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【対談】グローバルの流儀

グローバルの流儀 フジサンケイビジネスアイ紙 特別対談シリーズ『グローバルの流儀』は、弊社代表の森辺がグローバルで活躍する企業の経営トップにインタビューし、その企業のグローバル市場における成功の原動力がどこにあるのか、主要な成功要因(KSF)は何かなど、その企業の魅力に迫る企画です。本企画は2015年にスタートし、今年で9年目を迎えます。インタビュー記事は、新聞及び、ネットに掲載されています。


Vol.17 最重要市場は中国 – 化粧品だけでなく、サプリメントでも中国市場へ参入

株式会社ファンケル 代表取締役 社長執行役員CEO 島田 和幸 氏
Vol.17 最重要市場は中国 - 化粧品だけでなく、サプリメントでも中国市場へ参入

「妻への愛」から生まれた無添加化粧品

森辺: 御社は1980年に、池森会長が化粧品販売を個人創業し、化粧品の通信販売を開始したことに端を発して、 翌年に株式会社ファンケルの前身となるジャパンファインケミカル販売株式会社を設立されました。 そして、世界初の「無添加化粧品」を開発し、設立から10年で「無添加のファンケル」という圧倒的なブランドを確立させたわけですが、 まずはその歴史について教えてください。

島田: 1970年代、当時は当たり前のように化粧品の中に入っていた防腐剤や殺菌剤などが女性の肌にトラブルを起こし、「化粧品公害」といわれていました。 池森の奥さんも肌トラブルに悩み、非常に辛い思いをしていたそうです。そこから池森は添加物を使わずに化粧品を作る検討を始めました。 添加物を使わなければ当然、日持ちがしません。 そこで、医療薬品を封入する5mLのバイアル瓶に化粧品を入れて、肌に不要なものを一切使わずに素肌美を育む初めての無添加基礎化粧品を世に出しました。

森辺: まさに、奥様への愛から生まれた無添加基礎化粧品ですね。とても素敵なきっかけですね。

島田: ただ当時、周りの人からは、「化粧品は女性の憧れの象徴なんだから、ボトルのデザインも大事だ」、 「そんな薬のようなものが売れるわけがない」と言われたそうです。 しかし、化粧品が使えなくて困っている女性たちを救いたいという一心で、さまざまなツールを作って丁寧に情報提供をしたり、 実際に肌トラブルに悩むお客様のご相談にのったりしていった結果、お客様からの支持がどんどん広がっていきました。 お陰様で、現在でも創業当時からのお客様がいまだにご愛用いただいているとか、 おばあちゃん、お母さん、そしてお嬢さんと3世代続けて使っていただいているといったお話はよく耳にしています。

森辺: 経済合理性だけを追求したら、そもそも無添加で化粧品を売ろうという発想にはなりません。 賞味期限が短くなるということは儲ける機会の損失を増やすということですから。 御社がいかに真面目な企業なのかが伺えるエピソードですね。 そこから1994年、日本で初めて、今度は栄養補助食品を「サプリメント」と名付けて販売し、この新たな市場を確立してこられました。

世の中の「不」を解消することが全ての根源

島田: 当時の健康食品というと、桐箱に入った何万円もするローヤルゼリーや、朝鮮人参、ツバメの巣といった高級品です。 本当に品質が高く、それに見合った適正な価格なのかというと、必ずしもそうではない。何となく疑わしいイメージがある業界でした。 そんな中、池森は、食事だけでは補えない栄養素を「サプリメント」という言葉で適正価格で売り出していこうと考えたんです。 以来当社では、研究力を活かし、身体に最適な量で、その効果が長く持続し、効率良く吸収できる「体内効率設計」のもとに開発されたサプリメントを販売し続けています。

ファンケルグループの創業理念は、「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」。 お客様の抱える不安や不満、世の中の「不」を何とか解消したい。それをビジネスにしていこうという強い想いが一貫してありますね。

森辺: 消費者の困りごとを解決するということが、ファンケルのすべての商品の起点になっているんですね。 奥さん、ひいては世界中の同じような悩みを持つ女性たちの「不」を解消するために無添加化粧品を生み出し、 次は全ての人たちの栄養が足りていないという「不」を解消するために、サプリメントという価格破壊の新しい概念を持ち込んでそれを定着させた。 無添加といい、サプリメントといい、ファンケルはゼロから1を生み出す力がDNAとして根強くある企業だということを感じます。

「一気通貫」を軸に、大ヒットロングセラーを飛ばし続ける

森辺: 御社の大ヒットロングセラー商品といえば、「マイルドクレンジングオイル」、「カロリミット」、「えんきん」など。 さらに、「内脂サポート」も新たな次世代ヒット商品になりつつあります。 私も「えんきん」と、「内脂サポート」は飲み続けていて、すごく調子が良くなった実感があるんですよ。 これだけの商品を開発し、ヒットを飛ばし続ける成功の秘訣を教えてください。

島田: ヒットのベースとなっているのは、ファンケルではすべてのことを自社でやっているということでしょう。 企画から、研究開発、製造、販売まで一気通貫でやっています。そこの力が当社の一番の強みだと思います。

加えて、今の世の中の消費者のニーズに当社の商品がうまく刺さったともいえるでしょう。 サプリメントでいうと、近年、「機能性表示食品」という制度が始まりました。 それ以前はサプリメントはあくまで食品なので、「何に効く」ということは言えなかった。 それが、機能性表示食品ではメーカーの責任において、効果を謳うことができるようになったんです。 お客様が自分に必要な商品を選びやすくなったことが、ヒットの後押しになったと思います。

森辺: ずっと消費者の「不」に注目してこられたからこそ、 これだけスマートフォンが普及した現代において目が見えにくくなる人の悩み、健康寿命の大切さが叫ばれる中で、 代謝がどんどん落ちていく年代の方の内臓脂肪に対する悩み、そういったことにいち早く気付いてニーズに応えられたんでしょうね。 そして、一気通貫の強みによっていいヒット商品が生み続けられているという。

島田: 結果としてですけどね。当社は「この商品をこれだけ売るぞ!」みたいなガツガツしたところが実はあまりないんです。 つつましく、お客様が良さに気づいてくれるのを待つ、と言いましょうか(笑)。

森辺: 確かに、化粧品ってメーカーによっては、買わされそうな圧迫感がありそうですが、ファンケルショップはとても和やかな雰囲気が出ていますね。

島田: 池森から社員へ発したメッセージの中に「売らない勇気を持て」というものがあるんですよ。 お店に来られたお客様に、今、商品を売ることが大切なのではなくて、そのお客様のお悩みを聞いて、最適なものをお伝えすることが大切。 例えば1週間後にセールが始まって、その商品が安くなるとしたら、 今日はとりあえずサンプルをお渡しして、セールが始まってからお得にご購入いただくのでもいいんです。 そんな社員教育を創業以来、ずっと徹底してきています。

池森会長の経営復帰により、11年ぶりに売上高が過去最高を更新

森辺: 御社は、2017年度、売上高が過去最高を更新して1,090億円を達成しました。 営業利益は何と22億円から84億円に一気に跳ね上がりました。その背景にはどのようなことがあったのでしょうか?

島田: 2013年に創業者の池森が経営に復帰したことが大きいと思います。 池森は2003年に一旦社長を降りて、外部から招いた社長に経営を任せていました。 その間、直営店舗を増やし、流通卸のチャネルを広げ、サプリメントの種類をどんどん増やし…と、果敢なチャレンジを続けていったんです。 しかし実際のところ、新しい事業は何も生み出せなかった。そこから突破口が見い出せずに、くすぶり続けた10年間でもありました。

池森が経営に復帰してから2年間ほどの構造改革期間を経て、2014年も終わろうとする頃、池森が突然、 「やっとこれで体制が整った。これからは広告を強化し、費用を今までの倍かけて、打って出る。どうだ、わくわくするだろう?」と言われました。 私は正直、ゾッとしましたね。10年間ずっと売上が低迷し、利益も下がってきて、 2年間の構造改革を経て、やっとこれからちょっとずつ収益率を上げられると思っていた矢先です。 広告宣伝費をそれだけかけるということは、翌年は赤字になることを覚悟しなければなりません。

森辺: 創業者ならではの世界観があったのでしょうね。

島田: これだけたくさんいい商品があって、いいサービスがあるのに、それをお客様にしっかりとお伝えできていないという問題意識がおそらく池森の中にはあって。 だから、広告をしっかり強化して、企業の姿勢や商品特性をもっともっとお客様に知らせないといけないという気持ちだったんでしょう。 一旦、短期的には利益は下がるかもしれないが、5年、10年先には復活できるはずだと。 そして、「広告先行売上倍増計画」を、2015年から3年間の予定でスタートしました。 当時は70から80億円しかかけていなかった広告宣伝費を150億円規模に増加したんです。 広告の効果はすぐには出るものではありませんが、後々まで見ていくと、結果、その計画が奏功したといえるでしょう。

それ以前は、通信販売と直営店舗の販売に力を入れ、流通卸は二の次になっていました。 ドラッグストアがどんどん伸長している時だったのに、ドラッグストアでサプリメントをもっと売ってもらおうとか、 良く売れている商品を本当の意味でのスター商品にしていこうといった発想が社内にはなかったんです。 しかし、テレビコマーシャルをやる限りは売場の面積を広げなければなりません。 そこで、販売チャネル、特に流通卸の売場を広げる施策を打ちました。 それから、ちょうどネット隆盛の時代の走りだったので、ネット通販でも広告宣伝費をかけ、 お客様とのコミュニケーションもネットにシフトしていくようになりました。 そうしているうちに、インバウンド(訪日外国人観光)の売上がだんだん伸びてきたんです。

森辺: 卸売販売を増やすことによってドラッグストアやコンビニに打って出たということですよね。 間口のカバレッジが広がり、顧客が増えた。 そして、インバウンド(訪日外国人観光)の波も相待って、外国人観光客が買うようになり、結果、海外まで宣伝効果が波及したのでしょうね。

チャネルミックスによりCRMの取り組みを強化

森辺: 海外の話は後ほどゆっくりお聞きするとして、まずは、御社の国内の販売チャネルについての戦略を教えてください。

島田: ファンケル化粧品でいうと、通信販売が一番歴史が古く、最もお客様とのつながりが深く長い販売チャネルです。 過去数年にわたって情報システムへの投資を続け、通販と店舗のお客様のデータベースを統合してきました。 現在はさらに、外部のビッグデータを活用して、新しいCRMに取り組んでいます。

また、通販は初回のご購入から2回目の購入へ、そしていかにずっと購入し続けていただけるかがカギになります。 そのような継続性を高めることに加えて、最初は「マイルドクレンジングオイル」だけ使っていた方が、洗顔パウダーや化粧液、乳液、美容液も使いたくなる。 そのうち「コラーゲン」や「内脂サポート」、「カロリミット」も欲しくなる。 そういうふうになっていただきたいわけです。 お客様の属性や行動のデータを元に、「ファンケルだったら安心だ」とか、 「ファンケルのものじゃないと落ち着かない」と思っていただけるところまで関係性を深めていくのは、通販が得意とするアプローチです。 だからこそ、社内でもCRMのさらなる進化に取り組んでいきたいです。

どうしても、スター商品が出てくると、その商品のコマーシャルを増やして、さらに売ることにウェイトがいきがちです。 しかし本来、コマーシャルの目的は新規のお客様を獲得すること。 そして、そのお客様方が来年、再来年、本当にずっと使い続けていただけるためにはCRMが大切です。 実は、通販に最も求められているのはそこなんですよね。 今年のお客様、今年の売上ではなくて、そのお客様とどうつながっていくか、ということが通販には最も期待されています。

森辺: ファンケル様らしいです。先ほどの「売らない勇気を持て」というメッセージにつながりますね。 目先の売上げよりも将来を見据えるかことができるからこそ、利益が返ってくるという好循環が生まれるわけですね。

島田: 直営店舗は、特に化粧品にとって、直接商品を手に取っていただける、実際に試していただけるという、商品と出会う場だと思っています。 直営店舗こそ「売らない勇気を持て」の象徴で、もちろん月ごとの売上目標はありますが、販売ノルマは課していません。 販売スタッフ自身のファンケルの商品好きが高じて、カウンセリング力が大きく成長してきています。 お客様もファンケルの商品が買いたいからだけではなく、 「あのスタッフから買いたい」「あのスタッフに話を聞いてほしい」ということで店舗に足を運んでいただける方が多いんですよ。

また、この2年ほど、店舗ごとに自由にやっていいという方針に変えたんですが、 そうするとそれぞれの店舗が創意工夫をして、独自のポップを付けたりする。 今、ファンケルのお店は活力にあふれていて、特に、2017年、2018年は直営店舗が非常に好調です。

ファンケルのグローバル展開の概要

森辺: 御社の海外展開は1996年、香港に「ファンケルハウス」1号店を出店したことからスタートしていますね。それからの歩みをお聞かせいただけますか?

島田: 1996年に香港の販売代理店と契約をして、店舗販売を始めました。 香港では日本のファンケル化粧品より少しグレードの高いプレミアムスキンケアブランド的な売り出し方をして成功しています。 そしてその香港の代理店から「ぜひ中国をやらせてほしい」という申し出があり、2004年からは彼らに中国を一任。 香港、中国における代理店の直営店舗は約180店舗に増加しました。 それから、目下取り組んでいるのが台湾とシンガポールです。 以前、ファンケルの100%子会社として進出したんですが、うまくいかずに一度撤退をしたという過去がありました。 今回、改めて香港の代理店に台湾とシンガポールも任せて、共通のブランディングをしてもらいながら展開をスタートしたところです。

森辺: 北米で「ボウシャ」というスキンケアブランドの販売が非常に好調だとお聞きしたんですが、 今後のファンケルとボウシャ、それぞれのブランドの展開はどのようにお考えでしょうか?

島田: 香港の事業が始まるちょっと前に、アメリカに子会社を作ってファンケル化粧品を販売しようとしたんです。 これがなかなか売れずに悪戦苦闘しました。 そんな中でスタートしたのがボウシャというスキンケアブランドで、 ボタニカルサイエンスをテーマに、ファンケルの無添加化粧品で培った最先端技術を駆使した防腐剤不使用の商品です。 これからはアメリカでも自然派化粧品が伸びる時代だということで、アメリカの子会社が独自にブランディングした商品です。

無添加化粧品が生産できるOEMの化粧品工場をアメリカで見つけるのには苦労しましたが、何とか探し出して、現地で生産できるような体制を構築。 現地生産化することによって原価が大幅に低減でき、やっと打って出れるようになったんです。 ボウシャは2002年に誕生し、米国を中心に展開する化粧品専門店「セフォラ」にて卸販売を始めました。 これが高い評価を得て、売場と業績の拡大を続け、2018年からは中近東や豪州への広がりが出てきています。

そして、米国でのナショナルブランド化を目指し、 セフォラの競合である化粧品チェーンのアルタや、ノードストロームなどの主力の小売店や百貨店へと一気に拡大しています。 他にも、大手インターネット通販サイトからもオファーが来ているんですよ。

健康食品市場において最重要市場である中華圏展開を強化

森辺: 御社は今、健康食品事業において中国を最重要市場と位置付けています。現在、売上の6割強が化粧品で3割くらいが健康食品。 中国にはもう既にファンケル化粧品の基盤があるので、そこにこれからサプリメントを投入していくと思うんですが、この辺の取り組みについてお聞かせいただけますか?

島田: 中国というのは健康食品の輸入の規制がとても厳しいんですよ。 先ほどお話ししたように、化粧品は香港の代理店にやってもらっています。 サプリメントは食品なので、薬と間違わないために、粒とカプセルの形状のものの販売には許認可が必要で、 パウダーやドリンクのような形状のものしか販売できないのが現状です。

中国市場は日本に遅れること10年くらいで、圧倒的な少子高齢化社会に突入します。 そうすると、自分の健康は自分で守らざるを得ない。サプリメントのニーズは日本よりもはるかに高まるはずです。 ましてや、中国の人の自国の商品に対する信頼感というのはまだまだ薄い。肌につけるもの、口に入れるものは日本製がいいという認識が強くあります。 つまり、中国におけるファンケルのサプリメントのニーズはすごく高いはずなんです。 それでも許認可を取るのが難しいということには変わりない。 中国には日本の特定保健用食品に当たる「保健食品」という制度がありますが、このマークをつけた日本製の商品はほとんどありません。

そこで、中国最大の医薬品企業の国薬グループと組むことにしました。 実は、向こうから声がかかったんです。 実際に台湾や中国などの店舗を見て、「ファンケルと一緒にやりたい」ということで、熱烈ラブコールがあって。 話を聞いてみたら、すごく志が高く、力があることが分かりました。 彼らは当社の健康寿命を延ばしていきたい、病気になる人を減らしていきたい、という思いに非常に共感をしてくれ、 「許認可が取れるまで待ちます」と言ってくれたんです。 2017年に提携を結んで、やっとこれから許認可の手続きがスタートするところ。 売り始められるのは早くても2020年度といったところでしょうか。

その前哨戦として、マーケティングテスト的な意味合いもあり、 2018年の10月末から中国No.1のオンラインショッピングサイト「天猫国際(Tmall Global)」で40あまりの商品の扱いをスタートしました。

森辺: 本格的に中国でサプリメントの販売を始めたわけですね。 Tmall は、11月11日の「独身の日」といわれる光棍節では3.4兆円以上もの取引額を誇る市場とはいえ、 本当の意味でのグローバルビジネス、中国ビジネスという意味では向こうのオフラインの流通にしっかり配荷できるかどうかが勝負です。 中国のドラッグストアは、大小合わせて40万店から50万店あるといわれていますからね。 許認可の問題やチャネルへのリーチ、ディストリビューションの課題を考えて、国薬グループと組む方が得策だという判断をしたということですよね。 それは素晴らしい経営判断だと思います。

島田: 国薬グループは傘下に総合病院をたくさん持っていて、健康寿命延伸のために巨大な検診センターのようなものを国中に作る計画をスタートさせています。 完成すれば、健康診断の結果を受けて、医師から「あなたは今、これとこれとこれを飲んでおくといいですね」と、 未病の観点からサプリメントの推奨をしてもらえるようになる可能性があるでしょう。 そうなれば、「何を摂っていいか分からない」「何をしてくれるか分からない」という、サプリメントに対する消費者の2つの「不」が解消できますよね。 日本ではまだ難しいですが、中国ではそういうビジネスもできるかもしれないと期待をしています。 中国の国営企業は非常に巨大ですから、いいパートナーに恵まれたといえますね。

昨年11月に、上海で「第1回中国国際輸入博覧会」という展示会があり、国薬グループからの提案でサプリメントのブースを出展しました。 日本から研究員を含めて20数人が現地へ出向き、国薬グループからも20数人のスタッフが来て、 来場者に血管年齢測定や体脂肪測定を体験をしていただいたり、セミナーで商品の説明をしたり。 6日間の会期中、ずっと大盛況で、面積あたりの来場者数ではトップだったんじゃないでしょうか。

この展示会にあたって、中国の経営判断の早さには驚かされましたね。私は、「弊社の対応が遅い」と怒られてしまいました。 中国は今、WeChat(ウィーチャット)で仕事をしていて、 「コミュニケーションを全てWeChat(ウィーチャット)にしてほしい!そして、すぐ決めてほしい!」と言われました(笑)。

森辺: 中国のマネジメントの仕組みや、決断の早さは見習うべき部分もありますよね。

島田: 今の日本のマネージメントの仕組みは、中国で戦っていく上で、決して良いとは思っていません。 新しい市場に打って出る時に、「うちのルールはこうですから」って言っても何の価値も生まないということを、上海に行って本当に痛感しましたね。

2030年には海外売上比率を25%へ。社員の意識改革を推進

森辺: 創業40周年の2020年までには海外売上比率を現在の9%から11%に、 そして2030年には25%に向上させる目標を掲げていますが、その達成のための戦略の概要をお聞かせいただけますか?

島田: 本当に国境がなくなりつつあるというのを痛感しています。 日本で何もプロモーションしていない商品がいきなり中国で売れ始める、 インバウンド(訪日外国人観光)で売れ始めて、それが台湾や香港に飛び火する、ということが起きるわけですね。 そういう情報の拡散のスピード感みたいなものは、商品の販売にもおそらくつながっていくでしょう。 化粧品は、ネットを通じた情報拡散にどうやってうまく対応していくかということが一番求められています。 中華圏での代理店による店舗販売、中国で拡大を続けるEコマース、国内ではインバウンド(訪日外国人観光)で売上を広げていきたいですね。 ファンケルとボウシャだけではなく、例えば、国内にあるアテニアというグループ会社。 これも非常に中国で引きが良さそうなので伸ばしていく、もしくは全然別のブランドをこれから立ち上げてやっていくという可能性もある。 もう少し高価格帯のブランドを作っていくことにも、これからぜひチャレンジしていきたいですね。

サプリメントはスタートしたばかりなので、今の構想を具体化していくということになると思います。

森辺: 御社が今後、さらにグローバル展開をしていく上では課題に直面することもあると思います。 今後、御社が乗り越える必要がある課題としては、どのようなことがありそうですか?

島田: 社員のグローバル化への意識改革だと思います。 当社は横浜で生まれて、40年近くずっと横浜でやってきている。 海外事業もアメリカ以外はほとんど現地の代理店に任せているので、グローバル化といってもなかなかピンとこないわけですよ。 そこで、役員や部長、本部長クラスを筆頭に、社員を上海に行かせています。 実際に自分の目で見て、感じて気づくことが、グローバル化への第一歩と考えています。 他にもeラーニングによる英会話をはじめ、いろんな意味での勉強や自己啓発を推進しています。

森辺: それはすごく重要な取り組みですね。全社でグローバルを見ないとなかなか組織そのものがグローバル化していきません。

島田: 当社はどうしても輸出が主たる業務になっていますが、それだけじゃないと。 今の中国やグローバル市場がどうなっているか調べて、それに対してどういう打つ手があるのか、それを考えてほしいんです。

森辺: 輸出は港から港に商品を出しているだけなので、それだけではグローバルビジネスとはいえませんからね。 相手の国の港からどういう中間流通を通じて、どういう小売にどう並べられて、どんな消費者がそれを買って、何を思ってリピートしているのか。 御社が日本国内でやってきていることを中国においても展開できるよう、まさにこれから意識改革に取り組んでいくということなんですね。

島田: 当社は2020年の4月7日が創業40周年記念日です。 2013年に池森が経営に復帰するまでは、目の前のことに追われていることが多かった。 今は、2020年の40周年の先に2030年の50周年を見据えています。 本当に世界中の人に美しく健やかに生きてもらえることを目指して、「VISION2030」を策定しました。 売上の25%は海外事業で立てようと考えています。 そのビジョンに実現を見据えて2018年の春に第2期中期経営計画をスタートしました。 まだ1年目ですが、すでに3年目の目標を超えてしまいそうな勢いです。

森辺: それは素晴らしい!今後の御社のグローバル展開が益々楽しみです。

ゲスト

島田 和幸

島田 和幸 (しまだ かずゆき)

株式会社ファンケル 代表取締役 社長執行役員CEO

Kazuyuki Shimada, FANCL CORPORATION

1955年生まれ広島県出身。1979年3月同志社大学法学部を卒業後、同年4月に株式会社ダイエーに入社。売場担当・本部スタッフを経て、創業者 中内功氏の秘書を8年務める。その後2003年7月、株式会社ファンケルに入社。以来同社の経営企画を担い、事業の拡大・成長に向けた基盤の整備、戦略推進を実行してきた。2007年取締役 経営戦略本部長に就任し、2010年には同 管理本部長として全グループのスタッフ部門を統括。2013年に創業者池森賢二氏の経営復帰後は、戦略の推進・実行のために現場で采配し、全体のコントロール機能を担い、同グループの事業育成、企業価値向上を推進。業績V字回復にも貢献した。2017年4月には代表取締役社長執行役員CEOに就任。以来「ALL-FANCL, ONE-FANCL」をスローガンに掲げ、全社連携による強みを最大発揮させる経営を推進中。

インタビュアー

森辺 一樹

森辺 一樹(もりべ かずき)

スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 特任講師

Kazuki Moribe, SPYDER INITIATIVE

1974年生まれ。幼少期をシンガポールで過ごす。アメリカン・スクール卒。帰国後、法政大学経営学部を卒業し、大手医療機器メーカーに入社。2002年、中国・香港にて、新興国に特化した市場調査会社を創業し代表取締役社長に就任。2013年、市場調査会社を売却し、日本企業の海外販路構築を支援するスパイダー・イニシアティブ株式会社を設立。専門はグローバル・マーケティング。海外販路構築を強みとし、市場参入戦略やチャネル構築の支援を得意とする。大手を中心に17年で1,000社以上の新興国展開の支援実績を持つ。著書に、『「アジアで儲かる会社」に変わる30の方法』中経出版[KADOKAWA])、『わかりやすい現地に寄り添うアジアビジネスの教科書』白桃書房)などがある。