東:こんにちは、ナビゲーター東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:前回は「小さな組織の未来学」で、新しい連載が始まりましたというお知らせの中から、今あがっている二つの連載についてお聞きしましたが、前回、鴻海やハイアールの話をしましたが、このへんを深く聞いていきます。森辺さんなりに、今回のシャープなどは、どうして起こったのかとか、前回は品質だけではグローバルで売っていくのは難しいというお話もありましたが、そのへんについてもう少し、お聞きしたいです。
森辺:家電メーカーの失敗に学ぶということで、事例を織り交ぜながら書いていて、結局日本の家電メーカーは、コモディティーにもなりきれなければ、ドリーム・プロダクトを生むこともできなかった、というのが失敗の大きな要因だったと、僕は捉えています。
その中で、コモディティーは何かというと、簡単にいうと、誰でも作れるようになってしまった、ということで。白ものも黒ものも、発明からかなり長い時間が経っているわけですよね。元々は欧米のメーカーが作っていたものを、日本が見よう、見まねで作り始めた、というのが戦後があって、最初はその品質の悪さをバカにされ、猿真似、物真似と言われた。日本も10年前の中国みたいな状態だったわけですね。けど、いつのまにか、日本のメーカーは技術や品質を極限まで高めることに成功して、猿真似だったのがオリジナルを越えていったわけです。より小さく、より故障しない、より機能的で、品質の高い商品を作っていった。
ただそれは、時代が進むにつれ、中国や台湾や韓国の企業でも作れるようになったわけですよね。そうしたときに、競争関係ががらっと変わって、今まで日本のメーカーしか作れなかったものが、一気にアジアの企業でも作れるようになっちゃった。だから、コモディティー化しまって、そこに新たな競争が始まったわけですよね。その中で、新興国が成長していって、中間層も家電を求めるようになり、中間層が求めるような高品質、高スペックの家電をずっと売り続けた結果、ハイアールとかレノボとか、携帯でいうとシャオミーとかファーウェイとか、サムソンとかLGとか、こういう会社のほうが最低限の機能で、中間層以下が受け入れられるギリギリの価格帯で出していって、結局大差がないので、新興国の人たちがそっちを選んだという、そういう話なわけですよね。
それはそれで、自然な原理だと思うので、そこで負けたことは致し方ないと。アップルとか欧米の企業が、その間、ハードではなくてソフトに移行したということを、日本もやるべきだった、とは思いますよ。テレビは単なる受像機に変わってしまって、テレビそのもののハードというよりも、中で映し出すコンテンツのほうが重要なわけで、だからアメリカはHuluとか、Netflixみたいな映画配信のコンテンツ会社が生まれるし、そういう意味では劣ってたと思いますが、僕は一番の間違いは、ダイソンみたいな会社を生み出してしまったということなんですよ。結局あの会社、イギリスの会社で、1989年にできている。日本の家電メーカーはもっともっと長い歴史がある。その中でコモディティー化した家電は、中国や台湾や韓国の企業にとられて、そしてドリーム・プロダクトのような、掃除機10万円、ヘアドライヤー4万円、扇風機5万円、空気清浄機7万円、こんなコモディティー化したものを日本のメーカーは、「中国とのコスト競争が辛くて」ということをずっと言い続けて、負けただけで終わらずに、そこでドリーム・プロダクトを生んだダイソンのような企業にもなれなかった。ダブルで負けてるんですよ。
非常に中途半端なポジショニングの中に置かれていながら、いまだなおテレビを作ってるこの現実。いまだにスマートフォンを作るこの現実。日本の携帯やスマートフォンは世界一だといわれたのに、スマートフォンに携帯が切り替わってから、もう携帯はハードではなくてソフトになっている。そのソフトをグーグルとアップルにとられてるのに、いまだにハードを作ってるみたいなね。そんなの勝てるわけないでしょ。中国のファーウェイの携帯工場とか、レノボの携帯工場を見たときに、勝てないことが明らかであるのに、いまだに作っている。
このダブルトリプル負け、というのが家電業界の失敗で、これを他の多くの業界の人たちは、家電業界の話だ、と思うんですよ。日本ではまだまだ日本の家電が売られているから、そんなに深刻じゃないという錯覚に陥ってるんだけど、実はものすごく深刻な話だし、この家電業界での事例というのは、今、自分たちのいる業界にも同じことがいえる。日本企業というのは品質良ければすべてよし、というもの作りみたいなところで前に進んでいて、僕はもの作りを否定しているのではなくて、もの作りプラスが必要ですよ、ということをこの連載でも話しています。
東:家電業界で起きたことが、他の業界に起きるということがちょっと実感がわかない方もいらっしゃると思います。森辺さんの専門でいうと、消費財とかそういったところになると思いますが、消費財とか、お菓子、日用品というところで見ると、実際どうなんですか。
森辺:家電業界で起きたことを、チョコレート菓子メーカーの例で例えると、自分たちの作ってるチョコレートは、いい原材料を使って、高い技術力でおいしい商品を作っていると。だから高くて当たり前。日本ではチョコレートは100円で売ってる。そんな中で、海外でも100円で売りたい。輸出でやったら、それが2倍、3倍になっちゃうわけですね。そこを抑えて、同じ100円で売ったとしても、アジアでは中間層以下の人たちは、外食をするときに一食100円ぐらいで食べられるわけです。そうすると、チョコレート菓子の値段は少なくとも20円以下でないといけない。そうしないと、一番ボリュームの多いアジア新興国の最大の魅力である中間層に浸透はしない。にもかかわらず、いまだに100円でチョコレートを売ろうとしてる。それって、家電メーカーがやってきたことと一緒じゃん。自分たちのテレビは品質高いんだもん、ラジカセは品質高いんだもん、携帯は品質高いんだもん、ということをやってきて、でも、べつにファーウェイでもレノボでもシャオミ―でもスマートフォンを作るわけです。使えるわけです。中で動いてるソフトウェアはグーグルだ、となってくると、日本のチョコレート菓子メーカーも、自分たちが考えるいいチョコレートではなくて、アジア新興国の現地が考えるいいチョコレートが何なのか、そこに合わせた商品作りをしていかなくてはいけない、というのはすごく感じます。非食品系の日用品も同じことだと思います。
東:今日はここまでにしたいと思います。森辺さん、ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。