というのはお客さんに満足してもらわないといけないので、自分の形を押し付けちゃダメなのです。それはもうお客さんが逃げちゃうからね。日本で成功したのは、日本で絶対商売の本質をつかんでお客さんに満足してもらえているから、それを中国でやるときには、そのままでやっちゃうのではなくて、中国人の人たちをもう1回喜んでもらうために、じゃあどうすればよいかと。そこは謙虚にならない限りはダメなのです。自分のほうが、こういう囲い方。だからこのまま、お前もこういう場所にしてくれって。それは押しつけになってしまう。
森辺:多いですよね、そういう日本の会社ってのはね。
除:もちろん、日本の技術は良いと思います。同じマンションでも、どうやら僕が聞いた話だと中国は温度を隔絶する、夏はクーラーの冷房を逃げさせない、冬も温かいと。その辺は日本の技術は良いのでね。ただ目に見えない部分なので、それをどう表現するかというのが、またさっきの空気清浄機もそうだけど。
森辺:フィリップスと一緒ですよね。
除:そう。中国人にすぐパッと見てそういうことなんだという。それが重要なのですよ。これが、森辺さんはプロだから業界用語で、消費者インサイド。そこは本当に違うのだから。
森辺:ダイソンなんかまさにそうじゃないですか。掃除機なんて日本の良いのに、吸い取るというイメージであれだけ爆発的に9万円の掃除機を売りまくっちゃう会社というのはまたすごいですよね。
除:実際日本国内でもそうですよ。要は、関西の人から言うと、関東と関西も全然違う。関東で大成功する会社は関西では実はダメだったりするのですよね。だから、日本国内でさえそうなのだから。
森辺:消費者インサイドをしっかり見て本質を理解するということですね。分かりました。除さん、今日も時間が来てしまいましたので、また次回よろしくお願い致します。