東:こんにちは、ナビゲーターの東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:森辺さん、前回、前々回と、アジア新興国でチャネル戦略をする上で、外してはいけないポイントという形で、いろいろお話しいただいたんですけども、三つ目の話としては、具体的にはどういった話でしょうか?
森辺:三つ目のお話としては、スピードですよね。出る時期が遅いと。欧米のメジャーとかって、もう1980年ぐらいから出ているんですよ。ASEANにも、新興国にもね。で、出ているというのは、マーケットととらえて出ているんですよね。一方で日本企業というのは、まあ1990年代の後半ぐらいからちょろちょろ出ているんですけど、本気になっているのって、ここ5年じゃないですか。本気になっているというのは、やっぱりしっかり予算がそこについているということだと思うんでね。今やっと躍起になっているという話ですよね、消費財メーカーさんなんかはね。そうするとやっぱり、15年から20年ぐらい遅れちゃっているんですよ。
東:参入時期がということですね?
森辺:参入時期が。で、これってもっと言うと、なんで早く、スピード持って出なきゃいけないかというとね、先駆者メリットどうこうというのも当然あるんですけど、私はね、なぜかというと、そのチャネルづくりというのは、時間がかかるんですよね。特にアジア新興国は、トラディショナル・トレードの市場じゃないですか。で、トラディッショナル・トレードを、何十万店とか何百万店のTTを攻略するには、やっぱりものすごい時間がかかる。これを成し遂げないと、間口のカバレッジは上がらないわけですよ。だから早く出ないといけないというのが最大の理由なんですけどね。ASEANで今もたついているじゃないですか。タイ、マレーシア、シンガポールは、なんとなくいいと。赤字にはならないと。けど、マーケットシェアでトップ3に入っているかというと、どのカテゴリにおいても日本の消費財メーカー、入っていないみたいなね。まだまだやれることたくさんあるんですよ。けど、赤字になっていないから、なんかそのままみたいな。VIPに関しては、マーケットシェアに出てこない。ユーロモニターのシェアに出てこないみたいな。そうすると、VIPなんかが特に赤字になっちゃうから、慌てちゃうという話ですよね。ASEANなんかで慌てている場合じゃなくて、早い企業はもうメコンやんないといけない。ユニ・チャームとかエースコック、もうメコンやっているんですよ。メコンやんないといけないし、メコンの次はインドがあって、次というよりか、もう既にインドやっていないといけないし、その先にはアフリカあるんですよね。だから、私の本音でいえば、もうすぐアフリカまでやれという話なんですよね、同時並行的に。なんですけど、そこがやっぱり遅くて、欧米メジャーとか、タイとか、インドネシアとか、中国のローカルのメーカーさん、もうアフリカまで行っちゃっていますからね。びっくりしますよね、あのスピードの速さはね。なので、スピードはすごく重要だと思います。
東:今、言われているスピードって、お聞きしていると、二つに分かれるのかなというようなことを思っているんですけども、一つは参入するタイミングの早さと、その参入をする国だったり、地域の決定の早さというところ、そこから決定してから参入するまでのスピードも言われているのかなというような感覚だと思うんですけども、その辺はどうなんですか?
森辺:そうですね。そのとおりだと思います。もし付け加えるとしたら、出てからTT、カバレッジ上げるところのスピード、出てからのスピード、この三つのスピードをやっぱりあげないといけなくて、まず日本企業の場合は、出る、出ないを判断するのに時間がかかる。まだ早い、まだ早い、まだ早い。何か重要なのは分かっているんだけど、なかなか出ていけないという。今、東ちゃんが言った1個目ですね。二つ目が、じゃ、一体どこから順番に出ていくのかみたいなプライオリティーのスピードがそうです。じゃ、いざ出てから、まず最初は赤字で当然続くわけなんだけども、それをブレークイーブンにするためのチャネルづくりのスピード感、ここも遅いんですね。
東:そうすると、特に参入してから、ブレークイーブンまで持っていくところに悩んでいる日本企業は多いと思うんですけども、そこの欧米メジャーと日本企業の違いというのは、具体的にどういったところにあるんですかね?
森辺:いい質問ですね。それが四つ目の導入期戦略の違いという話になってくるんですけど、やっぱり導入期の戦略が、欧米と日本企業では徹底的に違っちゃっていて、それが日本企業の現地での立ち上がりスピードの遅さになっちゃっているんですよね。一番最初に言った中間層からぶれないということもすごい関係してくるんですけど、中間層戦略からぶれないためには、導入期戦略は、その中間層に向けての戦略であるべきなんですよ。その中間層に向けての戦略って、どういうことかというと、アジア新興国では伝統小売重視なんですね。近代小売と伝統小売の比率を比較したら、アジア新興国って、多い国でも、近代は50%までなんですよ。ベトナムとか、インドネシア、フィリピンなんてのは、まだ15%、20%の世界で、大半は伝統市場なんですよね。伝統小売市場。インドにおいては98%伝統小売市場なわけですね。そうすると、絶対的に導入期から伝統小売をやらなきゃいけなくて、近代小売なんて、出た瞬間に終わっていないといけない。だって、フィリピンでいったら、SMとピュアゴールドとルースタンズとロビンソンでしょう。
東:4大…。
森辺:4大小売ね。ベトナムでいったら、ロッテマートとBig C。
東:あとイオンがあって。
森辺:イオンと。マレーシアでジャイアントとテスコと。インドネシア行ったら、アルファマートとインドマートと何とかってあるわけじゃないですか。したら、そんなところは出た瞬間に商談を終わらせて、ただ売りをしますと。それ以上に伝統小売の攻略に時間をかけるべきなんですよ、導入期戦略で。にもかかわらず、伝統小売に関してももうちょっとあとで。、まず近代で認知されてから伝統に行くみたいな、このゆっくりペース。これも三つ目で言ったスピードに関係するんですけどね。全部がつながっているんですよ、今言ったように1から4というのは。で、最初から伝統ですよと。儲からないのは分かるんですよ、近代だけやっていたらね。だってベトナムで1,000店舗ぐらいしか近代ないわけですよ、コープマートとイオンとBig Cとショップアンドゴー? サトラマートとかロッテマートとかありますけどね。それ全部合わせたって1,000店舗ぐらいですよ。フィリピン、さっき言ったエッセン、ピュアゴールド、ルースタンズ、ロビンソンズ?
東:あとコンビニ系ですね。
森辺:コンビニ系、マーキュリードラッグみたいな。こんなの全部合わせたって3,500ぐらいですよ。タイなんていったって、1万店舗ぐらいありますけど、テスコ、Big C、マクロ、あとマックスバリュとかセブンイレブンとかファミリーマートとかありますけど、それ全部合わせたって1万店? マレーシア、ジャイアント、イオン、テスコ、イオンビッグで6,000店ぐらいじゃないですか。インドネシアはジャイアントと、スターマートとか、ああいうところかな。アルファマート、インドマート、カルフール。そうすると、それ全部合わせたって、1万8,000、9,000店ぐらい。日本はセブンイレブンだけで18,000店あるんですよ。ローソンで14,000店。近代小売だけ売ったって絶対儲からないということは、もう目に見えてわかるんですよ。にかかわらず、まず近代みたいな。伝統やるよ。でもまず近代。いつやるんですかというと、やらないみたいなね、そういう状態になっちゃっているわけですね。だからもう導入期から伝統やりますと、こういうふうに考えないといけないし、伝統をとれなかったら、絶対儲からないし、こういう話をすると、いやいや、そうは行っても、ASEANやアジアの小売の近代化って進むんじゃないですかと。近代小売になるまで待ちますみたいなね。
東:まあよく議論になりますよね、そこは。
森辺:で、これは確かに近代化されていきます。近代化されていくんだけども、恐らく6割ぐらいまで。あと数十年かけて。30年、40年で伝統小売がなくなるなんて絶対あり得ない。何でこれ僕が言えるかというとね、80年代、ASEANに住んでいたときに、当然伝統小売をいっぱいあったわけですよ。けど、当時よりも伝統小売の総数自体は伸びているんですね。日本みたいに多くの人が会社に勤めて、サラリーマンをやるという市場じゃないわけですよ。自分で商売したい。けど、あまり頭良くないから、そんなにすごいビジネスみたいなことはできない。そうすると、商店やるみたいなことを思っている人は非常に多いわけなんですよね。伝統小売の数自体は増えているし、彼らにとって伝統小売というのは、我々にとってのコンビニエンスストアだったりするわけですよ。そうすると、伝統小売とは、決して低所得者層や中間層だけが買っているような小売じゃなくて、富裕層も使っている身近なコンビニエンスストアなんですね。なので、伝統小売が社会の中に入り込んでしまっているので、それがいきなり完全になくなる世界観というのはないということが、僕は一つ思っていますということと、あと、日本もコンビニの出現で、伝統小売が一気に駆逐されたじゃないかと。だからそれがASEANでも起こるんじゃないかということを言う人もいるんですね。でも、これも起こらない。なぜならば、ASEANの小売の近代化というのは、インフラの近代化と一緒のスピードでしか起きないんですよ。日本は国民も優秀だったし、政治家も優秀だったから、東西南北、隅々までめちゃめちゃ来ているじゃないですか。道路が全部上から下までつながっていて、地方も都市もインフラは一度が行き届いていますよね。地方に行ったらめちゃめちゃ道路穴あいているとか、運送が進まないとか、物が届かないとか、ないじゃないですか。離島にいたって物届くわけですよね。こんなインフラが同時に最適化された国なんて、世の中に存在しないですよ、ほかにね。ということは、アジア新興国も、道路交通インフラ、それから物流インフラ、それから水道、ガス、下水道、電気、こういうインフラがきれいに整うんだったら、小売も一気に近代化しますよ。けど、整わないじゃないですか。そうすると、整っていないインフラの上で、小売だけが近代化するなんてことは絶対にあり得ない。だから伝統小売が、ずっとこれからも重要だよって、僕は申し上げているんですよね。ちょっと長くなっちゃってごめんね。仮に近代化しても、伝統小売で買っていたものを、小売が近代化しても、近代小売でみんな買いますよ。だから、近代小売になったら頑張ろうといったって、近代小売が置いてくれない、そんな商品は。伝統小売で認められていない商品はね。それが導入期戦略の最大の違いですね。
東:なるほど。そうしたら、ちょっと森辺さん、今日は白熱して、時間なくなってきましたので。
森辺:これで導入期戦略の前半部分なの。後半になるから、次回ね。
東:次回に導入期戦略の続きをお聞きしたいと思いますので、森辺さん、ありがとうございました。
森辺:はい、ありがとうございました。
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