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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 59 強固な販売チャネル構築に必要な三原則

著者:森辺 一樹

どんなに良い商品も店頭になければ、ないのと同じ

チャネルの話では、メーカーが販売する商品を水に、チャネルを水道管にたとえてお話をしてきました。ここでも同様にします。
消費財メーカーは、商品をディストリビューターに卸し、そこから小売店に卸され、店頭に並べられることで消費者の手に届きます。日本の消費財メーカーの場合は、前回お話ししたように、このチャネルが弱いので、そもそも小売店に商品が並びきらないという問題があるわけです。
特に伝統小売(TT)の市場においては、著しくストア・カバレッジが低いのが多くの日本の消費財メーカーの抱える課題です。どんなにいい商品を作っても、強いチャネルがなければ消費者の手に商品は届きません。
日本の消費財メーカーは、メーカーと消費者とをつなぐ唯一の「管=パイプ」である、ディストリビューション・チャネルを強化する必要があるのです。そのためには、「デザイン力」「マネジメント力」「コミュニケー ション力」の3つの能力が必要になってきます。模倣困難性が高く、強固なディストリビューション・チャネルを持つ欧米の先進グローバル消費財メーカーは、この3つの能力をしっかり持っていて、その結果の強固な販売チャネルなのです。

チャネルは「デザイン」しなければならない

それでは、この3つの能力に関して、1つずつ見ていきましょう。まずは、「デザイン力」です。メーカーの商品を水にたとえたら、チャネルは、その水をディストリビューター、小売を通じて消費者まで届ける水道管です。いくら良い水でも、水道管が小売まで届いていなければ、消費者は物理的に蛇口から水を飲めません。チャネルの「デザイン力」とは、その水道管網の全体像を描く作業です。 最終的にあるべき水道管網の姿を描き、そこから逆算する。毎年そこに近づけるためにチャネルの構築はなされるべきなのです。1社のディストリビューターに1本の水道管を通し、その先の状況には関知せず、「自分たちは作る人で、売るのはあなたたちの仕事だから、あとはヨロシク」では、想定外の状況に対しても対策が打てず、結果、指標だけをただ眺めることしかできません。
多くの日本の消費財メーカーは、この最初のチャネルのデザイン力が欠けているのです。この最初のデザインができないから、長年導入期状態に留まり、なかなか成長期に突入できないのです。近代小売(MT)には入れても、伝統小売には入れないといった状態が続くのです。ひどい場合だと、近代小売に関しても、日系近代小売やローカル系の近代小売であっても、メインの商品棚ではなく輸入品棚にしか置かれないこともあります。
デザイン力とは、適切なディストリビューション・ネットワークを設計する能力です。ビルを建てる時も必ず設計図がいるのと同じように、チャネルを作る際にも設計図が必要なのです。それがチャネル構築における「デザイン力」です。

一緒に売っていくための「マネジメント」が必須

次は、「マネジメント力」です。海外の水道管は日本とは違って、放っておくとすぐに錆びたり、穴が開いたり、詰まったりします。日本の卸問屋のように、皆まで言わずともメーカーが望むことをしっかりやってくれ るようなディストリビューターは少ないと考えるべきでしょう。言ってもやらない、やれないディストリビューターをいかにしてマネジメント(管理育成)していくかが非常に重要なのです。本来、売ることはディストリビューターの仕事でありますが、売ることのすべてを任せていては必ず失敗します。
売ることのすべてを任せるのではなく、販売戦略を共有し、一緒に売る姿勢が重要なのです。実際には売る行為そのものはディストリビューターであっても、戦略を共有し、KP I(主要業績評価指数)を共有し、メーカーとしてできうる後方支援をしっかりと行わなくてなりません。
しっかりと手間をかけて教育し、また常に管理していかなければ様々な問題が生じます。残念ながら、日本ほど性善説が通用しないのがアジア新 興国の市場です。最大限のパフォーマンスを発揮させるためには、どれだけ管理育成に介在するかです。
日本の消費財メーカーの多くは、契約したらあとは適当な定期訪問で終わりですが、それではなかなかシェアは上がりません。重要なのは継続的 なディストリビューターのマネジメントなのです。

小売、消費者との「コミュニケーション」

そして最後が「コミュニケーション」です。ディストリビューターをマネジメントする以上、彼らとのコミュニケーションの重要度は格段に上がります。また、小売(特に近代小売)との直接的なコミュニケーションは、その小売におけるメーカーの影響力を大きく左右します。そして、メーカーにとって最も重要な消費者とのコミュニケーションなくして、高いシェアという評価は得られません。 日本の消費財メーカーは、日本国内においては、中間流通や小売、消費者とのコミュニケーションに最優先で取り組んでいるのに、海外ではそうではありません。構築したチャネルを最終的にしっかり活かしていくのは、これら各レイヤーとのコミュニケーション力なのです。