(1:05)
阪西:皆さんこんにちは。スパイダーの阪西です。今回も東に代わり、私、阪西がナビゲーターを務めさせていただきます。では森辺さんお願いいたします。
(1:17)
森辺:皆さんこんにちは。スパイダーの森辺です。東ちゃんはまだ帰ってこないんですか。おそらく今、ヨーロッパに行ってると思います。次回ぐらいには帰ってくるかもしれません。それでは、今日も引き続き明治大学の大石教授をお招きして、日本企業のグローバル化について学んでいきたいと思います。大石先生、どうぞよろしくお願いします。
(1:19)
大石:はい。よろしくお願いします。
(1:41)
森辺:先生今日は、前回記念すべき300回記念を迎え301回目になるんですが、グローバル化に伴う日本企業の課題みたいなもの、先生いろんな企業で見て聞いて、そしてそれらを支援してっていう活動を行ってきてると思うんですけど、総じて言うと、おそらく日本の大手でも、グローバルに伴う課題って、何かこう…共通してるところがきっとあるんじゃないかなと思っておりまして、そのへんの課題について、今日はお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。
(2:20)
大石:はい、わかりました。われわれ研究者が実務家に対してお話しするのは、まさに、何も知らないまま話しているというところあるんですが、幸いにもわれわれは中立的なので、いろんな企業の方から不満を聞くことができます。場合によっては、もちろんそれを統計的に処理することもあるんですが。例えば、教え子が今、上海に行ってるんですが、メールが来て「ウチの本社がやっぱりグローバルの感覚がない。」という苦情を言ってきたわけです。僕が知っているその会社っていうのは、今、一生懸命そういうグローバル対応をしようとしてる会社なので、「まだまだなのかな。」っていう逆に驚きがあったんですけども。もう少し大手の企業の、中堅幹部や上級管理職の人たちの話を聞いても、やはり本社がまだグローバル対応ができていないと。そこが一つの大きな課題だと。僕らはグローバルマーケティングをやっていると、やっぱり二つの視点でみるわけですね。一つは現法の視点、一つは本社の視点。これまで、多くは現法で、例えば、タイでどういうふうに成功するか、ベトナムでどのようにしたら、どのようなマーケティングをやれば成功できるかとか、こういう話をメインでやってきたわけですよね。ところが、いろいろそれをつなぎ合わせてみると、最後はやっぱり本社が変わらなければいけないんですね。ここに行き着くわけです。それが今日の多分課題だろうと。
(4:13)
森辺:そうですね。多くの権限は、依然として東京本社が握っているというケースがまだまだ多いですもんね。
(4:24)
大石:だから最近は、海外経験が豊富な人が本社の海外事業を担当するということも出てきています。フマキラーインドネシアの社長だった山下修作氏が本社に戻ってきて、海外事業統轄をされています。彼の肝いりのお弟子さんが今度、インドネシアの社長にもなられましたし。そういう形。今度も今年もそこに訪問するんですけど。そうするとインドネシアの社長を十何年やってきた山下氏は、それはそれで理解はできているわけですよね。だからそういうパターンが今いくつかはできてきたんですけども、多くの場合、海外駐在経験した人がそのまま本社で活かされるということがないし。今、取締役の者をバッと並べて、男女比率だとか。海外経験比率とか、語学能力とか、そういうデータをとってみても大半は日本人で、男性で、海外駐在は短い経験はあるかもしれないけども、欧米のように十何年、経験をやったとか、そういう方は比較的少ない。少なくとも、本社でずーっとやってきた人の方が出世していくという、こういうパターンが多いですよね。ここちょっと大きな問題だろうと思います。
(6:04)
森辺:問題ですよね。なんか僕、エピソードとして思い出すんですけど、15年近く前ですかね。中国で、一番最初に僕が創業した会社を経営してた時に、本社香港と深圳に設立したんですよね。その時に現地の日系企業に飛び込みして、毎日通って「仕事をください。」という活動を、当時26ぐらいなんですけどやってて、26だったからできましたけど。今振り返って思うのは、まあ、会社が一向に儲からないんですよ。なぜ儲からないかといったら、現地法人の当時の董事長、まあ総経理と言われる社長さんですよね。あの人たちが50万100万ぐらいの予算しか持ってない。50万の予算しか持ってないところにいくら営業しても、なかなかそりゃ儲からないと。結局、本社が予算を握ってるっていうことがわかって、途中で本社移転したんですよ、東京に。そしたら、やってることはきっと面白かったんでしょうね、急に会社の業績がグワーっと上がったっていうのがあって、「え。こんなに権限移譲が進んでないっていうけどここまでか。」っていうのが15年近く前で、今だいぶ進んでいますけど、当時はそんな状態だったっていうのと、あと、当時現地で駐在してた人が、ものすごい生き生きと果敢に現地市場に取り組んでいるのに、3年5年ぐらいして帰任をして会うと、別人かっていうぐらいドヨーンと下を向いて、海外とまったく関係ない部署で、まったく関係ない仕事をしていると。なんてもったいないんだろうっていうのは、すごく思いますよね。
(8:07)
大石:私は人事の専門家ではないので、人事の専門家からの話を聞いた、また聞きもあるし、そういう研究書を読んだところもあるんですが、ただ僕も、年間海外40社ぐらい現法をまわってるし、毎週のように本社の人たちと話すので、ある程度の問題は肌感覚でわかってるんですね。で、やっぱり、一つはNATOですね。No Action Talk Onlyという。いわば海外の批判があるわけですね。つまり、海外現法の人たちは、話はしてくれるんだけど行動ができない。なぜならば、今、森辺さんがおっしゃったように、権限がないから。いつも、協議をした後、本社に持ち帰ってっていう、稟議書を上げている間に「まだか、まだか。」という形で文句を言われる。本社は本社の方で「いや、それはいっても社長決済とらなくちゃいけないのに、実現可能性がまだ6割しかないようなものを出せるか。」みたいな話になって、書類の山としてたまっていると。こういう状況がやはり多くの所で見られるので、これはいまだにそうですよね。だから、うまくいってるところっていうのは、10年選手の社長がいて、かなり本社に対しても口が利けて、あるいは本社の言うことを無視できて、みたいな。それで、長年の経験から培ったマーケティングや、経営ノウハウでもってビジネスを回していくと。こういうところはわりと成功している。でもこれは、かなり個人の力で引っ張られているところがあって、その人が辞めちゃうと…ということになっちゃうわけですね。
(10:00)
森辺:即人的すぎますよね。仕組みじゃないですもんね。だから、本社のグローバル化がまずないと、現法なんて絶対グローバル化しない、っていうのはその通りだと思うんですよね。じゃあ、この「本社」って誰を指してるんだろうって言った時に、もっと突き詰めると結局、「海外担当役員」を指しているんじゃないかなと。いろんな企業の海外担当役員に嫌われちゃうかもしれないですけど。結局、自分に10年仕えた可愛い阪西を現地に送った方が「現地どうなんだ。」っていう話が、「森辺さん、こんな感じです、あんな感じです。」ってコミュニケーションすごいとれますよね。自分の言うことを阪西は忠実に聞くので、非常に可愛いと。一方で、欧米かなんかでMBAとってきたようなスティーブ・チャンみたいな奴を現法に据えるとですね、まあ、言ってることも難しいし、ダイナミックだし、リスクはガンガンとっていくし、自分がものすごい難しい判断を迫られるわけですよね。経営者の仕事ってのは「判断をすること」「責任をとること」なんだけども、「できれば難しい判断はしたくない。」っていうのは多分誰でもそう思うので、なんかそういうこともすごく左右しているんじゃないかなっていうのは感じるんですよね。
(11:24)
大石:そうですよね。二つ問題があって、一つは今おっしゃったように、経営者層の判断力・決断力・行動力ですね、この三つが揃わなければスピーディーにビジネスは回していけないということですね。それぞれ能力がちょっとずつ違うんですけども、この訓練をしっかりやっているかどうかっていうことなんですよ。そういうふうな訓練を、現場のOJTで彼らは受けているんだけども、本当はもっとシステマティックにやらなきゃいけないと僕は思ってるんですね。それが二つ目の問題の、いわば「キャリアパス」の問題なんですよ。新入社員で入って来た時から、どのようにこの人たちのキャリアパスを作り上げていくのか。例えば30前にこういう経験をさして、30半ばでこういう経験をさして、40でこうだねと。本来ならば、40代でもう、取締役レベルですね。サムスンなんかは44で取締役になれなければ、まあ、いわば事実上解雇ですか。やっぱりこういう世代が全体を引っ張っていくようなパワーにならなきゃいけないけど、日本だったら44で課長とかね。
(12:44)
森辺:そうですね。
(12:46)
大石:50で部長になったら御の字みたいな。
(12:48)
森辺:もう、本流ですよね。
(12:49)
大石:そりゃ遅いでしょうと。じゃあ、この二つを実行するためには何が必要かと言うと、意思決定を任せるJob description・職務区分を明確にして、この人たちが責任を持ってビジネスができると。うまくいったら給料上がるし出世もするし。失敗したら当然、その責任は取らされると。すぐクビじゃないんだけど、もう一回再教育だとか、職務外で、もう一回鍛えなおしなさいっていう形でやるんだけど、こういう、いわば、ある職務区分を明確にして、そこでしっかりとしたビジネスの責任を取らせる、経営実績を積んでいくと。こういう経験をしていけばもう、40ぐらいになったら十分トップマネジメントやれるんですよ。P&Gがなんで人材育成企業と言われるかというと、ブランドマネージャー制があるからですよ。そのブランドマネージャーをやって、何百億、一千億のブランドを1人でやってくわけでしょ。これはもう、経営者とまったく同じですよ。それは必ず、ブランドマネージャーを経験した奴がトップになっていく。そういう仕組みを、やはり日本企業つくっていかないと、本社のグローバル化っていうのはなかなか進まない。
(14:13)
森辺:そうですよね。なるほど。わかりました。今日はちょっとお時間が来ましたのでこれぐらいに。また次回引き続き日本企業の課題についてお話をいただきたいと思います。先生どうもありがとうございました。
(14:25)
大石:はい、どうもありがとうございました。
(14:28)
ナレーション:本日のPodcastはいかがでしたか?番組では森辺一樹への質問をお待ちしております。ご質問はPodcast@spydergrp.comまでお申し込み下さい。たくさんのご質問をお待ちしております。それではまた次回、お目にかかりましょう。
『森辺一樹のグローバルマーケティング』。この番組はspyder groupの提供によりお送りしました