東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:前回に引き続いて講演の内容をシェアしたいと思うんですけど、森辺さんがよくセミナーでも話されると思うんですけど、技術力の時代からマーケティングの時代に変わったっていうことを話されると思うんですが、なんで変わっちゃったのか、そしたらどうしたらいいのかみたいな話が当然あると思うんですけど。その辺を少し順序立てて、ポッドキャストではあまり話したことがなかったと思うので、お話いただきたいんですけど。
森辺:日本企業のアジア展開とかグローバル展開において、基礎となる考え方というか、根本的なところの話なんですよね。我々がジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれてた時代と今では、価値の源泉がすごく大きく変わったということをなかなか理解できていない企業が多い。そのままの頭で海外に行くと、どうしても戦略が昔寄りに振られちゃうんですよね。そこを変えないとなかなかブレイクスルーしないですよ、っていうお話をしていて。価値の源泉が技術力からマーケティング力に移行しちゃってるんですよ、今って。
これは何を言いたいかっていうと、1970年代とか80年代とか90年代って、もの作りがすごい重要だったじゃないですか。技術力とか品質とか。そこが高ければ高いほど日本企業は世界で認められたんですよね。なぜならば、日本企業にしか作れなかったから。アメリカがもともと作っていたもの、ヨーロッパがもともと作っていたものを我々は技術と品質を極限まで磨き倒してそれを超えたわけですよね。そして彼らはもう作るのやめた。いつしか日本企業しか作れなくなっちゃった。そんな勢いづいた時代ですから。音楽を持ち歩くみたいなウォークマンみたいな製品ができたりしたじゃないですか。そういう中で日本企業は技術力、品質が全てだって思ってきたわけですよ、今まで。それがアジアに生産拠点を移転させたおかげで、韓国や中国、台湾の企業でも作れるようになっちゃったわけですよね。だからテレビとか家電とか黒物、白物、車、これがアジアの企業でも今は作れるじゃないですか。
これがどういうことかっていうと、日本企業しか作れなかったものがコモディティ化しちゃった。コモディティ化っていうのは他の国でも作れるようになっちゃった。だからそこに競争が発生しちゃったわけなんですよね。一昔前は作る力が重要だった。今はいろんな企業がそれを作れますから、売る力っていうものがすごい重要な時代にパラダイムシフトしちゃったんですよね。パラダイムシフトっていうのは今までこうだと思ってた価値が急に変わってしまう。今までは作ることが全てだった、正しかった、強かった。けどそれが今では売る力が非常に重要だと。
なおかつ、更にややこしくしてるのは、今までは新興国はそんなの買わないわけですよ、買えないわけだから。だから日、欧、米の経済支配でそこがマーケットのターゲットだったわけですよね。けど今はそこプラス新興国が加わっているわけで、新興国のニーズっていうのは、10個も機能がついてるものはいらない、3つでいいと。そんなに薄いテレビいらない、映ればいいと。そこの市場を根こそぎ中国メーカーにやられてるっていうのが、今じゃないですか。かといって、日本の製品は勝つための安いコストで作れるかっていったらそうじゃないですよね。一方でバング&オルフセンみたいな非常に高価なステレオや、ダイソンがやったような革新的な掃除機みたいなものを生めなくなってますよね。アップルのようなiPhoneのようなスマートフォンを生めないわけじゃないですか。スマートフォンの技術は高いのに。だからこのポジショニングが非常に中途半端。技術は一番高いのかもしれないですけど、ブランド力で言ったらやっぱりiPhoneですよね。けど安いスマートフォンっていったら中国製のスマートフォンにやられちゃう。だから中途半端なんですよ、ポジショニングが。それは未だに技術力を最大で唯一の武器だと思ってるわけですよ。けどもう作ることなんて誰でもできるわけで、今は売る力に価値の源泉が移転しちゃってる。
極端のことを言うと、僕が携帯端末会社になりますって今日言うじゃないですか。そうすると、僕に必要なのは2つだけなんですよね。アイデアと資金調達力。これがあれば中国の携帯電話の工場に委託生産をして、携帯が作れるわけですよ。僕はアイデアとお金を調達するっていう力、そしてあとは販売力があれば、携帯端末会社になれる。まあ簡単に言うとそういうことですよね。そういう時代に来ちゃった。昔はいきなりお金とアイデアと販路があったってメーカーになんか絶対になれなかったですよね。ですからそこが大きく価値の源泉が変わってしまった。そこに気付いているのに変えられないのか、気付いていないのか。そんな話をさせてもらったっていう感じですかね。
東:そしたらマーケティングの時代に変わったっていうところについては、なんでこの時代に変わったって思うか、もしくは日本企業がここに気付いてないのか気付いてるけどちょっとできないっていうところはどんな。
森辺:マーケティングの時代に変わっちゃったっていうのは単純ですよ。日本企業以外でも作れるようになっちゃったから競争が激化した。なおかつ、例えばテレビが発明されてもう何年ですかっていう話でね。いわゆる空中にいきなりスクリーンが出て、映像が映っていくみたいな、SF映画で見るようなテレビを出さない限り、他社との差なんてないわけですよね。今争ってるのって画質がよりきれいとか、より薄いとか、そういうレベルの争いだったら、韓国製でいいよ中国製でいいよっていう話で。日本製のテレビはものがないんです、スイッチ入れたら目の前にスクリーンが現れるんです、ぐらいの技術革新がそこにあれば勝てますよ。けどそこはないじゃないですか。4Kか5Kか知りませんけどね、そういう話じゃないですか。だからコモディティ化っていうのはまさにそういうことですよね。日本企業が個人はそれに気付いているんですよ。けど組織全体としてそれが回らない。そんな印象を受けるんですよね。で、回らないんだけど、それを捨てるかって言うと捨てられない。結局一番駄目になって、やっと日本の家電メーカーもB to Bにシフトしたり、テレビやめたりPCやめたりっていうことがギリギリになってようやくじゃないですか。それもひとつだし、なかなか難しいところですよね。
東:個人は気付いてるっていうのは森辺さんがよくクライアントさんと会話しててもそういうことを感じるということですか。
森辺:個人は気付いてるし、経営者も個人としては気付いてるんですよ。ただそれを組織の中でダイナミックにやれるかっていうと、かなりお尻に火が付かないとやれない。いろんな問題も当然あるんでしょうし。よく考えてほしいんですけど、我々日本企業は欧米企業からそれを奪ってきたわけじゃないですか。アメリカも当時その決断をしたわけですよね。そしてそれをソフトウェアに転換していったわけじゃないですか。だからそこがすごくあれだし、いろんなものがインターネットの出現でユーザビリティの方が重要視されるというか、技術力よりもむしろそっちじゃないですか。そこも大きな時代の転換期なんですよね。だから結局30年も40年もひとつのものがずっと続くなんてことはないわけで、必ず衰退期っていうものがあるわけじゃないですか。その衰退期を想定していたのかしていなかったのか、していたんだとしてもそれに対して手が打てなかったんですよ、日本の多くの企業は。また内需が大きかったわけじゃないですか、日本国内のね。だから海外を積極的にやるっていうことも出遅れちゃったし。そんなところがあるんだと思うんですけどね。
これだけインターネットも出て来て国境も近くなってしまって、作るっていうことにおける価値がものすごく低くなってるわけでしょ。ベンチャー企業がロケット飛ばすわけじゃないですか、今って。だからここはすごい重要なんですけど、もの作りも大切です、これは否定しません。技術力も品質も大切。なんですけど、昔ほど作る力っていうものに価値が乗らないんですよ。それよりも売る力の方に価値がどうしても乗っちゃってる時代。これも本当に理解をしないと、これからのグローバルビジネスというかビジネスそのものが僕は成り立たないと思うんですよね。なんでそんな話をさせてもらいました。
東:そうすると、簡単でも構わないんですけど、その解決策はどう考えますか。
森辺:チャネルですよね。僕はこれからの時代こそチャネルがすごく重要視される時代だと思っていて、なぜならば作る力に価値が乗らなくなってきてる。売る力に価値が乗る時代になっちゃったので。売るってことはチャネルじゃないですか。それが直販チャネルだろうが、代理店チャネルだろうが、インターネットだろうが。ですからこれからの時代はやっぱりチャネルで、今成功している企業は100%チャネルが強いんですよ。技術は別に強くないんですよ。素材系とか別ですよ。ただ一般的に言ったらやっぱりチャネル力なんで、そこを徹底的に極めるっていうことが僕は重要だと思うんですけどね。
東:分かりました。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。