東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、今日は素敵なゲストをお迎えしているのですけれども。
森辺:今日はですね、作家でありジャーナリストであり、また先生、コンサルタントでもあるんですよね。中国の莫邦富先生をゲストとしてお招きしております。莫先生、どうぞよろしくお願いします。
莫邦富(以下、莫):よろしくお願いします。
東:よろしくお願いします。
森辺:莫先生の経歴は、もう検索をしていただいたらいっぱい出てきますけど、一応、東のほうから簡単にプロフィールのご紹介をしてもらいましょう。
東:莫邦富先生のプロフィールを読ませていただきます。作家、ジャーナリストとなってまして、1953年、中国上海生まれ。上海外国語大学卒業後、同大学講師を経て、85年に来日。日本にて修士博士課程を修了。95年、莫邦富事務所を設立。知日派ジャーナリストとして、政治経済から社会文化に至る幅広い分野で発言を続け、「新華僑」や「蛇頭」といった新語を日本に定着させた。また、日本企業の中国進出と日本製品の中国販売に関して、積極的にアドバイスやコンサルティングを行っており、日中の経済交流に精力的に取り組んでいる、とゆうことで。
森辺:そうですね。先生の「蛇頭」という本は本当に有名で、私も当然読んでますけども、ものすごく売れている本で。他にもたくさん本を出していて、全部ご紹介できないですけども。先生のお名前で検索していただけたらリスナーの方々もネットで著書なんか…あと、ダイヤモンドなんかでも、もうコラムをずっと書かれていますし、テレビなんかにもたくさん出演していますんで、一度、是非検索をしていただければと思います。
じゃあ先生、今回、第1回目ですけども、先生が連載で書かれている中で、日本に学び、逆転したハイアールというようなお話があったと思うんですけれどね。なんかそのお話を一回ちょっとお話しいただけたらなと思うんですけれども、いかがですか。
莫:わかりました。まあ、ハイアールは、今になるとしてもほんとにみんな知っている中国の最大の家電メーカーだけではなくて、世界的にもやっぱり1位をですね。
森辺:白物一位ですよね。
莫:まあ誇っている会社ですね。このハイアールはですね、実は、海外に最初に紹介したのは私です。98年の時点ではですね、わたくし中央公論新社にちょうど編集者が遊びに来て、次回の原稿は何を書くのか、テーマは中国の家電企業を取り上げようと。ちょうど家電企業を取り上げること自体はですね、編集者も全然驚かないんですが、じゃあいいじゃないか、ということで決まったんですね。
しかし、私の原稿を見て彼らはびっくりしたんですね。このハイアールを、その中で実はハイアールとレノボを取り上げたんですが、当時ハイアールとレノボはまだ中国で完全に1位になっていないのですね。彼らよりもっと名前が知られている、勢いが強い会社もあったのでですね。問題はそのとき私はハイアールをですね「やがて中国の松下電器になるだろう」と、予言したわけですね、タイトルにもしたんですね。
森辺:98年に。
莫:それがですね、いわゆる当時、中央公論の編集者が驚いたんですね。「大丈夫なのか」と聞くわけですね。家電というのはやっぱり日本の企業が一番強いのでですね、中国の松下となるとしたら中国を出ていかないと松下にはならないわけでですね。つまり、松下電器、いまのパナソニックのように世界を制覇するような企業多いほうが(? 5:34) でして、それを彼らが驚いたんですね。実際ハイアールを取材するためにですね、1年間ずっといろいろ資料を読んでですね、ハイアールにすべきなのか、ほかの企業にすべきなのか色々
森辺:研究をして
莫:してみてですね。最後にハイアールに決めた最大の理由はですね、そのライバルの会社など彼らより勢いのいい会社でも、やっているビジネスモデルは中国企業の在来の伝統的なやり方ですよ。たとえばこれをテレビを売ろうと、しかも競争が激しくなるとですね、テレビの値段は下げたくないんですが、じゃあ電子レンジをくっ付けて、この値段で行こうと。まあ(? 6:26)の値下げ作戦ですね。これは中国企業、実はよく使う手で、言い換えれば1-αでやるわけですよ。
ハイアールがやっているのも値段はそのままでですね、サービスですよ、24時間サービスを展開するとか、それが世界から見たらですね、非常に目新しさを感じたんですね。ちょうどプラスアルファになっているものを、ちょうど中国企業が当時もっとも欠けているところでした。お客さんに(? 7:03)。サービス。
なぜかというとですね、中国は昔、家電などですねたとえば冷蔵庫などですね、もう、売り手市場ですから。多分うちの娘が1983年に生まれたんですね。8月に生まれてですよ、真夏ですよ。その子、娘が生まれてですね私どもはまずですね喜ぶよりもですね、まず頭をかけたのはまず「牛乳とかどうしよう」と。当時中国人の家にはまだ冷蔵庫がないんですよ。それで冷蔵庫を買わなければならない。その冷蔵庫を買うためにはですね、いろんなところ頼んでですね、当時中国でも私の名前が売れていたので、中国の冷蔵庫工場のいわゆる特に冷蔵庫会社の社長に頼んでですね、当該品、いわゆる規格外の商品を回してくれたわけですね。
この等外品というのはですね、規格外の商品。ただA級品、B級品あるんですが、ただA級B級以外のものをですね、なぜか市場では出せばすぐ売れるということでですね。一等品ではなくても二等品でも、たとえば冷蔵庫だとすべて完璧なものを一等品だとすれば、運ぶとき不注意で外のペンキが少し、塗装が少し傷つけたと。品質には何の問題もないというようなこれをB級品にしてですね。さらに多少問題があるとか、あと取り付け方がちょっと悪かったとか、歪んでいるとか、かといって使える、たいしたものが等外品ですね。この等外品を回してくれたわけです。こんな状態だったんですよ。
ハイアールも同じようですね、等外品のものが出たんですよ。それで、数字は忘れたんですが十何台か数十台なのか忘れたんですが、ハイアールの社長、張瑞敏さんがですね、みんな買った女性を集めてですね、当時彼らの冷蔵庫がですね、主な部品はまだドイツから輸入したものでですね、ドイツの家電メーカーから輸入したもので、貴重な外貨。いま中国は外貨があふれていますが、昔はものすごく貴重な外貨です。貴重な外貨を使って、ドイツから遠く輸送をしてきて、ここから人件費とか全部かけて商品を作って、しかし使えない。お客さんが満足できるようなものになっていない。ですから二度とこんなものを作ってはいけないという決意を示すためにハンマーを持ってきて叩き壊そうとしてですね。
当時、この叩き壊そうとした冷蔵庫がですね、2つドアのある冷蔵庫とか入っててですね。社長の張瑞敏さんの給料よりも高いんですよ。社員のみんなはですね、品質の悪いものはこれからは作らないように努力します。それを叩き壊すのではなくて、値段を少し割り引いて私たちが買おうと。会社に損害をできるだけ与えないようにと。張瑞敏さんのためと。こういう逃げ道があるとですね、作ってしまうんだと。
森辺:当時の、84年とかね、その時代に品質に対するしっかりとした考え方をもっている中国の経営者って、そんなに多くなかったですよね。
莫:なかったですね。ですからこれを叩き壊して、その現場にいた品質担当の課長がですね自分はもう涙が出たんですね。悔しかったです。品質担当は自分の担当です。冷蔵庫会社の社長の家にも、その品質担当の課長の自分の家にもまだ冷蔵庫がない時代ですから。ですからそれがやっぱり一生懸命やらないとと、いわゆるハイアールの成功、こういった精神からスタート。
森辺:なるほどそこを見抜いたわけですね。それで先生が予言したというのはそういうところだったわけですね。
莫:そうですね。
森辺:だって当時80年代とか90年代とかって、中国が世界の工場になっていったじゃないですか。そのときわれわれ日本人は「中国製なんて安かろうだ悪かろうだ」って馬鹿にしたんですよね。
莫:そうですね。
森辺:けどじゃあ今、ふたを開けてみたときに、だれが中国製を安かろう悪かろう言ったかって言ったら、もう誰も言わないじゃないですか。誰も言わないうえに、家電の世界っていうのは、実は、日本にいるとまだまだ日本のメーカーの商品が家電屋さんには並んでいるけど、世界で見たときってハイアールがやっぱりNo.1になっちゃってるってのは、なかなか知らない事実ですよね。
莫:そうですよね。ですから日本の問題は特になにかというとですね、韓国では国民市場で企業を支えきれないわけですよ。日本だとですね、国民市場で中途半端に支えられるわけですよ。
森辺:1億2700万がいてですね。
莫:ですから日本国内見るとですね、携帯電話も売れているじゃないの、カラーテレビも売れているじゃないの、冷蔵庫も日本製じゃないの、と安心できるわけですよ。危機感がわいてこないんですね。海外に行くとですね、全然違った風景になっているわけですよ。そんなの日本人は昔ほど海外に行かなくなってしまうわけですが。ここが雨だったら、ここが梅雨だったら、もう日本中、世の中すべて梅雨だと思い込んでいるわけですね。ほかのところもう梅雨が明けて晴れているんですよ、と。そうゆうのがですね、近年日本の企業のみなさんと意見交流するときにですね、ある種のもどかしさを覚えたわけですね。
森辺:なるほどなるほど。世界人口70億、日本の人口は1億人切るって言われていて、ある一つの予測では8000万人くらいになると言われているんでね。ますますそういう視野で世界を見ないといけないし、さっき先生がおっしゃってたレノボだってIBMのシンクパッド、買収したのはレノボですし。ハイアールは日本ではサンヨーのアクアブランドの買収でアクアとして今活躍して銀座に大きいビルがバーンと建っていますからね。
莫:そうですね。
森辺:なるほど、そういううあれだったんですね。
莫:当時、私、レノボを取り上げた時もレノボの名前は、後の名前ですよ、以前はレジェンドですよ。海外に進出できないわけですよ。調べてみたら、家電の会社ができる前に、もうできたこういった名前が使われている。ですから、会社ができるときはですね、海外進出などは考えていなかったんですよ。ハイアールを含めてですよ。中国国内で十分やっていけると思ったんですね。
ですからこの中で彼らが海外に出てきて、いろいろと面白い言葉があるんですね。「(? 15:03)外に出て行く」、「(? 15:05)中に入っていく」。今はですね、「(? 15:10)さらに上に行こう」と。海外進出の方針としてください。今までは出るのが一番の目的である。そしてやがて入っていく。入っていくこともできたわけですね、海外市場に。いま彼らに求めているのは「(? 15:29)さらに上のレベルに行こう」ということですが。
森辺:だから結局、中国企業のほうがよっぽどグローバルで、13億の人口がいますかね、13億いて日本と同じくらいの富裕者層がいるわけじゃないですか。それでも国内だけを見るんじゃなくて、外に上にっていう意欲をメーカー自身が持ってるっていう、そういことなんですかね。
莫:だから結局、中国13億人いると言っても、世界の70億人の市場と比べると、やはり1/5しかないわけですよ。そういった意識をですね、今の中国、特に優良企業のトップはだんだん持つようになっているのですね。
森辺:見習わなきゃいけないですね、日本企業もね。なるほど、そんなストーリーがあったんですね。わかりました、先生、ちょっと今回もうお時間が来てしまいましたので、また次回、おもしろい事例含めて引き続き中国の話をしていただければと思います。どうもありがとうございました。
莫:よろしくお願いします。
東:ありがとうございました。