東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:じゃあ、森辺さん、前回一言で言うと日本企業はなんでASEANで苦戦を強いられているのか、みたいなところで。1つの要因に海外営業部が頑張っているけれども、やっぱ開発とか生産という声が日本の本社社内では非常に大きいので、そこの人たちが海外を理解しないと、なかなか現地適合化なのかわかんないですけど、現地に合った、市場に合った商品が生み出せないし、そういったスピード感が出てこない、みたいな話だったと思うんですけれども。
そうすると、海外営業部だったり、海外事業部と呼ばれるところは、非常に危機感を持っている方っていうのは非常に多いと思うんですけれども、ただ日本の本社っていった場合に、海外事業部に意外と頼りがちで、本社が戦略を持っているというより、海外事業部の中の誰かが戦略を持っている、というような感覚だと思うんですけど、そこと、日本企業はそういうことが多い場合に、森辺さんがよく言うグローバル先進企業というところもそうなのか、そうじゃないのかっていうのは具体的にどうなんでしょうか。
森辺:先進グローバル企業はまったくそうじゃないですよね。もう1つあるのがね、日本企業の場合、経営が海外戦略に対する一本軸というか、戦略軸がないんですよ。ふにゃふにゃしてるというか。なんでかっていうと、海外やればやるほど利益率下がるんですよ。なんでかっていったら最初投資になるわけじゃないですか。海外っていっても、ASEANなんていうのはね、当然商品単価下げるわけですよね。で、生産コストも下げないといけないですよね。こういうような設備投資が安くあがったとしたって、基本的に日本国内で売ってるよりも企業全体の経常利益率は下がっていくわけですよ。
東:そうですね。
森辺:営業利益率を。そうすると、オーナー社長じゃない限りね、自分任期5年の社長をやっている間にね、海外にアクセル踏みまくったら、任期中の利益率が下がる。そうすると、多くの企業上場してますから、当然株主やその他ステークホルダーから評価をされるわけですよね。そうすると、やりたくないですよね。3年、5年投資して、その後の大きい収益をアジア新興国からとっていくわけじゃないですか。そうすると自分の任期中に利益率の悪いことを、自分が社長だったらそこを踏むかってね。踏まないですよね。だからそこも1つの大きい要因で。
じゃあどうなるかっていうと、TTなんてやるな、みたいな。TTって言っただけで怒っちゃう経営陣とかね。MTとかね。もうMTだけ、みたいな。でもそれじゃ利益出ないわけで。なので、ちんたらちんたら日本食レーンに並べる商品並べる、日本輸入品棚に商品並べる、みたいな現状が起きてる。これ結構大きな、クリティカルな要因だと僕は思ってて。そこもやっぱ変えていかないといけないですよね。
東:なるほど。そうすると、そういう経営陣と呼ばれる、ボードメンバーと呼ばれる方の、ある程度覚悟というのか、意志が必要だと思うんですけど、そうした場合、アジアをやんなきゃいけないっていうのがわかってないわけじゃないじゃないですか、多分。
森辺:わかってますよ。
東:そうすると、TTとMTっていうマーケットに分けた場合、多分そういう、上の方からすると、TTやる必要あるの?っていうのが必ず多分社内で出てくる問題だと思うんですけれども、TTがMT化してるからやる必要ないんじゃないのっていう議論も1つであると思うんですよね。そこは森辺さんってどう考えられますか。
森辺:大きな流れとしてはTTはMT化していくんですよ。ただそれが、特にASEAN3では、じゃあ10年でそうなるかってならないですよね。少なくとも50年、75年、これぐらいのスパンでMT化していく話であって。で、結局じゃあASEANのMT化が50年で完成されたとしてもね、結局次の市場って、インドだ、アフリカだってなっていくわけじゃないですか。その前にメコンだってなっていくわけじゃないですか。そうすると、どっかでTTを攻略してるからそのケーススタディが、ASEANでTT攻略したからそのケーススタディがインドで活きるわけですよね。それがアフリカで活きるわけじゃないですか。なのに、一度もそんなことをしなかったら、すごく長期的に見た時に、やっぱり先進グローバル企業に先越されるわけですよ。それをやった会社にね。っていう問題が1つ。MT化はするんだけど、そんなもんすぐこないよっていうのが1つですよね。あと仮にMT化したとしても、TTで日々の日常生活のものを買っている人たちはMT化してもやっぱりTT時代に買ってたものを買いますよね。だからそうなってくると、結局MT化したからそれやろうっていったって…
東:もう遅い?
森辺:遅いんですよ。あとMTとの交渉をうまくする。例えば、先進グローバル企業、ネスレ、ユニリーバ、P&G、とかコルゲートとかね、MTとの交渉力がめちゃめちゃ強い。いや、うちの商品は卸値これだよ、キャンペーン?これぐらい、リスティングフィー?そんなもんはここまで、みたいな交渉力が効く。日本のメーカーさん言われっぱなし、みたいな話なわけで。
なんでそれが起きるかっていうと、結局先進グローバル企業の商品はTTでもう支持されてるわけですよ。ですから、MTの人たちも、TTでこれだけ支持されて売れるのわかっているわけだから、タダでも置いてってなるわけで。そうすると利益率がまたぐんと上がるっていう話なんですよね。その全部の計算が綿密に行われているのが先進グローバル企業なんですよ。そこまでやってかないと勝てないですよね。競合相手はもう日本の競合じゃなくて、世界の競合になるわけじゃないですか、アジアだったら。そしたら、いつまでもジャパンブランドとは言ってても意味なくないですかっていうのが僕の正直な気持ちなんですけどね。
東:そうすると日本企業はどうしていったらいいのかっていうところにやっぱぶち当たると思うんですけど。森辺さんなりにどう解決していったらいいと思いますか。
森辺:先ずね、作る力があるのはもうわかったから、チャネル力を重要視していくということをしないといけないですよ。そのチャネル力っていうものなんですけど、何を指しているかっていったら、如何にMT以外のチャネル、つまりはTTのチャネルを、特にASEAN3なんかではどうやって攻略していくのかっていうところの戦略をしっかり持たないといけない。ここにリスクがあるとか、何とかあるとか、それはもう当然そうなんですよ。考えないといけないんですが、それを含めてやっぱりどうやってやっていくのかっていうことを、持たない、戦略を持たないと、なかなか難しいですよね。市場の成長率に合わせてなんかひたすらMT輸出型のビジネスをしていくことでほんとにアジアいいの?それでほんとに最終的に勝ち残れる?っていうと僕はすごく不安。
国内のマーケットはどんどんシュリンクしていくわけで。おじいちゃん、おばあちゃんの胃袋にはそんなにたくさんの商品は入んないですよ。で、おじいちゃん、おばあちゃん、そんなにたくさん日用品使わないですよ。そうすると、国内のマーケットがシュリンクしてるっていうのは明らかな事実なので、それ以上の成長を海外でとらないといけないわけですよね。だとすると、なかなか首が締まるまでそこに着手できないんでしょうが、やっぱ今投資しておかないと、10年、20年後にほんとに成長し続けられるのかっていうと、すごく不安ですよね。
東:わかりました。そうするとやっぱりTTを手をつける、どっかで手をつけるかわかんないですけど、手をつけるというところを先ず決めないといけないっていうことですよね。
森辺:そんなお金かかんないですよ、MTやるより。MTだけやるんだったら、ASEAN3でね、逆にやらない方がいい。だってMTだけASEAN3でやったって絶対利益出ないですもん。で、マーケットシェア2割なんてとれないですから。だとしたらやらない方がいいじゃないですか。ASEAN3やるんだったら、完全にTTやらなかったら、もう絶対意味がないので。アジア全体を1つ、全体最適した戦略をつくるべきだと思っていて。僕のクライアントは皆そういうことを一緒につくって粛々とやっていってるんですけどね。
東:わかりました。じゃあ今日はお時間がきたのでここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:はい。ありがとうございました。