東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:前回はディストリビューターの可視化って我々が呼んでるところがイメージできてないからMT論、TT論の先になかなか一歩踏み出せないってところだったんですけど、そのディストリビューターの可視化のところで3ステップあるっておっしゃってたんですけど、そこを少し詳しく話していただくのと。もうひとつ競合をきちんと見るっていうところが森辺さんが常々言われてるところだと思うんで、その2つを具体的にどのタイミングで、どうやっていけばいいのかみたいなところをお話いただきたいと思うんですけど。
森辺:まずMT論かTT論かって言ってピンと来ない人は、そこを理解する必要があるじゃないですか。ただ私が接してる多くの日系の上場している食品日用品のメーカーは、MT論かTT論かっていうのは分かっててTTが重要だってそこまでは分かってるんですよ。そこから先が出ないっていうのはディストリビューターの活用の仕方のイメージがついてないっていう話で。ディストリビューターをまず整理する、可視化する、全部リストアップする。
例えばベトナムだったら、ホーチミンのマーケットが圧倒的に大きいわけじゃないですか。ホーチミンのマーケットに何社のディストリビューターがいて、その人たちがどのエリアにどんな商品を配架していて、どういうトレードに強みがあるのか弱みがあるのかっていうことを整理するっていうことを、一番最初にやらないといけないんですよね。その中から自分たちに一番合ったディストリビューターを選ぶっていうことをやるんですよ。例えば食品日用品のディストリビューターってフード、ノーフードって分けられるんですけど、フードが9割でノーフードが1割の会社もあれば、5割5割でやってる会社もあれば、まちまちなわけですよね。自分たちがフード売ってたら、基本的にはフードに強いディストリビューター取りに行くわけじゃないですか。ただ、一方でフードに強いところは、既に欧米の競合フードメーカーがそこを使ってたりするわけですよ。そうするとなかなか自分たちの商品を組み入れてもらえないっていう問題があるんですよね。そうすると実はフードはもう駄目だからノーフードのディストリビューター活用しようっていうことになる場合もあれば、もう少し規模の小さいところを今度は数をいっぱい設けて、エリア毎に分けて使おうとかって、そういうことにもなるんですけどね。それはまあいろんな軸で切っていくんですけど、基本的にはそれで選定をしていかないといけない。
今度選定をしたら、あんたがうちの代理店なんだから後は任せたよ、よろしくねっていうのが大体日系のパターンなんですけど、そのディストリビューターと間口獲得目標に向かってウイークリーでそれをいかに管理マネージメントしていくかっていうのが第3ステップなんですよ。これを2、3年ぐるぐるやって、とにかく間口獲得をする。例えばベトナムの例で言うと、50万間口くらいトラディショナルトレードがあるわけですよね。そうすると、その2、3割の間口くらいは取っとかないといけない。そうすると20万間口くらいは取りたいわけですよ。それをディストリビューターと共にやっていくっていうことがすごく重要で。ディストリビューターは基本的にはMTやりたいんですよ。だって楽だもんね、1店舗でドーンと売れるから。TTなんか嫌だって言うんですよ。けどそのディストリビューターにTTで売ることによって将来これだけの利益があなたたち得られるんですよっていうことをロジックで説明していかないとディストリビューターなんて動かないわけですよ。そこまで深いディールミーティングになかなか入れてない、ディストリビューターと。それが最大のポイントですよね。なんかこのディストリビューター、日系のどこどこが使ってるからいいなあとか、このディストリビューター一番大きいし有名だからいいなあとか、そのレベルで選定するわけですよ。でその後はもう任せてるから、1ヶ月に1回訪問してよろしくね、とか、今月どうだったとか来月どうですかっていう結果至上管理みたいなのしかやらないわけですよね。具体的に間口をどう取ってみたいなことはやらないですよね。
ベトナムの話なんでベトナムではエースコック強いじゃないですか。エースコックが今まで何やってきたかっていったら、朝エースコックの社員が車に乗って、今日はあのエリアのトラディショナルトレードの間口1個1個潰していくぞってことをやるわけですよ、彼らはね。それをずっとやってきて今のマーケットシェアがある、みたいなことをやっていかないとなかなか難しくて、でもエースコックさんくらいベトナムで伝統小売りの間口が取れれば、今までBTLさんざんやってきてるわけじゃないですか。一気にATLに切り替えてもそれがしっかり跳ね返るっていうのがひとつですよと。その3ステップですよね。
東:一方で同時に競合環境を見るっていうのは具体的にどういう内容でどういうメリットがあるかっていうのを教えていただきたいんですけど。
森辺:僕ね、ベンチマークしようってよく言うんですけどね、やるんですけどね。自社の競合がその国でチャネル戦略をどうしてるのかっていうことを開いていくと、それをベースに自分たちの戦略考えられるんですよ。当然同じことを遅れてやってもかなわないじゃないですか。彼らはずっとやってるわけで、彼らよりももっと多くをやらないといけないわけですよね。それが現実的なのかどうかってのも見ていかないといけないし、ベンチマークをすることで彼らの本当の意味での脅威、今の競合がマーケットシェアをどうやって作ってきたのか、それは切り崩せるものなのかそうじゃないのか、もし切り崩せるんだとしたらそれはどういう方法なんだっていうことを炙り出すのがベンチマークなわけですよ。それをやらない企業が多いですよね。ネスレはネスレだもん、強いよね。ユニリーバはユニリーバだから強いよね。P&GはP&Gだから強いよねと。それじゃあどう強いのっていうことを見て行かないと。本当言うとASEANで言ったら穴なんですよ。ネスレとかP&Gとかユニリーバなんて、インドや中国に比べたらASEANの力の入れ方なんて弱いんですよ。そうすると実はそこは穴なのに、グローバルでネスレ、P&Gが強いから絶対勝てない相手って決め付けてるわけですよ。利益の出ないMTにひたすら投資するみたいな。そうじゃなくて、彼らを見ていくっていうこと。特にASEANは僕は穴だと思っていて、インドとか中国の力の入れ方とASEANの力の入れ方比較したら、ものすごい差があるんですよね。だからそれはすごく感じるんで、そこはやっぱりやらないと駄目ですよね。
東:その次に具体的に何をやるかっていうのが、やったことがなかったり、まずそこに焦点が合ってないので考えてなかったっていう企業さんもいらっしゃると思うので、どういったところを見ていくのか、それに対して具体的にどういったものが得られるのかっていうのを簡単に説明いただければと思うんですけど。
森辺:例えば、ベトナムのユニリーバがね、今売上がいくらありますと。その売上を作り上げるのは間口数じゃないですか。そうすると、僕はまず一番最初に売上を見るわけですよね。簡単にいうと、売上を見た後に、この売上を構成している間口数は何間口あるのかってのを見るんですよ。その間口数の比率がMTが何十%、TTが何十%っていうところを見ていくわけですよ。そうすると、圧倒的にTTの方が多いねっていうことに気付くんですよ。そうするとTTの間口はどうやって獲得していったのか、現在していってるのか、維持しているのか、それを調べていくと、そこにディストリビューターという人たちが見えてくるんですよね。そのディストリビューターという人たちがどういう人なのか、日系みたいにとにかく大きいところっていうわけじゃないんですよ。けっこう中堅のところ使ってたりとか、あとディストリビューターじゃなくて地域一番店みたいな小売りを使ってたりとかね。そこにはいろんな戦略が見えるわけなんですよ。ああ、さすがだなあと。
例えば地域一番店みたいな地域密着型グローサリーが、午前中は小売りやってます、午後から地域の伝統小売りに注文取りに行くディストリビューターに変わりますと。そして夕方また路上に人がいっぱい出てくる時間になったら小売りに切り替えます、みたいなことをやっていて、彼らの店先で自分たちの商品をBTLでブランド力を作っていって、っていうことをずっと繰り返しやってるんですよ。だからよくアジアにいくと、変な商店のパラソルがネスレだったりユニリーバだったりP&Gだったりするじゃないですか。ちっちゃいお店の店の名前を書いてあるところがユニリーバの看板になってたりね。そういうものを見ていくと自分たちがどのチャネル戦略にどれくらいの投資をして、どれくらいの数値目標に向かって間口を取っていかないといけないのかっていうのが見えてくるわけですよ。
もっと深くブレイクダウンしていくと、ユニリーバのベトナムのチャネル獲得の主要なディストリビューターってここで、それをマネージメントしている社員ってこれだねって、重要なポストの社員とかが見えてくるわけですよ。場合によっちゃそれを引き抜いてくるっていうこともやっていかないと。そことあとチャネル獲得をどれだけ多くやれるかっていう話じゃないですか。そこの競争にまでまだ入れていないわけですよね、日系企業っていうのは。商品力だ何とかだって言うわけなんですけど、そこの競争にまずは入らないと、なかなか厳しいと思うんですよね。
東:その競争に入れば勝てる可能性は。
森辺:だって日本製の方が絶対にいいですよ。僕は思いますけど。ブランドはないかもしれない。ただどう考えても日本製の方が製品力はあるわけなので、やっぱりチャネル力。チャネルを作れたらそれがブランドになるんで、チャネルはブランドを作るんですよね。なので、そこがすごく重要で。特に日用品、食品、消費財で商品名は覚えてるけど、会社の名前なんて覚えてなくないですか。うまい棒は知ってるけどどこが作ってるか分からないですよね。ガーナチョコレートはロッテだっけ、明治だっけ、僕は知ってますけど分からない人多いですよね。メリットってシャンプーあるけど、花王、ライオン、どこ?ってみんなそうですよね。アジエンスってどこだっけって、アジエンスはさすがに花王ってみんな分かってるかもしれないですけど、基本的にそういう話なんで。そうすると、店に並んでるものをこれ知ってるって手に取るわけじゃないですか。だから先に店に並べないと、知ってるも知らないもないんですよね。
東:分かりました。今日はここまででまた次回よろしくお願いします。
森辺:よろしくお願いします。