【特別対談】国際マーケティングの補助線 唐沢 龍也 教授 – 国際マーケティングとグローバル・マーケティングの違い
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この放送の要点
- 唐沢龍也教授が広告代理店に29年半勤務した経歴を語る。
- 国際マーケティングは国ごとの違いに合わせる手法だと説明する。
- フマキラーの殺虫剤がインドネシアの蚊に合わせ現地開発された例を挙げる。
- グローバル・マーケティングは世界を一市場とみなし標準化と適合を組み合わせる手法だと語る。
関東学院大学の唐沢龍也教授と、国際マーケティングとグローバル・マーケティングの違いについて話す回です。国際マーケティングは国ごとの違いへの適合を、グローバル・マーケティングは世界を一つの市場とみなした標準化と現地適合の両立を指すと日用消費財を例に説明する。
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唐沢龍也 (著)
森辺一樹(以下、森辺):皆さん、こんにちは。SPYDER INITIATIVEの森辺です。今日はまたまた、大変ビッグなゲストを番組にお招きしております。今日のゲストは、関東学院大学の唐沢教授でございます。唐沢先生、どうぞよろしくお願いいたします。
唐沢龍也教授(以下、唐沢):よろしくお願いいたします。
森辺:唐沢先生とは、これまたグローバル・マーケティングの大石芳裕先生のご紹介で、もう結構、私、先生のことを知って、ご挨拶させていただいてから、結構長いですよね。
唐沢:そうですね。
森辺:大石先生の明治大学の退官記念パーティーのときに司会をしていただいて、先生のトークがめちゃめちゃ面白くて、場の雰囲気をあれしてくださったので、「うわ、助かったわ」と思って、そのお礼もできぬまま今日に至ってしまいまして。
唐沢:いえいえ。
森辺:そんなご縁があって。少し前に送っていただいた先生のご著書『国際マーケティングの補助線』を読ませていただいて、ぜひ先生に番組に1回来ていただきたいなということで、今回お忙しい中、無理を言って来ていただいたという、そんな経緯でございます。
唐沢:ありがとうございます。
森辺:ちょっと、先生、簡単に自己紹介、専門なんかも含めてちょっと自己紹介をしていただいてもよろしいですか?
唐沢:はい。唐沢龍也と申しまして、今、横浜にあります関東学院大学の経営学部で国際マーケティングを専門として授業を担当しております。もともと、今ここは虎ノ門ヒルズですけど、虎ノ門ヒルズに入っていたアサツー ディ・ケイという広告会社で29年と6カ月。
森辺:長っ。
唐沢:(笑)大学を出てからずっと勤務をしていまして、主に海外の日本の企業のプロモーションを担当していたという経歴で、1999年から2004年まで5年間、フランスのパリに駐在して、ヨーロッパのオペレーションなんかも担当していたという経緯があります。
よく、「なぜ大学の先生になったの?」と言われるんですけど、当時、現地のクリエイティブ・エージェンシーと合弁で会社をつくって、エアというフランスベースの企業だったんですけど、そこの会社のやっぱり経営陣の人たちを見ると、みんなビジネススクール出身者が多くて、あと、INSEADというフランスにある有名なビジネススクールで教えていたりとか、やっぱり広告マンもちゃんと勉強しないとこれから生き抜いていけないだろうなというのは、彼らを見ていてすごく影響を受けたところがあって。
森辺:そうだったんですか。
唐沢:帰国したあとに自分はやっぱりそういう勉強したいなっていう意識があったのと、ちょうどリーマンショックが2008年に起こって、なかなか自分がやっている海外プロモーションの案件がみんなストップしてしまうというようなちょっと事態になったので、時間ができたので、上長に相談したら、業務に差し支えなければ行ってもいいんじゃないっていうふうになって、早稲田のMBAで勉強させていただいて、そのあと、さっき森辺さんがおっしゃった、明治大学の大石先生のグローバル・マーケティング研究会に参加するようになって、ここで自分の生涯の師匠を見つけることができたなということで、先生の博士後期課程に入りたいんですってご相談をしたら、最初は実務家は採らないっていうふうにおっしゃってたんですけど、いろいろ専門学位の論文とかを読んでいただいて、試験が受かれば考えましょうということになって、試験が受かったので。
森辺:うわー、すごい!
唐沢:無事に弟子にしていただいたという経緯があって、アカデミックな世界に半分片足突っ込みながら業務をやっていたという感じで今に至るという感じですね。
森辺:でも、先生みたいな方って重要ですよね。実務30年、広告代理店で海外やって、それでアカデミックの領域で自分の実体験、実経験をもとに授業をされたり研究されたりするということですもんね。
唐沢:実務家からやっぱり教員に、大学の教員になる方は最近増えてきていますし、時代の要請として大学もそういう人を採用していかなきゃいけないっていうのは流れとしてはあるんですけど、ただやっぱりアカデミックな世界ではあるので、実務経験だけでやっぱり体系的な授業をやるとなると、結構難しいものはあるかなと思います。2年ぐらいは持つんですけれど、その先がやっぱりなかなか難しくなってくるっていうのは、違う課題ではあるかなと思うんですけど、そういう意味ではアカデミックの、早稲田のときも川邉信雄先生という、やっぱり純粋なアカデミシャンの先生でしたし、明治大学の大石先生は本当に純粋なアカデミシャンなので、アカデミックな先生に結構鍛えられたというか、しっかりトレーニングされたので、そこはやっぱり自分としては良かったかなと思っていますけど。
森辺:そういうことなんですね。いや、それでつながりました。広告代理店に30年もいらっしゃったら、それは話上手いなって思ったので、司会上手いのは当たり前かと思って。
唐沢:いえいえ。
森辺:大学の先生っぽくない司会だったので。よく分かりました。ありがとうございます。
ちょっと早速その唐沢先生、この『国際マーケティングの補助線』でもいろいろと書かれているこの世界はボーダレス化でなくなった、グローバル化の逆回転、地政学みたいなところからちょっとお話を伺っていこうかなというふうに思うんですが、お願いできますでしょうか。
唐沢:グローバル化しなきゃいけないっていうのは、1980代の後半ぐらいから、中国が天安門事件以降、やっぱり鄧小平の南巡講話に始まって、市場を世界に開いたことによって一気にグローバル化ということが進んできたんですけれども、やはり2015年ぐらいからというふうに言われているんですが、やはりロシアのウクライナに攻め込むというようなことがあったりとか、どんどん地政学的に不安定なことが起こってくる中で、ある意味米中の対立があったりとかというふうに、どんどんあるブロック化していくというか、そういう国境がどんどん出てくるというような現象が出てきたことが結構今の、さっき申し上げたような、逆回転に、グローバル化の逆回転というような運動になっているんじゃないかなというふうに思っています。1つ一番大きかったのは、2020年のやっぱりコロナ、新型コロナウイルスのパンデミックだと思うんですね。
森辺:そうですね。
唐沢:あれによってやっぱり人が動けなくなって、要するに自由に交流がなかなかできなくなっていくという中で、要するにボーダーというものは物理的にもこんなにもはっきりとあったんだということがやっぱり認識されたということが結構大きいかなと思います。
森辺:そうですね。これ、世界のグローバル化の続きで言うと、マーケティングの領域においてもボーダーを越えていくマーケティング、いわゆるグローバル・マーケティングとか、もう1つ、先生の今回の本のタイトルにもあります「国際マーケティング」みたいな言葉もあると思うんですけど、結構リスナーの皆さんって、この国際マーケティングとグローバル・マーケティングってイコールって考えている方が結構多いのかなっていう気がしていて、この辺の違いも少しご説明をいただけるとありがたいんですが。
唐沢:学生なんかにも授業の中でも最初に伝えていることは、「国際マーケティングとグローバル・マーケティングというのは概念的には違うことなんだよ」というふうに最初に伝えているんですね。というのは、これは僕の師匠の大石先生もおっしゃっていることですけれども、要するに国際マーケティングというのは、国による違いというものを前提して、それぞれの市場に適合化してマーケティングをやっていくということがメインになりますので、ですから、日本とインドネシアとか。有名な例で言うと、これは大石先生も本に書かれていますけど、フマキラーという殺虫剤の会社が、やはり日本でつくっていた殺虫剤をインドネシアに輸出したところで、やっぱり蚊がそもそも違いますので、ネッタイイエカというのは抵抗力も強いですし。
森辺:強いし、でかいですしね。
唐沢:でかいですし。マラリアとかデング熱だとか、そういう病気を媒介する恐ろしい蚊ですから。そういうやっぱり環境の違いとかを、やはり日本のものをすぐ持っていってもまったく効かないと。効かないということは、もうマーケットとしてはニーズがないということなので、売れないので、赤字の垂れ流しということになりますけど。やはり市場の違いを現地に適合化していくと、現地に蚊の研究所をつくって、その蚊がやっぱりいなくなるような安全な殺虫剤を現地で開発していかなきゃいけない。しかもやっぱりそれを売っていくためには、ちっちゃな村にあるワルンと言われている小売店、そこにやっぱり配荷されない限りは商品が消費者に届かないので、男女2人のペアで車で回っていって、周りの家にサンプリングしながら蚊取り線香を売っていくというような、そういうやっぱり現地に合わせたようなことをやっていかなければ、やっぱりこれはシェアを獲っていけないという、やっぱりそういう国と国の違いを乗り越えて、そこで何をやっていくかというのが国際マーケティングということです。
一方のグローバル・マーケティングというのは、やっぱり世界を1つの市場と捉えて、できるだけ製品であるとか、あとブランド、コミュニケーションというものを標準化しながら現地に合わせるところは合わせていくという、ある意味いいとこ取り、これは僕の師匠の大石先生は複合化というふうにおっしゃっているんですけど、要するに標準化するところと現地適合するところのハイブリッド戦略をいかにやっていくかということが中心になりますので、この代表で言うとネスレがそうだと思います。要するにネスレというブランドは世界共通ですけれども、コマーシャルもネスプレッソなんかはジョージ・クルーニーを使って全世界統一でやるわけですけど、ただ実際それを現地の市場に売っていくときにはその国に合わせたかたちで展開していくというようなことをやっていますので、グローバル・マーケティングになると、いかに世界中に展開された成功事例であるとか、そこで生まれてきた新しい価値みたいなものをほかのところに展開していけるか、共有していけるかみたいなところがテーマになってきますので、国際マーケティングが要するに積み重なって重層化していって発展した段階がグローバル・マーケティングというかたちになろうかと思います。
森辺:分かりやすいですね。リスナーの皆さん、すごい分かりやすかったですね、今の説明。そういうことですよね。日本か海外かというものが国際マーケティングで、それが重なっていくとグローバル・マーケティングで。じゃあ、どっちが良い悪いということではなくて、基本的にその昔はたぶん日本と、分からないですけど、香港とか、日本と台湾とか、日本とインドネシアとか、そういうことで良かったのが、蚊で言っても、インドネシアの蚊もフィリピンの蚊もタイの蚊もベトナムの蚊も日本よりでかくて強いということは共通しているので、そこはグローバル・マーケティングでいいんじゃないかという、こういう考え方だと思うので。なので、今はグローバル・マーケティングで世界標準化しながらも現地適合化させて進んでる感じなんですかね、各企業が。
唐沢:今、森辺さんがおっしゃったように、グローバルの手前にはやっぱりリージョナルというものがあって、例えば東南アジアであれば東南アジアに似ているような地域の環境、それに合わせて同じ成功事例を展開していきやすいということもありますし、例えば地域にちょっと外れていても、同じ緯度経度にあるようなところは同じような環境があったりするので、例えばアフリカであるとか、中近東であるとか、中南米みたいなところにも、実はフマキラーさんは輸出していたりするので、ベトナムから。だから、そういう意味では、その手前にはやっぱりリージョナルというような概念があって、またそのリージョナルの積み重ねがグローバルになっていくというかたちだと思いますね。
森辺:そうですよね。部分最適と全体最適というような感じにも似ているのかもしれないですかね。
唐沢:ですね。国際マーケティングというのは、どちらかと言うと部分最適を狙っていくと。部分最適の、要するに集合体が全体最適になるということなので、グローバル・マーケティングというのはそういう位置づけになるかなと思いますね。
森辺:今、例えばこの日用消費財の分野で言うと、欧米の先進グローバル企業も、成長著しいアジアの企業も、少なくとも欧米先進グローバル企業は完全にグローバル・マーケティングをやっているし、アジアの成長著しい企業もリージョナル・マーケティングからグローバル・マーケティングの方向にはいるじゃないですか。なので、やっぱり日本企業もそういう方向で変わっていかなきゃいいけなくて。だから、国際マーケティングよりグローバル・マーケティングが良いということではなくて、国際マーケティングも理解しながらグローバル・マーケティングもやっていくという、そんな感じになるんですかね。
唐沢:そうですね。そこがやっぱり、これも今度は組織の体制と関連していくことなので、やはり本社の組織の役割というのが、要するに国際マーケティングの段階であれば、本社と現地拠点の調整事項をやればいいということですから、日本の企業に多く見られたのは、日本人の社長を現地に派遣して、本社と調整をやりやすくすると。分かっているよねというような状況の中でやるわけですよね。ただ、これが全世界になったときにそれで通用するかと言うと、やはり現地人のトップを立てて、あるいは日本の本社の中にも海外の人を入れてというような、やっぱり組織の体制をどうそれにフィットさせていくかというようなことが問題になると思うんですけど。
森辺:そうですね。
唐沢:そこがやっぱりなかなか、企業として進めていくのは、日本の企業の場合ちょっと難しいというか、なかなか進んでいないところはあるかなと思います。トヨタさんなんかの場合は、もうアメリカなんかはアメリカ人の人がトップになっていますし、ヨーロッパなんかもヨーロッパの人がトップになっていますから、地域によってはもうそういうふうに変えざるを得ないという対応をしている企業もあろうかと思うんですけど、大部分はやっぱりまだ日本の人を派遣して、日本語で報告をやり取り、調整するということにどうしても行きがちかなというところはありますね。
森辺:そうですよね。だから、グローバル・マーケティングも周回遅れ的なところはあると思うので。でも、そうですね、今日はこの国際マーケティングとグローバル・マーケティングの違いが整理できただけでも、たぶん非常に良い勉強になったんじゃないかなと思います。
唐沢:ありがとうございます。
森辺:ありがとうございます。今日はじゃあ、ここぐらいにしておいて、また次回、先生と引き続き、お話を進めていければと思いますので。
先生、どうも今日はありがとうございました。
唐沢:ありがとうございました。
森辺:それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。



