東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:じゃあ森辺さん、今日は200回記念ということで、素敵なゲストをお迎えしているんですけど、森辺さんから…
森辺:はい。100回記念にも登場いただきまして、第一回目のゲストにも登場いただいた、明治大学経営学部の大石教授をお招きしております。大石先生どうぞよろしくお願いします。
大石教授(以下、大石):はい、よろしくお願いします。
東:よろしくお願いします。大石先生をお迎えして、どういったお話をしていきましょうか。
森辺:丁度ですね、4月ですかね。大石先生にスパイダー・グローバル・マーケティング・セミナーで基調講演をお願いしていて、その時のお話を少しちょっとできればと思うんですが。80名くらい企業さんお集まりいただいてですね。森辺:大石先生にはチャネルの話…VIPということでベトナム・インドネシア・フィリピンのチャネル構築のお話をしていただきました。アンケート結果も非常に好評でですね、大石先生を呼んだ時の中で一番満足度が高くてですね。
大石:ほほう。(笑)
森辺:あんまり何回も何回も呼べないんで、年に一回という風に決めてはいるんですけど、またもう一回くらいお願いしてしまうかもしれませんが、ぜひよろしくお願いします。大石先生。どうでしたかね?うちのセミナーは。
大石:そうですね。今回はVIPに絞ってということでしたので、新興国の中でも比較的東南アジアの中でも所得がまだ高くない、3000ドル前後・以下っていう形で、ベトナム・インドネシア・フィリピンという形でした。
意外とお客さんにFMCG…特に食品系の方々が多かった。後から質問だとか名刺交換した時に。その方々がドメスティックな食品も、やはり今海外に出て行こうという。僕も別途そういう食品から相談は受けてることがあったんですが、そこはある程度意識してFMCGでチャネルをどういう風に作っていくのか。その事例を含めて、その重要性を前回お話させていただいた。そこには非常に感心が高いのかな、という印象を受けましたね。
森辺:特にASEANの中でも、シンガポール・マレーシア・タイはMTだけで何とかやれてるところもあるんでしょうけど、VIPに関してはGT、TTて行かないと中々マーケットを作れないっていうことで、非常に感心は高かったですね。
大石:そうですね。私の最初のメッセージは、やっぱり戦後の日本の発展というのは、欧米に物を売ってやっていくというグローバルマーケティングの発展の仕方をしたと。そうすると自国よりも経済発展が進んでいるところに行くので、安くて良い物を出していくという形で市場に受け入れられて80代まで日本の企業は成長できたと。
90年でポキっと折れ曲がった後、特にリーマンショック以降、先進国の経済が停滞し、日本の市場も停滞して、「じゃあ今伸びてるのは途上国だ、東南アジアだ」といった時に、そこに出てみたところのマーケティングのやり方っていうのが、実は先進国と全然違ってたと。その一つが今言われたジェネラルトレードなり、トラディショナルトレードと言われてるいわばフィリピンで言うならば、サリサリストアだとか。
そういったところの伝統的な市場・チャネルをどう開拓していくかと。この経験が、実は日本企業にもうほとんど無かったと。
森辺:これアジア・ASEANでこの経験ちょっと遅れちゃったんでしょうけど、先程申し上げていただいた10年15年遅れたかもしれないですが、ここでこれをやることって、後にあるインドとかアフリカの市場を考えると、けして企業にとってはマイナスにはならないですよね?
大石:というか、もう、ここを通らないと商売にならないから、まだ未開拓のアフリカなんかでも、勝てないでしょうね。まずこういう東南アジア…日本のブランドが浸透してて、日本に対するレアリティも高い東南アジアで勝てない限り、インドやアフリカで勝てるわけがないという。
森辺:結局登竜門で、そこをやっぱりいかに早くやるかというのは、今後の企業の新興国の展開を考えると、非常に重要だということなんですね。
大石:そうですね。そこの点で行くと、欧米…特にヨーロッパ企業なんかもそうなんですが、長いこと植民地支配ということもあったんですけども、この東南アジアにも入り込んでいっていると。彼らの手の入り方は、単なる市場ではなくて、例えばフィリピンのネスレなんかは、原料の調達から含めて、今は農村開発だとか村の開拓…CSVも一生懸命やってるわけですけども。そういう入り込み方が非常に100年企業として深いんですよね。広くて深い。
ここに遅れて日本の企業が出て、今市場を何とか取ろうという風にやってるんだけど、入り込み方・気持の入れ方が、やっぱり大きな差があるなと。ここを何とかしなければっていうのが、私の基本的メッセージなんですよね。
森辺:シンガポールが20年来…70~80年代ですかね、生産拠点になっていて、今それがマレーシアとかインドネシア・タイに移転してますけど、当時の名残でどちらかと言うとシンガポールあたりで作ったものを、貿易・輸入会社・インポーターさん通じて売っていて、輸入品棚に並んでる…以上!みたいな。こんな国が…インドネシアやフィリピンでもベトナムでも見受けられていて、中々その深いところに入りきれてない企業さんが結構多く来られていて、質問なんかも、「この国でやってるんだけど悩んでるんです」っていう人が多かったですよね。
大石:仰るように先進国や日本でやってきたマーケティングでいうと、それをそのまま通用すると、結局途上国のTOP…トップ・オブ・ザ・ピラミッドにしか通用しないと。高級だから値段も高いよと。その代わり市場はちっちゃいと。せいぜい5パーセントとか。10パーセントもあれば御の字だと。
でもボリュームゾーンに出て行くと、そこには韓国や中国やローカル企業…あるいは先程の100年企業の欧米企業がしっかり根を張っていて、そこに出て行くと儲からないと。だから「いや、皆んなボリュームゾーンがイケイケと言うけど、んな利益が出ないところに行ってね、戦って討ち死にするようだったら、まだTOPのところでやってた方がいいよ」という企業が圧倒的に多いわけですね。
でもそこでは、やっぱり市場が大きく伸びない。今伸びてるのはボリュームゾーンが新中間層、あるいは上位中間層として拡大していってそこを皆んな取り合ってるのに、日本企業は指を咥えてそこを見てるだけ、と。
それは「いけない」ということは、企業の方も分かってる。でも「じゃあ、どうすればいいか」というその手法が、悩んでおられる。そこに今、日本企業の課題があるわけですよね。
森辺:こんなこと言ったらあれですけど、所詮はおせんべいじゃないですか。所詮はチョコレート会社じゃないですか。これってファースト・ムービング・コンシューマー・グッズの、どの位置のファーストにあたるかは別として、基本的に中流の人達に食べてもらってなんぼの物だと思うんですよね。森辺:一万円のおせんべい売るわけに行かないので。
大石:あっはっは。ええ。
森辺:そうすると、今アジアのおせんべい会社って、これ日本で昔、80年代に僕が食べてたおせんべいにそっくりだ。かっぱえびせんの偽物、コアラのマーチの偽物…いっぱいあるわけじゃないですか。なんかその脅威がすごく怖くて。結局トップ・オブ・ザ・ピラミッドでクオリティが良いお菓子だからねーって言っててもですね、その違いが本当に分かるんだろうか。
特にステーショナリーメーカーなんかがあって、フランスのビック(Bic)っていう会社があるじゃないですか。ボールペンとライターで物凄い売り上げを上げる会社なんですけど。あの会社のボールペン凄い書きやすいんですけども、とにかく安いんですよ。全部オレンジ。色が黒・赤・青みたいにあって、ペンの先っちょだけ青だったら青いプラスチックで。非常にシンプルでカッコイイんですけど、世界中で売られていますし。
でも日本のステーショナリーメーカーさんは、ボールペンのペン先のこの円球の滑らかさに、いわゆるミクロ単位以下の技術って物凄い言うわけで。「このクオリティがある」って言うんですけど、別に日本でペン買う時に、ペンのメーカー意識してペンなんか買わないんですよ。モンブランだったら分かる。ペン先のボールにこだわりがあると。けどモンブランじゃなかったら、所詮100円200円で売られてるペンにね、そこまでこだわってどうするんだろう、っていうのを凄い感じるんですけど。
でもどうなんですかね?正に携帯のガラパゴスと同じことをね、やってるんじゃないかなっていう気がしてて。
大石:そうですね。日本企業は品質を重視して、そこを高コンピタンスにしようということ自体は、僕は間違ってはいないと思うんです。ただ仰るように、消費者から見て過剰品質になっていくということ。だから結局、コストパフォーマンス、バリューフォーマネーがどうかっていうことを考えなきゃいけない。そこが先進国と途上国、特にボリュームゾーンを考えた場合は全然違うんですよね。
例えば、ベトナムでエースコックが93年に出て、その時に売った日本品質の即席麺は1800ドンでした。当時ローカルのものが800ドンくらいで売られてるわけですから、そうすると2倍以上するわけですね。いかに品質が良いよと言ったって、これじゃやっぱり庶民は買えないわけですね。2000年に「ハオハオ」というローカルテイストに合わせたものを1000ドンで売ると。その時はローカルのものも少し値段は上がってるんですが、先程言ったように800ドンと1000ドンで1割から2割で高ければ、仰った「品質にこだわってる」というものが、受け入れられるわけですね。このコストパフォーマンスの差があると思うんですよ。例えば紙おむつでも「日本の物は良いよ」と言って、値段が2倍以上するんだったら、やっぱりボリュームゾーンの人達は買えないと。
森辺:紙おむつってどれくらいですかね?一枚20円とか18円とかそんなそんなもんだと思うんですけど、それが40円50円しちゃうみたいなことって、日本で考えると怖いじゃないですか。
こないだゴールデンウィークにですね、グリコのジャイアントコーンって昔からある、あれを食べてましてね。一日一本食べてましてね。ゴルフをして疲れたら食べてて。あのジャイアントコーンの素晴らしさをね、初めて知ったんですけど、コーンがサクッとするんですよ。何でこのコーンはこんなにサクッとするんだろう。ASEANでアイスのああいうコーン型のアイス買うと、もうなんか湿気てるんですよ。ネトっとしてサクッとは絶対しない。僕ジャイアントコーン切ってみたら、中が多重構造になってて、サクサクいう訳なんですよ。けど結局このジャイアントコーンってアジアに持ってった時に、輸送の冷凍して輸送するインフラが整っていないとか、こんなにサクサクしてても、高かったら買えないとか。なんか、結局受け入れられないだろうな、こんな素晴らしいものがって思うと、なんか悲しくなって来ちゃいましてね。
もう一つあるのが、こんだけ素晴らしいものを、たかが冷凍庫で売ってる、いわゆるアイスとかで買うのにお金払うんだったら、アジアの人達ってちゃんとしたアイス買うんだったらハーゲンダッツ行くよって思っちゃうのね。なんか日本ってハーゲンダッツと、コンビニの冷蔵庫で売られるべき差が。もう一つあったのが缶コーヒーでも、贅沢コーヒーとかって200円くらいする、230円くらいする缶コーヒー売ってたんですよ。メチャメチャ美味しいんですよ。感動してたんですけど、でもこれを買うんだったらアジアだったらコーヒーショップに行って美味しいコーヒー買うんだろうな、とかですね。
こんだけ品質高めたのにマーケットに受け入れられない、中途半端な感じ。カップラーメンでも物凄いじゃないですか。300円くらいするカップラーメン物凄い美味しいんですけど、そこまでするんだったらラーメン屋で食うよ、みたいなですね。何かこれって、どうなんですかね?
大石:だから、総じて言うならば、日本企業の持っている経営資源。例えば、製品開発のね、今のような人達。人数が数百人いるわけですよね、チャネルならチャネルやってる人達が数百人いるわけです。その何割を国内にかけ、何割を海外にかけるか。
例えば、以前日本のトップの自動車メーカーが、組織改編をやった。2006年かな。その時に、つまり日本市場も世界市場の中の一つ、ワンオブゼムに位置づけますという組織改編をやったわけ。それまでは、日本と国際だった。それを、アメリカ市場・日本市場・ドイツ市場っていう形で分けた。ところが、人数計算してみると、日本はワンオブゼムなのに1200人の営業部隊。海外は合わせて800人しかいないと。でも売上高の6割以上はもう海外で出してる。利益の8割は海外で出してる。でもこういう歪な構造になっていると。で、やっぱりそこを変えて行かなきゃいけない。
だから先程の、特に途上国で今からやっていく時に、日本の色々素晴らしい経営資源・人材も、お金も含めて色々あるんだけど、それをトップマネージメントがどういう風に振り分けていくのか。そこの差が結局、大きな欧米都の差になってるし、出遅れもありますけどやっぱり本気で途上国を開拓に行って無かったと。
それがこの前のセミナーで熱心に聞かれた人達が、やはり「それでは、やっぱりいけないよね」という会社の方針もあるし、本人達の意識も出てきた。これはやっぱり、ここ数年感じてはいるんですよ。だから、そこをやっぱり何とかして助けないと、今日本に対するロイヤリティ、アジアのロイヤリティはまだいいと。
この前、去年の11月ですか。フューチャーブランドっていう、国別ブランドランキング出しましたけど、日本がナンバーワンでした。だから国のブランドとしてはナンバーワンなんです。僕らもちょっと、アジアで5ヶ国で調査をやったんだけど、日本に対するロイヤリティ非常に高いです。でも日本の製品に対する、日本の企業に対するロイヤリティは下がる。それだけのマーケティングはやってない。
今日発表されたあれでは、観光の国のランキングで日本は9位です。ね?アジアではほぼトップです。競争、観光競争。でも観光客は1300万になったって喜んでるけど、韓国やマレーシアよりも少ないわけですよね。シンガポールよりも少ないわけです。だから、国の持ってるブランド力を充分に活かしきってないっていうのが、今の日本の企業の大きな問題。
森辺:アピール下手なんですかね?
大石:だからそれは、本気で開拓に行きましょう!と。
森辺:そういうことですね。
大石:ええ。
森辺:分かりました、ありがとうございます。じゃあ、そろそろ。
東:はい、そろそろお時間なので。大石先生、本日はありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。
大石:はい、どうもありがとうございました。