東:こんにちは、ナビゲーター東忠男です。
森辺:こんにちは、森辺一樹です。
東:前回に続き、「小さな組織の未来学」の連載の中で、家電メーカーに学ぶ失敗というタイトルの話をしていただきましたが、「日本のお菓子は新興国で売れるのか」というサブタイトルがついてますが、これについては、売れるのか、と疑問形になっていますが、森辺さんはどう思われますか。
森辺:結論からいうと、売れると思います。ただ、現状のままでは売れません。イエス・ノー!という感じ。ノーの部分を変えれば、イエス・イエス!になるので、そこが重要だと思います。
東:日本国内の市場を考えると、お菓子って高級路線、プレミアムなんとかという、今よりも高い価格の設定にして、単価を上げて、数が減った分をカバーしよう、みたいな戦略というか傾向にあると思うんですけど、新興国では逆じゃないですか。そうすると、日本企業が抱えるジレンマって、日本国内の市場と、海外の、例えばアジアに出ていくときに、まったく反対の技術開発というか、製品が求められる、というのはジレンマとしてあるのかな、と感じるんですが。
森辺:まさにそのとおりで。コンビニ行ったら、わかると思いますが、日本の菓子メーカーって、年間に何十とか何百の新製品を開発して、そのうちの一個、二個が残って、コンビニに並ぶと思うんですね。冬は冬用のなんとか、秋は秋用のなんとか。味もものすごい種類があって。その中で多くが消えていって、ロングランになるのはほんの一握りという感じだと思います。傾向としては、すべてがプレミアムなんとか、という方向になってる。
日本の消費者があまりにもマニアックで飽きやすいという課題を、現実的に抱えている。一方で他の先進国に行ってもそうなんですけど、日本以外の国で、こんなにチョコレートの種類が多い国、こんなにポテトチップスの種類が多い国って、そんなにないですよ。彼らは、キラー・コンテンツを持っていて、そのキラー・コンテンツをどれだけ消費者の心の奥深くに浸透させられるかみたいな、そんなことをやってるわけじゃないですか。だから、ほんとに真逆の市場で、種類で増やしていくというより、何かひとつのキラーコンテンツを深く刺しながら、進めていくということをしないといけないんじゃないかなと。
ポッキーが、MTのSKUの棚を増やすために、いちご味出したり、なんとか味出したり、ということとは違って、一個のポッキーというブランドで、SKUを味で広げていくということを否定しているのではなくて、チョコレート菓子全体として、いっぱいありすぎる。触感がフワフワしたやつ、カリカリしたやつ、サクサクしたやつ、みたいな。消費者を甘やかしすぎるわけですね。すべての万人にいい顔をする。日本の常識でいうと、消費者が神様ですから。すべてにいい顔をして、すべての好みに合わせようとする。それって企業の経営にとっては、RIが悪くなる。だから、いかに崩れない一つのブランドを築き上げるかということは、すごく重要なんじゃないかと。
アジア新興国に行っても、チョコレートって、マースかネスレみたいな話じゃないですか。キットカット!ネスレ!ドーン!みたいな。マースのスニッカーズ!M&M’S!モンデレーズのオレオ!もう不動のキラーコンテンツですよね。こういうカテゴリーを、日本メーカーがどれだけ残せるか、という話で、ポッキーはすでにそうなってると思うのね。
東:一つのブランドをまず認知させる、というイメージなんですかね。
森辺:もっというと、グリコのポッキーがドーン!とあるじゃない。そしたら、ほかの日系メーカーがラッキーとか、トッポとか、似たような商品を出して、そこに乗っかろうとする。だけど、アジア新興国でM&M’Sをマースが出したら、そこに他のメーカーが似たようなマーブルチョコレートで乗り込むかといったら、乗り込まない。オレオはクッキー系でドーン!じゃ、マースのもう一個のブランドは、スニッカーズだ、ドーン!ネスレはキットカットでドーン!といってる話で、一個当たったら、その当たったメーカーに後追いして、同じような商品を出すみたいな。ポッキーが外にチョコレートがあったら、トッポは中にチョコレートみたいな。一緒じゃねぇか、みたいな。日本人にとったら、絶妙な違いが、「うん、いい、僕はトッポ派」「僕はポッキー派」というのがあるのかもしれないけど、外国の人はそんなに繊細な舌を持ってないから、一緒なんですよ。だとしたら、トッポを出すべきはポッキーだし、ロッテがそれをやるべきじゃない、みたいなね。真似真似じゃない。それはすごく感じますね。でも日本のお菓子市場ではそれが許されてるんですね。
東:逆に日本の市場だと、それをやらないと勝ち残れない。アジアに行くと、キットカットとかオレオみたいな形で、一点突破でやらないと、なかなかブランド認知が広がらないということですかね。
森辺:日本だと、ハイチュウって、ハイチュウ以外にあの触感を出せるのってないじゃないですか。あんなのは、僕はキラー・コンテンツだと思いますよ。このPodcastで、前から何回も言ってるけど、チロルチョコ、あの大きさの一口チョコレート。ああいうものも、あれすごいキラーコンテンツだと思うし、ああいう製品を持ってる会社が、一点突破で押し出していく、ということが不動の地位を築くことになるんじゃないかと思うんですけどね。おっとっとを出したら、どこかの国の会社は、おっとっとぽいものを作ったりとか、カルビーのじゃがりこが流行ってたら、ああいうカップの同じようなケースに、じゃがりこっぽいものを入れてみたりね。そういうのがあって、何が違うかといったら、味と触感が違うみたいな。
正直、アジアや世界の人は、日本ほど味と触感にこだわってないんですよ。食事という非常に大切なイベントが一日に三回あって、そのイベントの間を埋めるものがスナックなんですね。日本人にとってのお菓子というのは、食事というイベント以外に、お菓子というイベントも重要なイベントじゃないですか。けど、海外に行くと、所詮スナックはスナックなんですよ。食事という重要なイベントの間を埋めるものであって、それを上回るものでも、同等に並ぶものでもない、ということが、根本的にお菓子に対する考え方の大きな違いだと思うんですね。そこが一つあると思います。
東:今日はここまでにしたいと思います。ありがとうございました。
森辺:ありがとうございました。