(1:05)
阪西:皆さんこんにちは。スパイダーの阪西です。まだまだ東が多忙なため、代わって私、阪西がナビゲーターを務めさせていただきます。森辺さんお願いいたします。
(1:17)
森辺:皆さん、こんにちは。森辺です。今日も引き続き、明治大学の大石先生をお招きしております。大石先生どうぞよろしくお願いします。
(1:26)
大石:よろしくお願いします。
(1:29)
森辺:では、大石先生、前回、「日本企業のグローバル化に対する課題」のお話をいただいたんですが、今日も引き続き、そのへんのお話をしていただきたいと思うんですけども、前回、日本企業のグローバル化の課題として一つ、本社のグローバル化が遅れているという話がありました。その中で、教育制度、グローバルな人材をどう育成していくかというところの遅れについて、少しお話をいただいたと思うんですけども、そのへんについて引き続きお話をちょうだいしてもよろしいですか?
(2:10)
大石:はい。例えば、アメリカのビジネススクールに企業派遣で行く日本の留学生の数が減っているわけです。いくつかの理由があるんですけども、アメリカのビジネススクール出たら戻って来てすぐ会社辞めちゃうとか、そういった問題ももちろんあるんですが、もう一つは、日本の企業がそういったMBAホルダーをきちんと遇しないと。「持ってる。」「あ、そう。」っていう感じで。持ってるから給料上がる、出世するというわけでもない。MBAがあればみんな出世するし、給料が上がるのであれば。そんな単純な話ではないとはわかるんだけども、正当に評価しないと。以前は大学出て、3年5年会社の中で教育して、一人前にしていく。OJTも含めてやっていったわけですが、だんだん日本の企業はその体力がなくなってきたのか、あるいは、いわゆる社内教育をやっても今の若者はすぐ、3年で三分の一辞めてしまうわけですから「それは無駄だ」というふうに考えているのか。社内の教育システムが、僕は非常に弱っているというふうに思うわけですね。僕がグローバルマーケティング研究会やっている一つの理由は、外部の人間だけども「じゃあみんな集まって、業界の垣根を越えて、みんなで勉強しましょうよ。」という、そういう意図があるわけですね。本来はこういうものは、きちんと社内でしっかりやっていく必要があると思うんですけども。
(4:02)
森辺:確かにね。だいぶ減ってるんですかね、そのグローバルに対する社内教育というか、そういう機会ってね。
(4:12)
大石:例えば、具体例出して恐縮ですが、東芝が今回、異常な問題を起こしたわけです。僕は実は、東芝総合人材開発というところで、東芝グループ全体の教育機関なんです、新横浜にあるんですけど。そこで10年ぐらい、10年以上ですかね、国際マーケティングの基礎とか、グローバルサプライチェーンマネジメントとか、そういうのを教えてたわけですよ。ところがこの危機に陥ったら、結局その講座も閉鎖という形になるわけですよね、余裕がないということで。経費削減でしょうけど本当にそれでいいのかなと。単に業績が悪くなったからそういうものへの支出を切る。いわゆる経費として切るのではなくて、これは投資であると。人材育成という投資であると。そう考えられるかどうかっていうのは、大きな差だと思うんですね。僕らは大学人として学生を教育してるわけですけども、やはりそこにはいろんな無駄もあるし、問題はあるかもしれませんが、いい人材を世の中に出したいという思いがあって、それで一生懸命やっているわけです。だからどんな組織だって社員をきちんと育てて、将来自分たちの向かうべき方向、グローバリゼーションに乗っていくんであればそういった人材育成の方法とか、もっと若手にチャンスを与えてダイナミックにやっていくとか。あるいはDiversityが必要で、女性の活用であるとか、外国人の活用であるとか、これをやってかなきゃいけないなら、そういうシステムをつくっていく。これをやらなきゃいけないんですが、なんか旧来のやり方のままうまく、「なんとか、ここを乗り切れないかな。」というふうに模索しているのが、現状じゃないかなという気がしますね。
(6:22)
森辺:そうですね。「なんとかここをうまく乗り切れないかな。」って、なんか多分、いろんなところでそういうのってありますよね。どっちかって言うと本音の中に「グローバルとかあんまり言いたくない。」と。80年代90年代、Made in JAPANで売れまくったじゃないかと。いいモノ作れば売れるんだと。社員のグローバル化とか、英語教育とか、ややこしいグローバルマーケティングとか、「そういうのはホントは嫌なの!」みたいなのを、なんか企業からね、すごく僕感じることがあって。上場企業の役員さん連れて海外に行く時に、僕、必ずやることがあって、それは地下鉄のエスカレーターに乗せるんですよ。そうすると、エスカレーターのスピードが日本の地下鉄の3倍ぐらいあるんですよね。日本だと大問題なんですよ、こんなスピードの速いもの。僕ぐらいの年齢でも、乗る時と降りる時にちょっと「おっ。」と気をつけないと、神経集中しないと転んじゃうようなスピード。で、「この感覚ですよ。」と、彼らのリスクに対する。イライラするんだと、エスカレーターに乗る時。だから、これが彼らにとっての普通のスピードだと。一方で、日本でこれやったらアウトですよね。「もし本当にこの国で戦うんだったら、そのエスカレーターの速度をどうか忘れないでくれ。」っていうことを言って、地下鉄に乗らないんですけども、1回地下鉄のエスカレーターを降りて、また昇るっていう。シンガポールでもタイでもそうなんですけど、どこもやっぱ早くて、それが結構、企業のリスクの取り方とスピード。日本のエスカレーターみたいなスピードでビジネスしてたらなかなか難しいと。で、そこに乗せると多くの役員さんは「わかりやすい。」と。「この、風をきる感じのエスカレーターを、森辺君、忘れないよ。」なんて言って帰られるんですけどね。なんかそれはホント、われわれのダメなところかもしれないですよね。
(8:26)
大石:経営者としてはいくつかの方法があると思うんですよ。何も経営者が、あるいは社員が全員ね、外国語ペラペラしゃべれる必要はないと。英語はいくらしゃべれたって、英語は通じない世界はいくらでもあるわけですから。でも今からは、僕は学生には「英語はマストだ。」という形は言ってますけどね。英語帝国主義を推奨してるわけじゃないと。そうではなくって、例えば自分ができなければそういうことができる人材、その目利きを持ってね、そこに任せてしまうと。先ほどのjob description・職務区分の話をしましたけど、そこで仕事をやらせる仕事を任せるっていうのは、任せる勇気が必要なわけです、経理社員は。それができないと何でもかんでも報・連・相だっていう形で連絡を受けて、決済は上がする。だから子会社に行っても何も決められず、本社の決済を待たなきゃいけない。おんなじことが起こるわけですよね、グローバルに。任せる勇気、そのための仕組みづくり、これは単に属人的に「お前に任せた。」っていうだけじゃダメなので、そういう社内の仕組みづくりをやらなきゃいけない。無印良品の松井さんがやられた仕組みづくりというのは、まさに一つはそういうことだと僕は思っているんですよね。
(9:59)
森辺:役員報酬が安すぎたかもしれないですね。なんか1億円とか2億円もらってたら、任せる勇気で責任とってやるみたいな、アメリカみたいなダイナミックな経営者も出てくるのかもしれないですけど。
(10:10)
大石:いやあ…どうですかね。役員報酬が大きすぎるのは、僕は反対ですね。ビジネスというのはね、ある意味、なんというか楽しみですよ。大きなことを動かして、大きな予算動かしてやっていくわけです。で、会社人としてやってる以上は、個人の責任というか法的責任は問われないわけですよ、基本的には。
(10:37)
森辺:そうですね。
(10:38)
大石:なんか悪いことをしない限り、不法なことをしない限りは。だから失敗したら、会社の中で責任とらしてクビになるかもしれないけど、牢獄に入るということはよほどのガバナンス問題とかない限りは大丈夫なんですよ。そしたらね、そこはね、ある意味個人の喜びなんですよ、大きな仕事をやるとか、成功させるっていうことは。だからそれを、何も何十億というお金を出さなくても、僕はやりたい人はいくらでもいると思ってるんですよ。
(11:05)
森辺:確かにそうですね。
(11:08)
大石:むしろそういう集団をつくりあげた、なんか仕事をやる、ある成功の喜びみたいなね。それの方を強調する、いわゆる組織文化をつくっていった方が、全然面白くなるよね、ビジネスとしては。私はビジネスやるなら、そういう会社をつくりたい。
(11:29)
森辺:そうですよね。アメリカとかちょっと異常かっていうぐらいの、アレになってますもんね。
(11:36)
大石:あれは必ず労働者の不満が出てきます。今、実際アジアでも株主が大きな批判をしてますよね。役員報酬の大きさに対して。アメリカでもそういうことは起こってます。何もああいったアングロサクソン型のプロの経営者に何十億って払うっていうのは、世界的に僕は一般的でもないし、それが普通だとは全然思わないからね。
(12:02)
森辺:でも先生、そうすると日本企業の課題って、一つ80年代90年代って、製品にしたら誰もかもが「あ、これは一番いい。」ってわかったじゃないですか。なぜなら日本企業しか作れなかったから。けど今は、中国や台湾や韓国の企業がいて、その製品を見しても大差がわからない中で、ダイソンのような1993年に出てきて、一気にコモディティー化した掃除機や扇風機でシェアを高めて利益をとってくみたいなそういう新たな競合も出てきて、製品を見ても「あなたが一番いいです。」って即答できない状況だからこそ、グローバルマーケティングをより活用すべきだし、よりグローバル人材の育成に力を入れるべきだし、なんかそんな感じなんですかね?
(13:00)
大石:そうですね。物事は常に相対的に見ていかなければいけないんですが、今おっしゃったように品質の問題で言うならば、実は消費者はvalue for moneyで考えてるわけですね。ところがその、いわば絶対品質と知覚品質でいうと、メーカーはモノづくりだから絶対品質が高ければ売れるだろうと考える。つまり、valueがあれば売れると思うんだけど、実はfor moneyの方が消費者にとっては重要でね。そうすると100円ショップの品物は「100円だけどこれだけの価値がある。」と思うから、みんな喜んでるわけなんです。だからベンツの最高級車、これは2000万円。それだけの価値があると思う人はそれに金払うわけです。ところが、同じ品質でも日本のコスト構造がだんだんだんだん歴史的に高くなってくると「品質は確かにいいんだけど、値段はちょっとね。」となると、value for moneyが崩れてくわけですよ。その間に今おっしゃったように、中国や韓国の物がそこそこのvalueを出して、value for moneyを出していると。そうすると、「こっちでいいじゃん。」という話になるわけです。まさに、破壊的イノベーションが起こってくるわけですね。
(14:24)
森辺:そんな時代の渦の中にいるんですよね、今われわれはね。
(14:27)
大石:そうです。それをやはり理解できて、世界的にそれを理解できる、グローバルな感覚でビジネスができる人を育てなきゃいけないし、それが経営者の役割だし。本当はそれを組織的にやるべきだし。われわれ大学人としても責任は感じてますよ、やはり。そういう教育をしっかりやってかなきゃいけないというのは感じてますからね。
(14:53)
森辺:わかりました先生ありがとうございます。じゃあ、今日はこのへんにして、次回また、引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございます。
(15:03)
ナレーション:本日のPodcastはいかがでしたか?番組では森辺一樹への質問をお待ちしております。ご質問はPodcast@spydergrp.comまでお申し込み下さい。たくさんのご質問をお待ちしております。それではまた次回、お目にかかりましょう。
『森辺一樹のグローバルマーケティング』。この番組はspyder groupの提供によりお送りしました