コラム・対談 Columns
本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。
Vol. 33 導入機における伝統小売攻略のためのKPI
著者:森辺 一樹
スパイダー・イニシアティブ株式会社 代表取締役社長
何をKPIとして設定すべきか
今回は、伝統小売(TT)を攻略するためにはどのようなKPIを掲げればいいのかを具体的に見ていきましょう。
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業 績評価指標」と訳されます。簡単に言うと、目標に到達するのに必要なプロセスが順調に進んでいるかを確認するための指標です。前項でお話ししたように、ある一定基準のストア・カバレッジにまで持っていき、なおかつ、ある一定基準のインストア・マーケットシェアに到達しないと、現地法人という固定費がかかっている以上、利益を出すことはできません。日本の消費財メーカーは伝統小売が重要だということを頭では理解していながら、そこに難しさを感じてしまっているため、伝統小売におけるストア・カバレッジを上げるための戦略を組めずにいます。そのため次に述べる3つのステップで、各ステップごとにこの2つ(ストア・カバレッジ、インストア・マーケットシェア)のKPIを達成していくことで、着実に目標達成へ近づけるのです。
3つのステップで赤字から黒字への転換を目指す
この図のステップ1は、ストア・カバレッジを広げることです。自社商品の取扱い店舗数を、自社の営業担当者とディストリビューターの活用により、徹底的に増やすことが目標です。米P&Gや蘭英ユニリーバ、瑞ネスレなどは、自分たちが抱えるディストリビューターの社内に自社セールスの部屋やデスクを設置し、自社の営業担当者を出向もしくは通勤させて、そこで日々の獲得店舗数を管理しています。ある程度まで店舗数が増えたら、次はステップ2としてインストア・マーケットシェアを拡大することにさらに力を注ぎます。せっかく店舗数が増えても商品が売れなければ、商品はすぐ撤去されてしまうので、過去にもこの連載で解説したマーケティング・ミックス(MM)を駆使して、商品を売れるようにしなければなりません。ここで打つべきはプロモーション施策です。プロモーションには大きく分けて、テレビCMをはじめとするマス広告であるATL(= above the line)と、店頭でのセールスプロモーション施策であるBTL(= below the line)があります。マス広告であるATLは、ストア・カバレッジが数万から10万店程度にならないと費用対効果が高まらないため、当初は店頭プロモーションなどのBTL に徹するのが賢い選択です。そしてステップ3では、さらなるストア・カバレッジとインストア・マ ーケットシェアを広げることをKPIとし、自社の営業担当者とディストリ ビューターによるストア・カバレッジの拡大を行うと共に、BTL だけではなくATLを実施することでさらなる拡大を目指します。
エリアを限定してステップ1、2を同時並行的に実践する
近代小売(MT)であろうが、伝統小売であろうが、導入費を払っていようが、払っていまいが、売れない商品は小売の棚から外されます。アジア新興国では、小売に並んでから1ヶ月〜3ヶ月程度で売れる商品か否かを判断され、売れない商品は半年も経たずに小売店の棚から撤去されます。そして、一度棚落ちすれば、再び棚に並べてもらうための敗者復活戦は相当に大変なものになります。 店頭から商品が撤去されることを防ぐために、上で述べたステップ1と 2は多少の時間差はあれど、基本的には同時並行的に行う必要があります。同時に進めるためには、エリアを限定しなければなりません。例えば、ベトナムであれば、ベトナムの中でもホーチミン、その中でも○○区、といった狭いエリアに絞って、ストア・カバレッジとインストア・マーケットシェアを上げていくのです。 それが1万店舗になったら、また次の1万店舗を目指していく。消費財の場合、商品によりますが、5万店舗くらい獲得できれば、そこそこの規模になってきます。基本的にはエリアごとにストア・カバレッジとインストア・マーケットシェアを上げていくことの繰り返しになるわけです。参考までに、ベトナム市場で約5割のシェアを持つエースコックは、ベトナムでおおよそ30万店に配荷されています。ベトナムには約50万店の伝統小売があり、そのうち30万店は、いわゆる食品が置ける類の伝統小売で、エースコックは、そのすべてに配荷されているのです。