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【連載】日本企業とグローバル・マーケティング

本コラムは、日本企業とグローバル・マーケティングを様々な観点で捉え、日本企業がグローバル市場で高いパフォーマンスを上げるための方策を具体的に指南する連載シリーズです。


Vol. 71 伝統小売(TT)攻略のためのKPI

著者:森辺 一樹

本当に重要なのはストア・カバレッジ

近代小売(MT)へ商品の導入が一通り完了し、それなりの地位を確立したら、今度はいよいよ伝統小売(TT)への参入になるわけですが、伝統小売でも、設定すべきKPIは、近代小売と同様に、「ストア・カバレッジ」と「インストア・マーケットシェア」の2つです。

インストア・マーケットシェアに関しては、近代小売を中心に、マス広 告(ATL)や店頭プロモーション(BTL)を段階的に行っていることが前提になります。従って、伝統小売では、ある程度売れて、インストア・ マーケットシェアは上がるであろうことが前提で始まらなければなりません。なぜならば、伝統小売に商品が並ぶということは、近代小売である程度売れているということだからです。その前提がなければ、いくら店舗数が増えてストア・カバレッジが上がっても、インストア・マーケットシェアが上がらず、伝統小売のオーナーが取り扱いをやめて、せっかく上がったストア・カバレッジが下がってしまいます。ですので、ここでは、近代小売での地位の確立がある程度進み、インストア・マーケットシェアはある程度上がることを前提に進めます。このような理由から、伝統小売で本当に重要なのは、インストア・マーケットシェア以上に、いかにしてストア・カバレッジを上げるかになるのです。この活動は、非常にシンプルな活動ではありますが、戦略的に実施しなければなりません。まず、決めるべきは、「エリア」と「レイヤー」です。

エリアを絞って活動を進める

「エリア」とは、どの地域から伝統小売のストア・カバレッジを上げはじめるかということです。伝統小売は、国によって様々ですが、小さな店が何十万店舗、何百万店舗存在するので、やみくもに始めると非効率になり、場合によっては、活動にかかるあらゆる経営資源が途中で息切れをしてしまいます。

重要なのは、エリアを絞って活動を進め、徐々にそのエリアを拡大していくことです。例えば、ベトナムであれば、まずホーチミンから始めると設定したら、ホーチミンの中でもどの区から始めるかを設定します。場合によっては、通り(ストリート)や、住宅地レベルで絞り込み、エリアを限定して徐々に広げていきます。

これは、インドネシアでも、フィリピンでも、タイでも、マレーシアでも同じです。中国やインドであっても、南米、アフリカであっても考え方はまったく同じです。いかに最短で数万店舗、数十万店舗にまでストア・カバレッジを上げていくかが重要になりますので、活動するエリアをフォーカスし、活動効率を最大化することがとても重要なのです。

どのレイヤーの小売まで狙うか

次に、「レイヤー」(階層)ですが、レイヤーとは伝統小売のレイヤーのことです。過去に本コラムでも解説したように、伝統小売はすべて同じではありません。大きいものから小さいものまで様々です。大きいものだと、地域の他の伝統小売の仕入れ機能や問屋機能を果たすものもあります。グロサリーとの差がほとんどないレベルです。また、店舗のサイズは小さくても、交通量の多い通り沿いに立地する店などは高い売上を誇ります。さらに、住宅地の中にあり、その住宅地に住んでいる人だけが顧客であるような地域密着型の伝統小売もあります。小さいものだと、無店舗型のリヤカー営業や、ゴザを引いて限られた商品を売るだけのものまであります。重要なのは、自分たちはどこのレイヤーの伝統小売を狙うのかです。これをしっかりと設定しなければなりません。どのエリアのどのレイヤーから活動を始め、どう伸ばしていくのか。この戦略をしっかりと組み立て、効率的にストア・カバレッジを上げなければなりません。

ディストリビューション・ネットワークが不可欠

どれだけ「エリア」と「レイヤー」を絞っても、数万店、数十万店のストア・カバレッジを自社のセールスだけで獲得、配荷、維持していくのは困難です。確かに、エリアとレイヤーを絞ることでだいぶ効率は上がりますが、ストア・カバレッジを上げるということは、まず、(1)置いてもらうためのセールス活動があり、(2)置いてもらえることになったら、定期的に注文を受け、配荷し、代金を回収するというデリバリー活動があり、(3)常に店内の決められた場所に、決められた通りに置かれているかのメンテナンス活動があります。

ある程度インストア・マーケットシェアが上がっていくと、(3)のメンテナンス活動の負荷は必然的に少なくなりますが、少なくとも(1)のセールス機能と、(2)のデリバリー機能は果たさなければなりません。それをパートナーとして実施するのがディストリビューターなのです。先進的なグローバル消費財メーカーなどは、現地法人が近代小売への直販 を担い、ディストリビューターが伝統小売を担当しています。ここでまさにチャネル戦略が試されるのです。

では、伝統小売で高いストア・カバレッジを誇る先進グローバル消費財メーカーなどは、どのようなチャネルを構築しているのかについて、説明します。すでに触れた内容もありますが、改めて確認してください。まず、先進グローバル消費財メーカーは例外なく、近代小売は直販をし、自社のセールスにて対応しています。ディストリビューターを活用するのは、伝統小売と地方です。そして、必ずエリア担当制を敷き、エリア別に複数のディストリビューターを活用します。    

この際、彼らは、それぞれのディストリビューターに どこまでの業務を担当させるかを、各会社の機能特性から判断します。ディストリビューターは、規模や国、地域によって、保有する機能が異なります。日本の常識だとディストリビューターの機能は、セールス機能、デリバリー機能、マーチャンダイジング機能の3つが主たる機能ですが、アジア新興国では必ずしもそうとは限りません。
セールス機能が弱かったり、なかったり、基本的にはデリバリー機能しか有していないディストリビューターも多々存在します。そのような背景の中、自分たちはどのような役割をディストリビューターに期待しているかを判断し、その役割から必要となる機能を持ったディストリビューターを選んでいくのです。

また、自分たちが戦略的に配荷したいエリアや小売に強いディストリビューターを選んでいきます。本コラムでも、ネスレ/リーバモデルやPGモデルとして、特徴的なディストリビューション・チャネルを紹介しました。こうしてディストリビューション・ネットワークを構築するからこそ高いストア・カバレッジが維持できるのです。

そして最後は、ディストリビューターの管理育成です。すでに述べたように、先進的なグローバル消費財メーカーは、ディストリビューターに売ることを完全に任せたりはしません。彼らが毎日、毎週、毎月、決められた KPIを実行できているかを常にモニタリングし、問題が 生じれば即対策を打ちます。さらに、必要な育成支援を惜しみません。多くの場合、ディストリビューターの事務所内に専属の人員を常勤させます。この活動こそが、ディストリビューション・ネットワークを常に活きたネットワークにし、結果、ストア・カバレッジの維持に繋がるのです。アジア新興国市場では、ディストリビューションも、ストア・カバレッジも放っておいたら劣化します。常に管理育成していくことが重要なので す。