東忠男(以下、東):こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺一樹(以下、森辺):こんにちは、森辺一樹です。
東:じゃあ森辺さん、引き続き大石先生をお迎えしてるんですけども、今回はどういった…
森辺:大石先生、前回の続きなんですけどもね。
大石教授(以下、大石):はい。
森辺:いわゆる食品・日用品等のコンシューマー・プロダクト、FMCGのカテゴリーで、一つの商品で風穴を開けて、それを横に水平展開していこうということで、各社さん大手を中心に今、努力をまさにやっているところですと。
大石:はい。
森辺:今なら間に合う。今やらなければ、間に合わなくなりますよというお話しで終わったと思うんですよね。この「一つの商品で風穴を開けていく」ところで、成功してる企業も当然あるんですけども、これの水平展開に中々難しさを感じてるような気がするんですけど、その辺てどうなんですか?基本的には上位富裕層向けのMT止まりの商品、みたいな。
例えば、エースコックのベトナムは違います、味の素も違うし、マンダムも違うし…ていうのはあったとして。じゃあそれ以外を買う時に「じゃあこっち買いましょう」というのはあったとしても、それ以外の会社は、中々そのMTでまずブランド力を付けなきゃいけないってのもあるんですけども、STMPとか諸々の費用をかけたらMTだけじゃ儲からないんで、みたいなのが現実になるわけじゃないですか。
大石:はい、はい。
森辺:そこからさらにTT、BPに入るところで苦労してるような印象があって。それをチャネル作りが難しさっていうのもあると思うんですけど、それが、我々みたいなところがノウハウを伝授すれば何とかなると。我々もそれをお手伝いしながら、「いや、そこは…」っていうのが二つあって、結局プロダクトとプライスの調整が、できない。
だからチャネルを作っても、そこにそのプライシングの商品は、はまらないと。ここの難しさが凄くあって、かと言って、じゃあ現地に生産工場作って、現地プライス・現地品質のものを出すには…工場の投資なんて数十億なんで、皆さんそんな躊躇しないんですよ。だから、「うちの会社として、こんな下げた品質の商品は出せません」って、社内での葛藤がすごくあるって仰いますし。そういうのってどうなんですかね?
大石:それは、FMCGに限らず、電気製品でも、自動車でも、あるいは工作機械とかB to B関連のものでも、皆ありますよね。これは欧米企業だってグローバル・スタンダードを持ってるわけで、それを下げてまで売れないぞ、みたいなところはあると思うんですよ。
ただ、ブランド作りが、そういう形の高品質を保っていってやっていくというのは、ある意味供給者側の目線ですよね。供給者側の論理で。顧客からすれば、特に途上国のボリュームゾーンの顧客からすれば。とはいえ、石鹸であれば汚れが落ちれば良いと、ね。洗剤であれば、うちは洗濯機じゃなくて手洗いしてるんだから、泡がバンバン立って、いかにも洗ってるみたいな形で、昔のいわば石鹸で構わないんだと。それで値段が安ければそれで良いと。
それが良い製品なんだから、「おお、これは。どこのメーカーの物か分からんけど、良い製品だから名前を見たら、え、何?これローカルのあれじゃない?」みたいな。ところが日本の製品はポンと高く止まって、値段が2倍・3倍して、「いや、これは手に優しいし…ね、どうのこうの」とかいうウンチクは垂れてるんだけど、手が届かない物。
それいくら置いたって、消費者が知覚品質・知覚価格で「良い」と思わなければ、もうどうにもならない。
森辺:そうですよね…。またペンの話しで恐縮なんですけど、日本のペンって比較的ステーショナリーの中でアジアで売れてるんですよ。売れてる方なんですけど、Bicのペンにはグリップが無いんですよ。日本のペンには必ずグリップがあるんですよ。でも使い手からしたら、別に僕、物書きじゃないし。今ってパソコンじゃないですか。そうすると、そんなに長時間ものを書くことは無いんで、グリップあんまり要らなかったんですよね。
向こうの人にしてみれば、グリップ有りで高いんだったら、グリップ無しで安い方がいいと思うんですけど…そういう事なんでしょうね。
大石:それはすごく大きな事例になるかもしれませんね。もちろん良いですよ。そういう層を…TOPの層を狙って、グリップがあるからこんなに使いやすい、という形で値段が2倍しますよ、という。それは売り方があっても良いんですが、それで大量には売れないと。ボリュームゾーンにはもう絶対に行けないということですよね。
だからそこで発想を変えて、やっていくかどうかだと思うんですよね。現実に今までの東南アジアで成功している企業というのは、高いままでそれを何とかやっていって成功したっていうのは、逆に無いですよね。皆そこから一旦、どうしたら価格を下げられるか…つまり、現地生産するにしても、ローカルの調達を増やして、原材料費を調達して。化粧品になんかすると、リファインを日本では10回やるところ、じゃあ東南アジアでは5回にしましょうと。当然粒子はちょっと荒くなるわけで、肌まできめ細かく中まで入っていかないけど、でもそれじゃないとお客さん買ってくれないんだから、仕方ないじゃないか…と割り切るかどうかなんですよね。
そこが割り切れないと、グローバル・スタンダードだから絶対に駄目!みたいな形で、価格は高止まり。当然TTに入っていけない。ブランド力もできない。
森辺:だとすると、高止まりになるんだったら、高止まりでも「欲しい」と思わせるくらいのブランド力がそこに備わってるかどうかですよね。
大石:そうですよね。だって…例えば、ベトナムのホンダの事例なんか有名ですけど、中国からの二輪車が入ってきて、ホンダのシェアが激減したと。ホンダは良い二輪車を提供してるから、中国製の安かろう悪かろうっていうのは、いつかはそれは駄目になると思ってたんだけど、あっという間にシェアを奪われてしまった。確かに中国製はすぐ壊れるということで、ベトナムの人の中国に対する昔の反感もあって、なんだけど。
でもホンダが高いままで失地を回復したんじゃなくて、タイのモデルをリファインして、現地に合うように価格を下げて、それで品質も現地向けにある程度そこを作り変えてやって、値段も下げて。そこで失地回復をやっていくわけですよね。
だから何もしないで、ただ中国の失敗を…中国企業の失敗を濡れ手で粟で、昔の高い製品で売れたわけでは全然無いと。これはもう、エースコックの話でも、マンダムでもそうだし、皆んな同じようなことをやってるわけですよね。
森辺:そうですよね。「不明(~ この~ 何度も~ まあ、比較的、美味しく、よく~ (10秒ほど音声が小さすぎて拾いきれず)」(8'52.94~9'03.00)
大石:そうですよね(笑)。
森辺:日本だとそんなに、上の順位じゃ無いですものね。
大石:ええ、全然違いますよね。だけど…例えばローカルのものは油が悪いんで、しばらくお店に置いてると即席麺が…袋麺が圧倒的にまだ多いですから、それが変色してしまうとか、油が分離してしまうとか、そういう側面があると。でもエースコックの物はそれは無いと。でも日本人から見ると、付属の油を掛けると、日本みたいに綺麗に馴染んでいかないんですよね。ちょっとこう…浮いちゃうところがあるんですよ。
でも彼らは日本人感覚でそこまでやらなくても良いと。これでも充分ローカルの物に対しては味は良いと。それから、お店に並べても変色はしないし、という形の品質保証はできてると。そこの割り切りですよね。だから、原材料もローカルで集めて、物を作っていくというやり方でやってる。
そこができない限りは、日本の品質、日本からの輸入。例えば、名前挙げちゃダメなのかもしれませんけど、花王のね、メリーズの例も、その典型ですよね。今までは東南アジアでは、花王の品質を保つために輸入のメリーズを売って、それは富裕層には「すごく良い」っていう形で人気はあった。でも、ボリュームゾーンは手が届かないわけですね。ユニ・チャームさんはもう最初からそこを狙ってるので、ちゃんと手の届く価格で売っていってると。あと、ようやくここ1~2年、花王さんも現地生産で値段を輸入物の半分くらいのやつで出してくると。パッケージ違いますけど。でもそこでシェアを取っていこうという形で、ようやく変わってきつつあると。
だから、そういうことを本格的にやっていくかどうかっていうのが、大きな差になってくると思いますけどね。
森辺:花王さんの輸入品の価格っていうのが、2倍3倍で常時売れるっていうのが今だいぶ落ち着いてきたみたいですけど、ここ3年4年ぐらいはずっとあった。だから狙ってるマーケティングがたまたま結果としてそうだったっていう感じで、どこでトリガーがガーンと引かれるかっていうのは分かんないですよね。
大石:そう。中国はね、一人あたり5000ドル越えて、都市部だったらもちろん一万とか二万とかなってるわけですね。で、絶対的な13億の人口がいるから、富裕層と言ってもすごいマーケットなんですよ。ここだけを相手にしたって、そりゃ結構商売になるわけです。ね。ダイキンだってエアコンのベンツと呼ばれるようなそういうものの位置づけをやっていっても良いと思うんです。でもまだね、6000万とか8000万とか、マレーシアみたいに3000万いないところの富裕層だけって言ったら、やっぱりどうしても市場は小さくなる。さっきみたいにこう、横串を通すことができるならまだしも。
森辺:ましてはこの…シンガポールでも500万人とかですよね。マレーシアで3000万人ですよね。後、タイで4000万人?
大石:ええ。6000万ね。
森辺:ですよね。マレーシアにいくって言っても、富裕層だけで言ったら数百万とかの話になる。それを足した「不明(音声が小さくて聞き取れず)」(12'41.32~12'43.96)。
大石:そうそう。だから、それは「誰に」というSTPのまずターゲティングをやる時に、さっき言ったように一つ一つの国で「現地化だ」「現地化だ」っていう感じで見てると、どうしてもコスト優位が保てない。日本の品質基準を持って行くと、富裕層の小さいマーケットに細々と売るしかない。そこで「日本のものは良いでしょ?ブランドでしょ?」って、所得が皆上がってきたら、いつかは、日本。いつかは、クラウンじゃないけど、いつかは日本製品、と思ってるけど、そうはいかない。
やっぱり、ボリュームゾーンで慣れ親しんだブランド。所得が上がっても、結局それを買い続ける。だからそれは、韓国のメーカーは「不明(ふーだいん?)」(13'30.14)で、見せ球として高級品もあるけども、稼ぐのはボリュームゾーンで稼ぐぞ、ということをやってるわけですよね。
森辺:見せ球と、稼ぐ商品を明確に分けて。僕本当にクオリティの高いものっていうのが大好きで、この間お話ししたジャイアントコーンのサクサク感のお話しをしましたけど、日本の包装とかって、一つ一つとっても、一回でちゃんと開けれる。アジアに行くと、開かないやつとか、開けたらうわって中身が飛び出すやつとか、いっぱいあるわけですよ。飴も一個一個ご丁寧に包んであるし、チョコレートも一個一個整列してるとかね。
そういうの大好きなんですけど、中々アジアだと、そこで稼げない…
大石:いや、アジアの人もね、やっぱり好きなんですよ。素晴らしいと言うわけですよ、それは。
森辺:買うかどうかですよね。
大石:でも「買うか?」って言われたら、それは我々のインドでの調査もそうなんだけど、価格を提示する前の購入意向と、価格を提示した後の購入意向で、日本の製品というのはガラリと変わるわけですよ。だから、良い物であってもコスト・パフォーマンス、バリュー・フォー・マネーが、彼らが買えるアフォーダビリティを上回るような金額であれば…「良い」とは言いますよ?「これくれるんだったら貰いたい」って言いますよ?カワイイし、食べやすいし、美味しいし。でも「買う?」って言ったら「いや、それだったらこのローカルの半額…これで充分」って形になっちゃうんですよね。
森辺:シンガポール以外は、タイ・マレーシアではね、100円っていう。今まで100円で向こうで売ったら、それが300円や500円に、価格だと。向こうの一般の消費材が。VOPでそれやったら1000円って言われているようなコーナーで、1000円で買わないじゃないですか。ジャイアントコーンを。別にジャイアントコーンを「不明」(15'24.22)ってわけではないですけどね。僕はゴールデンウィークに感動したんで、ジャイアントコーン、ジャイアントコーン言ってますけど。そういう感覚ですよね。
大石:そうですね。
森辺:ベビースター30円っていうのを、300円!みたいな。50円が500円みたいなことで。
大石:だから無印も今、ロジスティックスの面からしても、どうしても日本からの輸出というのが多いんで。作ってるのは、例えば中国とかね、アジアで作って、一旦それを日本に持ってきて、それをロジテクに流していくので、値段が50パーセント増しとか、2倍とかになってるわけですね。やっぱりこれでは無印のブランドではあるとはいえ、ちょっと問題があるっていうので、これをどのようにして下げていくかっていうのは、真剣に考えてるわけですね。
今度、今月の20日に社長になる松﨑さんは、そういうグローバルなものをずっと今まで見てきた人だから、おそらく普通の人以上に無印のグローバル化なり、今からの価格の是正をやっていくと思うんですよね。また一度お会いして、その辺のところを詳しく聞きたいなとは思ってるんですけど。
だから、ブランド力のある無印でさえ、それを考えてると。それはブランドの無い他のFMCGなり、「この品質は良いんだから、この値段で買え!」みたいな、ふんぞり返ったってどうしようもないでしょう。
森辺:でも今、日本の企業が開発してるっていうことなので、これからの企業の「不明」(17'04.80)に期待ですね。
大石:期待ですね。期待とともに、オールジャパンで戦わなきゃいけないというか、適正に競争しながらだけど、抱えてる問題は皆んな共通してるんで、今みたいな話は。そこでもう、ノウハウを隠し持ってやってたんだけど、さっき言われたように、欧米企業だけじゃなくてローカル企業が今、急速に成長している時にね、日本の数千億の食品会社が、東南アジアの4兆円の企業と戦わなきゃいけない。さっきちょっと放送前に森辺さん言われてたように、彼らの傘下の中に入ってしまうかもしれないという危機感が、ね。
森辺:びっくりしたんですよね。いつの間にアジアの食品メーカー、こんなに大きくなったんだろうってね。
大石:ね。だって時価総額からして、彼らはゆうに株式交換で日本の企業簡単に買えちゃうぐらいなんですよ。だから、そんなにふんぞり返って「日本企業は品質が良いから」とか言ってる場合では無い。ビジネスはビジネスなので。
やっぱり日本の質の良さ・安全性。これに対する神話は未だに生きてるんで、これをチャンスに、積極的に資源を投入していくことでしょうね。どうしてもね、リスクがあるし、利益率下がるわけですよ。例えば花王は今、連結で9.5パーセントのRSを出してるわけですね。でも、海外ビジネスは大体3パーセントくらいしか出ないんですよ。特に、出て行った2~3年は赤字になるわけですから。
そうするとこれはコンプライアンスの問題からね、今グローバル化、グローバル化って言うけども、そこに行ったら利益率下がるんだと。5年くらい前は13.5パーセントありましたから、9.5パーセントって相当下がってるわけです。これ以上下がると、株主から文句が出るかもしれないと。けど長期的に見て、花王はね、1兆3000億から数兆円の戦いを今からやるかと。いう話を考えた時に、やっぱり行かざるをえない。この辺は、ユニクロなんかはそれこそオーナー経営ですから、「5兆円目指して行くぞー!」みたいなね、言えてるんだけど。でもね、ある意味その感覚の方が、世界の中で正しいんですよ。
森辺:それはユニクロなんかはそうですよね。「海外に行って戦うぞ!」と言って10年経ちましたけど、もう近いか超えてるかぐらいになってますものね。
大石:やってますからね。そして「まだまだ」と尻叩いてますから。やっぱりそういうグローバルな視野を持って、ジャイアントと戦うという腹を決めてやらないと。日本のね、世界ナンバー3のGDP持ってる日本の企業が、こんだけ地位が低い…例えば、インターブランドのブランドランキングでも6社くらいしか入らないわけですよ。トップ100に。さっき言ったように、おかしいでしょ?と。国のブランド力すごくあるのに、企業のはなんでこんなに弱いの?っていうのは。もう自動車と電気だけですよ、これまで日本を支えてきたのは。はっきり言って。
森辺:本当そうですよね。そこは心配も無いんですけど、それ以外は物すごい差があって、「不明」(20'32.59)先進グローバル企業がアジアでね、傘下になることはね、食品・日用品メーカーが、日本の「不明」(20'39.73)大きいって言って。こんなこと言うと「不明」(20'42.08)、僕は充分ありえると思う。「不明」(20'45.86)違いすぎるもの。
大石:そうそう。もう、物を売る時代じゃなくて、企業を売る時代になるって、本当に起こりえますよ。
森辺:でも、日本企業まだまだいけるってことなので、これからも…
大石:頑張りましょう、はい。
森辺:先生じゃあ、ちょっと長くなっちゃいましたけど、ありがとうございました。
大石:はい、どうも。
東:ありがとうございました。