(1:05)
阪西:こんにちは。スパイダーの阪西です。今日はいつもの東が海外出張で多忙なため、代わって私がナビゲーターを務めさせていただきます。では森辺社長、お願いいたします。
(1:19)
森辺:皆さんこんにちは、森辺でございます。東君、海外出張ですか。今日は、東が海外出張なので、ナビゲーターを秘書の阪西が務めます。皆さんよろしくお願いします。実は今日、300回記念を迎えて、毎回100回、200回とご登場いただいている、明治大学の大石教授を今回は特別ゲストでお迎えしております。大石先生、どうぞよろしくお願いします。
(1:49)
大石:どうぞよろしくお願いします。
(1:51)
森辺:では、300回記念になる今回なんですが、ホント100回記念、200回記念とこのPodcastにお付き合いいただき、まずは心よりお礼を申し上げたく思います。今回この300回記念のですね、最初のお題なんですが、そもそもPodcastのタイトルにもなっている、グローバル・マーケティングっていうことについて、もう一回、Back to the basicじゃないですけども、先生のグローバル・マーケティングに対するお考えであったり定義であったり意味であったり、必要性であったり、そんなようなことをちょっとおうかがいしたいなと思います。
(2:33)
大石:はい。日曜日の夜、ホノルルから帰ってきたんですが、ハワイに滞在中、イギリスにおいて国民投票が行われまして、EU離脱派が勝利するという、非常に衝撃的な結果がありましたね。
(2:52)
森辺:はい。
(2:53)
大石:で、これについてはFacebookにも、どういうそれが影響をもたらすかっていうのは、簡単に説明したんですけども。ここでグローバル・マーケティングとの関係でいうと、もう一度、ここで国家っていうものは何かというのを考えさせられる。その問題としてとらえたわけですね。まずグローバルという話、グローバル化とか、グローバリゼーションとか、それがいつからの話かっていうのは、僕にとっては明確なんですね。これ、1989年のベルリンの壁崩壊以降というのが、僕にとってのグローバル化の定義です。実はそのグローバル、地球規模のという言葉は、もちろん一般名詞としてあったわけですね。ところが、89年のベルリンの壁の崩壊で、その後91年にソ連邦が崩壊すると。91年にはインドがいわゆる社会主義政権から、民主主義政権に入る。92年には中国の鄧小平の南巡講話があって、要するに社会主義市場経済というのを明確化するわけですね。こういったことが90年代前後に起こって、それまで社会主義と、資本主義という冷たい戦争があって、二つの世界に分かれていたものが、まさにグローバルになったわけですよ。これがグローバル化の一番ポイントなんですよ。
(4:28)
森辺:わかりやすい。
(4:29)
大石:ところがですね、これがあまりに衝撃的だったもんですから、多くの人はこれで国境がなくなったと、ボーダレスになったって、こう考えたわけですよね。ところがそうではない。確かに、競争であるとか、情報であるとか、金融はボーダレスに動いているわけです。だからそれで見ると、「あ、そうか。やっぱり国境の垣根は小さくなって、われわれは、ボーダレスに生きてるんだ」と思いがちなんですが、実は製品だとか、人とか、企業が国境を越えて行くっていうのは、そう簡単ではないと。これがボーダレスに対する反対の「ボーダフル」ということなんですね。実はボーダレスの一つの象徴として、EUがよく挙げられてたわけです。いわゆる「戦争なき統合」を決めた1957年のローマ条約以降、ヨーロッパはドイツ・フランス・イタリアを中心に、ヨーロッパ統合を進めてきたわけですね。いろいろ問題はありましたけども、ここまで、ユーロの導入とかそういうことを含めてやってきたと。それがもう一度、今度イギリスが離脱するという。いわゆるイギリスの国家、利己的であることはもう間違いない、それはどこの国だって利己的ですからね、それはそうなんですが、国家というものをもう一度前面に出してきたわけです。自分たちのことは自分たちで決めるんだと。で、EUに予算をたくさん出しているのは、もう、それは嫌だとか。EUは移民の受け入れをしてるけどもイギリスはそれをしたくないとか。そういうことをやった。つまり、国家というのはシンガポールのような都市国家であれ、アメリカや、中国のような大国であれ、EUという統合を一生懸命やっている中においても、いまだにやはり国家っていうのは、それを越えたビジネスをやるっていうのは、極めて難しいわけですね。国内でやってたビジネス・マーケティングとは決定的に違う問題。それが僕にとってのグローバル・マーケティングなんですよ。
(6:46)
森辺:なるほど。
(6:49)
大石:だから僕にとってはグローバルと言いながら、常に「国家」とか「国境」が頭の中に意識があるんですね。だから先ほども言いましたように、金融とか、ある側面はボーダレスに動いているので、そういうものはわれわれも理解します。例えばウェブで情報を流せばそれは世界的に流れるし、SNSも世界的に流れていきます。そういうことはわかるんですが、じゃあ皆さん、商品をタイに輸出するとか、あるいは工場をミャンマーに造るとか、そういう時に極めてその国家の規制とか、そういうものが著しく明らかに出てくるわけですよ。
(7:33)
森辺:なるほど。そうすると、マーケティングのテクニックっていう、グローバルにマーケティングを実施するという、マーケティングの中のテクニック論という意味合いも、もちろんあるんだけども、そもそもグローバルに企業が動こうとすると、必ずその企業の国籍がくっついてくるわけで
(7:59)
大石:そうですね。
(7:59)
森辺:それによって外資規制が発生したり、いろんな弊害や、障害が発生するので、そういうものも含めて、どうやってクリアしていくかっていうこと全体が、グローバルマーケティングだっていう、そういうことですかね。
(8:14)
大石:そうですね。だから、マーケティングの研究者は多いわけですが、多くは国内の一国レベルで考えていくわけですね。もちろん東京と大阪では消費者行動が違うので、そこには違ったアプローチが必要だと。で、広告のやり方も違う。こういうことがあるわけです。国内マーケティングやってる人は、同じ点で「いや、日本とアメリカ、それは消費者行動違う。文化も違う。だから、そこに合わせたマーケティングの理論を適応すればいいんだ」と、こういうふうに考えるわけですよ。で、僕はもちろんマーケティングの一般理論が、そういう形で適応される部分は大きいとは思うんですが、その国境を越えるということは、実はそれに違った意味をもたらしていく。非常にそれだけでは済まない問題が出てくるわけです。だから僕が例えば企業の研究をやっていると、多くの先進的な企業は、もう日本市場も、世界市場の一部、one of themにしているわけですね。つまり日本と海外ではなくて、日本もアメリカ市場や、中国市場と同じような日本市場だと、こう考えている。こういう考え方で言うと、グローバルにやってるマーケティングは、国内マーケティングにも適応できるし、国内マーケティングをやる場合も、グローバルを考えながらやっていく。それは製品開発もそうですし、例えば自動車であればモーターショーでもそうですし、レクサスであればフロントグリルのエンブレムを、ああいう非常に精悍なモデルにして、世界的に共通化していくとか。国内だって海外だって同じようなことを考えていると。
(10:09)
森辺:要は、今までは日本から世界を見て、日本と世界とか、日本と海外とか、そういう発想だったんだけども、自分が立っているのは日本ではなくて、少し上の方に大気圏外に出てみて、そこから宇宙から地球を見ると、まあ…日本、アメリカ、ヨーロッパ、アジアというふうに見れるわけで、そういう見方に変わってきてるっていうイメージですかね。
(10:37)
大石:そうですね。去年クロアチアに行って、バチカンのバルカン半島の小国もいくつかまわったんですが、彼らは歴史的に大国に挟まれて生きてたので、非常に語学が堪能なんですね。「ペルシアは強くなるぞー」っていったらペルシア語を勉強し、「ベネチア帝国が強くなるぞー」っていったらイタリア語を勉強し、「今度はロシアが強くなるぞー」っていったらロシアを勉強する。彼らは生き抜くために、そういう知恵で、いわば常にグローバルを見てたわけです。先週オランダにいたんですが、オランダも今まったく同じような状況ですね。小さな国ですから、常に彼らはグローバルに門戸を開いていかないと駄目だと。だから、例えば大学の授業は、全部英語で行われるとか。卒業生も当然EUを中心に世界中に散らばっていくし、学生も世界から来る。一見そこ、ボーダレスに動いているようですけども、オランダという国家を、どのようにして維持していくかという国家戦略の中で、グローバルを利用していくというか「その中で自分たちは生きていく」ってことは言ったわけです。だから今回のEUの国民投票で、若者がこういうふうに叫んでるんですね。「俺たちは残留を望んだ」と。ところが「先の短い年寄りが、昔の栄光に従って、イギリス帝国、取り戻せみたいな形で離脱をやった」と。「僕らはイギリスの老人よりも、スペインやフランスの若者とのほうが、シンパシーを感じるんだ」と。「僕らが大学を卒業した後、就職先は別にイギリスでなくてもいい」と。「フランスでも、スペインでも、オランダでもいいんだ」と。「その道を閉ざしたんだ」と今回の。ここがやっぱり、根本的なポイントなんだと僕は思うんですよ。そういう感覚を、日本人、日本の企業はやっぱり持たなきゃいけないんですね。ところが、なかなか日本という島国で、日本のマーケットが大きくて、その中で生きてきたわれわれがですね、そういった感覚になるのは非常に難しいです。だから「グローバル」と「国内」というものを、常に相対的に見ていって、ビジネスをやっていくという感覚。これをやはり、われわれ、今から日本企業は、特に身につけていかなければ生きていけないというのが僕の危機感ですね。
(13:31)
森辺:「必要以上に意識をしろ」ということですよね、きっと。
(13:35)
大石:そうですね。シンガポールもそうですが、英語を公用語にしたのはもう、中国人が6割ですから、中国系がシンガポールは。だから中国語が飛び交ってたわけですね、80年代にずっと。だけど、それが今はもう、若者は英語でしゃべってるわけです。それが彼らの生きる道だったんです。ところが日本語は、やっぱりここの中にいると、コンビニはあるし、自動販売機はあるし、治安はいいし、人々は親切だし、こんないいとこないんですね。そうするとこのぬるま湯に浸かってやっていくんだけども、でも一歩世界に出ると、世界はそうではない。
(14:17)
森辺:そうですね。「それを含めて学ぶのが、グローバル・マーケティングだ」ということですね。
(14:24)
大石:そうですね。
(14:25)
森辺:なるほど。ありがとうございました、先生。そしたら今回お時間になりましたのでこのへんにして、また次回引き続きよろしくお願いいたします。
(14:31)
大石:よろしくお願いいたします。
(14:35)
ナレーション:本日のPodcastはいかがでしたか?番組では森辺一樹への質問をお待ちしております。ご質問はPodcast@spydergrp.comまでお申し込み下さい。たくさんのご質問をお待ちしております。それではまた次回、お目にかかりましょう。
『森辺一樹のグローバルマーケティング』。この番組はspyder groupの提供によりお送りしました