東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、前回は中間層からブレないということが非常に重要だということをお話しいただいたんですけれども。次の話題で、国別投資の強弱が必要ではないかということだったんですけども、こちらについても具体的にどういった内容なのかというのをお伝えいただきたいんですけども。
森辺:これはですね、アジア新興国とか、新興国といっても非常に広いわけですよね。ASEANもあれば、メコンもあるし、インドも新興国だし、アジアを抜いて新興国という観点でいったら、ブラジルだってそうですよね。で、アフリカだってそうだし。そうすると、非常に新興国とかアジア新興国といっても、1カ国じゃないわけですよね。そうるすと、それぞれの国が、現在どれぐらいの市場規模があって、将来どう成長していくのか。その成長のスピードがそれぞれ違うわけですよね。それをベースに、どの国は絶対に負けちゃいけない、どの国のプライオリティーが高いのか、ここをやっぱり日本企業はもっと見ていく必要があって。多くの日本の企業の経営者に「何でベトナム、今やっているんですか?」と。「フィリピンも、インドネシアも、タイも、マレーシアもやっていないのに、何でベトナムなんですか?」「マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンやっていないのに、何でインドネシアなんですか?」、その質問をしたときに、明確にこうこう、こういう理由でインドネシアなんだとか、こうこう、こういう理由でベトナムなんだという回答を返せる会社って非常に少ないんですよね。で、そこがやっぱり戦略的じゃなくて、ベトナムに工場があるのでベトナムの市場を攻めます、みたいな。生産拠点と販売の市場って、全く反する話じゃないですか。安い労働力を使って生産をするわけですよね。安い労働力が使えるということは、そこの市場はあまりおいしい市場ではないということを意味しているわけで、反しているにもかかわらずそうなってしまっている企業もいたりするんですよね。なので、なぜその国を攻めているのか。ほかの国と比べて、なぜそこに早く投資をしようと考えているのかという明確な理由を持つことが、国別投資の強弱を明確にするということで、非常に重要なことだというふうに思います。
東:国別投資の強弱をしなければいけないということの、したときのメリットというのは、具体的にはどういったことが、まずあるのかというのは、森辺さんなりの考えはどうですか?
森辺:それって、やっぱりROIを高めるということだと思うんですよね。リターン・オブ・インベストメントを高めましょうと。いわゆる投資じゃないですか。一番効率のいい投資をしたいわけですよね、どの企業様も。そうすると、最も投資額が少なくて、最大の効果を生む市場がどこかということが重要じゃないですか。そこから攻めていくべきですよね。もしくは投資額が大して変わらないんであれば、最も成長する市場にその同額を投資したほうが、ROIは高まるわけですよね。なので、そういう観点で見ると、どの国に投資をフォーカスするのか。もしくはどの国から投資をしていくのかということは、中長期の事業戦略を組む上では非常に重要で、何となくベトナムとか、何となくインドネシアとか、何となくフィリピンというのは、やっぱりよろしくない、中長期で見たらですね、というふうには思いますよね。で、比較的欧米の先進グローバル企業と云われるところは、そこが徹底的なので、中国とインドというものすごい巨大な市場は、絶対に外さないという、もう彼らのこだわりが、マーケットシェアにあらわれちゃっているんですよね。一方で日本企業は、中国をさんざんやってきて、反日騒動の後ぐらいから、チャイナ・プラス・ワンといってASEANに出たじゃないですか。ASEANの中でも日本びいきのインドネシア、自動車のシェアが95%で、世界一日本車シェアが高い国を徹底的にやると。インドネシアは大きいんでやるべきなんですよ。ただ、こぞってインドネシアみたいな、もしくはトヨタがいるからみんなでタイみたいなね。あなたの事業とトヨタの事業はあまり関係ないですよね、みたいな会社もいるわけで、それがやっぱり、このチャイナ・プラス・ワンなんという言葉、日本人しか言わないですからね。なので、そうじゃないんじゃないかなと。中国は中国でやっぱりすごく重要だし、インドなんてみんな足踏みしちゃっていて、腰が引けちゃっているじゃないですか。ただ、あの巨大市場を制せなかったら、ASEANで幾ら買ったって、グローバルの時代、負けになるわけですよね。だからそこがすごく重要だと思うんですけどね。
東:具体的にわかりやすく国別投資の強弱が分かれている事例とかというのは、ご説明いただくと、何となくイメージが湧きやすいと思うんですけど。
森辺:例えばね、紙おむつのシェアでいうと、P&Gって「パンパース」つくっている会社あるじゃないですか。あと、ユニ・チャームって「マミーポコ」つくっている日本の紙おむつメーカーがあるんですけど、例えばタイとかだとユニ・チャームが6割のシェアを持っていて、P&Gはほぼほぼないんでね、ゼロで。60対ゼロでユニ・チャームの勝ちなんですよ。マレーシアも23%くらいユニ・チャーム持っていて、P&G5%ぐらいだと思うんですよね。完全にユニ・チャームの勝ちですね。インドネシアもユニ・チャームが60%ぐらいあって、P&Gは10%ないんで、インドネシアもユニ・チャームの勝ちなんですね。ベトナムもユニ・チャーム4割ぐらいシェアあって、P&Gはほとんどないので、ユニ・チャームの勝ちです。こうして見ると、一見ユニ・チャームのほうが勝っているじゃないと思いますよね。あのP&Gよりすごいんだと。なんですけど、中国とインドを含めちゃうと、中国はやっぱり35%P&Gが持っていて、ユニ・チャームが15%なんだと。インドに関しては、6割もうP&Gなんですね、ユニ・チャームが15%なんだと。何が言いたいかというと、さっき言ったタイとかマレーシアとかインドネシア、ベトナム、こんな国って、60パー、40パー勝っていたって、たかだかマレーシアで紙おむつつけるのって赤ちゃんじゃないですか。45万人しか毎年生まれていないんですよ。タイで80万人、ベトナムで100万人、インドネシアが一番多くて400万人なんですね。たかだかこんな数字。一方で中国は1年間に1,600万人赤ちゃん生まれていると。インドにしてみたら2,700万人生まれていると。そうしたら、その数十万とか数百万生まれているASEANの小国で勝つことよりも、1,600万、2,700万生まれている中国やインドで勝つことのほうがよっぽど重要なわけですよね。そうすると、P&Gの戦略としては、中国とインドがマストですと。ここの市場をとって、ここで得た利益を遅れてASEANに投下しても、十分オセロ返しができるよねという戦略なんですよね。ここが非常にやっぱり強い。ただ、そうは言っても、ユニ・チャームというのは、日本のいずれの紙おむつメーカーよりもグローバル化が進んでいて、最も強い日本の紙おむつメーカーであるということは変わらないんですけどね。
東:それだけ進んでいるユニ・チャームでさえ、中国とインドに限っていうと、やっぱり遅れをとってしまっていると。
森辺:P&Gと比べたらね。ただ、中国とインドで15%のシェアを持っているだけでも、これはほかの紙おむつメーカーに比べたらものすごいことですよね。P&Gがそれだけ強いということなんですけどね。なので、ユニ・チャーム以下の企業というのは、ほとんど何もできていないということですよね。
東:そうすると、P&Gが中国とインドで得た利益をアジアで展開するんではないかというような、森辺さん今推測をされましたけど、それってどういったことなのかというのも、もしよろしければ、少しお聞かせいただければと思うんですけども。
森辺:結局、中国とインドでマーケットシェアで勝っていくと、利益がそもそもの市場がでかいんで、膨大ですよね。そこで得た利益を、一気に先ほど言ったASEANの小国に回してしまえば、ものすごいマス・プロモーションができるわけですよね。そうすると、ASEANの小国のシェアなんて簡単にひっくり返せちゃうし、そもそもP&Gというブランド自体、パンパースというブランド自体がグローバルブランドなわけなので、中国とインドで勝つことのほうが重要。そこで勝てばその利益をASEANに投下できるし、仮にASEANで負けたとしても、特にマレーシアなんか、45万人しか生まれていない市場、どうでもいいでしょうと。これからどんどん減っていく。タイだって80万人、ベトナム100万人、ちょっと増えているのかもしれないけど100万人。インドネシアはちょっと400万人で捨てがたいなというのはあるかもしれないですけど、そんなものですからね。2,700万人とか1,600万人と比べたら。
東:そうですね。2,700万人の60%のシェア、すごいですよね。
森辺:日本ですら100万人ですからね。とてつもない市場ですよね、インドなんかは。
東:そういう観点でいうと、やっぱり国別投資の強弱というのは、やっぱり日本企業も考えなければいけないと。
森辺:そうですね。どっちかというと、やりやすい国に行くという傾向がやっぱり強いし、どこかの日系が行っているから、行くみたいな傾向がやっぱり強いですよね。正直ASEANとインド、どっちが難しいかといったら、インドのほうが圧倒的に難しいですよ。だけどインドはやらないといけない市場なのでね。時間がかかるからこそ、もう今出なさい。今もう遅いぐらいだよという話でね。だと思いますけどね。
東:わかりました。じゃ、森辺さん、今日はお時間が来たので、ここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。
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